完全リタイヤになると自由に時間を使えるようになり、勤め時代では叶えられなかった様々な恩恵を得られる。一例をあげると、Routine化したMLBのTV観戦だ。
二刀流という特異な方法をもってプロ野球界へ挑戦した大谷翔平。彼が現在所属するロスアンジェルス・ドジャースの試合はNHK・BSで殆どパーフェクトに放映され、現地でナイターだったら、日本では午前九時ないし十一時から番組がスタートするので、起床してリチャードの散歩、朝食、ブログ執筆等々が終わったら、間を入れずにTVのスイッチを入れてジャスト。
MLBはレギュラーシーズン開幕から観戦しているので、リーグの仕組みや選手個々の諸々にはずいぶんと詳しくなり、おもしろさはどんどんと膨らんだ。もちろん一番の推しは大谷翔平でありドジャースだが、チームのその他野手ではテオスカー・ヘルナンデス、キケ・ヘルナンデス、ミゲル・ロハス、投手では山本由伸、ギャビン・ストーン、アレックス・ベシアあたりが毎回グッとくるプレイを見せてくれる。
ドジャースがワールドチャンピオンに輝くまでは手に汗握る観戦が続くわけで、しばらくの間は画面に釘付けということだ。更に来年になれば大谷が再び二刀流で挑むはずなので、更にTV観戦は熱くなるだろう。
窓にバッタ
暑い。とにかく毎日暑い。
痛みすら感じる暴力的な直射日光は、容赦なく地上に差し込み、道を歩けばまるで熱せられたフライパンの上にいるかのようだ。そんなことでよほどの用事がない限り、昼間に外出することは少なくなった。リチャードの散歩だって朝は五時、夕方は六時過ぎでないと、犬、人、共に倒れかねない。
来る日も来る日もエアコンのきいた部屋にこもり、ひたすらMLBの観戦、読書、執筆に勤しむ毎日を送っていると、ふと生活に違和感を覚え始める。
夏であって夏ではない。そう、あまりに暑くなりすぎて情緒豊かな日本の夏が損なわれつつあるのでは……
蝉の鳴き声がしない、夕方に蜻蛉が飛ばない、夏特有の夕立が起きない、やぶ蚊が減った等々、自然の摂理にも確実に変化が起きている。これは怖いことだ。遠い未来どころか、来年の夏でさえいったいどうなるか不安だ。
と、その時、窓に何かが当たった。
「おっ、バッタだ」
こいつ頑張ってる。このクソ暑さの中、か細い体に鞭を打ち、日本の夏を守ろうとしているかのようだ。
この姿を眺めていたら、無性に切なくなった。
John Mayall & The Bluesbreakers
今月二十二日。ブリティッシュブルースの先駆者として著名なジョン・メイオール氏が亡くなった。享年は九十歳。
私は彼の率いるジョン・メイオール&ザ・ブルースブレーカーズの大ファンで、ギターに目覚めた中学三年生の頃、毎日レコードが擦り切れるほど聴いていた。海外ミュージシャンのコンサートへ行ったのも、昔懐かしい“日劇”で行われた彼の公演が初である。
なんてったってビートルズ、ベンチャーズ、そして加山雄三だ!と嵌りきっていた私に、ライトニン・ホプキンス等々のこてこて本場ブルースなど、耳に馴染むわけもなかったが、当時の愛読書ミュージックライフのページをめくれば、“ロックの源流にブルースあり”というキャッチを幾度となく目にしたのだ。だがどうにもピンと来ない。そもそも黒人がアコースティックギターを抱えている絵はあまりに源流過ぎて抵抗感がでかすぎた。
幼馴染のKちゃんは大の音楽通。私が「やっぱり加山雄三だよ♪」とうそぶいているのを尻目に、着々とロックのレコードを買い続けていた。ポリドールでいえば“アートロック”、CBSでは“ニューロック”というジャンルのものだ。
「これからの主流だよ」
「へー、そーなんだ。試しになんか聴かせて」
選んでくれた二枚のアルバムは、“バニラファッジ”と“ブルーチアー”。共にデビューアルバムで、初めて触れた新しいロックの音だった。感想を言えば、バニラファッジの<You Keep Me Hangin’ On>はパワー感に切れのいいボーカル&コーラスがうまく溶け込み、引き込まれるものがあったが、一方ブルーチアーは粗雑で単純な構成ばかりが鼻についた。
「こーゆー音楽があるんだね」
これまで聴いてきた音楽とはずいぶんと異なったが、なんとなくハートをくすぐる感は否めなく、Kちゃん宅はお隣なので、ちょくちょくおじゃまして色々と聴かせてもらうことにした。
Kちゃんの部屋にはおびただしい数のLPが整然と並べられ、それをパイオニアのセパレーツステレオで鳴らせるという最高のリスニング環境が整っていた。そんなことで数時間に渡り二人で聴き続けるなんてことも屡々だった。
徐々に耳が慣れ、ロックが自然と体に馴染んでくると、自分の好みがしっかりと出てきた。そのタイミングで出会ったのがジョン・メイオール&ブルースブレーカーズ。エリック・クラプトンをフィーチャーした<Blues Breakers with Eric Clapton>とピーター・グリーンをフィーチャーした<A Hard Road>は今でもたまに聴くほどのお気に入りになった。
本場のブルースを基本にしているとはいえ、パワーとスピードを上手にアレンジしたエレクトリックブルースは、良い意味でのポップ感に溢れ、のりやすくて聴きやすい。このサウンドを作り出したのはもちろんジョン・メイオールだが、エリック・クラプトンやピーター・グリーンのセンス溢れるギタープレイが大いに花を添えているところもGooなのだ。