西久保公園

西久保公園

二日間の連休は生憎の空模様となってしまったので、ここは休養に徹することにした。なぜかこの頃疲れが抜けることがなく食欲や気力も衰退気味だ。単なる疲労の蓄積なのか、はたまたどこか内臓でも悪いのか、何れも定かでないが、これまでに経験したことのない体調であることに間違いはなさそうだ。
この朝も少々怠さが残っていたが、NHKの連続テレビ小説「まれ」は見逃せないので、8時前には起床しTVの前に陣取った。世界一のパティシエを目指し、横浜で厳しい修業にトライするうら若き女性の物語にはついつい見入ってしまう。
朝食後、一旦は朝刊を広げてみたが何となく気乗りがせず、近所の西久保公園に咲くアジサイでも眺めに行こうかと、V2を片手に家を出てみた。

この西久保公園、実は旭化成の社宅跡地であり、遙か昔、私が小学校へ入学する頃は立派な建物が何棟も並び、企業規模の大きさを誇示するかのような雰囲気があったことを覚えている。
そしてここへ来ると、胸にチクリとくる“事件”を思い出すことがある。

小学校入学後、最初にできた友達“瀬戸くん”はこの社宅に住んでいた。
ある日彼の家に遊びにいった時のことだ。

「いいもの見せてあげる」
「なに」

差し出されたものは、虫籠に入った小さな蛇だった。
焦げ茶でテカリを発するきれいな体表が印象的で、見た瞬間から釘付けになってしまった。

「凄いね!」
「お父さんが捕まえたんだ」

そんな大昔でも、近所で蛇を見ることは珍しかった。トカゲやヤモリは屡々目にすることができたが、蛇は探して探せるものではなかった。
小さい蛇は篭の中で動き回り、どこかに隙間があれば脱出を試みそうな雰囲気を感じ取れた。
観察を続けるうちに、なぜかふとある思いが閃いた。
篭の中でなければどの様な動きを示すのだろうかと、、、

「篭から出してみない」
「やだよ、逃げられちゃう」
「こんなに小さいし、僕たち二人が囲んでいれば大丈夫だよ」

最初は頑なに拒否していた瀬戸くんだったが、徐々に私のアイデアに頷くようになり、終いには社宅の庭に放ってみることにも同意した。
私と瀬戸くんが向かい合ってしゃがみこみ、その真ん中に篭を置いてそっと蓋を開ければいくら蛇でも逃げ通せることはないのだ。

「大丈夫かな」
「こうして囲っているから平気だよ」

緊張が走る指先で、ゆっくりと蓋を開けた。
とその時である。
小さな蛇はそれまで一度も見たことない俊敏な動きを見せ、あっと言う間に近くの生け垣の中へ姿を消したのである。

「うわー、どうしよう」
「探そう!」

いくら俊敏だって今の今だ、それほど遠くへ行けるわけもない。
急いで生け垣を両手でかき分け蛇の行方を追ったが、呆然とする我々をよそに、既に蛇は完全に気配を消していた。
それは一瞬の出来事だった。
気が付けば、傍で肩をふるわせ、しゃくり泣きをする瀬戸くんの声だけが、いつまでもいつまでも頭の中を回っていたのである。

自転車事故

6月16日(火)午前8時40分頃。毎日の通勤ルート上である堀合通りと新武蔵境通りの交差点の歩道上で、自転車同士による事故があった。
浄水場から下っていくと、救急車の赤色灯が目に止まり、近づいて良く観察すれば、白いヘルメットを被った隊員が、歩道に座り込んだままの30代と思しき女性に症状を聞いている最中だった。その脇には2名の男子高校生が立っていたので、恐らく彼らと女性が接触したものと思われる。苦痛にゆがんだ表情から察して、怪我も軽くはないだろう。

10年前から通勤の足を自転車に換えたことで、それまで見えなかった公道上の危険因子が次々と判明、自転車事故が増加の一途にあることが必然性を帯びて頷けるようになった。
先ずは現況を述べたい。

【車・バイクにルールあり、歩行者・自転車にルールなし】

である。
これを積極的に改善していかなければ、自転車事故が更に増え続けることは避けられない。

さて、自転車を運転する上で最も危険であり、無法地帯とまで言われてるところが、何と“自転車専用道”ということをご存じだろうか。
ヘッドフォンをつけ、更にスマホを見ながら疾走して来る自転車をどの様にして回避するのか?!
お喋りをしながら並んで走ってくる高校生の自転車をどの様にして回避するのか?!
正面から激走してくる自転車を回避するには右へよけるのか左へよけるのか?!
上述は日常茶飯事。ところが自転車専用道は恐ろしいほど幅員が狭く、現実は逃げ場なしである。
そして次に危険なのが“裏路地”。
殆どの自転車が一時停止をしないため、優先道路を走行中でも出会い頭への警戒は絶対に怠れない。まあ、信号があっても無視するのだから、裏路地の停止線で止まるはずもないか。
ここは一歩引いて防衛運転に徹しないと、必ず衝突事故に巻き込まれることになる。
それにしても一時停止なしで交差点へ進入するって、怖くはないのだろうか?!
出会い頭でぶつかったら、殆どの場合転倒して痛い目に遭うし、“すみません”で済むレベルでは終わらないはずだ。

