バイク屋時代59 いろいろありました~

 思い返せば、ビッグツーリングではいろいろな事件が起きたものだ。我々スタッフの接客サービス業従事者としての自覚が足りなかったことは否めないが、スタッフもお客さんも怖さの知らない若者だったことが、様々なトラブルに繋がっていたように思い出される。

 メカの柳井は方向音痴だ。おまけに道が覚えられないときている。だからツーリングイベントで先頭を走ったことは一度もない。いつぞやのビッグツーリングでコンビを組むことになったときは、ケツ持ちくらいならやれるだろうと、それほど気にも留めなかった。
「コースは頭に入ってんだろ?」
「ついていきます」
「はっ??」

 ビッグツーリング前には必ずスタッフ全員で下見を行う。当然ながらコースの状態を各自で確認し、頭に叩き込むためである。もちろん柳井も参加したが、方向音痴を自覚しているにも関わらず、道を覚えてやろうという気概がほとんど伝わってこなかった。
「いやいや、ついていきますじゃなくて、覚えなきゃ」
「覚えられないんです」

 本番は朝から絶好のツーリング日和。中央道経由で伊豆に入り、下田のセントラルホテルで一泊というスケジュールだ。初日は山中湖から日本ランド経由で、三島、修善寺と巡る。
 日本ランドを通過し、あと少しでR246に出るというところで、うしろがついてこないのに気がついた。信号のタイミングで間が開くことはよくあるので、十台ほどのお客さんと路肩に駐車して待つことにした。一応携帯電話を呼び出したが、走っていれば出られない。
 十分ほどするとはぐれた集団が追いついてきたのでひと安心したが、先頭が柳井ではなく、GSX-R250のK子さんなのだ。はぐれた時は先頭になってお客さんを引っ張らなければならないのに、なんと柳井は最後尾。
 違和感を覚えつつも、全員そろっていることを確認し、ふたたび走り出した。
 ランチは大仁の和食屋でとったが、食事が終わって出発準備をしていると、さきほどのK子さんが近づいてきて、
「柳井さん、ほんとひどいですよ」
 口をへの字に曲げ、横目で柳井を睨みながらいきさつを話し始めた。
 信号で先に行かれたのはしょうがない。しかし追いつくまではスタッフが責任を以って引っ張っていくのは当たり前。それを柳井に言ったら、
「道がよくわからないから」
 平然と言ったまま動こうともしない。
「なんですかそれ。わかりました、もういいです」
 呆れかえったK子さんは、信号が青に変わると同時に先頭を切って走り出し、他のお客さんもそれに続いたという流れだそうだ。
「ほんとうに申し訳ない。あとできちっと言って聞かせるんで」
 いったん事は丸めたが、なんとこの後、思いもよらない光景に驚くことになった。

 出発後は、サイクルスポーツセンター経由で一旦修善寺へ出て、冷川ICから伊豆スカへ乗るという流れ。出発ミーティングで再三釘を刺したので、半ば安心して出発した。ところが、間違いやすいポイントでもあるのから、サイクルスポーツセンター脇から熱海大仁線へ出る交差点で後続を待っていたのだが、待てど暮らせど現れない。トラック隊の矢倉さんにも連絡を入れ、頻繁に柳井の携帯を呼び出すようお願いしたが、何度かけても繋がらないという。
「あとは柳井にまかせたんで!」
 と伝え、出発した。
 予定通り冷川から伊豆スカに乗ると、ものの数分で長い直線に出る。その時、目を疑った。な、なんと、柳井を先頭に数台のバイクが“前方”から向かってくるではないか。
「なんでケツ持ちとすれ違うんだよぉぉぉ!!」
 後で顛末を聞くと、サイクルスポーツセンターへ向かう途中、赤信号に引っ掛かった後、そのまま直進して亀石ICから伊豆スカへ乗ったというのだ。そしていつまでたっても追いつかないので、途中でUターンしたということなのだ。今度はちゃんとお客さんを従え、先導してきたからまだいいが、出発ミーティングの際には念を押すようにコースポイントの説明を行っているのだ。いくら覚えられないと言っても、このていたらくには唖然とした。

 こんなこともあった。
 ビッグツーリングは春は五月、秋は十月に開催する。世のツーリング好きライダーたちがこぞって動き出すベストシーズンである。よって週末ともなれば、早朝から主要高速道路の都心側SAはどこもバイクだらけだし、高速道を走れば、グループでツーリングする集団の一つや二つは必ず目にする。

