Photoshopでお絵かき

  小川のある公園の紅葉

 朝から雨降りでしかも寒い。
 これと言って出かける用事もなく、リチャードは雨が嫌いだから、散歩もなし。それなら歌とギターの練習をしようと思ったが、今日は丸一日女房が家にいるらしく諦めた。
 てなことで、しばらく放っておいた描画の続きをすることにした。
 絵は習ったことも勉強したこともないが、子供のころから好きだった。たまだが無性に描きたくなり、一旦描き始めると時間を忘れるほど没頭する。
 描き方はデジタル。日頃から写真編集で使っている、アドビ社のPhotoshopというソフトを立ち上げ、ペンタブレットを筆替わりにするのだ。手は汚れないし、失敗してもやり直しがきく。それに費用が一銭もかからないところがいい。

東大楼・女房とランチ

 地元ってのは、意外や知ってるようで、実は知らないことの方が多い。
「いつも行ってる眼科の前に、行列ができるラーメン屋があるのよ」
「その眼科って、おれも行ってるとこ?」
「そうよ。いつも眼科健診受けてるじゃない」
 てな感じで、時々女房が聞いてくるが、いくら頭をひねっても分からないことがほとんど。
「えっ、あったかな……」
「行ってみる?」

 女房とはちょくちょくランチへ行く。どうせなら地元の店がいいと、互いに情報を出し合っているが、情報提供量は圧倒的に女房の方が上だ。
 それでもたまには、
「スイングホールの真ん前にある中華屋、知ってる?」
「ロータリーのとこでしょ、なんかあったね」
「東大楼っていうんだけど、評判いいみたいよ」

 距離にもよるが、店へ向かう際はたいがい徒歩だ。夫婦共々ウォーキングを日課にしているから、それほど苦にはならないが、まあ、往復5Kmをひとつの目安にしている。

「すみません、ただいま満席なので少々お待ちください」
 フロアで孤軍奮闘しているのは、小柄な若い娘さんだ。恐らくアルバイトだろう。
 待つこと十分。一番奥のテーブルへ案内されると、私は回鍋肉定食、女房は炒飯、それと餃子を一皿注文した。厨房ではオーナーと思しき年配ご夫婦が忙しく動き回っている。
 料理が運ばれてくると、先ずはその香りにニンマリ。甜面醤のコクのある甘さが想像できてしまう。女房がいきなり餃子を口に放り込んだので、私も箸をのばす。野菜のうま味が広がる、餃子の王道的味わいだ。回鍋肉もキャベツの火のとおりがちょうどよく、御飯が進んだ。
「おいしかった。つぎは天津飯定食かな」
「おれは麺だな」
 またひとついい店を見つけたようだ。
「ごちそうさん」
「ありがとうございました、またよろしくお願いします!」

東大楼
東京都武蔵野市境2-2-3

河津桜と伊豆の山々

 なかなかすっきりと治らない右膝痛。発症当初よりは良くなっているが、その歩みはあまりに遅く、苛立ちを覚える。
 そんなことで、とりあえずどのあたりまで我が右膝は耐えられるのだろうかと、見切り発車を決断。そう、逆療法、荒療治である。症状が悪化したら下山して整形外科へ飛び込めばいいと、毎年恒例の河津桜撮影行へ、山歩きを二本組み入れてみたのだ。
 日程はいつも通りの一泊二日。宿は松崎伊東園ホテルに予約を取った。スケジュールは以下の通り。
 二月十三日(火):青野川で河津桜撮影。その後、高通山(標高519m)へ登頂。
 二月十四日(水):長九郎山(標高995.7m)登頂

 いいか悪いかは別として、伊豆縦貫道が拡張したことで、南伊豆は本当に身近になった。ひたすらハンドルを握り、前方に注視していれば、あっという間に下田の町に到着、疲労感も格段と小さくなった。
 昼飯は南京亭の炒飯と決めていたが、着いてみると駐車場は満杯。更には店頭にウェイティング客の姿もちらほら。時計を見れば午後一時。ランチピークは過ぎているはずだと、カチンときたが、飲食店を探している時間的余裕はなかった。致し方なくセブンで食料を調達した。
 はやる気持ちを抑え、“みなみの桜と菜の花まつり”の会場へと向った。他県ナンバーがやたらと目についていたので、ちょっと嫌な予感がしていたが、見事的中。平日なのにメインの駐車場三カ所はすべて満車。たまたまだが、最初の駐車場へ戻ってきたとき、満車の看板が見当たらなかったので、ウィンドウを下ろし、顔を突き出して声を放った。
「空いてます?」
「どうぞ!」
 平日なのにこの混雑ぶりはなに?!完全に想定外である。

 さんさんと降りそそぐ陽光に河津桜は眩いばかりに輝いていた。正真正銘の満開だ。ただ、近くに寄ると花弁はやや萎び始めていて、いいころ合いに来られたと胸をなでおろす。それにしても天気が良すぎるのか、気温が異常に高い。持参したウィンドブレーカの出番は最後までなかった。一時間弱で撮影を切り上げると、そのままR136を走り、高通山へ向かった。

