2014年・年末撮影会

狩野川源流

山に入った後は街を歩き、そして海を見渡す。
馴染みの伊豆から更なる手応えを得られた昨年末の撮影旅行。開催し続ける大切さと楽しさを確認できた、心に残る二日間であった。

12月30日(火)午前5時。水道道路に停めた車へ機材を運ぶ。

「おはようっす」
「けっこう寒いね、鼻水出っぱなしだよ」

アレルケアのおかげで軽減傾向にある過敏性鼻炎も、さすがに早朝の冷気には反応してしまったようだ。
今回はより多くの被写体を探し出そうと、出発時刻をいつもより一時間早めて設定。定刻きっかりに伊豆を目指し出発した。
メンバーは原点に戻って友人のTくんと私の二人だ。

この恒例行事はそのTくんと2002年の暮れに城ヶ島で行った撮影会が発端となる。
予想以上の楽しさから、年に一度はこんな催しを持とうと意見が一致、翌年は撮影地を伊豆に移し、何年かは日帰りで楽しんできたが、2006年に初となる一泊を敢行、宿泊地は西伊豆の松崎で、漁港のすぐ近くにある“豊崎ホテル”を利用した。
その後、諸事情で開催できなかった年もあったが、参加メンバーの増減を伴いながら、湯ヶ島(2回)、須崎、下田、雲見、そして浮島と、毎回宿泊場所を変えては今日に至っている。
撮影の面白さはもちろんのこと、同好の士が酒を酌み交わし年を締めくくる楽しさはこの上なく、年中行事として定着するのに時間も苦労もかからなかった。

東名高速は裾野ICで下りて、R141を南下した。大仁のマックで休憩の後は、新天城トンネル手前まで進み、水生地下を左折、右側に流れる川に沿って上がっていった。初っ端の撮影地はずばりこの川だ。狩野川の源流域で、初夏や紅葉の時期にはその美しさから“伊豆の奥入瀬”とも呼ばれるらしい。昨年11月半ばに歩いた天城・八丁池の下山時にたまたま見つけたところだが、さすがこの時期になると川域一帯は完璧な冬枯れ状態である。

「寒いっすね」

山中に入ると途端に風が強くなりしかも冷たい。再び鼻は洪水となり、耳も痛くなってきた。
三脚にD100+SIGMA12-24mmを固定し、車道から川へと下りていく。厚く蓄積した枯れ葉は時として落とし穴を作り、歩行は慎重さを強いられる。

「エツ、大丈夫か」

なんとTくんは左足を骨折しての参加だ。よってこんなsituationでは探るように一歩々々踏み出していかねば、最悪の結果を生み出す危険性がある。
お互いポイントを求めて渓谷を彷徨うが、寒さと足場の悪さに邪魔され思ったように撮影が進まない。ここは判断し、切りのいいところで引き上げることにした。
次の撮影地は爪木崎公園を予定していたので、一旦東海岸へ出てから須崎を目指すことにした。

浮島海岸

「アロエの花はまあまあだけど、水仙がイマイチかな」
「七分咲きだね」

水仙の群生地として有名な爪木崎ではあるが、通年ピークは1月中旬~下旬なので、年末撮影会では時期的にやや早い。一昨年の同会では、“日の出の海岸”を狙って訪れたので、水仙の開花状況についてはノーチェックだったのだ。
確かにきれいな公園ではあるが、何となくベタな感じが漂っていて、その為か気分が上がらず、辺りを歩き回ったりもしてはみたが、早々の切り上げが肝心と判断した。

「浮島の遊歩道はお初だから、早めにチェックインして辺りをうろつこう」
「それがいいかも」

なかなかいい画が撮れずトーンダウンしているTくん。そう言う私も同じだった。

「腹減ったな、昼飯にしよう」
「そうしましょう」

起きがけにトースト一枚、大仁のマックで小休止の際にパンケーキセット。
このメニューはどれも消化が良すぎる。
下田でラーメン屋を見つけてガッツリ食った後は、宿泊地の浮島へと直行した。
昨年の初日こそ大雨に泣いたが、それまで年末撮影会では概ね天候に恵まれてきた。
今回も文句のない晴天が広がっている。
恐らくだが、その絶好なコンディションが為に気分を走らせ、落ち着きを失った精神状態が面白い被写体を見逃す原因になっていたのではと思い返した。
寧ろ、“小雨そぼ降る”などという状況の方が、気持ちも静まり、思ってもみなかった被写体を発見してニンマリしたりする。
なかなかどうして、写真撮影は難しいのだ。

午後3時を少し回った頃、宿へ到着。一服の後、カメラを手にして浜へ出た。
強い風は沖に無数の白波を作り、右手にある燈明ヶ崎遊歩道の入口階段付近は、波が岩に当たり盛大な飛沫を巻き上げている。
レンズを庇いながらその階段を上がっていく。
振り返ると、足を庇いながらゴロ岩の海岸を必死に歩くTくんが目に入った。挫いたらとどめになるから当然だ。
それでも彼曰く、下り坂が一番きついとのことだ。遊歩道の上りは怪我を物ともせず、結構なペースで歩いてくるが、下るとなるとそれは一歩一歩に変る。

「そろそろ夕陽だ」
「赤みを帯びてきましたね」

空気が澄んでいるのか、刻一刻と変化する濃いオレンジ色は、見事としかいいようのないグラデーションを放ち始めた。自然が作り出す壮大なスクリーンにはいつだって釘付けなのだ。
暫し撮影に集中するが、鬱蒼とした木々に囲まれた遊歩道はあっと言う間に薄暗くなる。

