バイク屋時代60 ハーレーダビッドソン三鷹

 でっこみ引っ込みはあるものの、ここ一~二年ほどは、ハーレー部門もBFも比較的安定した収益を上げていた。ただ、懸念事項である従業員の定着度に関しては相変わらず不安定さが残り、営業もメカも優秀なスタッフの離職が相次ぎ、先々への不安は隠せない。そんな中、極めて厄介な問題が持ち上がった。HDJから契約更改に関して、思ってもみなかった条件を突き付けられたのだ。対象店舗はHD調布とHD東村山の二店。両店ともにHDJが求める店舗基準に達していないとのことで、準じた店舗を新たに用意しなければ契約更改はできないと一方的に言ってきたのだ。開いた口が塞がらないとはこのこと。脅し以外の何物でもなく、これではなんらやくざと変わらない。

「ふざけんじゃないよぉ、まったく」
 温厚な大崎社長もついつい言葉を荒げる。そもそもHDJが主張する基準とやらが、あまりにも現実とかけ離れていたのだ。結論から言えば、ショールーム並びに工場の基準をクリヤするには、現行の店舗では面積がまったく足りず、物理的に不可能。つまり、新たな店を作るしかない。しかも基準に準じれば一般的なカーディーラー並みの規模になる。果たして近郊に該当する物件があるかどうかの見当もつかない。仮に見つかったとしても開業までにどれほどの資金がかかるかと、考えるだけで暗澹となる。しかし、従わなければ正規ディーラーを下ろされ、事実上会社はTHE END。

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「また借り入れが圧迫してくるな。最低でも3000万以上は必要だろう」
「でも仕方がないじゃないですか。それより早く物件を見つけないと」
 半年ほど前から、大崎社長の長女である山口信代が、下山専務の後釜としてモト・ギャルソン総務部で勤務していた。それまで勤めていた大手信販会社での経験と実績を買われたことと、下山専務も、自身の年齢と持病のことを考えていたのだろう、引退を仄めかし始めていた。
 信代が資金の管理をし始めると、徐々にだが財務状況が上向いてきた。就任後から徹底的な節約を推進し、HDJに対してもこれまでのような過度な忖度を改め、常に自社の財務状況と照らし合わせた上での仕入れ計画を推し進めるよう、大崎社長へ強く求めていた。この方針変更によって、仕入担当の武井くんとは絶えず水面下で火花を散らすことになった。

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「近隣でカーディーラー並みのテナントか…」
「そんなおあつらえ向き、あるんですかね」
 金がかかる云々の前に、新店舗の候補物件を探すことが早急の課題だった。
 
 と、ある日。
 チャプターメンバーのQさんが、12ヵ月点検が完了した愛車FLHRを受け取りに来ていた。
「先週は車の車検だったし、出費が連チャンしてきついよ」
「なに乗ってんです?」
「ジープ」
「東八のレクサスのはす向かいですか?」
「そうそう。でもね、近々に引っ越すらしいよ。マックの先の角だって」
 この会話を何気に聞いていた大崎社長が反応した。
「Qさん、ジープのディーラーの電話番号、今わかります?」
「ええ、わかりますけど」
 ここから大崎社長の怒涛の攻撃が始まった。 
 すぐにジープへ馳せ参じると、引っ越しのスケジュールを聞き、オーナーと賃貸についての話をしたい旨を伝えた。ここを借りることができれば、それこそドンピシャのおあつらえ向きだ。
 数日後にオーナーと会って詳しい話を聞くことができ、他にも賃貸希望が一件あるものの、現時点では具体的な契約までは進んでないとのこと。これ以上の物件はないと即断した社長は、
「ぜひうちで借りたいのですが、よろしくお願いします」
 仮契約へと持ち込むことができたのだ。

 店舗経費については、HD調布とHD東村山二店分とほぼ同額と試算した。つまりはスタートさせた暁には、二店分以上の売上が必須となる。いずれにしても新店舗計画をスタートさせなければ会社の明日はない。ただ、今回の騒動はいい機会でもあった。期日ははっきりしていなかったが、HD調布は貸主である共進倉庫から明け渡しを通告されていたのだ。HD調布の店舗が入る本社倉庫の大半を、スポーツ施設のゼビオに改装するとのことだ。HD東村山も店舗の老朽化で、大幅な加修が必要とされていた。