 車が多かったのは下賀茂まで。その後は快調に飛ばし続け、三十分弱で登山口のある“雲見地区ふれあいパーク駐車場”に到着。さっそく出発準備にかかったが、はたして右膝は最後まで耐え続けられるのか。
 高通山は低山には違いないが、スタートから延々と階段が続き、しかも平らなところが殆どない急登の連続である。いきなりの高負荷は当然膝に厳しいが、同時に心臓も踊りだし息が荒くなる。鈍痛が早くも出てきて、こんな低山で!と、落胆。なるべく痛みを抑えるため、ペースを極端に落とし、特に右足を接地するときには優しく足の裏全体に体重をかけるよう集中した。
 中盤になると背中いっぱいが汗びしょになった。ただ、森の中なのにけっこう風が通っていて、フリースを脱げば今度は冷えすぎるはず。この辺のレイヤリングは難しい。
 頂上へ出ると案の定強い風が吹き荒れていた。ところがここも気温が高く、撮影中もウィンドブレーカーを着用することはなかった。楽しみにしていた富士山は、残念ながら雲に覆われていたが、広がる駿河湾と西伊豆の荒々しい海岸線は何度見てもいいものだ。
 一応予定どおりに下山までこぎつけ一安心。鈍い痛みは出ていても、酷くなった感じはなく、流れ的には快方へ向かっていると実感。明日の長九郎山もなんとかやれそうと、ホッとする。

「久々に行ってみるか」
 ホテルから歩いてすぐのところにある食事処“民芸茶房”は、これまでに何度も利用したことのある馴染みの店だが、夕飯時に訪れるのは十五年ぶりだ。
 なのに、
「ありゃ~、やってない」
 店内真っ暗。午後五時半でこれでは、臨時休業かもしれない。ここはそもそも定休日はなく、不定休となっていたので、たまたま当たってしまったのだ。刺身定食、食べたかったぁ~
 さて、猛烈な空腹にせかされ、急いでホテルへ戻ると、今度は車で仁科に向かった。歩いていけない距離でもないが、腹が減りすぎて脚に力が入らない。行先は大好きな“ぱぴよん”。この店の何の特徴もない、家庭で揚げたような豚カツが、実は旨い。ぱぴよんへ来たら、だいたい豚カツ定食か生姜焼き定食を注文する。

 翌日はホテルを七時過ぎに出発。昨日に引き続き、朝から青空が広がり、否応なしにテンションが上がった。
 R136から下田松崎線へ入り、しばらくして山へ向かって左折。延々6Kmほど曲がりくねった道を上がって行く。車止めが見えると左側が大きな駐車場になっていた。見回すと車はおろか人っ子一人いない。今日は貸し切りになりそうだ。
 ブーツに履き替え足踏みをする。調子は悪くない。宝蔵院へと上がる石段では多少の鈍痛が出たが、脚の運び方を工夫すれば、昨日より痛みは小さい。
 上りきると眼前に無数の苔むした石仏が並び、一気に写欲が湧きたった。一体一体の表情が無性に興味を引く。あとで調べると、ここは「伊豆横道三十三観音」の第七番霊場になっているとのこと。
 境内を抜けると、凛とした空気感のある森が待っていた。ちょっと奥多摩の鶏冠山のスタートに似ているところがあり、歩きやすく優しさを感じる森は好感度抜群。難しいこともなく、ひたすら歩くにはこの上ない。
 膝の具合はよく、なんだか気持ちが弾んでくる。
 小さなアップダウンを繰り返すと、新たな道標が見えてきた。
 <長九郎登山道・健脚コース>と記してあり、見上げると尾根に向かって道はいきなり急坂になっている。よっしゃぁ!と褌を締めなおしたが、歩き始めるとそれほどきつくない。やはりメンタルが上向きになっているからだ。
 三時間弱の行程を経て到着した長九郎山の山頂。傍らには頑丈そうな造りのスチール製鉄塔が十五年前を思い出させる。
 準備もろくにせず、なめてかかった低山での脱水症状。脚がどうにも重くなり、古い切り株へ腰かけて体力の回復を待とうと目をつむった。しばらくした時、ふと動物のうごめく気配を感じ、恐る恐る周囲を窺うと、突如谷側斜面から黒い物体が恐ろしいスピードで駆け上がってきたのだ。腰を抜かしたが、目線はそれを追っていた。正体は猪。まさに鼻先を通過し、山側斜面へと吸い込まれるように姿を消していったのだ。

 鉄塔からの眺めは言うことなしの百点満点。富士山の雄姿から始まり、伊豆の山々、南アルプス、大海原とダイナミックな光景が三六〇度から迫り、しばし見惚れた。これまでの疲れはすべて吹っ飛び、この二日間の素晴らしい締めとなった。右膝も大事に至らず、ホッとすると同時に、何とか今年も山歩きを楽しめそうだと思うと嬉しくて、昨今あまり耳にしない言葉を、富士山へ向かって思いっきり叫んでみたのだ。
「ヤッホォ~~~!!」

 腹がグーグーと鳴り響き、下山後はまっしぐらに仁科の“河津屋食堂”へと向かった。昨年末の恒例撮影会で、立ち寄った際に食したのが看板メニューの“肉丼”。こいつにやられた。ラーメンとのセットで千円(税込)はお値打ち感あり。個性的な若社長不在は残念だったが、女将さんが作ってくれた肉丼&ラーメンは変わらずの味わいで、箸が進んだ。どうもごちそうさん。

 逆療法、荒療治は、あながち間違いでもなさそうである。帰宅後、膝の動きに軽さが加味され、痛みも明らかに薄らいできたように感じる。これからは無理をせず、少しづつ様子を見ながらウォーキングの負荷を増していき、元の膝に戻れるよう努力したい。 

写真好きな中年男の独り言