「そろそろ戻りましょう」
「OK。ずいぶん撮れたしな」

足元に気を遣うTくんにとって街路灯のない散策路は危険この上なく、早めの退散はベストなのだ。
海岸線に沿って伸びるR136は馴染みの道だが、堂ヶ島周辺にこれだけの島々が点在し、どれも固有の景観を放っていることは、こうして海へ一段下がって足で歩き回らないと絶対お目にかかることはない。
新たな伊豆の発見だ。

かしわや食堂

「乾杯」
「お疲れさん」

飛びっきりの肴を目の前にして芋焼酎が進みに進んだ。酔うと饒舌が増すTくん、今夜は特に調子が良さそうで、写真のこと、仕事のこと、そしてアイドル話等々で盛り上がった。
宿は浮島海岸が目の前に広がる『民宿・五輪館』。海水を含む塩化物温泉でばっちり温まれ、一泊二食付き8,100円(税込)はとてもリーズナブル。これまた伊豆の新発見か。

翌朝は浮島海岸に腰を据える。
風もやや穏やかになり、そのせいか辺りの雰囲気が一変したように感じた。
写真撮影もいいが、こんな穏やかなところなら、子供の頃にずいぶんとやった雑魚釣りに、日がな一日興じたいと思ってしまう。
この後、撮影場所を隣町の田子に変えて、港を中心にスナップを行った。

「おおっ、凄いよこれ!」

ラッキーなことに、西伊豆名産“タカアシガニ”の水揚げに出会したのだ。
4人の男がバケツリレーのように漁船から岸壁に駐車中の車へと手際よく積み込んでいくのだが、次から次へと船底の水槽から出てくるカニの数が膨大で、一体どれ程入っているのかと溜息が出てくるほどだ。
戸田辺りでタカアシガニ料理をいただくとなれば、脚2~3本の定食で5~6,000円もする高級食材だから、いくら卸値といっても一舟全部でおいくらになっちゃうの?!ってな感じである。
いかにも正月らしい光景に、シャッターは何度も下りるのであった。
“かしわや食堂”で豪快なアジフライ定食(1,200円)に舌鼓をうち、田子を出発。とんとん拍子に進んでいく一泊二日の旅も最終段階へと入った。

「ラスト、どこで撮る?」
「途中はパスして沼津まで行っちゃいましょうよ」

途中の戸田や大瀬崎は昨年の撮影会でとことん歩いたから、やはり別のところにしたかった。
その時だ、ふと郷愁をそそる光景が脳裏を流れた。

「そうだ、我入道へ行こう。狩野川の対岸だよ」
「まかせます」

沼津の中心的観光スポット“沼津港”。そこから狩野川を挟んで東側にあるエリアが我入道だ。
シンボルである牛臥山と狩野川河口の間に広がる牛臥海岸は、西の千本浜と並んで市民の憩いの場になっている。何もないと言えばそれまでだが、地元の臭いを嗅げればOKと思って選んでみたのだ。
港大橋を渡る前に左へ折れれば海岸への入口がある。

「へー、いいところじゃないですか」

南国高知出身で元船乗りのTくんは、何はなくとも海があればという、生粋の海好きである。
尤も、沼津を第二の故郷と言い切る私も同じだが、、、

「おっ、カイトボードやってるよ」

牛臥海岸は砂浜なので、こうしたマリンスポーツがやりやすいのではなかろうか。
遠くには沼津港の水門“びゅうお”が見える。
斜光がやけに眩しく、辺りは既に夕暮れ間近な気配が漂っている。
狩野川の岸壁まできた時、右手にある小山の頂上に社らしきものが目に入った。昔沼津に住んでいる頃から何となくは知っていたが、我入道は生活圏外だったので、それほど気にはとめていなかった。
ところがこうして見上げると何ともいえぬ趣があり、そこからの眺めは決して悪くないだろうと、せっかくなので行ってみることにした。
墓地を横切って左手へ進むとそれはすぐに見つかった。
急な石段があり、手前には賽銭箱らしきものも置いてある。

「ちょっと上ってくる」

上まで行くと確かに祠を倍ほどにした社があったが、両サイドを小山の斜面に囲まれて周囲の展望は利かない。諦めて一旦下まで下りると、

「こっちにもありますよ」

なるほど、この小山にはなんと2ヵ所の神社が祭ってあるのだ。
次の石段は長かったが、上り切ると社の周りにはスペースがあって、振り向けば伊豆半島、そして目の前には沼津の市街と富士山までが見渡せる。

牛臥海岸

「いい眺めだ」

これを聞いてTくんも痛む足を引きづりながら上ってきた。
今夜から始まる初詣での為だろうか、沢山の提灯が石段に沿って下から上まで取り付けられていて、更には電源も入っている。最初は周囲の明るさで気が付かなかったが、次第に夕闇が降りてくると薄明るく灯り始め、時間の経過と共にそれは幻想的な明るさを帯びるようになってきた。

「ちょっとここで撮ろうよ」
「いいっすね!」

再三だが、二日間はあっと言う間だ。
況して趣味を同じくする同好の士が集うのだから、時間の進みは尚更早く感じるもの。
毎度二日目のこの段階に入ると、撮影の乗りも良くなり気分は最高潮に達する。そして名残惜しさも最高潮となり、早くも次回への期待がふくらみ始めるのだ。

「来年こそ伊豆じゃないところへ行こう」

牛臥海岸を二度味わう如くゆっくりと歩き、カメラを車に納めると我入道を後にした。

■ 写真アルバム ■


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