若い頃・デニーズ時代 9

デニーズで働くアルバイト達は皆それぞれ生き生きとやっていた。
アルバイトでありながら積極的に仕事をこなし、正社員との隔たりを感じさせないその働きぶりは見事の一言。これほどのMotivationを喚起する根源は一体どこから生まれるのだろうかと、無い頭をひねって考えたこともあったが、要するに職場が楽しいと思えなければ、これだけ小気味の良い動きを発揮することはできないはずだ。

店長でさえ20歳代後半という若さ溢れる職場環境は、各シフト問わず活気に溢れていて、学校とはまた違う青春群像といった趣がある。私自身もエンプロイテーブルでMDやバスヘル達と歓談をしているときなど、一瞬職場であることを忘れてしまう錯覚にとらわれることも屡々であった。
男だけのマンダムな学生生活を5年間も過ごしてきた身には、MDとのオーダーのやり取りだけでもわくわくするし、たまに湧き出す黄色い声の嵐には意味もなく顔が崩れてしまうのだ。

「MDの久光さん、可愛い子だな」

いきなりの一言に振り返ってみると、そこには一週間ほど前に人事異動でやってきたリードクックの石澤さんが、にやついた顔でフロントへ視線を向けていた。

「彼女、好みなんですか?!」
「先輩をからかうなよ」

石澤さんは上司だが、ひとつ年下である。高校を卒業すると調理師学校へ進み、その後、街の洋食屋を経てデニーズへ入ってきたそうだ。そんなことから、包丁の研ぎ方等は当たり前の如く巧で、彼にアドバイスを受けながら研いだ包丁は抜群に使い易く、感動するほどだった。
そう、あのプリンだって、彼が作ると殆ど失敗がない。
中背痩せ形で、時々厳しい眼差しでキッチン全体を舐めるようにチェックする、シビアで取っつきにくい面も持っていたが、きちんとした料理人のスキルを持っている彼からは、デニーズだけで育った上司からは得られない多くのことを学んだ。

「久光さんって、ぴちぴちの高二ですよ」
「だよな。俺だってまだ二十歳そこそこなのに、彼女見てると年齢のギャップを感じるよ」

久光さんは美人というタイプではないが、丸顔でくるくると動く大きな目がとてもチャーミング。女子高生を絵に描いたようなその雰囲気は、当然、店の人気者である。

「ところでさ」
「はい?」
「MDには気をつけろよ」

いきなり飛び出した言葉に戸惑った。

「なんですか、それ?」
「次から次に若くて可愛い子が入ってくるからさ、歯止めが利かない男は必ず問題を起こすんだ」

これには感ずるものがあった。
常時10名そこそこの在籍がある年頃の女の子。その内の半分ほどが1年以内に入れ替わっていくのだから、女性への耐性が不足している男性にはかなり手厳しい環境と言える。
例えば、久光さんに一目惚れしても、後から更に好みの女の子が入ってくる確率は非常に高く、あれもこれもとちょっかいを出して、気が付けばトラブルに発展してしまう男性スタッフは、アルバイトのみならず正社員にも大勢いるとのことだった。
ファミリーレストランは当時の女子大生、女子高生にとっては人気のアルバイト先だったので、致し方ないと言ってしまえばそれまでだが、健康な男性だったら楽しくも苦悩する職場であることに間違いはない。

「特に所帯持ちだったら悲惨だよ、、、」
「で、ですね」

女は魔物、綺麗な花には棘がある、か。

「木代さん

突然の呼びかけに振り向くと、いつのまにか久光さんがディッシュアップカウンターの前にきていた。

「なに?どうしたの?」
「なんか真剣な話、してましたよね~」
「そ、そんなことないよ、仕事の話さ」
「顔に嘘って書いてある」

これ以上はないと思われる満面の笑顔が久光さんらしい。これにやられちゃう男は少なくない筈だ。

「それより久光さん、そろそろ“締め”をやる時間だよ」
「いやだ、はぐらかしてる~」
「そんなんじゃないって」

さっきの石澤さんの話ではないが、ついこの前まで大学生をやっていたのに、既に女子高生の乗りにはついて行けない自分に気が付く。
しかし、このついて行けない感覚も裏返せばくすぐったくも楽しいもので、これも一種のやる気の元だと真剣に思えてくるから可笑しくなる。アルバイト達の生き生きとした働きぶりも、この辺の絡みが大きく影響しているのだろう。

「木代さんって、案外照れ屋なんですね」
「おいおい、勘弁しろよ」

リーチインの影からにやけた表情で、石澤さんがさっきからこっちの様子をうかがっている。
そして両手をメガホンのように頬へ当てると、久光さんに聞こえないような小さな声で、

