撃破!鼻過敏症・最後のあがき

オリゴ糖

師走になるとさすがに寒さが増してくる。特に朝夕の底冷えは、ちょっと前までは感じられなかったもので、早い夕暮れと共に本格的な冬がすぐそこまできていることを実感できる。
燗酒と熱々の鍋が恋しくなるのももうすぐだろう。
そしてこんな季節の到来は、悩みの種である鼻炎の悪化の始まりでもある。冷たく乾いた空気が鼻腔を通れば、途端にムズムズが起きて涙目になり、次にはくしゃみの連発と大量の鼻水に見舞われる。
それでも昨年からトライしている乳酸菌摂取のおかげか、症状は最悪の頃と較べて確かに軽減はできているが、そのレベルは決して満足できるものではなく、あともう一歩改善できないものかと日々考えを巡らせている。
そんな折、“腸内環境”をググっていたらオリゴ糖という優れものに出会し、これは最後のチャンスに成りうると閃いた。オリゴ糖は善玉菌を増やして腸内環境を整える作用があるからだ。
そして今以上に腸内環境が良くなれば、当然アレルケアL-92乳酸菌の働きも今以上にパワフルになる筈である。
こう考えれば居ても立ってもいられない。早速近所のいなげやで液体状のオリゴ糖“オリゴのおかげ”を購入、一日ティースプーン2杯生活の始まりとなったのだ。

手始めに朝夕必ず飲むホットミルクの甘味として使ってみた。
しかしこのオリゴ糖、上白糖と較べると糖度が低くて味もイマイチ。おまけに熱を加えすぎると効能が落ちるらしく、考えていた以上に使い勝手が良くない。蜂蜜の代わりにトーストへ塗りつけてもみたが、人工甘味料のような甘みが口に残っていただけない。
しかし摂取しなければ一歩を踏み出せないので、取りあえずホットミルクだけで様子をみることにした。

13年間続いている朝のロックの散歩は、私の役目であり、また楽しみでもある。
季節を感じながらの町内散策は、様々な発見もあってなかなか楽しいものだ。但、冬場はキリリとした早朝の冷気が鼻のムズムズを呼び、多めのティッシュ持参は欠かせない。酷いときは15分間ほどの散歩中、5~6回も立ち止まって鼻をかむことがあるからだ。
ところがオリゴ糖を摂取して半月ほどした頃だったと思う。
いつもどおりにロックを連れ出すと、外の空気は結構な冷たさ。しかしムズムズは来なく、結局一度も鼻をかむことなく回ってこられたのだ。
そんなことは以前にもあったから、今日はたまたま調子が良いのだろうとも思ったが、あくる日も、そのあくる日もこれが続いた。
日々早朝の気温が低くなっていくのに、これはまさに反比例といえる現象である。
おまけに鼻腔の違和感も、若干だが緩和しているような気がして嬉しくなった。
これまでムズムズが酷いときは、鼻腔内のちょうど鼻骨の入口付近が非常に敏感になり、鼻先に触れただけでも反応してくしゃみの連発が起きていたが、ここ数日間そんな症状は一度もない。
オリゴ糖の摂取期間がまだ短いので結論めいたことは言えないが、先ほども述べたように症状は季節の進行に対して反比例現象を起こしているので、少なからずの期待感はある。
諦め始めていた【撃破!鼻過敏症】。
しかしここへきて光明が差してきたようだ。

バイク 事故

事故

11月22日(日)早朝6時頃。井の頭通りで大型スクーターが絡む交通事故があった。
もちろん経緯は定かでないが、現場の状況を察すれば、その結果が軽度でないことは容易に想像できた。

拡声器から発する人間の声で目が覚めると、閉じたカーテンを通して赤色灯の明かりが寝室内を照らしていた。反射的に起き上がり、道路に面する高窓を開けてみた。
目に飛び込んできたのは大型スクーターの無惨な姿だった。車体色は黒、その大きさから250ccクラスだろう。フロント部は完全に潰れ、バラバラになったカウル類が十数メートルの範囲で飛び散っているところを見ると、衝突時の衝撃はかなりのものだったろう。
飛散物に混じり、開口部を上にして佇む薄汚れた白っぽいジェットヘルが、事故の緊迫度をアピールしていた。
救急車は去った後だったが、道路上では数人の警察官が現場見聞の真っ最中である。
更に観察を進めると、事故の“相手”らしき車やバイクが見当たらない。現場は長い直線道路であり、ここで単独事故が起きるとは考えにくく、飛散物の落下範囲から見て単純な追突ではない筈だ。恐らくフロント部の損傷は、手前の交差点を通過しようとしたときに、左側の路地から車又はバイクが飛び出てきてそれにぶつかったものと思われる。
その後は転倒して外装をまき散らしながら十数メートル転がっていったのだ。
そう、この交差点には信号機があるので、どちらかに信号無視があったことは確かだろう。

先ほども述べたが、自宅前の道路は長い直線で見通しも悪くない。しかしここは昔から事故が頻発する、鬼門と呼ぶべきエリアでもあるのだ。
井の頭通りは三鷹中央通りを境に車の流れが異なる。東側、つまり吉祥寺を抜けて環八までは比較的交通量が多く流れが滞ることがも屡々だが、反面、西久保から武蔵境へ向けての西側になると途端に流れが良くなる傾向がある。しかも沿道には、境浄水場、畑等々が点在して開放感があるので、無意識にアクセルが開いてしまうのかもしれない。
何れにせよ、バイクで事故を起こしてしまえば最低でも怪我は免れず、運が悪ければ重傷または死亡にまで至る。
ガッチャーンっとぶつかって、

