モト・ギャルソンに入社して以来、三十年という長い間、ひたすら店の責任者として収益を確保、お客さんには満足のいくバイクライフを提供できるよう常に努力してきた。それに俺はバイクが大好きだから、様々なツーリングイベントでお客さんと共に走り、時には酒を酌み交わしながらのバイク談議はとても楽しく、ついつい仕事だということを忘れてしまった。だから、なんていい会社に入ったもんだと心底感じていたし、同時にやりがいも大きかった。 そんな職務の毎日が、BF勤務となった途端、顧客関係が大きく様変わった。特にツーリングを通じてお客さんと接する機会がなくなったことは、俺にとって就労意義を喪失したに等しい一大事であり、正直なところ気落ちした。ただ、個人的なことも含め、バイクライディングについては還暦を待たずして卒業を決めていた。ワインディングが好きという、ただそれだけの理由でバイクを乗り続けてきわけだが、加齢の影響により、徐々に動的視力が落ちてきたことを自覚、最後に走ったスポーツランド那須では、下車後に“目が回る”という摩訶不思議な症状に当惑した。これが潮時だと結論付け、きっぱりバイクライフの幕を閉じたのだ。 バイクは二十代のころからずっと乗り続けてきたので、「もうおなか一杯だ!」と自分に言い聞かせ、バイクは乗って楽しむものから、生活するためのビジネス商材へと見方を切り替えた。だからBF勤務はタイミング的にも合っていたかもしれない。すべて自分のコントロール下において、仕入れ、販売準備、利益構築と駒を進める醍醐味は、お客さんと共に歩んだバイクライフに匹敵、いや、それ以上と感じ始めたのだ。 BFのスタッフは俺一人。同僚や部下のいない環境ってのは初めてのこと。なにからなにまで自分でやらなければならないが、軋轢がないし、人間関係で悩むこともないので意外や楽しい。しかもモト・ギャルソンから仕入れる中古車は、社長の意向で最低限の利益しかのせてないから、売れさえすれば儲かり充実感も覚える。
先日もHD東村山で、下取車がヤマハ・セロー250になる商談が入り、お客さんの欲しいモデルが入荷数が少なく、近隣のディーラーにも在庫ならびに入荷予定もない車体色のXL1200Xだったので、営業マンも強気に出たわけだ。ただ、下取り価格をあまり低く提示してしまうと、バイク王などの買取り業者へ持っていかれる危険があるので、すぐにオークション相場を調べ、ころ合いの価格をアドバイスしたのだ。商談は成約し、おまけにオークション相場より二割強ほど低い価格で下取れたのだ。セロー250は人気車種なので、グーバイクへアップするとその日のうちに見積もり依頼が入り、こちらも数日後にはめでたく成約である。 「木代くん」 「なんですか」 「十中八九、今期のBFは黒字転換になりそうだ。何年ぶりだろう」 わずかな利益だろうけど、嬉しいことに変わりはない。それより、webを駆使した無店舗商売の可能性を証明できたことの方が俺にとっては大きかった。
この頃、下取車が入るハーレーの商談には、面白い傾向が二つほど見られた。 ひとつは、憧れで手に入れたスーパースポーツだったが、実際の乗ってみると、あまりのパフォーマンスの高さに持て余し気味になり、期待していたほどの満足を得られないと言った声。ZZR1400、GSX-R1000、YZF-R1、パニガーレが、ほとんど似たような理由でハーレー購入の際の下取り車として入ってきたのだ。どれも市場では人気車だったので、全車一か月以内に商談成約となった。特にカワサキ・ZZR1400は、スズキのGSX1300R隼と並んで超のつく人気車。オークションではとてもじゃないが高くて買えない。昨今レーサーレプリカの人気はかなり落ち込んでいたが、両車のカテゴリーであるロングツアラーは根強い人気が長く続いており、キャブレター仕様のホンダ・CBR1100XXでさえ高値で取引されていた。 もうひとつも興味深い。 若いころからのバイク仲間たちも歳を重ねるうちに、動力性能重視のスポーツモデルから、ツーリングユースで楽な国産ネイキッド、BMW、はたまたハーレーへと乗り換えが続いたのだ。 「いや~、全然楽」 「ツーリングの疲れ方が半分だね」 周囲からそんな言葉が聞こえてくると、やはり考え出すのだろう。KTMの排気量が1000ccもあるスーパーモタードから、BFでドゥカティのディアベルへと代替えしていただいたお客さんが、その後、上記のような流れがさらに加速し、ついにはハーレーに興味を持つようになり、一番親しい仲間の方が、他ディーラーだが、ハーレーFXDL・ローライダーを購入したのだ。
