体調不良 その5

 待ち焦がれた十一月七日。ついに最終診断が言い渡された。
「血液検査の結果からみると、ほぼ正常です」
 おお、よかった。深刻な病気が見つかったらどうしようかと、実は蚤の心臓が悲鳴を上げていたのだ。
「晩酌の蓄積ではないでしょうか」
 そうくると思ったので、新たな資料を持参していた。熱が出る前日に行った健康診断の結果である。
「先生、これ見てください。肝臓の数値はすべて正常です」
 資料を手に取り、しげしげと目を走らせている。
「なるほど、そうすると一過性のものだったんですね。何某かのウィルスが入って、肝臓が働いたんでしょう。しかしこれからはお酒を控えめにして、かならず週二日の休肝日を取ってください」
 とりあえず生涯断酒の危機は去ったわけだ。なんと幸せなことか。
「慢性の症状があるかも調べましたが、こっちも大丈夫ですね」
 “検査詳細情報”と記した見慣れない表の説明が始まった。
 まずアルコールの関与が疑われるLD、AST、ALT、総ピルビリン、γGDPであるが、γGDPがまだ若干高いのを除いて、ほかは異常なしとのこと。今回は94で、ドクターKでの検査では170以上もあったから、下降傾向と言っていいのかもしれない。ちなみに上限値は64。当分の間不摂生には注意しなければ。
 その他を上げると、甲状腺の異常が関与するFT4は0.88で、上限値は1.48。肝細胞がんを疑うPIVKA-Ⅱは13.3。上限値は40。そして自己免疫性肝疾患も調べたがこれも白であった。
「エコーの結果も問題ありませんでしたが、若干脂肪肝気味なので、やはり飲酒には注意を払った方がいいでしょう」
「肝に銘じます。ひとまず安心しました」
 やはり五十年間にも及ぶ途切れのない晩酌は、体に相当なダメージを与えていたのだ。なにも考えず、ただ習慣に任せて飲み続けたつけが回ってきたのだ。

 一か月+αも続いた微熱騒動はこうして幕を閉じた。

真鶴周遊ウォーキングコース

 突然、海を見たくなった。
 潮騒、海鳥、磯の香…
 沼津育ちにとっては、体に染みついた望郷の要素。やはりたまに海辺に立たないと、なにか物足りなさを感じ、心の潤いが薄れていくような気がしてくる。

 真鶴半島は前々から気になっていた。自宅からやや遠いが、カメラを提げてハイキングするにはもってこいのロケーションに思えたからだ。半島と称しても、規模からいえばちょっと大きな岬。そしてwebサイトで調べると、“真鶴周遊ウォーキングコース”なるものを見つけ、読み進めると、散策をしながらのスナップにはちょうどよさそうなのだ。

 十一月四日(火)。真鶴駅までは、まず三鷹から中央線で東京へ。そこから上野東京ラインの熱海行へ乗り換えれば、一時間半ほどで到着する。途中、電車の車窓からは相模湾が見渡せ、それだけで心が躍った。やっぱり海はいい。

 駅前を走るR135を横断。まずは荒井城址公園を目指す。
 住宅街の中を網の目のように伸びる道はどこも坂がきつい。公園へは上り坂が続き、気温はそれほど高くないのに、背中に汗をかき始めたのでウィンドブレーカーを脱いだ。セーターだけになると、網目を通る風が心地いい。
 誰もいない静かな公園には一部紅葉も見られたが、春の桜が有名だと、園内整備を行っていた高齢の男性が教えてくれた。彼が乗ってきた軽トラを見ると、どうやらシルバー人材センターの方らしい。

 公園からはしばらく下りが続き、そのうちにバス通りへ出た。住宅の合間からは所々で相模湾が見渡せ、誠に羨ましい。ふと西宮に住んでいた頃の芦屋を思い出した。六甲山裾野の斜面には高級住宅が立ち並び、どこの家からも大阪湾を見下ろせ、夕方になると神戸から大阪へ広がる夜景が加わり、それはそれはすばらしい眺めなのだ。

