コロナ禍と井の頭公園

SIGMAの<24-105mm F4 DG OS HSM>は、ずばり言ってヘビー級。
それほど広くもない井の頭公園を歩いて一周すれば、装着したD600のストラップが肩に食い込み、お荷物感は満点である。シャキッとしない映り故、遂に見切りをつけたNikkor<AF 24-120/3.5-5.6 D>が懐かしく思われるほどだ。
それでもこれを持ち出さないと気が済まないのは、非常にシャープできりっとした画が切り取れることに他ならない。
解像度の高さは前述のNikkorとは比較にならないレベルにあり、レタッチへの耐性も極めて優秀である。
但、最テレ側にズーミングすると、たまにオートフォーカスが効かなくなるというトラブルがやや悔しいところ。
これからも末永く使っていきたいので、一度SIGMAのサービスへ出してみてもいいかなと考えている。

井の頭公園の紅葉はそろそろピークを迎える。
さっそく出掛けてみると、11月も半ばを過ぎたというのに異常とさえ感じる暖かさ。池を半周した辺りから一枚また一枚と上着を脱いでいく。カメラバッグはダウンベストと長袖Tシャツで満杯だ。
それにしてもコロナ禍が再拡大しているという状況下にもかかわらず、この公園には人を呼び寄せる力があるようだ。一時かなり目についた外国人こそ数は減ったものの、見渡せば老若男女問わず多くの人が訪れていて、公園内は活況溢れんばかり。殆どの人々はしっかりマスクを着けているが、その笑顔に危機感は感じられない。
但、コロナの猛威があろうと季節は間違いなく巡ってくるわけで、公園を散歩しながらこの鮮やかな秋色を愛でれば、誰だって心和むこと請け合いである。

若い頃・デニーズ時代 83

東名高速道をひたすら西へと向かうセリカXX。
目を横にやれば、助手席に座る麻美の膝の上で、すやすやと娘の絢子が眠っている。
なんだかとても暖かく、そして優しい空気がキャビンに充満し、新しい家族の歴史がまさにスタートしたんだなと、ハンドルを握る両手にも力が入った。
ほどよい緊張感のせいか、名古屋を過ぎても疲れは全くといって感じず、快適なドライブが淡々と続いた。

「ちょっと休もう。トイレも行きたいし」

リクエストに応えて、十数キロ先にある養老SAへ寄ることにした。
麻美が車から降りる前にバトンタッチ。腕の中の絢子は意外や重かった。
赤ちゃん独特の温かさと匂いが立ち込め、その寝顔と相俟って、なんてかわいいのだろうと思わず顔が緩んでしまう。特にパパの顔をじっと見つめる視線には、「まいったぁ」としかいいようがない。
予想された渋滞もなく、順調に京都を通過。ここまでくれば目指す西宮は目と鼻の先だ。
さすがに疲れたか、大あくびをすると、前方に西宮出口の案内板が見えてきた。

「どうですか、新家庭のご感想は」

丸顔の宗川UMITが、ニコニコしながら聞いてきた。

「てんやわんやって感じかな」

実際、てんやわんやだった。
全ては絢子を中心に回っていて、ミルクがどうだ、ウンチがどうだ、鼻水垂れた、ゲップしたと、四六時中ドタバタである。だけど、なんか楽しい。
夜泣きも半端でない。殆ど2時間おきにオギャーオギャーが始まり、ミルクを与えるまで収まることがない。
母乳の量が少ないので、粉ミルクも飲ませなければならないが、絶えず麻美に作らせては大変なので、交代で私も行う。ただ不思議なもので、これだけしょっちゅう起こされても辛いとは感じず、翌日の仕事にも殆ど影響が出ない。これが親ばかパワーだろうか。

一方、店の売り上げは安定期に入り、オープンの頃のような怒涛の入客は鳴りを潜め、西宮中前田店も関西レベルに落ち着いた。
関西エリアは年商3億に手が届きそうな超繁忙店はない代わりに、2億を大幅に割るような不振店もない。言い換えれば、並レベルで“団栗の背比べ”になっているのが特徴だ。