「ぜったい買い替えた方がいいよ」 と、強く押されようで、うちでディアベル下取りに出して、同じFXDLを購入してくれたのだ。同様なパターンがその後も二件あり、バイクライダーの高齢化による売れ筋の変化が窺えた。 性能重視でストイックなモデルは、バイク好きなら一度は憧れるもの。まして三十代、四十代なら、その魅力を全身で感じながら、箱根や伊豆で丸一日遊べるだろうが、これが五十代を迎えるころになると、余りある高性能と、攻撃的なライディングポジションが次第に負担になってくるのだ。そんなタイミングでハーレーに試乗してみれば、それまで眼中になかったジャンルのバイクが、びっくりするほどフィットすることに気がつく。食わず嫌いとはこのことだ。 「木代さん、ローライダー正解だったよ」 「そりゃよかったです」
カワサキZXR750は最高の相棒だった。こいつを駆って伊豆へ出かけるのは、日常のすべてを忘れるほどの楽しみであり、特に峠で一体感を覚えた時の快感は病みつきになる。尾根に沿って延々と伸びる伊豆スカは、音の反響が小さいから、USヨシムラの咆哮は混じりっ気のないストレートなサウンドを奏で、否応なしにスロットルは開くのだった。よって国産バイクを売っていた頃は、毎度のビッグツーリングに、メーカーからの試乗車貸与がなければZXR750を使っていた。それがビューエルの正規ディーラーになってからは、当然ながらS1W、X1を乗っていくことになり、アップライトなバイクのツーリングにおける優位さが体を以ってわかるようになってきたのだ。峠のみで使うのだったらZXR750は十分な満足を与えてくれるが、多くのお客さんを従えてのツーリングとなれば話は別になる。 ドゥカティを扱うようになると、イベントの脚はもっぱらポジションの楽なモンスターをチョイスし、挙句の果てには、エンジンパワーもおとなしく、アップライトなポジションが際立つGT1000が定番のイベント用バイクになった。よくお客さんに言われた。
「店長、今度のビッグツーリングはスーパーバイクに乗ってきてくださいよ」 「いやいや勘弁、いじめないでよ」 歳を取ってくると間違いなくこうなる。 それぞれに好みはあるだろうが、俺の思うに、やはりバイクっていう乗り物は、軽くて取り回しが楽で、かつ峠道でもスポーツモデルと同等かそれ以上に走れる性能を有して欲しいもの。 1991年とずいぶん昔のことになるが、ビッグツーリングが間近に控えていたある日、 「店長、ヤマハから電話入ってます」 ツーリングに使う試乗車を依頼していたので、その返事だろう。 「はい毎度、木代です」 「お世話さま。面白い試乗車がありますよ」 「なに?」 「アルテシアです。ぜひ乗ってみてください」
ヤマハ アルテシアとカワサキ KLE400
SRX400のエンジンを搭載したデュアルパーパスモデルだ。一年先に出ていた欧州向けXT600Eの日本版である。まだまだレプリカ人気が衰えてない時代なのに、カワサキもKLE400を発売して好調だったから、何気にそのジャンルが気になっていた。しかもカワサキがそのKLE400を同じく試乗車として出してくれたので、面白い比較もできそうである。 結果は目からうろこ。なんと、楽、面白い、速いの三拍子が揃っていたのだ。そもそもアルテシアは車体の基本ジメオトリがオフ車なので、サスペンションストロークが長くて乗り心地がいい。しかもSRX譲りのエンジン性能は、立ち上がりなどで後続を離すことなど容易い。サスペンションもよく動くから、コーナー時のトラクションを確認しやすく、安心してバンクできるのだ。
ちなみに、2007年にヤマハから発売になったWR250Xは、モタードというジャンルを確立し、まさに操って楽しいバイクの最右翼。250ccというキャパではあるが、躍動感あふれるエンジンパフォーマンスは、ツーリングユースでも十分な満足を得られるだろう。