 二つの美術館を過ぎ、間もなくして前方に交差点が見えた。すると左手のちょっとした森の中から四~五名の年配者たちが現れた。皆さんそろって双眼鏡を持っている。バードウォッチングだろう。これまで単純な舗装路ばかりだったので、彼らが出てきた森の中へと入ってみると、よく整備された登山道ってな感じだ。最初は急な上りで、その後だらだらと下っていくと、前方にちょっと変わった小屋が目に入った。近くまで来ると、なるほど、野鳥の観察小屋である。さきほどの方たちが利用していたのだろう。

 再び周回路に出る。右手岬方面と案内板が出ていたので、向かっていくと正面に休憩施設である“ケープ真鶴”が見えた。ここはパスして、左脇の遊歩道へ入り、海岸へと向かう急な階段を降りていく。この階段、間違いなく帰りは厳しいものになるだろう。
 途中から三ツ石が見え、大海原が広がる。風もそれほどなく、日差しが強いので暑いくらいだ。遠く右の岩場では磯釣りに勤しむ人たちが見える。今は引き潮なのだろう、三ツ石まで歩いて行けそうだ。
「こんにちは、いい天気ですね」
「ほんとですね、汗かいちゃいました」
 私と同年代と思しき男性が声をかけてきた。笑顔の絶えない優しそうな人だが、二言三言話すと、待ってましたとばかりに、マシンガンお喋りが始まった。
「ここへはよく来るんですか?」
「以前は登山が好きで、たいがいなところは登りましたよ。アルプスは制覇したし、八甲田山もよかったな~、でも歳取っちゃったからね。あっ、ここですか? 六~七回は来たかな、駅からね、時計回りで歩いたもんですよ、でもこれが最後かな~」
「お住まいはお近くです? 私は東京から来ました」
「東京じゃないですよ。相模原です」
「いやいや、東京は私…」
「ああ、ちょっとだけど東京にも住んでたな。タクシーの運ちゃんをやってた頃はよかった。バブルでね、銀座なんて客がザクザクですよ。ぼくの知り合いで個人タクシーやってたやつなんて、年収1000万ですよ。休む暇もないほど次から次に客がね~、東芝で半導体もやってました。リーダーでね、はは、懐かしいな。その頃にマンション買ったんですよ。今じゃ隣にタワマン建っちゃって、億ですよ億。相模原で一番高い建物ですね」
「へぇ~~」
「でも、だめだな。帰りはバスかな。そこの公園でおにぎり食べてます、年金暮らしだから」
「そうですか、それじゃ」
「カメラやるんですね、下でも年配夫婦がパシャパシャ撮ってましたよ、あはは、どうもどうも、ありがとうございました」
 世の中、いろんな人がいる。

 ゴロゴロ岩の海岸に出ると、視界が広がり開放感抜群である。さっきの男性のおにぎりが連想したのか、何枚か撮るうちに腹が減ってきた。時計を見るとちょうどお昼を過ぎたところだ。
 帰りのルートは東海岸へ出て、大昔スクーバダイビングで潜った琴ヶ浜を通る。案の定、ロードサイドの飲食店は軒並み海鮮である。ただ今日は刺身っていう気分じゃなかったので、スルーしてこのまま進み、駅前に出ればラーメン屋でもあるのではとピッチを上げた。

 最後の坂を上り、大きな右カーブを曲がりきると真鶴駅である。R135との交差点右角にピザ屋がある。窓から店内を覗くと、午後一時を回っていたせいか、それほど客は入ってない。ドアを開ける。
「いらっしゃいませ」
「一人だけど」
「カウンターへどうぞ」
 がたいのいい顎鬚の男性がマスターなのだろうか。もう一人年配の女性もいる。もしかしたら親子かもしれない。
「おすすめは?」
「干物を使ってる、この“あじとうずわのマリナーラ”と“さばみりんとリコッタチーズ”でハーフ&ハーフなんていかがですか」
「じゃ、それで」
「お飲み物は?」
「ジンジャエール」
 しかし干物のピザとは珍しい。地場の食材を利用したわけだ。もともとアンチョビのピザは大好物なので楽しみである。

真鶴ピザ食堂KENNY

 ジンジャエールを半分ほど飲み終えるころ、焼き立てが目の前に置かれた。なんといっても香りがいい。ずばり干物の網焼きである。ピザそのものの食感もよく、とてもおいしくいただけた。それにアップダウンを伴う10km強の道のりを経て、もう腹ペコはピークに達していたのだ。それと25cmのピザをストレスなく平らげたのも、断酒のおかげがあるのかもしれない。