「出発ミーティングやりま~す、集まってくださぁ~い」
 東名高速の海老名SAである。ガソリンスタンド手前のゼブラゾーンには、Aグループ、Bグループ、そして俺が担当するCグループが集合していた。今回の参加者は百名を超えていたので、初心者グループとオフロードグループは、東京インター入口のマクドナルドに集まっていた。
「皆さん、ガソリンは満タンにしてありますよね。全員満タンを基準にして給油ポイントを決めますから、もしまだの方がいたら至急給油ねがいます。ここを出発したら次の休憩場所は足柄SAです。いいですね、覚えてくださいね。もしも寄らずに通過してしまった場合は、沼津ICで待っててください」
 これだけ念を押しても、はみ出す人がいるので、高速道路はフリー走行にして、スタッフ二人は最後尾からという形が定着していた。途中で何かトラブルが起きた場合、対処を行えるのはケツ持ち一人になってしまうからだ。
「それでは出発しま~す。しつこいようですが、次の休憩ポイントは足柄SAですからね~」
 全員が走り出たことを確認し、俺とケツ持ちの松本くんも走り出した。空は晴れ渡り風もない。この上ないコンディションに、今日はツーリングライダーがとりわけ多く感じた。
 後方から確認すると、うちのお客さんは二~三台ないしソロで流しているようだ。時々様子をうかがいながら追い越し車線へ出ては遅い車をパスしている。この追い越しに関してもアドバイスは行っている。集団心理とでもいうのか、みんなで走るとソロの時と比べて集中力が低下する傾向がある。車線変更の際、後方確認をせずに前の車両につられて行ってしまうのだ。

 N美さんの後ろ姿が目に入った。彼女は納車からひと月ほどしか経ってないピッカピカの初心者で、愛車はヤマハのSRV250。XV250ビラーゴのエンジンを搭載したライトウエイトモデルで、軽快なハンドリングに癖はなく、おまけに省燃費ときてるから、初心者や小柄な女性にはおすすめしているモデルだ。
 頑張って走っているN美さんの前を行く二台が、右にウィンカーを出して追い越し車線へと入っていく。そこまでは何ら意識することはなかったが、続くようにN美さんも右車線へと入っていったのだ。嫌な予感がした。もしかすると先行の二台が同じグループのメンバーと思っているのでは…
 あと数キロで足柄SA、最初の休憩ポイントだ。先行の二台は速度の遅いトラックを抜くと再び左へウィンカーを出して走行車線へ戻った。ここでまたついていったら仲間だと勘違いしている可能性がある。予感は当たり、N美さんは再び二台の後ろへついた。これはまずいと、俺もトラックを追い越してN美さんの左側に付け、大きく手を振って彼女を誘導しようと試みた。
 俺だということは分かってくれたようだが、なにを訴えているのか分からないそぶりである。ちょっと前へ出て俺について来いというような、おいでおいでのジェスチャーを繰り返すと、やっと左手でOKのサインを出してくれた。そう、やはり彼女は先行の二台をビッグツーリングの参加者と勘違いしていたのだ。そりゃそうだ。昨今のライダーは、アライかSHOEIのヘルメット、上着はGWスポーツのライディングジャケット、下は黒色のレザーパンツと相場が決まっていた。こんななりをしたライダーが高速道路上にうじゃうじゃいるのだから間違いは起きる。あのままついていったらとんでもないことになっただろう。

 おまけにこのときもう一件トラブルが起きていた。N美さんを従えて最後尾を走っていると、前方の路肩に二台のバイクが停まっている。近づくとヤマハR1Zの大田くんとスタッフの松本くんだ。二人ともヘルメットをかぶり直し、出発するようだったのでスルーしたが、あとから話を聞くと、大田くんが徐々に速度を落とし、ついには止まってしまったので、松本くんも路肩に寄せて状況を聞くと、なんとガス欠。出発ミーティングの際に、満タンにしたかどうか確認したのにだ。
「なんで満タンにしてなかったの?!」
「二週間前に満タンにしたから大丈夫だと思ったんです」
 大田くんも初心者。初心者ってのは、通常では考えられない判断基準を持ってるから怖い。松本くんがガソリンコックをリザーブにすると、あっけなくエンジンがかかり、ギリギリだったがなんとか足柄SAまでたどり着けたという顛末だ。
 今日からの二日間、まったく気が抜けない。

