ゆるく、気楽に、でも存分に

 恐らく冬の寒さも、先日の雪が降った日辺りで峠を越したと思われる。朝の散歩では耳が痛くなり、吐く息の白さも際立った。夕方になっても寒さに順応できず、日課のジョギングをさぼってしまう。
 さぼりと言えば、これまで毎日行っていたストレッチや軽い筋トレ、そしてスクワットも途切れがちである。体調が悪いとか、老化が進んで体力が低下したのではない。己に課した決め事に対し、もっと緩くかかわろうという心の変化である。せっかく悠々自適な生活を送っているのだから、肩ひじ張らずにもうちょっとのんびりした方が自然に思うのだ。

 二月十日(火)。デニーズOBの定例会を立川の磯丸水産で午後五時より行った。
「木代さん、去年の旅行はほんと楽しかったですよ」
 YOさんの開口一番である。企画担当の私にとっては嬉しいひとことだ。会話は旅行の思い出に至り、盛り上がった挙句、今年もやろうということになった。できれば二泊という要望も出ているので、また秋口は準備で忙しくなりそうだ。

 さて、そのYOさんだが、現在オーナーとして経営中のセブンイレブンを、今年の五月いっぱいで人手に渡すことにしたようだ。十五年契約の節目でもあり、ご夫婦共々体力的なことも考慮したうえでの決断だったらしい。コンビニの仕事は結構ハードだと聞く。
「だからおれさ、六月からフリーになっちゃうんだよ。仕事はもうおしまい。だけどボランティアくらいはやろうかなって思ってる」
 会話はこの段から、人生最終章についての話題になり、各々の考えている趣味や余暇の在り方などの話が飛び交った。
 私も含めメンバーに残された人生は、あと十数年から二十年がいいところだろう。なんとか健康だけは維持し、自分の時間を存分に楽しむ勇気を持ち続けたいものだ。

亀戸天神社

 初詣へ出かけたとき、
「ちょっと寄り道につきあってよ」
 と女房を誘い、浅草寺から北千住、三ノ輪と、名所仏跡巡りをしてみたが、これが意外に面白かった。

 二月六日(金)。一度は行ってみようと、初となる亀戸天神を訪れた。
 目的は早咲きの梅。気温も三月上旬並みに上がるようで、朝から空気は爽やか。家に籠ってはいられない。念のためにダウンジャケットの下に薄手のフリースを着込んだが、三鷹駅に着くころには背中が汗ばんできた。ただ暖かさも週末には再び急降下のようだ。本日の機材は<α6000+16-50mm F3.5-5.6 OSS II>。

 亀戸駅から北へ向かって商店街を歩いていくと、多くの飲食店が連なっていて、何気に覗いていたら腹が減ってきた。蔵前橋通りの手前に“西安麺”と看板が出た中華の店があったので入ってみた。スタッフは全員チャイニーズのようだ。とりあえずポスターで紹介されていた牛肉ビャンビャン麺が美味そうだったから、紹興酒といっしょに注文した。西安麺はビャンビャン麺とも言い、麺の幅が2~3cmもある、もちもち感満点の平打ち麺だ。辛さも選べるので“小”にした。ラー油ギラギラのスープがおどおどしかったが、口に含めば意外やスッキリとしていて喉越しもよく、癖になりそうな味わいだ。

 ほろ酔い加減で足を踏み入れた亀戸天神。梅の開花は八分といったところ。そのほかにロウバイやスイセンもきれいに開花している。まだ早いが、藤棚がたくさん設置されているので、桜の終わるころから眩い薄紫が楽しめることだろう。
 さて、目当ては亀戸天神だったが、春を思わせる陽気が歩を軽くし、スカイツリーの巨大な姿に誘われて、押上方面へと向かってみた。距離的に考えても、亀戸、錦糸町、浅草は、ひとまとめにできる徒歩圏である。
 青空に映えるスカイツリーの輝きも美しいが、隅田川テラスをのんびりと歩く楽しさは、今日一番だった。駒形橋を渡り、階段を下って遊歩道に出ると、ベンチでスマホを覗く若い女性、読書中のご婦人、はたまたジョギングに勤しむ青年、二匹の犬を連れて散歩中の年配夫婦と、平和を絵にかいたようなシーンが続き、水辺ならではの空気感と相まって、ほのぼのとした気分に浸れるのだ。

