またまたニホンカモシカ!

  新年一発目の山は、刈寄山になった。
 年末から晴天が続き、おまけに週末にかけて気温も上がったきたので、休日になったらとにかく山へ行こうと心に決めていた。最初は三山コース(大塚山~御岳山~日の出山)を考えていたが、先回の山行から一か月以上経過しているので、先ずは足慣らしが肝心と、馴染みの刈寄山に落ち着いた。

 一月十二日(木)。本年の山行の無事を祈願ということで、麓にある今熊神社へお参りしてから登山開始。思い返せば刈寄山は七か月ぶりだ。昨年はいろいろな山へトライしてきたから、少々足が遠のいていたのだ。ただ、いったん山中へ入り込めば、すべてがいつもの通り。落ち着けるし和める。四季それぞれの顔を知っているのは唯一この山だけだ。

 歩き始めから体調の良さを感じた。初っ端の石段が全く苦にならないし、中盤にある倒木跡からの登りもへいちゃらなのだ。相変わらず右股関節の違和感は残るが、両膝は絶好調。スタミナも問題なさそうだ。
 なぜだろう?と幾度も考えた。
 適度な気温と無風という好条件がそろったからか。
 長そでシャツにフリースだけでちょうどよく、登りの連続ではやや汗をかくというほど良い感じは、精神的にも山歩きを楽しくしてくれるもの。そんな諸々が作用して、パワーが湧きたっているのかもしれない。

 山中は完全な冬枯れを見せた。草木が枯れ落ち、山肌がよく見えて、なんだか山自身も寒そうである。頂上直下まできたとき、ふと顔を上げると、東屋の全体が見渡せた。植物が生い茂る夏だったら絶対にありえないことだ。
 いつものベンチに陣取る。ここまで誰一人と会うことのない静かな山行だ。そう、体調がいいと腹も減る。あんパンは途中で平らげていたので、残るはカレーパンとカレーメシ・シーフード。カレー味のオンパレードだが、カレーは大好物なのでこれでいい。

 下山路でも体調の良さは変わらなかった。下山時は上りで疲労した筋肉が悲鳴を上げるので、膝痛や“よろけ”が出やすいが、今回は不思議に足運びはスムーズ。上り返しの時も苦はそれほど感じられなかった。それより、なだらかな下りが連続するところでは、小走りになることも屡々で、なんだかトレラン風になるほどだ。それだけ余力があったということだろう。腕時計を見ると、いつもより十分近くペースが速めだ。
 リズムよく下っていくと、突如、右の斜面に動く何かに気がついた。歩を止めると同時に黒くてでかい動物が現れ度肝を抜かれる。落ち着いてよく観察すると、浅間尾根でのシーンを思い出した。なんと再びニホンカモシカとご対面である。国の天然記念物になっているから、もう少々稀少な動物だと思っていたが、そうでもないようだ。むしろ以前はちょくちょく見かけたニホンジカが、ここ二年ほどお目にかかってない。

 登山口に一番近い見晴らし台まで下ってくると、五十歳前後と思しき作業服姿の男性が、ひとりベンチに腰かけていた。挨拶すると、地元の方だったので、先ほどのニホンカモシカについて聞いてみた。すると笑顔で答えてくれた。
「このへんじゃ、昔からよく見かけますよ」
「里に近いのに、いるんですね」
「自然はだんだん枯れてきたけど、ニホンカモシカはしっかりと生きてますね」
 彼によれば、川口川も以前は水量があって、子供のころはハヤやウグイがたくさん捕れたそうで、なんと金剛の滝では、渓流の女王ヤマメまでいたそうだ。
 実は亡くなった父方の祖母の実家がこの近くにあって、私が小学校へ入ったころ、その川口川で親戚の子供たちといっしょに魚捕りをした経験があり、今でもしっかりと憶えている。


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