ユウスゲ公園~八丁池

 数年前から「ここでベストショットを!」と狙っていたのが、南伊豆の先端は奥石廊崎にある“ユウスゲ公園”。公園の名称にもなっているユウスゲという植物は、夕方に開花し翌日の昼には閉じるところからこの名がついたようで、その華麗なレモンイエローの花弁と共に、何ともロマンチックな雰囲気を醸し出している。
 ただ、開花時期は七月中旬より約一か月。更に前述した時間帯にのみお目にかかれるわけで、詳しく述べれば、撮影チャンスは夕焼けの始まりから日没までの短い時間帯に限られる。

 七月二十七日(木)に下田のホテルに予約を入れ、一泊二日の撮影行とした。メインはユウスゲだが、二日間の日程ともあれば、あまり経験のない夏の伊豆巡りを楽しめそうだ。
 往路では、湯ヶ島から風早峠経由で、仁科峠展望台へ行ってみた。残念なことにガスが多く富士山を見ることはできなかったが、伊豆の屋根ともいえるここからの眺めは胸のすくもの。
 展望台のシンボルでもある“なべ石”へよじ登り、三脚を立てていると、岩の上面にあるくぼみに雨水がたまっていて、なんとオタマジャクシが十匹近く生息しているではないか。日照りが続けはこんな小さなくぼみの水など、間違いなく蒸発していまうだろう。生物の力強い生にはまったくもって驚かされる。

 チェックイン後、一時間少々の休憩をとったのち、奥石廊崎へ向けて出発した。下田からなら三十分もかからない。
 到着すると案の定、階段前の小さな駐車場は満車である。しかたがないので先の展望台駐車場へPOLOを入れた。
 期待しつつ、階段を上がっていくと、ユウスゲの開花状況は文句なしのレベル。ただ、肝心の沖合には雲が多く、夕日を遮っている。バックにはオレンジに染まる空と岬、そして手前には華麗に咲くレモンイエローのユウスゲというのがベスト。完全に陽が落ちるのにあと十数分だろう。
 焦る気持ちを抑えつつ、いつでもシャッターを切れるよう、ハーフNDを装着したα6500をがっしりと構えた。因みに階段で三脚は使えない。意外や人の往来があるので、その妨げになってしまうからだ。
 やや諦めが進んだその時、辺りが急に明るくなった。ファインダーから目を外すと、雲に切れ間ができ始めている。これはチャンス到来と、あらかじめ設定しておいた“連写”で撮りまくった。さっそくモニターをで確認すると、宿まで取ってきたかいあり!と笑みが出る。

 翌日はホテルを六時過ぎに出発。七年ぶりとなる天城の八丁池を目指した。
 八丁池へはこれまでに二度訪れているが、いずれも紅葉撮影が目的の十一月。夏は初めてだ。しかも今年の夏は異常というほどの酷暑続き。水生地下駐車場は朝七時過ぎだというのにすでに気温は30℃近くまで上がっている。高度が上がっていけばそれなりに気温は下がるとは思うが、八丁池の標高は1200m弱。あまり期待はできない。
 登山口からは急な階段が旧天城トンネルまで続く。すでにシャツはびっしょり。先が思いやられる。八丁池を紹介するHPに目を通すと、ほとんど登山という言葉は見つからない。たいがいハイキングコースと称している記事ばかりだ。今回も使ったが、最もメジャーなルートは、<天城峠口~上り御幸歩道~八丁池~下り御幸歩道~水生地下駐車場>で、総距離11.3Km、上り下りの累積標高はそれぞれ700m以上あり、山地図1.0レベル換算で、五時間四十分(休憩時間含まず)ほどかかる立派な登山だ。
 それにしてもヒメシャラ、ブナが中心となる原生の森は素晴らしいのひとこと。夏の緑が森のいたるところで輝きを増幅していた。これから登山を始めたい方々には、ぜひ一度歩いていただきたいおすすめのルートである。
 参考までだが、先回まではあった、湖畔の東屋はきれいさっぱりに撤去されていて、その跡は自然の再生力で跡形もなくなっていた。
 食料はカップヌードル、菓子パン二個、おかかのおにぎり一個。飲料水は2L、ポカリスエット550ml一本。