バイク屋時代58 若かったね~

 最近はコンスタントに下取車が入ってくるので、仕上げや納車整備を依頼するために、週に一~二度はPモーターサイクルへ足を運んでいた。
 その日は日曜だった。店前の駐車スペースにトラックを入れようと歩道へ乗り上げると、近江くんがお客さんとなにやら立ち話中。中断してすぐにトラックの脇へ来ると、運んできたバイクの固定を外し始めた。
「GSX-Fですね」
「二週間ほど時間をもらってるよ」
「そりゃありがたい」
 作業を眺めているお客さんと目があった。
「あれ、久しぶり!」
「ご無沙汰してます」
 モト・ギャルソンの古いお客さん、Kくんだ。その昔、カワサキのゼファー750を新車で買ってくれ、その後も大事に乗り続けて、今日は車検整備が上がったので受け取りに来たそうだ。
「何年ぶりだろう」
「ビッグツーリングに行ってた頃が懐かしいですよ」
「ビッグね、はは、大昔だ」

 確か入社して二度目のビッグツーリングである。本当に大昔だが、Kくんが絡むエピソードは鮮明に思い出す。大人げない冷や汗ものの行為だったと共に、愛車ヤマハ・RZ250で参加した唯一のビッグツーリングだったから。

 宿泊先はみなかみ町の猿ヶ京温泉。Cグループを大崎社長と組んだ。RZは古くて壊れやすいからツーリングに使っちゃだめだと釘を刺されていたが、一度でいいから青春の愛車RZを駆って参加したかったので、メカの海藤くんに点検を依頼、お墨付きをもらった旨をごり押しして、不承不承了解を得たのだ。
 社長が先頭、俺がケツ持ちで、三国街道を軸とした周辺のワインディングを流していた。ところがすぐ前を走っていたKくんが突然ペースを落とし始め、しまいには路肩に停ってしまった。その時はまだゼファー750を所有する前で、スズキ・250Γで参加していた。先行する他のメンバーは、このアクシデントに気づかなかったのか、俺たち二人を残して走り去ってしまう。
「だめかい?」
「エンジンはかかるんですが、アクセルを開けると止まっちゃうんです」
 おそらくキャブのトラブルだと思うが、俺が対処できる範囲を越えている。まだ携帯電話などない時代だったので、途方に暮れていると、右手に広がる森の奥から、バイクらしき排気音が聞こえてきた。もしやと思ったその直後、前方にある林道の出口と思しきところから、ヤマハ・DT200に乗った松田さんが現れ、次から次へとオフロードグループの面々が飛び出してきたのだ。最後はカワサキ・KDX200Rの吉本くんだったので、こっちへ来るよう大きく手を振った。

 彼のKDX200Rはつい最近手に入れたばかりの新車である。今回のツーリングが初の林道走行になると言っていた。やかましい排気音を吐き出すこのオフ車、実は通常なら一般公道走行不可の本物のエンデューロレーサーなのだ。ところが世の中にはそんな競技専用車に保安部品を取り付けて、登録代行までやってくれる業者がある。そこへ大枚をはたいてナンバープレートを手に入れたわけだ。レーサーなので性能は半端でなく、たとえば俺のRZ250は“ナナハンキラー”と呼ばれるじゃじゃ馬マシンで通っているが、重量139kg、最高出力30馬力と、発売当時はスーパースペックだった。ところがKDX200Rは、重量100kg、最高出力37馬力と、比較にならないほどの性能を有していた。
「どうしたんですか?」
「KくんのΓがさ、突如止まっちゃったんだよ」
「わかりました、見てみます。松田さ~~~ん! おれ修理やるから、先行ってて!!」
「了~~~解!」
 さっそく携帯工具を取り出し調べ始めたが、五分、十分と時が進む。
「これ、一度キャブをばらさないとだめかも」
「トラック隊呼びに行ってこようか」
「いいや、応急でやってみますよ」
 それからさらに十分ほど作業を行い、なんとか完了。ちょっとアイドリングが高いが、スロットルに反応するようになった。
「じゃ、ぼくが先導するんで、ゆっくりついてきてください」
 吉本くんがバイクにまたがり走り出す。その後に俺、Kくんと続いた。しばらく行くと三国街道に出たのでそこを左折。ここからはラリーの集合場所であるドライブインまで緩い上り坂が続く。
 のんびり走っていると前方に観光バスのテールが見えてきた。俺たちの速度も低かったが、喘ぎながら坂道を上る大型バスはさらに低速だ。しかも二台連なっている。
 もしやと思ったその瞬間、吉本くんが右車線へ出た。ここは黄色ライン、追い越し禁止だが、連なるバスを追い越すというのだ。引っ張られるように俺も続いた。フルスロットルで加速、車速は瞬間的に上がった。二台の2ストマシーンの咆哮が森にこだまする。と、その時、
「前のバイク止まりなさぁ===い!!」
 反射的に目が行ったハンドルミラーに赤色が点滅している。パトカーが左脇から出てきたのだ。目線を元に戻し、前方の様子をうかがうと、
「おいおいおい、加速かよぉ!!」
 吉本くん、問答無用でぶっちぎる気だ。反射的にスロットルを全開にしている自分も恐ろしい。
 パリィ~~~~~ン、パアァ~~~~ン、パリィ~~~~~ン、パアァ~~~~ン!!
「おりゃぁぁぁ!!」
 パトカーに追跡されているという危機的状況下なのに、2ストサウンドに酔いしれるクレージーさ。