かつや・女房とランチ

かつやの“2個たまカツ丼”

 いまだ決着を見ない“微熱騒動”。あおりを受けて今年の秋はインドア生活を余儀なくされている。秋のベストシーズンに一度も山へ入ってないのは恐らく初めて。もっともこの頃では奥多摩でも熊被害が出ているようなので、いい機会だと解釈し、少しの間控えようと思っている。とは言え、大谷翔平の野球中継と読書ばかりではストレスがたまる。友人を誘って昼呑みができれば一番いいのだが、十一月七日の検査結果を確認するまではアルコールご法度である。
 アルコールと言えば、十月五日から完全に断っているので、そろそろ一か月近くになる。これだけ長く断酒をするのは、飲み始めた高校二年生の頃以来だ。

 アルコールはやはり害があるのかもしれない。体の深部まで染み渡ったウィスキーや日本酒が徐々に抜け始めると、確かな変化が現れる。
 わかりやすいところでは、胃腸の調子が上向いた。特に昼食時と夕飯時にはこれまでにない空腹感を覚え、胃がキュルキュルと音を立てて催促する。もちろん食すればこれまで以上に美味くいただける。睡眠の質も上がったように思う。毎晩ぐっすりと眠れ、夢も殆ど思い出せないほどだ。

 肝臓の数値の悪さが一時的なものであれば、再びアルコールを楽しむ生活に戻りたいが、毎日の晩酌は慎み、飲酒量も厚労省が発表した「生活習慣病のリスクを高める飲酒量」を厳守し、楽しいひと時を長く続けられるよう肝に銘じたい。

生活習慣病のリスクを高める飲酒量より

「あ~~、腹減った」
 すると、女房がスマホを見ながらつぶやいた、
「かつや、行こうよ」 
 かつやは昼前からウェイティングが続くが、ここのいいところは回転が早くてすぐに席が空くこと。
「はい、二名様、テーブル席へどうぞ」
 早速メニューを広げると、
「おっ、これいいね、“2個たまカツ丼”」
「あたしはヒレカツ丼。でもパパ、朝からこれで卵三個目だよ」
「いいじゃん、べつに三個ぐらい」
 かつやも丸亀製麺同様、メニューの開発を怠らない。そんなこともリピーターの多さにつながっているのだ。
「おまたせしました」
 なるほど、カツが見えないくらい卵がのっている。しかもつゆだくだ。カツ丼でも親子丼でも、つゆだくの方が好みなのだ。
 ん~~、おいしくいただけた。ごちそうさまでした。

バイク屋時代48 杉並店閉店と組織のあり方

 甲州街道を挟んでHD調布の真ん前にあるのが“ロイヤルホスト・味の素スタジアム店”。午後一時過ぎ、テーブルを囲むのは、俺、大崎社長、下山専務の三人。
「冷めちゃうから、先に食べちゃおう」
 話があるということで、店長会議終了の後、ここへ来ていた。

ロイヤルホスト・味の素スタジアム店

 鼻っから空気は重かった。げっそりとくる内容なのだろう。美味しそうなハンバーグランチも、味わって食する気にはなれない。
 ほとんど会話もなく、黙々と食事が進み、ナプキンで口元を拭く。
「なんです、今回は?」
 そう問うと、専務の目線が社長を急かした。
「うん。そろそろね、ドゥカティは若いメンバーに任せて、木代くんはハーレー部門の営業統括をやってもらいたいんだ」
 なるほどね。薄々感じていたが、やはり人減らし第一号は収入からして俺になるわけだ。しかし正直言えばハーレーは避けたい。大好きなスポーツバイクと比べ、商品としてのハーレーにはほとんど魅力を感じないのだ。もっとも社長からやれと言われたら従うしかない。断れば首が飛ぶだけだ。ただ、今のモチベーションを維持できるかは微妙である。入社以来、好みのスポーツバイクを扱い、そこへ集まるお客さんと共に切磋琢磨してきたこれまでの日々を、まずは強引な意志により抹消する必要がある。組織に生きるには好きも嫌いもない。これまでが本当にラッキーだったのだ。

