ベッドに入る頃には風も大部強くなり、どこからか空き缶の転がる音も聞こえてきた。最大級の台風ノグリーの威嚇は確実に迫りつつあった。
ピューピュー、ゴーゴーと、強風のもたらす音は気味が悪い。幸いなことに、近所には決壊するような河川や、崩落が起きそうな山もないので、雨は幾ら降っても全く不安はないのだが、強風は屋根板やカーポートのパネルにダメージを与えるし、色々なものも飛来してくるから始末が悪い。
以前、通勤にスクーターを利用していた頃、たまたま帰宅時に台風の風雨がピークに達し、真っ直ぐ走るのでさえ緊張を強いられたことがあり、そんな中、信号待ちをしていたら、突如右斜め前方の大木が根を露わにしながらなぎ倒れ、その影響で細かな石や泥が足元まで転がってきた時には心底肝を潰したものだ。
最新の台風情報によれば、関東南部へは深夜から明け方にかけて大きな影響が出るとのこと。これから更に荒れてくるのだろうと不安が募りつつも、いい感じでアルコールが回った体は、枕に頭を乗せた瞬間に深い眠りの世界へ旅立つのであった。
尿意で目が覚め、ベッドサイドの時計を見るとちょうど3時を回ったところ。
ー あれ、やけに静かだな。
風の音も、雨の降り落ちる音もない。
予定では今まさに風雨のピークの筈である。
カーテンを引き、徐に寝室の窓を開くと、意外や外はしんと静まり返っているではないか。
ー 台風はどこへ?
……。
昨日だって、午後から雨が強くなるって言うから、ロックの2度目の散歩を昼過ぎに済ましたのに、夕方になっても一向に雨雲らしきものが現れないので、夕方には3度目の散歩に出掛け、おかげでロックは大喜びである。