「そういえば独身寮ですが、住吉の中間社員が先日一人入って、一応満室になったようです」
「じゃ、今日上がったら様子を見に行ってくるよ。高級マンションだから汚されたらたまったもんじゃないからな」
「活を入れてきてください」
「そうだね」

寮は阪神西宮駅の南口にあり、駅からも近ければ、店まで歩いて20分弱の好立地にあった。
内外装も限りなく新築に近い状態で、これまで知っている独身寮の中ではダントツ級だ。
寮生の辰吉が早番だったので、仕事上がりに一緒に行ってみることにした。

「おっ、意外ときれいにしてるじゃん」

テーブルセットしかない15畳のリビングは、やけに広く感じる。

「ここ広いですけど、みんなが集まることはあんまりないんで」
「まあそうだよな。お前と大金は正反対のシフトだもんな」
「でも、住吉の鈴木さんも含めて、みんなマナーがいいから暮らしやすいですよ。それと谷岡さんがたまに差入してくれるし」

それは知らなかった。あいつ、気が利くし、LCとしてスタッフの使い方がうまいのは、こんなところからも窺えるな。

「鈴木さんが入ってきた時は、ビール買ってきてくれて小歓迎会もしましたよ」
「なんだ、俺も呼んでくれたらよかったのに」
「クックだけでってことで」
「なんだ、冷てえな」

きれい好きな谷岡がたまに来てくれるなら心強い。統制もとれるし、問題の種はいち早く私の耳に入るだろう。帰りしなに辰吉の部屋をちらっと覗いたら、今の若者らしくTVやラジカセもちゃんと揃えてある。よく見りゃ私のマンションなんかよりよっぽど贅沢な造りだ。遥か昔、浦和太田窪店の独身寮と較べてたら、それこそ天と地の差がある。

「お前ら恵まれてるよな」
「おかげさんで」
「それじゃあ、また明日」
「お疲れさんです」

全てに安心して寮を後にした。
ところがだ、この数日後。寮の目と鼻の先で、恐るべき事件が勃発したのである。

どこを見回しても落葉色

良くなったり悪くなったりの膝。突如痛みだす腰。更には湿度の低下でズルズルが増した鼻と、シャキッとしない毎日が続き嫌気がさす。しかもこのようなイライラを加齢のせいにし始めた自分が情けない。

― 山の空気でも吸いに行くか。

冬直前の刈寄山は、どこを見回しても落葉色だった。
紅葉のピークはとうに過ぎていて、荒れ果てた景色がどこまでも続き、その荒涼感は重い。目を凝らせば花も見つけられるが、生命感は希薄だし、昆虫の姿がない森に咲く花からは、寂しさしか感じられない。
落葉を踏みつつ、静かな山歩きも悪くはないが、やはり新緑の頃の生命感あふれる山の方が私は好きだ。

西側が大きく開ける斜面に出た。
鬱蒼とした樹林帯歩きから一転して、ワイドな景観が広がり、何度訪れてもここに立つと爽快な気分に包まれる。群生するススキは今が見ごろ。穂に反射する太陽光がやけに眩しく、斜面を黄金色に染めていた。

今日の収穫は、膝も腰もまだまだ大丈夫!が分かったこと。
普段、階段を上る時に出る僅かな痛みや違和感は全くといって出ないし、頂上直下の急坂に取り掛かっても、余力さえ感じたのだ。

「カップ麺も、山で食うと上等な味だね」

先客である70歳前半と思しきご主人が楽しそうに話しかけてくる。
刈寄山には既に20回以上登っていて、若い頃には幾度も北アルプスへ挑戦した山好きだそうだが、現在は健康維持のために低山歩きを続けているらしい。

「しかし寒いな。次に来るときはダウン持ってこなきゃ」

低山といってもスカイツリーより高いのだから寒いわけである。しかも風が出てきた。
ウィンドブレーカーを羽織ったが、汗を吸ったアンダーが体温を奪っていく。
だけどこのキューっとくる寒さは、山にいることをリアルに感じて意外に好きかもしれない。

写真好きな中年男の独り言