杉並店の忘年会 こんな集まりをちょくちょく行っていた

「杉並店は今のところで続行ですか?」
「あそこは家賃が高いから無理だな。柳井と奥留は調布へ異動させて、ドゥカティ用に新しい店舗を探しているよ」
「じゃ、大杉とハラシ、坂上でやるわけだ」
「今のドゥカティの売上が半分になってもやっていけそうなところがあればいいが」
 重要な案件なので、その後大崎社長は杉並店メンバー一人一人と面接を行った。そこで一つ問題が発覚、ここへきてハラシが会社を辞めたいと言い出したのだ。彼と話をすると、理由はとても明快だった。
「人事評価が不公平で、やる気が萎えました」
「なるほどな」
「だっておかしいでしょ。ハーレーの営業の誰よりも僕の方が台数を売っているのに、まったく評価してくれないんですよ。給料を上げろとまでは言いませんが、せめて全体会議の席上で、『販売台数は二カ月連続で原島くんがトップだね、おめでとう!』くらい言ってくれてもいいんじゃないですか」
 張り切りボーイのハラシにとっては、耐えがたいことなのだ。
「これからのことについても聞きました。ドゥカティは今でも大好きですけど、縮小方向にある部門で働く気はありません」
 就活は既にひと月前から始めていたようで、米国の医療器具メーカーの日本現地法人に当たりをつけているようだ。給料の少ないバイク業界は外し、あえてノルマの厳しい成果報酬型の企業を目指すとのこと。
 ギラリと光るハラシの目を見て羨ましいと思った。まだ若く、猪突猛進な性格をもって、怖いものなしに自分の道を切り開いていく様は、今の俺にはまったく失せたものだ。

 難航していたドゥカティの新店舗探しだが、おあつらえ向きなところが見つかった。京王線の桜上水から徒歩数分の甲州街道沿いで、整備作業はショールームで行うしかないという小さな店だが、家賃が安く、ちょっと踏ん張れば利益も出そうだ。名残惜しさは多々あるが、こうして思い出多きモト・ギャルソン杉並店を閉店とし、俺、柳井、奥留の三人はHD調布へ異動、そして大杉店長、坂上メカニックの二人が、新モト・ギャルソン杉並店を始動させることになった。

 HD調布では、慣れない職場、慣れない商品と、最初の一カ月はドタバタの繰り返し。武蔵野市本店の頃でもハーレーは扱っていたが、それからずいぶんと月日がたち、エンジンもシャーシも何もかも変わっていたので、商品知識の勉強は殆ど白紙の状態からである。しかもハーレーはオプションパーツが星の数ほどあり、掌握するのは並大抵のことではない。商談の際、すぐに壁にぶつかる。
「ちょっとハンドルを上げたいんだよね」

ここにあるのは氷山の一角

 ドゥカティの商談では絶対にありえない注文だ。ハンドルを上げたいと言っても、ライザーで上げるのか、ハンドルバー自体を交換するのか、それにほとんどの場合、上げた分、ブレーキホースやクラッチケーブル等々の長さが足りなくなり、要交換となることが多い。純正パーツならP&Aブックに
 メカニックに聞いても、
「これっすか? どうかな、ノーマルでも行けそうな気もするけど、、、」
 この段階では正確な見積もりが立てられず、お客さんへは調べたうえで後日伝えるということになる。面倒くさいことこの上ない。
「木代くん、そんなのはこっちで決めちゃえばいいんだよ。『この純正ハンドルが当店のおすすめで、これならホースとケーブル、工賃込々で十万八千円になります』てな感じでさ」
 大崎社長はさも簡単そうに言うが、そんなことは重々分かっている。
 実はこっちが懸命におすすめしても、
「やっぱりこっちのメーカーの方がいいな~」
 とくることが殆ど。一台売るにも、国産バイクやドゥカティと較べれば十倍の労力と手間がいる。まっ、こんな荒波に揉まれて三カ月も経つ頃には、そこそこの商品知識も身についてくるが、非効率なことには変わりなく、あまりに複雑な注文を押し付けてくると、
「当店では基本的に純正パーツの取付けまでしか行っておりません。お力になれず残念です」
 と、正直に伝えるようにしている。実際、半数以上のディーラーが“カスタムは純正パーツまで”としている。ただ、ハーレー部門の高収益率は、こうしたカスタムパーツから得られるところが大きく、ケースバイケースとしているのが現状だ。新車、中古車に関わらず、成約すれば100%に近い確率でカスタムの依頼が入り、車両利益にプラスして10万円から60万円ほどの売り上げが得られるのだ。これはハーレーならではのドでかいメリット。

