やすいみーと

昼飯時になると、今日は何を食べようかと毎度悩む。
弁当派ではないので、外食するかコンビニで適当なものを見繕うかだが、ローテーションを組んでも直ぐに飽きがくる。歩いて行けるコンビニはミニストップの白糸台3丁目店だけでなので、めぼしいものはとうの昔に食い漁り済み。但、セブンやローソンにはない手作りメニューがあるので若干の変化は楽しめるが、少々価格が張るところが難点。それにコンビニ弁当はチンしてもその温かさは不自然だ。
一方、外食はできたてアツアツを頬張れるし、職場から離れてリフレッシュできる点も大きい。よって天気さえ良ければ自転車を漕いで飛田給駅前まで足を延ばしている。
足繁く通うのは居酒屋の“膳と宴”。ランチタイムにワンコインランチを提供しているのが最大の売りである。サラーリーマンにとって税込み500円で昼食が取れるのは何ともありがたいし、肉系と魚系何れかをチョイスできるのも泣かせるところだ。
その他駅前には、牛丼のすきや、バーミヤン、華屋与兵衛等々があり、膳と宴の定休日に利用している。
もう一つのエリアは職場より西方面で、よく利用するのはしゃぶしゃぶの“どん亭”。徒歩数十秒で行ける利便性が光るが、一番安いランチメニューでも842円とやや高め。それと味付けの甘いところがやや好みから外れている。
どん亭の先には“ゴリララーメン”という凄い名前の老舗ラーメン店もあるが、店舗名を冠したゴリララーメン(手打麺)が1,080円というのはいただけない。そもそも庶民の食べ物ラーメンをこんな値段に吊り上げちゃ駄目だ。

そんなある日、お客さんが白糸台駅までの道順を教えてくれというので、Googleマップを開いて説明しようとしたら、白糸台交番のすぐ近くに“やすいみーと”と称する食事処を発見。調べてみると、どうも肉系の定食屋らしく、豚カツ定食850円が看板メニューらしい。ホームページもあるのでチェックすると、定食類はどれもボリュームがありそうだ。
これは是非一度と、さっそく翌日のランチタイムに行ってみた。
自転車を使えばものの5~6分で到着するので、飛田給駅界隈とさほど変わらない。店舗は2階にあり、入口の立て看板には本日のおすすめメニューが表示されていた。<ポークジンジャー定食 800円>である。
最初は看板メニューの豚カツと決めていたが、“おすすめ”というフレーズに心は揺らいだ。
扉を開けると右手が厨房、左手が客間となっているこぢんまりとした店構えだ。さっと見ると空いたテーブルはない。

「いらっしゃいませ。相席になりますがよろしいでしょうか」
「いいですよ」

笑顔の眩しい30歳前半と思しき女性がテーブルへと案内してくれた。

「ポークジンジャー定食下さい」
「はいかしこまりました」

何気に周囲を見回すと、やはり一人で来ているサラリーマン風の男性が多いが、家族連れも一組いた。それにしても目の前で豚カツを豪快に頬張っている男性も含め、殆どの客が豚カツ定食を注文していたのには驚いた。さすがに看板メニューだけのことはある。ポークジンジャーで及第点が取れたら次は間違いなく豚カツだ。
待つこと7~8分。

「お待たせしました」

目の前に置かれた皿からは、テカリ、香り、肉厚等々、何とも食欲をそそる要素が発散しているではないか。
さっそくいただくと、柔らかい肉質と甘じょっぱいタレが舌の上で絡み、堪らずご飯を口へと運んだ。
ご飯の美味しさを際立たせるおかずへの渇望は、日本人の食文化そのものである。

藻・井の頭池

ついこの間、吉祥寺のいせやで昼飲みをした後、久しぶりに井の頭公園でスナップでもやってみようかと、石段を下りて七井橋を渡ろうとしたら、池に大量の藻が発生していてびっくりした。しかもそれは一部ではなく、井の頭池はもちろんのこと、東はひょうたん橋から西はお茶の水橋まで、池の隅々にまで至っているのだ。しかもこれの影響か、公園全体の景観がどんよりとした感じに変わってしまい、何事が起きたのかネットで調べてみた。
するとどうだ。
< 井の頭公園の池が「めちゃめちゃキレイになっている」 >とか、< 水面に揺れる水草が美しい井の頭公園の池 >、< 今年の井の頭公園の池はまるで“モネの絵画” >等々の記事がオンパレードしていたのだ。
ANNnewsCHが取材制作した、汚れてしまった井の頭池を三度のかいぼりから現在の美しい池に至るまでのYouTube動画もあったのだが、どれを見ても読んでも何故かピンとこない。
かいぼりのおかげで、絶滅危惧種の水草「イノカシラフラスコモ」が約60年ぶりに復活したというニュースはウェルカムだが、それよりどんよりとした景観に変えてしまった張本人であるツツイトモと呼ばれる藻の群生を、美しいと感じる人が大勢いることに驚いた。どの角度から眺めても“モネの絵画” とは思えず、確かに以前と較べて水はきれいになったかもしれないが、驚くほどのレベルではないし、弁財天やお茶の水橋周りなどはむしろ汚くなった印象さえある。