参考だが、自転車同士の正面衝突を誘発する、首を傾げたくなる道交法がある。
それは歩道での自転車通行位置だ。

【歩道の中では、歩道の中央から車道寄りの部分を通行しなければならない】

これを頑なに守ったら、正面衝突は言うまでもない。
自転車は軽車両。だったら互いに左側通行が最も理にかなっているのではなかろうか。

そろそろ自転車保険にでも加入しようかな、、、

若い頃・デニーズ時代 4

デニーズはアメリカ生まれのレストランチェーンだけに、組織の役職などにも独特の呼称がある。
支店はユニット、よって店長はユニットマネージャー(UM)、副店長はアシスタントマネージャー(AM)だ。この他、デニーズでは管理職見習いという立場もあり、これはユニットマネージャー・イン・トレーニング(UMIT)と称する。
調理人、すなわちコックだが、これはクックと発音、アルバイトのクックはキッチンヘルプ、接客の中心であるウエイトレスはミスデニーズ(MD)、ご案内係をデニーズレディー(DL)、ウエイターはミスターデニーズ(ミスター)、そしてメイン業務は店内外の清掃だが、忙しい時間帯ではお客さんが帰った後の食器下げも行なうバスヘルプ(バスヘル)、全自動食器洗浄機を駆使、食器、調理器具洗いの専任者をディッシュウォッシャー(ディッシュ)と称する。
この他、客室はフロント、食材倉庫はドライストレッジ、従業員関係全般にはエンプロイという言葉が付く。
ユニットを構成するメンバーは、UM1名、AM若しくはUMITが1名、クック2名が正社員として勤務、そしてアルバイトスタッフは、キッチンヘルプ3~4名、MD8~10名、DL1名、バスヘル3~4名、ディッシュ2名というのが一般的な布陣となる。

「今日からみっちり2週間、バスヘルの仕事を行なってもらう」
「ました!」

加瀬UMの隣には既にバスヘルプの若い男性が座っていた。

「彼は堀口君。大学2年生だけどバスヘルの仕事は全てマスターしているんで、今日は彼から窓ふきとグリーストラップを教えてもらってくれ」
「よろしくお願いします」
「お願いします!」

店舗の裏にある物置へ案内されると、先ずは窓ふきに使うスクイジーというT型の清掃器具の説明を受けた。汚れを取り除く原理は自動車のワイパーと同じで、ゴム部の劣化が進むときれいに拭き取れない。そしてスクイジーは窓に圧着して左端から右端へと走らせるまでは簡単だが、それを右端からターンさせるのには相応のコツが必要になる。何度も繰り返し、ムラのない仕上がりができるようになると、それだけで何だか嬉しくなってくる。
見るからに真面目そうな堀口君は、高校生の頃からここでアルバイトをやっていて、仕事仲間からの信望も厚いとのことだ。

「どうだい木代、進み具合は」

反対側で同じく窓ふきをやっているはずの山口が、いつの間にか傍にきていた。

「まだ半分だよ、おまえは?」

単に窓ふきと言っても、店舗間口は全面、西側と東側はそれぞれ三分の一がガラス窓なのだ。それを慣れない私と山口の二人で行なうのだから、結構時間が掛かる。春日は裏手に回って、堀口君からマンツーマンでグリーストラップを教えてもらっている筈だ。

「この仕事、結構ダルイよね」
「しょうがないさ、これも基本だよ」
「へっー、おまえって偉いな」

“バスヘルの仕事なんか内容が分かればそれでいいじゃん”
山口の奴、朝から何度も同じことを言っている。早く運営の核心に触れたいのだろうが、今の我々にはそれまでに身につけなければならないことがヤマほどあるのだ。
やはりぼんぼんにはその辺のニュアンスが理解できないのかもしれない。恐らく奴は続かない。。。
と、その時、

「あれ~~、木代じゃないの?!」

突然の知った声に驚いて振り向くと、派手なオープンカーに乗った地元同級生の石田が、にやついた表情でこっちを見ている。
昔からガラの悪さは天下一品だが、中学の頃からの友人でもある。

「大卒で窓ふきとはご苦労だな」

ー あの野郎、言いたいこといいやがって。

「新入社員だからこんなもんさ」
「ふふっ、似合うよその恰好、精々頑張りな!」

高校を中退した石田は、以前から何かと大学生に対して“いちゃもん”をつける傾向があり、大学出たのにそんなことも分からないのかが口癖になっている。
彼からしてみれば、理科系大学まで出て、そのざまか!ってなところだろう。
悔しかったが、今はこれが現実だし、否定はできない。しかし見てろよ、1年後、2年後は全く違った立ち位置を見せてやる。
石田とのやり取りが終わると、空かさず山口が寄ってきて、

「ほんと、格好悪いよね~」

ー なんだこいつは?! 勝手に言ってろ…

写真好きな中年男の独り言