 中速コーナーと緩いのぼりが続いた。バイクにとって最も有利になるシチュエーションだ。リズムにも乗ってきてどんどん速度が上がる。回り込むS字コーナーをクリアした直後、後方を確認すると、パトカーとの距離が開き始めている。それにしてもKDXの立ち上がりは鋭い、さすがオフ車、さすがレーサーだ。しかし俺のRZも捨てたもんじゃない。ぎりぎりだが、このレベルならなんとかついて行ける。
 パトカーとの距離は徐々に開いていった。そろそろドライブインが見えてくる頃だ。
「いるいる!」
 無数のバイクが駐車場に溢れかえっている。ラリーのスタート地点に参加客が集合してるのだ。
 吉本くんそして俺と、続いてドライブインへ飛び込む。俺は敷地の最も奥へバイクを入れ、その脇に隠れるように身を潜めた。道路の方へ目をやると、吉本くん、赤色を回しながらパトカーが通過する様を路肩で何食わぬ顔して眺めている。リバーシブルのジャケットを裏返しに着なおし、地味なモスグリーンから、目にも鮮やかなオレンジに変わっている。いやはや堂々としたもんだ。まっ、いずれにしても逃げ切れたのは間違いないだろう。しかし大人げないことをしでかしたもんだ。ただ、あの痺れるエキゾーストサウンドと暴力的な加速には、一瞬のうちに人を飲み込む魔力がある。いやはや、俺はのまれやすいたちなんだと、よぉ~~くわかった。

「あまりに一瞬のことだったし、木代さんたち、あっという間に見えなくなって、なにが起こったのかわかりませんでしたよ。そんなことがあったんですね」
「いや~、お恥ずかしい」
「木代さん、若かったね~」
 近江くん、なんだか嬉しそう。

十年ぶりの江の島

 α7ⅢとVario-Tessar T* FE 24-70mm F4 ZA OSSのコンビは軽くて軽快だ。もっと色々なシチュエーションへ持ち出したくなり、今度は十年ぶりとなる江の島へ出かけてみた。重量級のニコンD2Hをぶら下げ、ひたすら被写体を求めて歩き回ったあの日が昨日のように思い出される。

 二月二日(月)。今回はPOLOで出かけたが、江の島の周囲に点在する駐車場はどこも料金が割高だ。一級観光地であるが故、致し方ないのだろう。しかし少しでも安く上げたいのは人情。このような時は、駐車場予約サイト“特P”がおすすめだ。サイトを開くと、小田急線の片瀬海岸駅から徒歩で二分という好立地でありながら、十二時間440円という格安な情報が載っていた。島内の駐車場はどこでも一時間400円なので、今回のように十四時から十八時まで四時間も利用すれば1,600円の出費になってしまう。

 弁天橋を進み鳥居が見えてくると、いるいる、うじゃうじゃと。平日なのに驚くほどの活況だ。大半が若い人たちで、特にカップルが目立つ。それと、中国人観光客は本当に減っているのか?と疑いたくなるほど、チャイニーズトークが飛び交っている。
 最も混雑する仲見世を通過しても、人いきれは収まらない。シーキャンドルを中心に、時計回りで稚児ヶ淵を目指した。
 撮影ポイントを見つけようと集中するが、あまりの混雑ように気が散る。階段の途中でいざ撮ろうとすれば、濁流の如く次から次へと歩行者がやってくるので、ぎりぎりまで端によって、手すりに密着しながらカメラを構えなければならない。見晴亭へ下る階段は人気の撮影ポイントなので、立ち止まってスマホを構える女の子が多大勢いて、しかもそのモデルになる友達も階段の途中でポーズをとるから、先へ進むのにも一苦労だ。やっとの思いで稚児ヶ淵まで下ってくると、広々とした海原が目に飛び込み、一息抜けた気分である。遊歩道の端に腰かけ、暫しの休憩を取った。ここまで来るには急な階段をずいぶんと降りてきたので、戻ることを考えると気が重い。右膝のトラブルは治癒することがないのだ。

 鳥居まで戻ってくると、さすがに疲れた。有名飲食店“とびっちょ”の真裏にある喫茶店で一服。ホットコーヒーが体に染み渡る。
 店を出ると、辺りは早くも夜のとばりが落ち始めていた。気温も急降下である。防波堤へ出ると、きれいな夕日が広がっていた。西に向かって歩いていくと、かわいらしい女子高生二人が、夕日をバックに自撮りをしている。二人ともにこにこしてとても楽しそうだ。
 あっという間に陽が落ちてきたので、腕時計を見ると十八時前を指していた。
 弁天橋の途中から振り返ると、夕日とアイランドスパのネオンが相まって幻想的なムードを醸し出している。こんなところがカップル受けするのだろうか。
 