七井橋を歩くと水面から顔を突き出すドデカイ鯉の群れ。そこへ麩を投げ入れれば恐いほどの食いっぷり。それを見て集まった子供たちがきゃっきゃきゃっきゃと歓喜する。
これが若い頃から慣れ親しんでいる井の頭公園なのだ。

鰻・鈴木

久々にうまい鰻をいただいた。
6月24日(水)。調布に開業してちょうど20年の月日が経った鰻処【鈴木】。
オーナーであり職場の常連客でもある鈴木氏が、その開業記念にと、な、なんと弊社スタッフ全員、“鰻ディナーコース”へご招待くださったのだ。
知る方々の“鈴木評”は上々であり、昨今流行りの食べログを覗いてみても、すばらしいコメントばかりが並び驚いた。
こうなると期待感は急上昇。当日は昼食を少なめにすまし、万全の準備とした。

鈴木へのアクセスは、調布駅東口から徒歩で1~2分と飲食店としては好条件である。
私は他のスタッフ達と車に相乗りし、旧甲州街道に面したコインパーキングから歩いて行ったが。途中は飲食店が密集する繁華街で、そこから目と鼻の先にある白い高層マンションの1階に鈴木の看板はあった。

「いっらしゃいませ。バイク屋さんの皆さんですか」

コックコートを着た若い女性スタッフが迎えてくれ、奥へ進むとカウンターの中には笑顔満面の鈴木氏が、

「指定席になってますので、まずはそこへ掛けて下さい」

なるほど。カウンター席にも、背後のテーブル席にもネームカード置かれいる。今日は完全な貸し切りである。
私のネームカードはカウンター席にあったので、さっそく腰かけると目の前が厨房になっていて、まな板では鈴木氏が今まさに串を打っているし、炭き台にも真っ赤になった炭が並べられている。そう、カウンターは特等席なのだ。
店内を見回すと、鈴木氏の他に3名の若い女性スタッフがいて、1名が調理アシスタント、あとの2名がホール係のよういだ。
カウンター端にはBruce Springsteenの写真が飾られ、BGMも彼のナンバーがかかっている。一般的な鰻専門店とは一線を画く独自な演出だが、これが鈴木氏の個性を含めてピッタリと馴染んでいるところがGoo。

何はともあれシャンパンで乾杯。
アルコールが入ると、待ってましたとばかりにそこかしこでお喋りの花が咲き始めた。
少し経つと、ホールの女の子が茶わん蒸しを持ってきた。出来立てで舌を火傷するほど熱々だが、何とも出汁がきいていて美味である。その次にタレ味の獅子唐の串焼き、固めた大根おろしと続く。
そして遂に今回準主役の白焼きの登場である。
酢橘を振り、山葵と浅葱をトッピングして少量の醤油をつけ口へと運ぶ。

「すみません、冷酒いただけますか」

日本酒にこれだけマッチする食べ物はないだろう。酒と鰻のハーモニーに心酔しつつ箸を進めた。
出てきた酒も切れの良い辛口で、白焼きの旨味をこれでもかと際立たせるのだ。

いい感じの酔いが回ってきたところで、お新香と吸い物が運ばれた。ということはメインディッシュのお出ましだ。
先ほどから手際よく焼いた鰻をタレに漬け込み再び焼き台に乗せているので、そろそろだとは思っていた。堪らない香りに反応して胃液が滲みだしているのが良く分かる。

「おまたせしました」

予想通り、輝くばかりの鰻丼である。
早速いただくと、先ほどの白焼きとは違って、慣れ親しんだ味わいが口いっぱいに広がった。
タレはあくまでも鰻の風味を邪魔しないあっさりしたものだが、その味わいは深く、思わずガツガツと一気に食べ進んでしまった。しかも箸休めにだされた奈良漬けが、これまたよく鰻に合うのだ。
最後は日本酒のシャーベットで締めとなったが、上品な香りは今回のコース料理のデザートとして最良のものだったことは言うまでもない。

お一人様絞めて、14,000円。
ご馳走様でした。