ハーレーダビッドソン三鷹 スタッフ

「第一段階としてはHD三鷹を無事にオープンさせること。同時に調布は中古ハーレーの専門店とし、東村山はオーナーさんへ返す」
「でも、いずれは調布も返さなきゃならないですよね」
「そう。だから中古車店の引っ越し先も頭に入れとかなきゃ」
 さきほどから信代の表情がきつくなっている。
「社長、三鷹から始まって中古車店まで、どれだけ費用がかかるんですか?」
「いっぱい」
「いっぱいじゃないですよ、もう… 七~八千万はいくんじゃないですか」
「そこまではどうかな」
「銀行の方は大丈夫なの?」
 金庫番としては心配事が大きすぎる。信代の尽力でだいぶ借金が減ってきた矢先だけに、このタイミングでまた多額の借り入れが発生するというのだから穏やかではいられない。
「なんとかなりますよ」
 大崎社長は六十八歳を迎えていたが、老齢とはいえバイタリティーは健全で、ビジネスへ対する積極的な姿勢は相も変わらずだった。ただ、かなり以前から「七十歳になったら引退する」と周囲に漏らしていたこともあり、HD三鷹は責任を以って準備するが、運営に関しては基本的に関与しないと全体会議で公言した。HD三鷹は新体制のリーダーであり、専務取締役に昇進した武井くんにまかせて、社長自身は高収益化を目指すハーレーの中古車専門店で指揮を執るとのこと。そしてこの大改革のあおりを受けて、ついにドゥカティ部門の存続はジャッジにかけられることになる。
 日本国内におけるドゥカティビジネスは縮小均衡になりつつあり、ご多分に漏れず桜上水のドゥカティ店も、収益ラインを維持するのが精いっぱいという状態が続いていた。

ドゥカティ 最新型のパニガーレ―とスクランブラー

「木代くん、ちょっと相談があるんだけど」
 大崎社長の“ちょっと相談”に、いいことのあったためしはない。
「BFでね、海藤くんと広田くんの面倒を見てくれないかな」
 海藤はHD調布のメカ、広田はHD東村山のメカである。HD三鷹は調布と東村山の合体なのだが、なぜか三鷹のメカニックメンバーに二人の名前は載っていない。
 HD三鷹は武井くんを長とした若いメンバーで構成した。その際重視したことがコミュニケーションと意思の疎通である。海藤と広田は共にキャリアが長く、メカとしてのスキルは十分なものを持っていたが、一匹狼的な行動が多く、これまでにも独断による周囲との摩擦が幾度も起きていて、これを懸念した武井くん、店長の阿木、工場長の麻生は、彼ら二人を三鷹メンバーから外した。
 つまりのこと二人は浮いてしまったのだ。個別に見ると仕事はできるし積極性も感じられるが、組織に放り込むと例外なく問題を起こし、汚点を残してきた。
「えっ!あの二人をBFのメカとして使うんですか?!」
「いいじゃない、BFもこれで社員三名体制ですよ。中古車をこれまでの倍売るんで、彼らの力が必要です」
「そりゃわかりますけど…」
 これまでBFは俺一人だったから、自由気ままにやってきた。しかしこれからは二名の部下を管理しなければならないし、おまけに海藤と広田である。せっかく黒字経営までこぎつけたのに、これからは二人分の給料を確保したうえで利益を上げなければならない。
 どうなることやら…

Future Train 未来列車 Vol.5

 二月二十二日(日)。年に一度のアマチュアダンスイベント【Future Train 未来列車 Vol.5】へ行ってきた。会場は先々回と同じで、武蔵小杉駅より徒歩数分の中原市民館である。

 女房が所属するフラチーム“レアフ アーヒヒ”は第二回から連続して参加している常連組。イベント自体は今回が五回目となる。いつも通りにカメラマンとして出向いたが、持参した機材はもちろんα7Ⅲ+Vario-Tessar T* FE 24-70mm F4 ZA OSS。いろいろな撮影条件で試したかったのでちょうどいい機会である。
 場所取りはうまくいき、最前列の中央やや左をゲット。右隣は同じチームで仲のいいYさんのご主人。
「どうですか、RAV4は」
「ジムニーからだから、でかくてまだ慣れないですよ」
 Yご夫婦はSUVがお好きである。