 さて、α7Ⅲにもだいぶ慣れてきた分、操作上での不満点も見えてきた。
 構えるたびに行う操作に露出補正があるが、上部にある露出補正ダイヤルを「±0」にしておかないと、前方ダイヤルへ割り振った分の露出補正機能が効かなくなること。メーカーとしては上部ダイヤルをメインとして行うように設計したのだろうが、これオンリーでは、とてもじゃないが使いづらい。
 それと、お世辞にも見やすいとは言えない電子ファインダー(EVF)。下位モデルのα6000とまるで変わらないのだ。一応フルサイズという上級モデルなので、その辺のところは考えて設計して欲しかった。

ソニー α7Ⅲ

 先日、以前から気になっていたソニーのミラーレスカメラ“α7Ⅲ”を手に入れた。合わせたレンズは、Vario-Tessar T* FE 24-70mm F4 ZA OSS。年金暮らしゆえにどちらも中古品だが、程度のいいものに巡り合ったことから、一気に入手へと走った。

 カメラは二〇〇三年にD100を購入して以来、ずっとニコン製品を使ってきた。特に小型ミラーレス“ニコン1・V2”は、登山の際に重宝した。小型軽量で、インチセンサーの割には映りがよかった。ただ、小さいとは言え、レンズ部分が飛び出しているので、それなりの荷物感がある。そんな時、ソニーのサイバーショット・RX100Ⅲに着目。ジャンル的にはコンパクトデジカメに入るので、レンズの出っ張りがなく、おまけにファインダーまで装備されている。肝心なセンサーも、V2同様のインチセンサーだ。馴染んだV2を手放すのは惜しかったが、RX100Ⅲのスペックは見逃せなかった。今では登山のお供はこれ一本である。

 こんなことも…
 長らくニコンのD100、D1、D2H、D7000と使ってきたが、ボディーサイズと重量が重荷に感じるようになり、ソニー製品に着目していた背景もあって、高性能かつコンパクトなAPS-C機として人気を集めていた“α6000”を思い切って手に入れることにしたのだ。合わせたレンズは、ツアイスのVario-Tessar T* E 16-70mm F4 である。この組み合わせは、ニコン機で不満に感じていた点をすべて解消し、今ではメインで使っている。よって、ほとんど出番のなかったD7000は手放すことにした。ちなみにD100、D1、D2Hは、屋根裏部屋で眠ったままである。
 こんなことだから、カメラの操作は断然ソニーの方が手馴れてきた。たまにニコンD600を持ち出すと、
「あれ? 露出補正はどれだっけ?」
 なんて、操作に戸惑いが出るしまつ。

 一月二十九日(木)。天候条件が揃ったので、レインボーブリッジ周辺で試し撮りを行った。ちょうど四年前、α6000+Vario-Tessar T* E 16-70mm F4を持参して、同じくレインボーブリッジでトライしたことがあるので、これはAPS-Cとフルサイズの興味深い比較ができるのではと胸が躍った。

■ 2022年12月18日 レインボーブリッジ

 コンパクトからフルサイズまで、ソニーのカメラは操作が基本的に同じだから、α7Ⅲも問題なく初期設定を行え、準備が整った。
 JR田町で下車し、南口からひたすらまっすぐ進めば、レインボーブリッジのエレベーター乗り場へ出る。ただ、冬場に限りだが、遊歩道は十八時で閉まってしまうので注意が必要。先回はサウスルートからお台場や品川埠頭方面を狙ったので、今回はノースルートで東京タワーを含む都心方面を中心にした。いつもながら実に眩い夜景が広がっている。
 湾岸食堂を過ぎるあたりから撮影スタート。レインボーブリッジでは三十分という短い間だったが、納得の計六十数枚を撮ることができた。

 α7ⅢのRAWデータレベルは、もはや圧倒的である。案の定、α6000のそれとは一段も二段も格上だ。高感度ノイズを避けるため、ISOは6400を上限と設定したので、被写体によってはシャッター速度が1/20秒になってしまうが、α7Ⅲの強力な手振れ補正のおかげで、ブレミスは皆無。ちなみに絞りはF4で固定した。仕上げはPhotoshopCS5で、トーンカーブ、色温度、彩度を調整したが、劣化はまったく感じられなかった。いやはや、今どきのフルサイズはイージーに撮れて、これほどの高画質画像が得られるのだから、もう笑うしかない。

写真好きな中年男の独り言