「馬鹿やろ====!!!」

と、叫べるのは車だけなのだ。

若い頃・デニーズ時代 11

「皆に紹介する。今日からうちでクックをやる槇君だ」
「槇です、よろしくお願いします」
「彼は29歳、所帯持ち、お子さんもいる。石澤君と木代は充分面倒を見るように」
「ました!」

それにしてもいけ好かない笑顔の持ち主である。口は笑っているが、目が笑ってない。
これは要注意人物の特徴であり、何か含むものがなければこの様な表情は作れないものだ。
背は低く釣り目で額が広い、おまけに髪型はオールバック。誰が見ても、どの角度から見てもまんまキャッチである。

「明日からは木代と組んで遅番をやってもらう」
「えっ!」
「何かあるのか?」
「い、いえ、何も、、、ました!!」

参った。最悪である。

「今日はクンロクで、石澤リードクックに基本を教えてもらうように」
「よろしくお願いします」

小金井北店のキッチンは、石澤さんを中心に、春日と私、そして元気のいいキッチンヘルプの面々でなかなか良好なチームワークを築いている。
そんな中、精神的にも頼りにしていた春日に転勤が決まり、よりによってその穴埋めにキャッチが入ってくるなんて、これは不運以外の何物でもない。

「じゃ、槇さん、さっそくフライヤーの油交換をやってみようか」
「ました」

二人がキッチンの奥へ入っていくと、さっきからこのやり取りを静観していた春日が口を開いた。

「おい、いい相棒ができたじゃないか」
「あははは、最高最高!」

春日の奴、小金井北店での勤務は今日までだから、好きなことを言ってくる。意識はとっくのとうに新店へ向いているから、こんなやりとりは他人事のように映るのだろう。

「俺も早いとこ異動したいよ」
「大丈夫、もうすぐさ。それにしても彼、癖がありそうだな」
「おまえもそう思うか」
「仲良しにはなれないタイプだね」

正直、憂鬱である。明日からマンツーマンでキッチン業務を教えていかなければならないと思うと胃が痛む。そもそも、この役は私より石澤さんの方がはるかに適役なのだ。なのに、なぜ加瀬UMは私にキャッチを押しつけたのだろうか。

「まっ、それはおいといてさ、新店じゃ頑張れよ!」
「うん、ありがとう。お前には世話になったな」
「同期の桜さ」

研修からずっと一緒だった春日とも今日を最後に離ればなれとなる。
正直寂しかったが、これを機に一本立ちできるような気もするし、一人前のクックへと成長する為には避けて通れない節目のようなものなのだろう。
槇さんの面倒であれこれと思い悩むより、未来を見据えた自分の立ち位置を一日でも早く作れるように、より多くの努力をつぎ込むべきなのだ。

新しい“相棒”との遅番業務が始まって、早くも2週間が経とうとしていた。
仕事の流れを掴むにつれ、槇さんは意外や活発な動きを見せるようになり、相変わらず目は笑ってないものの、MDやミスター達とも徐々に連携が取れるようになってきた。

「槇さんの作るシェフサラダ、すごくきれい♪」
「ありがとう」

褒めているのは、少々ぽっちゃり体形ではあるが、笑顔を絶やさない女子大生MDの井村さんである。口癖は“彼氏、欲しいなぁ~”だ。
彼女の言うように、槇さんの仕事は実に丁寧だった。プリパレーション(下ごしらえ)は何をやってもきれいに上げるし、すのこ磨きをやらせれば誰よりも汚れを落としていた。唯、慎重すぎるのか、時間が人一倍掛かるところにネックがあった。
シェフサラダは基本のトスサラダへ細切りにしたスライスチーズとハムをトッピングしたものだが、このチーズとハムを細切りするにもやたらと丁寧に行う為、きれいに切れても時間が掛かってしまう。確かに料理としてはお客さんに喜んでもらえるだろうが、先週末の繁忙時間帯では、ディッシュアップが大幅に遅れてしまい、クレームが出てしまったのだ。きれいな盛り付けとスピードはどちらも落とせない重要なポイントである。

その時ディッシュアップカウンターに近付いてきたのは、そのクレームをもらってしまった当事者、大学生であるミスターの近藤君だ。

「槇さん、もうちょっと早く上げてくださいよね」
「この間はごめんな、頑張るからさ」

近藤君はアルバイトながら責任感が強く、MDの井村さんと同じく遅番シフトには欠かせないメンバーである。2年間も続けているので小金井北店ではもはや古株だ。

「そんなねちねち言わなくてもいいじゃない」
「ねちねちなんて言ってないよぉ~」

ちょっとのことでも言い合いになるこの二人だが、それぞれ満更でもないムードを持っているのは周知のこと。若い人達の多いデニーズでは、恋の花咲くことも屡々なのだ 。

「木代さん、びしびし鍛えてください」
「遠慮しないですよ」

こっちにも満更でない遅番チームが生まれようとしていた。

写真好きな中年男の独り言