伊豆山稜線歩道

達磨山山頂直下

 一月十一日は新月だった。ウェザーニュースで事前に調べると、当日は伊豆半島全域で快晴と出た。今年は星空撮影にトライしようと思っていたので、どうせなら南伊豆のユウスゲ公園まで足をのばし、迫力満点の一枚を狙うのもいい。もちろん旅程は一泊。翌日は久々の山歩きを楽しもうと、痛めた膝に優しそうな伊豆山稜線歩道を選んでみた。だるま山高原レストハウスから、金冠山~戸田峠~小達磨山~達磨山のピストンになる。

 途中、立ち寄りは考えなかったので、出発は昼前とのんびり。馴染みの宿【らいずや】へ到着したのは十六時だ。D600はあらかじめ星空撮影用にセッティング済みにしておいたので、あとは頃合いを見てユウスゲ公園へ向かえばいいのだが、空模様が全く変わらず、気になってしょうがない。予報では夕方までが曇りで、その後は晴れになるはず。ところが頭上の雲は暑く広がっていて、切れ間が出てくる気配は微塵も感じられない。待つしかないが、車を使うからビールは飲めない。

“らいずや”の前より

―しょうがねえ、ゴルゴ13でも読むか、、、
 ところがゴルゴ13は時を忘れさせる面白さがあった。ふと窓へ目を向けたとき、すでに夜のとばりが落ち始めているではないか。
―んっ?夕陽か?
 西の空がちょっと赤みを帯びている感じがしたが、窓の向きから確認できない。階段を駆け下り外へ出てみると、見事な夕焼けだ。一方、頭上は相変わらず雲に覆われ、目を凝らしても星は見えない。こうなったら星空撮影は諦めて、夕陽撮影にチェンジするかと、車に乗り込んだ。
 秋の日ではないが、冬の日もつるべ落としに変わりはない。県道十六号を疾走するPOLOはWRC並みに飛ばした。が、蓑掛岩が見えるころには、すでに陽は水平線の向こう側。とりあえずユウスゲ公園まで行ってはみたが、時すでに遅しである。

金冠山頂上

 翌日は五時過ぎに起床。カーテンを開けると、悔しいことにきれいな星空が広がっている。ただ、もう間もなくすれば陽が顔を出す。

 伊豆の自然や景観を壊すので、縦貫道建設は基本的に反対だったが、E70区間ができあがり、下田から修善寺方面へ至る際、タイトなつづら折りが連続する河津のR414を通らなくて済むようになり、ずいぶんと便利になった。

金冠山を目指し、広い山道を登っていく

 縦貫道を降りて、温泉街から修善寺戸田線へと右折する。標高が上がるにつれ気温が落ちていき、伊豆国際の手前で氷点下を切った。風もかなり強そうだ。
 レストハウスには八時前に到着。車から降りようとノブを引くと、強風でドアが持っていかれそうになった。風速は8m以上ありそうだ。反面、大空を仰げば見事な快晴が広がっている。
 
 まずは金冠山を目指して出発。危惧していた膝痛だが、トレポをうまく使って、加重を低減させると、それほどの痛みは起こらず、これならなんとか回ってこられそうだと一安心。
 樹林帯を抜け、道が開けてきたとき、後方から話声が近づいてきた。
「こんにちは」
 四〇代前半と思しき女性二人組だ。装いはハイキング。ザックもトレランレベルの小さいもので、いかにも身軽そう。だからか歩きも軽快そのもので、追い抜かれるとあっという間に後ろ姿が小さくなっていく。まっ、膝痛持ちの高齢者はマイペースが肝心なのだ。

眼下には戸田の町並み

 金冠山の頂上に着くと、先ほどの彼女二人と、ソロの中年女性が寛いでいた。何気に聞き耳を立てると、皆さん地元の方のようだ。こんな素晴らしい展望を気軽に味わえるなんて、何とも羨ましい。景観はまさにパノラマで、富士山はもちろんのこと、右手には静浦、内浦、淡島が、正面には沼津の市街地が広がり、左手には戸田を手前にして、清水、静岡と遠州灘が望め、その背後には南アルプスの山々までがくっきりと見渡せるゴージャスさである。
 ここで思った。次の星空撮影の候補地は、金冠山がいいのでは。

達磨山を見上げる

 分岐から戸田峠までは舗装路を下っていく。馴染みの西伊豆カイラインの入口を左に見て、再び山道へ入る。ここが伊豆山稜線歩道の北端であり、南端の天城峠までは延々42Kmの道のりだ。
 地味な階段が繰り返し現れ、徐々に標高を上げて行く。右手はずっと駿河湾なので、撮影ポイントは無数にあるが、どこも強風が吹き荒れ、手振れが起きそうだ。小達磨山を越えて、達磨山へ取りつく手前に、数十メートルだけ西伊豆スカイラインの路肩を歩くことになるが、この区間は左右が広く開けているため、強烈な突風が襲いかかってくる。風速は軽く15mを越えるだろう。一瞬だが、よろけてガードロープにつかまること二回。冷や汗をかいた。
 達磨山頂上までは、膝にこたえる階段と強風にさいなまれたが、三百六十度の広がりを見せる頂上からの眺めは息をのむほど。先ほどの金冠山の景観を、ぐぐっと南へ引いてから俯瞰する感じで、大迫力はこの上ないものだ。

達磨山頂上から南を望む

 下山後、膝の具合がどうなるか恐ろしかったが、若干の痛みは残ったものの、翌日には平常に戻った。尤も、平常ということは、治ったわけではない。
 素人の希望的観測だが、月日が流れ、もう少々気温が上がってくる春先になれば、症状は低減してくるのではなかろうか。そのタイミングで改善の兆しが見えなかったら、抜本的に医師へ相談しようと思ってる。


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