瀬音の湯・大多摩湯めぐり

「温泉巡りは七月までだよ」
 “大多摩湯めぐりスタンプラリー”のことだ。先回も「まだ半年近くあるよ」なんて油断してたら、あっという間に期限がやってきた。いやはや、月日の流れってのは早いものだ。
「じゃ行くか」
「こんどはどこ?」
「瀬音の湯かな」
 最初は数馬の湯、次はもえぎの湯ときていた。

 寒い時期は体を温めることが健康維持の基本。たとえノンアルでも、ギンギンに冷やしたのを晩酌にやると夜間頻尿が悪化する。対照的に燗酒やお湯割りの方が体が温まってぐっすりと眠れ、夜中に尿意を覚える回数は少なくなる。そもそも夜間頻尿は病気。症状が頻発するとわかっていることは避けなければならない。膝や股関節の痛みも含めて、歳を取ると次から次へとトラブルが出てきて厄介この上ない。

 二月十三日(金)。瀬音の湯は三年ぶりになる。今回も駐車場は七割がた埋まっていて、人気のほどがうかがえた。内湯は明るく広々としているが、露天風呂からは秋川と背後の山々が見渡せ、さらに開放感がアップする。
 風呂から上がって脱衣所で着替えていると、
「ここのお湯は温まりますね~」
 七十代後半と思しき小柄な男性が話しかけてきた。
 おっしゃるとおり。お湯の温度はそれほど高くなかったのに、拭っても拭っても汗が噴き出てくる。
「ほんとですね、体の芯からポッカポカですよ」
 ランチの時にその話を女房にしたら、
「すっごい汗かいた」
 瀬音の湯は体の芯から温める効果が高いのだろう、汗かきではないうちの女房が言うのだから間違いない。
 さて、女房は“青梅産タレカツ丼”、私は“ひのはら舞茸天蕎麦(冷)”。どちらもたいへん美味しくいただけた。

ゆるく、気楽に、でも存分に

 恐らく冬の寒さも、先日の雪が降った日辺りで峠を越したと思われる。朝の散歩では耳が痛くなり、吐く息の白さも際立った。夕方になっても寒さに順応できず、日課のジョギングをさぼってしまう。
 さぼりと言えば、これまで毎日行っていたストレッチや軽い筋トレ、そしてスクワットも途切れがちである。体調が悪いとか、老化が進んで体力が低下したのではない。己に課した決め事に対し、もっと緩くかかわろうという心の変化である。せっかく悠々自適な生活を送っているのだから、肩ひじ張らずにもうちょっとのんびりした方が自然に思うのだ。

 二月十日(火)。デニーズOBの定例会を立川の磯丸水産で午後五時より行った。
「木代さん、去年の旅行はほんと楽しかったですよ」
 YOさんの開口一番である。企画担当の私にとっては嬉しいひとことだ。会話は旅行の思い出に至り、盛り上がった挙句、今年もやろうということになった。できれば二泊という要望も出ているので、また秋口は準備で忙しくなりそうだ。

 さて、そのYOさんだが、現在オーナーとして経営中のセブンイレブンを、今年の五月いっぱいで人手に渡すことにしたようだ。十五年契約の節目でもあり、ご夫婦共々体力的なことも考慮したうえでの決断だったらしい。コンビニの仕事は結構ハードだと聞く。
「だからおれさ、六月からフリーになっちゃうんだよ。仕事はもうおしまい。だけどボランティアくらいはやろうかなって思ってる」
 会話はこの段から、人生最終章についての話題になり、各々の考えている趣味や余暇の在り方などの話が飛び交った。
 私も含めメンバーに残された人生は、あと十数年から二十年がいいところだろう。なんとか健康だけは維持し、自分の時間を存分に楽しむ勇気を持ち続けたいものだ。

亀戸天神社

 初詣へ出かけたとき、
「ちょっと寄り道につきあってよ」
 と女房を誘い、浅草寺から北千住、三ノ輪と、名所仏跡巡りをしてみたが、これが意外に面白かった。

 二月六日(金)。一度は行ってみようと、初となる亀戸天神を訪れた。
 目的は早咲きの梅。気温も三月上旬並みに上がるようで、朝から空気は爽やか。家に籠ってはいられない。念のためにダウンジャケットの下に薄手のフリースを着込んだが、三鷹駅に着くころには背中が汗ばんできた。ただ暖かさも週末には再び急降下のようだ。本日の機材は<α6000+16-50mm F3.5-5.6 OSS II>。

