4月19日(木)。二連休の初日は快晴との予報がでた。今シーズン初っ端の足慣らしにはもってこいと、急遽山行を計画。もちろんコースは馴染みの御岳山である。
先回は鳩ノ巣~城山コースを使ったので、今回は久々に古里から大塚山経由で登ってみることにした。
毎度のことだが、初っ端は足ができていないので、膝痛との戦いになる。持病の腸脛靭帯炎だ。少しでもこれを和らげようと、日々ストレッチングにいそしんではいるが、それがどれほどの効果を得られるか、今回の山歩きには期待が掛かっていた。
鳩ノ巣駐車場へは8時半に到着。青梅街道の流れが頗る良く、予定より30分も早く着けたので、余裕をもって青梅線8:54の上りに乗ることができた。ちょうど通学時間帯なのか、小学生7名が一緒に乗り込み、また同じく古里で下車した。ということは鳩ノ巣に小学校はないのだろうか。
準備運動を終え、古里の御岳山登山口を出発したのは9:15。快晴で風もなく、地元よりやや肌寒い気温は、山歩きを快適にさせてくれそうだ。
久々の山は例外なく手厳しい。
歩き出しから上りの連続で、どうにもこうにも息が乱れ、一気に汗が噴き出してきた。30分もすると何とか体が慣れ始めたが、悲しいかな、負荷から遠ざかっていた体を再び山慣れさせるのは、年々難しくなってきたようだ。
出発から1時間弱で大塚山へ到着。いつ訪れても賑やかな山頂なのに、今日は人っ子一人いない。それではと、一番きれいで日当たりのいいテーブルを独り占めにし、セブンイレブンの新商品“ソースが決め手!コロッケパン”を取り出し早速いただく。パンはややパサついていたが、ソースがよくきいたコロッケとの相性はGoo。パッケージには“温めて美味しい”と書いてあったので、まあ、パサつきはしょうがないところか。
風が出てくると急激に汗が冷やされ、寒さを感じる。
大凡15分の休憩で出発。日の出山を目指す。
今回は己に厳しくいこうと、常用グッズのトレポは終始使わないと決めていた。弱った足腰はとかくバランスを失いがちだが、そんな時トレポはとても役に立つ。しかし、裏返せばごまかしがきいて、本来のバランス感覚が戻りにくくなるという弊害もある。
更に今回は“歩き方”にも工夫を入れた。膝に負担がかからないよう、なるべく足をまっすぐ前へ出す歩き方だ。私の歩き癖はつま先を外側に向ける外股だが、一方方向へしか動かない膝関節にとってこれはやや重荷。360度方向、つまりピロボールのような動き方をする肩関節とは構造的に異なり、一方方向以外への動きに対しては、股関節がそれを補っているのだ。肘と肩、膝と股間という関係である。
日の出山山頂直下まで来ると、何やら上の方から子供の声が聞こえてきた。
歩きづらい石段を一気に上がると、そこには大勢の子供たちがいるではないか。すぐに座りたかったので、あちらこちらのベンチを見回したが、一番手前にはおじさん三人組が、そして東屋の向こう側は全て子供たちに占拠されていた。ところが東屋には引率の先生らしき男性一人しかいなかったようなので、手前のベンチに腰掛けた。
「こんにちは」
「遠足ですか」
「はい、五日市小です」
ざっと見まわして生徒40名、引率の先生5名といったところか。今日はとりわけ人影に乏しい山中だったから、この賑やかさは新鮮である。
「何年生ですか」
「6年生です」
6年生と言っても、5年生が進級したばかりなので、皆小柄で幼く見える。特に男の子は顕著で、どちらかと言えば女の子の方が平均して体格がいいのでは。
「これから金毘羅尾根を下って帰るんです」
「へーっ、結構距離ありますよね」
「8kmくらいですか」
その時、一番年かさのいっている先生が近づいてきて、
「そのカメラ、ニコンなんですね」
見ればその先生、バッテリーグリップを装着したニコンD7200を首にかけている。聞けば、D800も所有している根っからのニコンファンらしく、フィルム時代は色々なところへ出かけては撮影を楽しんだそうだ。しかしこの頃の被写体はもっぱら生徒達らしい。
「これNikon1のV2ですけど、すでに販売は終わってます」
「私、手が小さいので、これしっくりくるな~」
この先生、かなり機械ものが好きなようだ。細かく観察しているし、目が真剣である。
「山歩きにはもってこいですね」
そう来ると思った。もはや山歩きにV2は欠かせないのだ。
歩き方に工夫をしつつここまで来たが、そのせいか、下半身の疲労度はいつもの“初っ端”より低いような気がした。但し、残念ながら左膝には相変わらずの違和感が発生していたが、全体としては上々だと思うし、少なからず日頃のストレッチング、そして歩き方の工夫による効果が表れたのだろう。
下山にかかると、日の出山の東側は再び人影がなくなり、先ほどまでの喧騒が嘘のような静けさに包まれた。
実は私、こんな樹林帯歩きが好きだ。植林だろうが自然林だろうが構わない。木々に覆われ日差しが届きにくい樹林帯には、真夏でも爽やかで冷っとする空気が必ず流れていて、それが体にまとわりつく感触がたまらないのだ。
こんな一瞬、山へ来て良かったと思う。
この後、いつもなら愛宕尾根を下って二俣尾に出るのだが、今回は吉野梅園を通り、日向和田へ出るルートを選んでみた。距離感的にはほぼ同じだが、こちらは一般道へ出てから駅までの距離が長く、幸か不幸か、カンカン照りに見舞われたことが体に響いた。やっと町へ出たというのに、汗が噴き出して止まらない。たまらずザックから最後の500mlリットルミネラルウォーターを取り出し、グビグビと流し込む。
「ふ~~、生きかえる」
多摩川に反射する西日がやけに眩しく、それは山行の終わりを告げていた。