彼岸花

 自宅の門の前、歩道の生け垣の中から顔を出している彼岸花。どこから来たのか、はたまた誰が植えたのやら。発見したのは大凡二十年前。その後、毎年この時期になるとしっかりと咲き出し、その生命力は健気に思え、また神秘的だ。
 朝の散歩の際に暫し眺めていると、共に亡くなった親父とおふくろが、「お彼岸の墓参りには、きれいに墓を掃除してね」なんて、ふと訴えかけてきたような気がして目を見張る。なんだかこの彼岸花が、菩提寺である大仙寺とつながっているように思えてくるから面白い。

ひさびさの川苔山

 九月十四日(水)。十数年ぶりに川苔山へ登ってみた。ずいぶんと長い間、山道崩落のために、川苔谷から周るゴールデンコースが使えなくなっていたが、つい二か月前に通行止めが解除になり、その情報を聞きつけたHさんから、「川苔山、行きましょうよ!」の声がかかったのだ。

 先回、Hさんとの山行は公共交通の遅延により、計画の三割ほどしか歩くことができず、不完全燃焼に終わったが、今回、三鷹発六時十六分発の下り中央線快速は予定通りに立川駅に到着、青梅線に乗り換えるために一~二番線ホームへと向かった。待ち時間は少なくトイレにも行かずにベンチで待機したが、なぜか出発時刻になっても電車が来ない。また遅延か?!と思いつつも、嫌な予感がしてナビタイムを起動。目を凝らして確認すると、大きなミスを起こしたことが判明。乗り換えるべき青梅行きは、中央線快速を下車した六番線ホームでそのまま待てばよかったのだ。電車の乗り継ぎに疎い私は、青梅行きは全て一~二番線ホームと思い込んでいて、中央線快速に青梅直行便があることを忘れていた。そんなわけで、奥多摩駅発八時十分の東日原行きのバスにはどうあがいても間に合わなくなってしまい、結局、なんとかタクシーを捕まえて、登山口である川乗橋へと急行したが、予定より四十五分遅れの登山スタートとなってしまった。

 川乗橋からの長い舗装路には本当に辟易とするが、細倉橋から先は、青が鮮やかな夏の空と、川苔谷に流れ込む心地よい風で、それはそれは気分爽快な山歩きを堪能できた。
「この谷、きれいですね」
「腰据えて写真撮りたいほどだよ」
 何度か橋を渡る先に見えてきた落差四十メートルの百廣ノ滝は、以前の記憶と同様、豪快な姿で迎えてくれた。
「すごいですね」
「やっぱ、迫力あるな~」
 Hさんもびっくりしていたが、数日前までかなりの降雨があったようで、山域全体の水量が増大し、百廣ノ滝も含めて谷全体が普段以上の迫力を醸し出していた。それと、滝周辺の山道は殆どが岩場にあり、岩は濡れているだけではなく、苔のむしかたが北八ヶ岳に負けず劣らず豊なのでとても滑りやすく、細心な注意が必要だった。何件かの滑落事故も起きたのだろう、以前は見られなかった鎖がいたるところに張り巡らされている。

 百廣ノ滝からは急登が続いた。息は上がり汗は噴き出たが、谷の清涼感のおかげでそれほどの苦しさは感じず、むしろ山の中で頑張ってるぞ!という高揚感が勝り、思わず顔がゆるむ。
 薄暗い谷を抜けると、頂上直下の尾根に出る。やや薄暗い雲が張り出していたが、青空も随所で顔を見せ、下山完了まで大きな天候の変化はないと判断。
「ここですか、頂上は?」
「ほら、あそこに立派な頂上標識が立ってるじゃん」
 本当に立派だ。薄れた記憶だが、十数年前はもっとシンプルで小さい標識だったはず。川苔山は人気の山だから行政も予算をかけてくるのだろう。
 ちょうど腹も減ってきたので、ここでランチ休憩とした。