 亀戸駅から北へ向かって商店街を歩いていくと、多くの飲食店が連なっていて、何気に覗いていたら腹が減ってきた。蔵前橋通りの手前に“西安麺”と看板が出た中華の店があったので入ってみた。スタッフは全員チャイニーズのようだ。とりあえずポスターで紹介されていた牛肉ビャンビャン麺が美味そうだったから、紹興酒といっしょに注文した。西安麺はビャンビャン麺とも言い、麺の幅が2~3cmもある、もちもち感満点の平打ち麺だ。辛さも選べるので“小”にした。ラー油ギラギラのスープがおどおどしかったが、口に含めば意外やスッキリとしていて喉越しもよく、癖になりそうな味わいだ。

 ほろ酔い加減で足を踏み入れた亀戸天神。梅の開花は八分といったところ。そのほかにロウバイやスイセンもきれいに開花している。まだ早いが、藤棚がたくさん設置されているので、桜の終わるころから眩い薄紫が楽しめることだろう。
 さて、目当ては亀戸天神だったが、春を思わせる陽気が歩を軽くし、スカイツリーの巨大な姿に誘われて、押上方面へと向かってみた。距離的に考えても、亀戸、錦糸町、浅草は、ひとまとめにできる徒歩圏である。
 青空に映えるスカイツリーの輝きも美しいが、隅田川テラスをのんびりと歩く楽しさは、今日一番だった。駒形橋を渡り、階段を下って遊歩道に出ると、ベンチでスマホを覗く若い女性、読書中のご婦人、はたまたジョギングに勤しむ青年、二匹の犬を連れて散歩中の年配夫婦と、平和を絵にかいたようなシーンが続き、水辺ならではの空気感と相まって、ほのぼのとした気分に浸れるのだ。

バイク屋時代58 若かったね~

 最近はコンスタントに下取車が入ってくるので、仕上げや納車整備を依頼するために、週に一~二度はPモーターサイクルへ足を運んでいた。
 その日は日曜だった。店前の駐車スペースにトラックを入れようと歩道へ乗り上げると、近江くんがお客さんとなにやら立ち話中。中断してすぐにトラックの脇へ来ると、運んできたバイクの固定を外し始めた。
「GSX-Fですね」
「二週間ほど時間をもらってるよ」
「そりゃありがたい」
 作業を眺めているお客さんと目があった。
「あれ、久しぶり!」
「ご無沙汰してます」
 モト・ギャルソンの古いお客さん、Kくんだ。その昔、カワサキのゼファー750を新車で買ってくれ、その後も大事に乗り続けて、今日は車検整備が上がったので受け取りに来たそうだ。
「何年ぶりだろう」
「ビッグツーリングに行ってた頃が懐かしいですよ」
「ビッグね、はは、大昔だ」

 確か入社して二度目のビッグツーリングである。本当に大昔だが、Kくんが絡むエピソードは鮮明に思い出す。大人げない冷や汗ものの行為だったと共に、愛車ヤマハ・RZ250で参加した唯一のビッグツーリングだったから。

 宿泊先はみなかみ町の猿ヶ京温泉。Cグループを大崎社長と組んだ。RZは古くて壊れやすいからツーリングに使っちゃだめだと釘を刺されていたが、一度でいいから青春の愛車RZを駆って参加したかったので、メカの海藤くんに点検を依頼、お墨付きをもらった旨をごり押しして、不承不承了解を得たのだ。
 社長が先頭、俺がケツ持ちで、三国街道を軸とした周辺のワインディングを流していた。ところがすぐ前を走っていたKくんが突然ペースを落とし始め、しまいには路肩に停ってしまった。その時はまだゼファー750を所有する前で、スズキ・250Γで参加していた。先行する他のメンバーは、このアクシデントに気づかなかったのか、俺たち二人を残して走り去ってしまう。
「だめかい?」
「エンジンはかかるんですが、アクセルを開けると止まっちゃうんです」
 おそらくキャブのトラブルだと思うが、俺が対処できる範囲を越えている。まだ携帯電話などない時代だったので、途方に暮れていると、右手に広がる森の奥から、バイクらしき排気音が聞こえてきた。もしやと思ったその直後、前方にある林道の出口と思しきところから、ヤマハ・DT200に乗った松田さんが現れ、次から次へとオフロードグループの面々が飛び出してきたのだ。最後はカワサキ・KDX200Rの吉本くんだったので、こっちへ来るよう大きく手を振った。