 開催の前に壇上からスタッフの挨拶があったので、フレーミングや露出のあんばいを見るために何枚か試し撮りを行った。案の定、最前列でもテレ端70mmはやや役不足。先回はD600にSIGMA24-105mmの組み合わせだったのでアップにも余裕があったのだ。そして読み込み時間の遅さはやはり気になるところである。はたしてSDカードのランクアップで解決できるのだろうか。
 それはさておき、今回はステージ演出で初っ端から軽いスモークを張っていたので、スポットライトとの絡みからライブ感がよく出て、光とダンサーの組み合わせに奮闘できて楽しかった。
 鑑賞したのは十チームほどだが、皆しっかりと練習を積んできていて感心させられる。振り付けや演出等々、見ごたえのあるチームもけっこうあった。
 頑張れレアフ アーヒヒ!

季節の呼吸

 春はもう目の前である。近所を流れる玉川上水沿いに、一本だけ立つ河津桜が今年も開花を始めた。自宅の門の前に咲く彼岸花もそうだが、植物は毎年狂うことなく季節を察知し、美しくも力強い開花を見せてくれる。この静かな力と沈黙の世界の神秘は、自然がもたらす究極の恵みではなかろうか。
 もう少しすると桜、ハナミズキ、そして紫陽花と続き、森が眩い新緑の時期を迎えれば、山々には高山植物が一斉に顔を出し、「山へ来いよ!」と言ってくる。
 私はこの“季節の呼吸”がたまらなく好きだ。

バイク屋時代59 いろいろありました~

 思い返せば、ビッグツーリングではいろいろな事件が起きたものだ。我々スタッフの接客サービス業従事者としての自覚が足りなかったことは否めないが、スタッフもお客さんも怖さの知らない若者だったことが、様々なトラブルに繋がっていたように思い出される。

 メカの柳井は方向音痴だ。おまけに道が覚えられないときている。だからツーリングイベントで先頭を走ったことは一度もない。いつぞやのビッグツーリングでコンビを組むことになったときは、ケツ持ちくらいならやれるだろうと、それほど気にも留めなかった。
「コースは頭に入ってんだろ?」
「ついていきます」
「はっ??」

 ビッグツーリング前には必ずスタッフ全員で下見を行う。当然ながらコースの状態を各自で確認し、頭に叩き込むためである。もちろん柳井も参加したが、方向音痴を自覚しているにも関わらず、道を覚えてやろうという気概がほとんど伝わってこなかった。
「いやいや、ついていきますじゃなくて、覚えなきゃ」
「覚えられないんです」

 本番は朝から絶好のツーリング日和。中央道経由で伊豆に入り、下田のセントラルホテルで一泊というスケジュールだ。初日は山中湖から日本ランド経由で、三島、修善寺と巡る。
 日本ランドを通過し、あと少しでR246に出るというところで、うしろがついてこないのに気がついた。信号のタイミングで間が開くことはよくあるので、十台ほどのお客さんと路肩に駐車して待つことにした。一応携帯電話を呼び出したが、走っていれば出られない。
 十分ほどするとはぐれた集団が追いついてきたのでひと安心したが、先頭が柳井ではなく、GSX-R250のK子さんなのだ。はぐれた時は先頭になってお客さんを引っ張らなければならないのに、なんと柳井は最後尾。
 違和感を覚えつつも、全員そろっていることを確認し、ふたたび走り出した。
 ランチは大仁の和食屋でとったが、食事が終わって出発準備をしていると、さきほどのK子さんが近づいてきて、
「柳井さん、ほんとひどいですよ」
 口をへの字に曲げ、横目で柳井を睨みながらいきさつを話し始めた。
 信号で先に行かれたのはしょうがない。しかし追いつくまではスタッフが責任を以って引っ張っていくのは当たり前。それを柳井に言ったら、
「道がよくわからないから」
 平然と言ったまま動こうともしない。
「なんですかそれ。わかりました、もういいです」
 呆れかえったK子さんは、信号が青に変わると同時に先頭を切って走り出し、他のお客さんもそれに続いたという流れだそうだ。
「ほんとうに申し訳ない。あとできちっと言って聞かせるんで」
 いったん事は丸めたが、なんとこの後、思いもよらない光景に驚くことになった。