 川苔山へは今回で四度目の登頂になる。十六年前、カメラを持って山へ入るようになった頃、たまたまだが、大丹波川上流に物凄く絵になる渓流地帯を見つけ、何度か通っているうちに、そのポイントの先に川苔山の山頂があることを知った。しかし数年前に起きた大崩落のために、そこへ通ずる山道は完全に埋もれてしまい、足を踏み入れることはできなくなったが、川苔山を挟んだ西と東には百廣ノ滝を始めとする、ハイカーの眼を癒す水景色が広がっていることを知り、この要素があるからこそ川苔山は人気の山として名を馳せているのだと納得。
 それにしても静かだ。頂上にいるのは我々と年配ご婦人の二人連れ、そして若いトレラン女子の計五名。川苔谷にはとめどなく涼しい風が流れていたが、頂上は無風。だから余計に静けさが際立つ。今回もおにぎりと甘い菓子パン、そしてインスタントコーヒーと至ってシンプルメニューではあるが、やはり景色を愛でながら山頂でいただくランチは特別だ。それにしてもHさん、日清のカレーメシが心底好きらしい。先回の大塚山でもうまそうに食していた。

 今回のコースは下山がややつらい。平均して道はなだらかなので、体力的には難儀でないが、とにかく長いのだ。実際の距離もそこそこあるが、それ以上に景観に変化がないため、なんだか同じところを何度も歩いているような気がしてくる。
「えー!まだこんなとこ」
 後ろでHさんがスマホのGPSを見て叫んでいる。このような状況下では得てして集中力が切れがちになる。躓いたり滑ったりすることがぼちぼち出始めるからすぐわかる。そんな中、大きなステップをクリアしようとしたとき、左側から太い木の根が張り出していることを見逃し、そこに左膝を結構な勢いでぶつけてしまった。
「痛っ!!」
 おもわずしゃがみ込んで痛みに耐える。
「だいじょうぶですか?!」
「へいきへいき、ちょっと休ませて」
 単なる打ち身ですんだからよかったが、下手をすれば歩行不可能に陥ることだってあり得る。油断は大敵だ。

「ビール飲みたいですね」
 なんとか無事に鳩ノ巣駅まで下ってきた。一日中ボトルに入った生ぬるい水ばかりを飲んできたので、ここは冷たいビールできゅっと締めたいところ。ところが駅前の食堂には“本日休業”の札がかかっていた。
「も~、残念」
「しょうがないよ。あきらめてコーラでも飲もう」
「ですね。電車くるの四十分後だし」
 店前に設置してあるテーブルに陣取り、自動販売機から取り出したコーラを一気に流す。もちろんビールだったら最高だろうが、このコーラが侮れない美味しさだった。冷たさと炭酸の刺激が疲れた体に染み入り、生き返るとはまさにこれだと妙に納得する。
 余談になるが、改札を抜けて上りホームへ向かおうとしていると、
「あれ、あそこ、お店じゃないですか?」
Hさんが指をさしている先にはレストラン風の建物が。これまで何度となく乗り降りしてきた鳩ノ巣駅なのに、この存在には全く気がつかなかった。帰宅して調べてみると“山鳩”と称するカフェ&宿泊施設であり、メニューのページに目をやると、あった、生ビール。
 くぅ~~~、おつかれさん!

変わらぬもの

いせや公園店

 先日、吉祥寺のいせやで、旧職場の同僚とひと時を楽しんだ。互いに歳をとったので、どうしても健康の話題が出がちだったが、今のところ二人とも大きな病とは無縁の生活にあり、こうして度々焼き鳥を頬張り、酒を酌み交わしている。
 酒はNG、好物を食するにも制限あり、足腰に問題が出てきて山歩きもままならない、そして気がついたら病院通いに毎日の服薬……
 想像するだけで気分はどん底だ。
 いせやの焼き鳥はとてもジューシーで、舌に馴染んだタレの味はこの上ない。これに冷たい生ビールがくっつけば鬼に金棒。会話が弾めばまさに至極の時である。
 地元なので、いせやは学生時代からよく利用しているが、リニューアルを経ても変わらない雰囲気がとてもGoo。旧店舗は“THE昭和”といった趣に溢れていたが、新店舗はその雰囲気を残そうとした意図が見られて拍手拍手。大昔の話だが、元々いせやは精肉店としてスタートしており、今でも本店の西側には精肉工場を有している。だから肉は新鮮で美味しく、且つ安い。大ぶりな焼き鳥を四~五本食し、生ビールをグビグビッとやって千円とは泣かせるお値段。コロナが来ようと何が来ようと、リピーターが増えていくのは頷けるところだ。

写真好きな中年男の独り言