 彼のKDX200Rはつい最近手に入れたばかりの新車である。今回のツーリングが初の林道走行になると言っていた。やかましい排気音を吐き出すこのオフ車、実は通常なら一般公道走行不可の本物のエンデューロレーサーなのだ。ところが世の中にはそんな競技専用車に保安部品を取り付けて、登録代行までやってくれる業者がある。そこへ大枚をはたいてナンバープレートを手に入れたわけだ。レーサーなので性能は半端でなく、たとえば俺のRZ250は“ナナハンキラー”と呼ばれるじゃじゃ馬マシンで通っているが、重量139kg、最高出力30馬力と、発売当時はスーパースペックだった。ところがKDX200Rは、重量100kg、最高出力37馬力と、比較にならないほどの性能を有していた。
「どうしたんですか?」
「KくんのΓがさ、突如止まっちゃったんだよ」
「わかりました、見てみます。松田さ~~~ん! おれ修理やるから、先行ってて!!」
「了~~~解!」
 さっそく携帯工具を取り出し調べ始めたが、五分、十分と時が進む。
「これ、一度キャブをばらさないとだめかも」
「トラック隊呼びに行ってこようか」
「いいや、応急でやってみますよ」
 それからさらに十分ほど作業を行い、なんとか完了。ちょっとアイドリングが高いが、スロットルに反応するようになった。
「じゃ、ぼくが先導するんで、ゆっくりついてきてください」
 吉本くんがバイクにまたがり走り出す。その後に俺、Kくんと続いた。しばらく行くと三国街道に出たのでそこを左折。ここからはラリーの集合場所であるドライブインまで緩い上り坂が続く。
 のんびり走っていると前方に観光バスのテールが見えてきた。俺たちの速度も低かったが、喘ぎながら坂道を上る大型バスはさらに低速だ。しかも二台連なっている。
 もしやと思ったその瞬間、吉本くんが右車線へ出た。ここは黄色ライン、追い越し禁止だが、連なるバスを追い越すというのだ。引っ張られるように俺も続いた。フルスロットルで加速、車速は瞬間的に上がった。二台の2ストマシーンの咆哮が森にこだまする。と、その時、
「前のバイク止まりなさぁ===い!!」
 反射的に目が行ったハンドルミラーに赤色が点滅している。パトカーが左脇から出てきたのだ。目線を元に戻し、前方の様子をうかがうと、
「おいおいおい、加速かよぉ!!」
 吉本くん、問答無用でぶっちぎる気だ。反射的にスロットルを全開にしている自分も恐ろしい。
 パリィ~~~~~ン、パアァ~~~~ン、パリィ~~~~~ン、パアァ~~~~ン!!
「おりゃぁぁぁ!!」
 パトカーに追跡されているという危機的状況下なのに、2ストサウンドに酔いしれるクレージーさ。

 中速コーナーと緩いのぼりが続いた。バイクにとって最も有利になるシチュエーションだ。リズムにも乗ってきてどんどん速度が上がる。回り込むS字コーナーをクリアした直後、後方を確認すると、パトカーとの距離が開き始めている。それにしてもKDXの立ち上がりは鋭い、さすがオフ車、さすがレーサーだ。しかし俺のRZも捨てたもんじゃない。ぎりぎりだが、このレベルならなんとかついて行ける。
 パトカーとの距離は徐々に開いていった。そろそろドライブインが見えてくる頃だ。
「いるいる!」
 無数のバイクが駐車場に溢れかえっている。ラリーのスタート地点に参加客が集合してるのだ。
 吉本くんそして俺と、続いてドライブインへ飛び込む。俺は敷地の最も奥へバイクを入れ、その脇に隠れるように身を潜めた。道路の方へ目をやると、吉本くん、赤色を回しながらパトカーが通過する様を路肩で何食わぬ顔して眺めている。リバーシブルのジャケットを裏返しに着なおし、地味なモスグリーンから、目にも鮮やかなオレンジに変わっている。いやはや堂々としたもんだ。まっ、いずれにしても逃げ切れたのは間違いないだろう。しかし大人げないことをしでかしたもんだ。ただ、あの痺れるエキゾーストサウンドと暴力的な加速には、一瞬のうちに人を飲み込む魔力がある。いやはや、俺はのまれやすいたちなんだと、よぉ~~くわかった。

「あまりに一瞬のことだったし、木代さんたち、あっという間に見えなくなって、なにが起こったのかわかりませんでしたよ。そんなことがあったんですね」
「いや~、お恥ずかしい」
「木代さん、若かったね~」
 近江くん、なんだか嬉しそう。

写真好きな中年男の独り言