 出発後は、サイクルスポーツセンター経由で一旦修善寺へ出て、冷川ICから伊豆スカへ乗るという流れ。出発ミーティングで再三釘を刺したので、半ば安心して出発した。ところが、間違いやすいポイントでもあるのから、サイクルスポーツセンター脇から熱海大仁線へ出る交差点で後続を待っていたのだが、待てど暮らせど現れない。トラック隊の矢倉さんにも連絡を入れ、頻繁に柳井の携帯を呼び出すようお願いしたが、何度かけても繋がらないという。
「あとは柳井にまかせたんで!」
 と伝え、出発した。
 予定通り冷川から伊豆スカに乗ると、ものの数分で長い直線に出る。その時、目を疑った。な、なんと、柳井を先頭に数台のバイクが“前方”から向かってくるではないか。
「なんでケツ持ちとすれ違うんだよぉぉぉ!!」
 後で顛末を聞くと、サイクルスポーツセンターへ向かう途中、赤信号に引っ掛かった後、そのまま直進して亀石ICから伊豆スカへ乗ったというのだ。そしていつまでたっても追いつかないので、途中でUターンしたということなのだ。今度はちゃんとお客さんを従え、先導してきたからまだいいが、出発ミーティングの際には念を押すようにコースポイントの説明を行っているのだ。いくら覚えられないと言っても、このていたらくには唖然とした。

 こんなこともあった。
 ビッグツーリングは春は五月、秋は十月に開催する。世のツーリング好きライダーたちがこぞって動き出すベストシーズンである。よって週末ともなれば、早朝から主要高速道路の都心側SAはどこもバイクだらけだし、高速道を走れば、グループでツーリングする集団の一つや二つは必ず目にする。

「出発ミーティングやりま~す、集まってくださぁ~い」
 東名高速の海老名SAである。ガソリンスタンド手前のゼブラゾーンには、Aグループ、Bグループ、そして俺が担当するCグループが集合していた。今回の参加者は百名を超えていたので、初心者グループとオフロードグループは、東京インター入口のマクドナルドに集まっていた。
「皆さん、ガソリンは満タンにしてありますよね。全員満タンを基準にして給油ポイントを決めますから、もしまだの方がいたら至急給油ねがいます。ここを出発したら次の休憩場所は足柄SAです。いいですね、覚えてくださいね。もしも寄らずに通過してしまった場合は、沼津ICで待っててください」
 これだけ念を押しても、はみ出す人がいるので、高速道路はフリー走行にして、スタッフ二人は最後尾からという形が定着していた。途中で何かトラブルが起きた場合、対処を行えるのはケツ持ち一人になってしまうからだ。
「それでは出発しま~す。しつこいようですが、次の休憩ポイントは足柄SAですからね~」
 全員が走り出たことを確認し、俺とケツ持ちの松本くんも走り出した。空は晴れ渡り風もない。この上ないコンディションに、今日はツーリングライダーがとりわけ多く感じた。
 後方から確認すると、うちのお客さんは二~三台ないしソロで流しているようだ。時々様子をうかがいながら追い越し車線へ出ては遅い車をパスしている。この追い越しに関してもアドバイスは行っている。集団心理とでもいうのか、みんなで走るとソロの時と比べて集中力が低下する傾向がある。車線変更の際、後方確認をせずに前の車両につられて行ってしまうのだ。