 一か月を過ぎると、仕事もそうだが、スタッフたちの特徴や店内人間模様、そして渦巻く不満等々がだいぶ掌握できるようになってくる。                     
 例えば不透明な人事評価への不満は、ハラシだけが感じていたことではなく、モト・ギャルソンの主流派であるハーレー部門にも同様の不満が渦巻いていたのだ。もちろん不満の原因は多岐にわたり、最も深刻と思われるのは、営業とサービスの確執。杉並店にはなかった問題だけに、目の当たりにしたときは愕然とした。
 例えば営業のAくんが在庫車両のFXDLを売ったとしよう。成約から納車までには様々なステップを踏まなければならなく、まずは営業サイドで、お客さんからいただいた住民票をもとに、登録書類(新規登録、中古新規、名義変更等々)を作成する。前述のようにハーレーの場合はカスタムパーツの取付け依頼が多々あるので、パーツの発注も行わねばならない。そして一番大事なのは、成約した車両を整備するために納車整備依頼書を作成し、いち早くメカニックに頼むのだ。そして買っていただいたお客さんの関心事No1は当然“納車日”。
「在庫のFXDLですけど、いつ頃整備上がります?」
 と、担当メカに聞くわけだ。すると、
「今色々抱えてるから、やってみないとわからないな」
 お客さんに納期を伝えられず、営業マンはほとほと困ってしまう。
「大体でいいんですけど」
「だったら一か月ちょっとって言っといてよ」
「一か月っすか…」
 こんなやり取りは日常茶飯事であり、ほとんどの営業スタッフが経験し不満を感じていたのだ。ただし、すべてのメカニックがこのような身もふたもない返答をするわけではない。よく観察するとこの傾向はベテランメカに顕著だった。そしてこの問題を追求していくと、メカニックがどうの、営業マンがどうのではなく、組織には絶対にあってはならない深刻な構造が明らかになってきたのだ。

ダイソー・女房とランチ

 ダイソーは楽しい店だ。足を運んだ分だけ発見がある。
 ヨーカドーへ行った際には必ず立ち寄り、良品、珍品を捜し歩く。
「こんなのあるんだ~」
 行くたびに出るセリフ。
 安いのに品質もそれなりのレベルがあり好感が持てる。この時代、安かろう悪かろうでは通用しない。
「これでいいんじゃない」
 今回は塩の容器を探しに来た。これまでは胡椒の空き瓶を利用していたが、ひと振りで出る量が少ないのと、蓋がぐらぐらになって使いづらくなったのだ。
 女房が手にしているのはちょっと小さい。しかしこれ以上大きいのはないようだ。
「そんな大きいのじゃ、出すぎて血圧上がるわよ」
 たく、、、それとこれとは別の話。
「ま、いいか、それで、どうせ百円だし」
 不満を残しつつ今も使っているが、やはり納得はできそうもない。塩の一振り加減で料理の味は変わるのだ。
「ねっ、帰りに丸亀行かない? 今ね、“豚つけ汁うどん”って、やってるみたい」
 丸亀製麺武蔵境はヨーカドーから自宅へ向う途中にある。夫婦共々大ファンだ。
 駐輪場に自転車を置き、列に並ぶ。立地的にいいのかここは大繁盛店。昼時は絶えず列が店の外まで延びている。

「おいしい!」
「それ、見た目もうまそうだよ」
「このタレ、きっとパパ好みだよ」
 ちょっともらって、つるっと含む。うまい。丸亀盛況のひとつの理由に、絶え間ない商品開発がある。新メニューが出ると決まって女房はそれを選ぶ。超保守派の私は“温かいぶっかけうどん+天ぷら”一途だ。
 ごちそうさまでした。

写真好きな中年男の独り言