昼食・うな天

「暑くて食欲出ない」
「おいしいものなら喉を通るかも」
「まえにパパが言ってた、吉祥寺の鰻屋でもいく?」
「ああ、うな天ね。鰻もいいけど、あそこのランチ天重、一度食べてみたいな。七百十円だぜ、安いよ~」

 七月十四日(金)十一時。朝からどんよりとした曇り空が広がり、日差しは少ないものの、肌にまとわりつく、じっとりした空気が夏バテを誘う。今年は梅雨明け前から猛暑日が続き、しんどいことこの上ない。
 吉祥寺に用事があるときは、たいがい自転車で行く。自宅から十分もかからないし、二時間以内だったら駐輪所の料金は無料である。
 目当ての“うな天”はヨドバシカメラの裏手にあり、周囲には、飲食店、居酒屋、スナック、サロン、ラブホ等々が密集する、地元の方々ならご存じの“近鉄うら”にあたる。
 狭い階段を二階へ上がる。
「いらっしゃいませ」
 入ってすぐ左手がカウンター席になっていたので、一番奥から順に座った。目の前が調理場だが、カウンターと調理場の間には、焼酎のボトルキープが整然と並び、ちょうどいい目隠しになっている。
「おしぼりどうぞ」
 冷やしたおしぼりだ。この季節にはうれしい配慮。いきなり好感度アップ。
「それじゃ、天重と上天重をお願いします」
「ごはん大盛りも無料でできますが」
「普通でけっこうです」
 天重はアナゴ、イカ、マイタケ、ナス、サツマイモ、コーンの六品目で、上天重になるとこれに大きなエビがプラスされる。値段は天重七百十円、上天重千百円で、どちらも、小鉢のサラダ、漬物、みそ汁、そしてジョッキの麦茶が付く。
「おまたせしました」
 見栄えよし、香よし。天ぷらに天つゆはかかってなく、別に容器へ入れて持ってきてくれた。天つゆにするか、塩でいただくかは客の好みってことだ。
「おいしい!」
 女房の一声。そもそも彼女、天ぷらは好物だが、ずいぶんとここの味が気に入ったようだ。ネタはどれも新鮮で、からっと風味よく揚がっている。お値打ち感は上々と言っていい。
 吉祥寺にはこのような店が無数にあると思う。これから少しづつ開拓していくのも面白そうだ。

バックアップ・北海道へ家族旅行

 バックアップ騒動の続きである。
 ファイルの整理が進んでいくと、北海道の道南へ家族で旅行したときの写真がたくさん出てきた。懐かしさのあまり、一枚一枚をかみしめながら目を通していった。今からちょうど二十年前の夏のことである。
 脳裏には北の大地の空気感、音、光、そして匂いまでもが克明に蘇り、胸を締め付けた。

「盆休みに北海道へ行かないか」
「いいわね。おいしいものいっぱい食べたい!」
 二泊三日の慌しい日程だったが、小樽一泊、函館一泊の家族旅は、北海道を“他にはない別格の地”という印象を強く焼き付けた。
 主目的は家族サービスに偽りはなかったが、Nikon・D100を年頭に入手してから、自分でも驚くばかりの写欲が膨らんでいて、被写体天国と決め込んだ北の大地・北海道で撮影ができると思うと、仕事をしていても妙に落ち着きがなくなり、出発までまだ一か月もあるというのに、予備のCFカードやバッテリー等々も用意しなきゃと、新宿のヨドバシカメラへ馳せ参じ、PLフィルター、携帯用のフィルターケース、雲台のクイックシュー、風景撮影の攻略本等々、余計と思われる品々も大量に買い込んでしまう始末。まっ、それだけ期待が大きく膨らんでいたってことだ。