「おいっ! もてるな木代!」

小さな楽しみ

Peperoncino休日のお昼時にはちょくちょく自分で料理を作って楽しんでいる。
凝ったものには興味なく、簡単でサッと作れるものオンリーだ。
特に好きでトライしているのは麺類で、その中心はスパゲティーとうどん。スパゲティーは旨いペペロンチーノを食べたい一心で、試行錯誤は既に100回を越えた。その甲斐あってか、この頃では人に食べさせられるレベルまできたと、一人ほくそ笑んでいる。
麺をアルデンテにすることは言うまでもないが、ニンニクの香りを十二分にオリーブオイルへ移すことが基本であり、フィニッシュはそのオリーブオイルをゆで汁と上手く合わせて、塩、胡椒で味を調えればできあがりだ。至極シンプルな一品だが、その味わいは多くの人を唸らせるはず。
うどんは讃岐の麺が好みである。のど越しと適度な弾力が色々な調理方法で使い易く、カレーうどんのような濃いめの汁にも負けることがない。
良く作るのは味噌うどんで、汁は味噌ラーメンのそれに近いもの。豚肉と野菜を強火の中華鍋でさっと炒め、そこへ鶏スープとごま油を入れ、具に火が通ったら茹でたての麺と合わせて完了。スピードと手際が勝負のスタミナうどんだ。
車を利用する予定がない場合は、スパゲティーでもうどんでも、少々の冷酒とやるのが私流。
休日の小さな楽しみである。

新規制基準

秋雨前線がもたらした甚大な被害、そして早朝のドキッとした揺れ。
強大な力で襲いかかってくる自然の猛威には、何人たりともたじたじである。
こんな中、最近ちょっと気になることがある。
ここ数年、気象庁の発表する文言の中に、「経験のない」「これまでにない」「観測史上」等々が連発し、被災された方々へのインタビューでも、「50年住んでいて初めて」「こんな酷くなるなんて考えてもみなかった」等が必ずといって飛び出している。
これは災害危険性が確実に増大している証しであり、言い換えれば、自然現象に【想定外】が頻発していることなのだ。
となると様々な危惧が想定され、早急に国が対策を講じる必要があるのは言うまでもないが、その際一番に考えなければならないのが原発再稼働だと思っている。
先日、川内原発が再稼働を果たしたが、その安全性はどれほどのものだろう。

原発再稼働には新たに定められた【新規制基準】をパスしなければならない。
項目には、“テロ対策”、“電源・原子炉冷却設備の多重化”、“過酷事故対策”、“津波対策”、“火災対策”、“地震対策”等々が羅列され、それぞれには具体的な新基準が設けられている。
冒頭にあるちょっと気になることとは、この新基準が実際に強力無比なものなのかが非常に疑わしいところだ。
例えば、新たに追加された項目に【テロ対策】があるが、原子力規制委員会はテロの定義をどの様に捉えているのだろう。過激派が米軍基地へ飛翔弾を打ち込むレベルだったら、これはかなり心配である。
【過酷事故対策】に関しては免震重要棟について言及しているが、この免震重要棟、一般的な定義として、“震度7クラスの地震が発生した場合においても、緊急時の対応に支障をきたすことがないよう、緊急時対策室および重要な設備を備えた建物”とあるが、これだけでは意味不明で心許ない。もし震度8クラスが襲っても絶対に大丈夫なのだろうか。
また、格納容器が壊れた際に、放射性物質の飛散を押さえる“放水砲”なるものの設置が義務づけられたが、消火には対応できても、果たしてこれで放射能の飛散を押さえることなどできるのだろうか。放水した水は汚染され、そのまま海へと流れるだけではないのか。
この辺も含めて、もっと市民に分かりやすい説明が望まれる。

<新規制基準>
■テロ対策 ⇒ 緊急時制御室
■電源・原子炉冷却設備の多重化 ⇒ 非常用電源、水源タンク、2系統の外部電源、電源車/消防車
■過酷事故対策
⇒ 免震重要棟「免震、自家発電、放射線遮へい機能を備え、事故時の作業拠点とする」
⇒ フィルター付きベント「大気中への放射性物質の放出を押さえながら原子炉の圧力を下げる」
⇒ 放水砲「格納容器が壊れた際に、放射性物質の飛散を押さえる」
■津波対策
⇒ 防水扉「防潮堤を乗り越える津波に備え、重要機材を守る」
⇒ 防潮堤「想定される最大の津波を防ぎ、敷地内の浸水を防ぐ」
■火災対策
⇒ 防火設備を強化「燃えにくい電気ケーブルの使用や防火扉の設置」
■地震対策
⇒ 地下構造の詳細調査
⇒ 活断層「活断層が露出した地盤の真上に重要設備を設置するのは禁止」
40万年前まで遡って活断層を調査

写真好きな中年男の独り言