 N美さんの後ろ姿が目に入った。彼女は納車からひと月ほどしか経ってないピッカピカの初心者で、愛車はヤマハのSRV250。XV250ビラーゴのエンジンを搭載したライトウエイトモデルで、軽快なハンドリングに癖はなく、おまけに省燃費ときてるから、初心者や小柄な女性にはおすすめしているモデルだ。
 頑張って走っているN美さんの前を行く二台が、右にウィンカーを出して追い越し車線へと入っていく。そこまでは何ら意識することはなかったが、続くようにN美さんも右車線へと入っていったのだ。嫌な予感がした。もしかすると先行の二台が同じグループのメンバーと思っているのでは…
 あと数キロで足柄SA、最初の休憩ポイントだ。先行の二台は速度の遅いトラックを抜くと再び左へウィンカーを出して走行車線へ戻った。ここでまたついていったら仲間だと勘違いしている可能性がある。予感は当たり、N美さんは再び二台の後ろへついた。これはまずいと、俺もトラックを追い越してN美さんの左側に付け、大きく手を振って彼女を誘導しようと試みた。
 俺だということは分かってくれたようだが、なにを訴えているのか分からないそぶりである。ちょっと前へ出て俺について来いというような、おいでおいでのジェスチャーを繰り返すと、やっと左手でOKのサインを出してくれた。そう、やはり彼女は先行の二台をビッグツーリングの参加者と勘違いしていたのだ。そりゃそうだ。昨今のライダーは、アライかSHOEIのヘルメット、上着はGWスポーツのライディングジャケット、下は黒色のレザーパンツと相場が決まっていた。こんななりをしたライダーが高速道路上にうじゃうじゃいるのだから間違いは起きる。あのままついていったらとんでもないことになっただろう。

 おまけにこのときもう一件トラブルが起きていた。N美さんを従えて最後尾を走っていると、前方の路肩に二台のバイクが停まっている。近づくとヤマハR1Zの大田くんとスタッフの松本くんだ。二人ともヘルメットをかぶり直し、出発するようだったのでスルーしたが、あとから話を聞くと、大田くんが徐々に速度を落とし、ついには止まってしまったので、松本くんも路肩に寄せて状況を聞くと、なんとガス欠。出発ミーティングの際に、満タンにしたかどうか確認したのにだ。
「なんで満タンにしてなかったの?!」
「二週間前に満タンにしたから大丈夫だと思ったんです」
 大田くんも初心者。初心者ってのは、通常では考えられない判断基準を持ってるから怖い。松本くんがガソリンコックをリザーブにすると、あっけなくエンジンがかかり、ギリギリだったがなんとか足柄SAまでたどり着けたという顛末だ。
 今日からの二日間、まったく気が抜けない。

瀬音の湯・大多摩湯めぐり

「温泉巡りは七月までだよ」
 “大多摩湯めぐりスタンプラリー”のことだ。先回も「まだ半年近くあるよ」なんて油断してたら、あっという間に期限がやってきた。いやはや、月日の流れってのは早いものだ。
「じゃ行くか」
「こんどはどこ?」
「瀬音の湯かな」
 最初は数馬の湯、次はもえぎの湯ときていた。

 寒い時期は体を温めることが健康維持の基本。たとえノンアルでも、ギンギンに冷やしたのを晩酌にやると夜間頻尿が悪化する。対照的に燗酒やお湯割りの方が体が温まってぐっすりと眠れ、夜中に尿意を覚える回数は少なくなる。そもそも夜間頻尿は病気。症状が頻発するとわかっていることは避けなければならない。膝や股関節の痛みも含めて、歳を取ると次から次へとトラブルが出てきて厄介この上ない。

 二月十三日(金)。瀬音の湯は三年ぶりになる。今回も駐車場は七割がた埋まっていて、人気のほどがうかがえた。内湯は明るく広々としているが、露天風呂からは秋川と背後の山々が見渡せ、さらに開放感がアップする。
 風呂から上がって脱衣所で着替えていると、
「ここのお湯は温まりますね~」
 七十代後半と思しき小柄な男性が話しかけてきた。
 おっしゃるとおり。お湯の温度はそれほど高くなかったのに、拭っても拭っても汗が噴き出てくる。
「ほんとですね、体の芯からポッカポカですよ」
 ランチの時にその話を女房にしたら、
「すっごい汗かいた」
 瀬音の湯は体の芯から温める効果が高いのだろう、汗かきではないうちの女房が言うのだから間違いない。
 さて、女房は“青梅産タレカツ丼”、私は“ひのはら舞茸天蕎麦(冷)”。どちらもたいへん美味しくいただけた。

写真好きな中年男の独り言