高水三山

11月29日(水)。
山の紅葉を楽しもうと、奥多摩の人気トレッキングコース【高水三山】を歩いてきた。
高水三山とは、高水山(759m)、岩茸石山(793m)、惣岳山(756m)の三山の総称だが、6年前の同じ11月に、やはり紅葉を愛でようと棒ノ折山(969m)へ登った際、その下山路に当たる岩茸石山と惣岳山は巡ったことがあったので、今回は残りの高水山頂上に立ち、三山を制覇しようという意図も含まれた。
ルートはJR青梅線の軍畑駅から出発し、三山を巡って御嶽駅へ降りるというもの。スタート後は何の変哲もない一般道を淡々と歩くが、段々と山が眼前に迫ってくる過程は、山歩きへの期待を膨らませる。
右手に高源寺が見えてくると、その脇に登山口があり、ここから本格的な山道へとスイッチする。

登山を開始すると待ったなしの上り坂が続いた。初心者コースと言えども、奥多摩は何処を歩いても急峻であり、それが為に下りは細心の注意が必要。特にこの季節は落ち葉が多く、堆積した土面は濡れてとても滑りやすい。
30分も歩かないうちにウィンドブレーカーを脱いだ。今日は晴れて気温も高く、既にアンダーシャツは汗まみれである。こうなると水分補給は夏と同じ要領で行いたい。一度に大量にではなく、歩きながら頻繁に補給して、のどの渇きが起きないようにするのがポイント。そうすることで後半戦までスタミナを温存することができるのだ。

高水山手前にあるのが常福院。ここでトイレタイム兼がね一服することにした。
高水三山は奥多摩登山の入門コースと言われているが、ここまでの連続した上りは結構きつい。難しい箇所は一つもないが、ペース配分の分からない初心者にとって、高低差400mはちょっとしたハードルになると思う。
社の裏手にあるトイレへ向かうと、スタートから一緒だった年配夫婦のご主人が用を足して出てきたところだった。

「お疲れさん」
「山へは良く行かれるんですか」
「定年してからやることないんで、1年ほど前からちょくちょくです」

このご夫婦、奥さんの方が健脚だ。年齢はそれほど離れてないようだが、常に奥さんが10mほど先行し、時々振り返ってはご主人の様子を窺っていた。

「最後になる惣岳山ですがね、頂上手前の坂は凄いですよ。<ここ登るのかよ!>って一瞬引きましたから」

はいはい、思い出した。あの3点支持無くしては登れない岩場のことだ。確かにそれまでの山道とは状況が一変するが、区間は短いのでそれほどのことはない。しかし一応巻き道もあるので、年寄りは避けた方が無難である。それにしてもこの常福院という古刹、紅葉に囲まれ、なかなかの趣がある。暫し散策と撮影に集中した。

高水山の頂上は余り眺望がきかなかったのでスルー。それより大きく広がる絶景で人気を博す岩茸石山へと急いだ。
ここからは軽快な尾根歩きが続き、山の清々しさを十二分に堪能。今更だが、アウトドア万歳!!である。

頂上直下の急登をクリアすると、まさしく大パノラマが待っていた。
二度目となる岩茸石山山頂だが、今回は好天のせいか、その開放感は先回のイメージを上回った。景観は棒ノ折山のそれと似ていて、奥多摩秩父の広大さを改めて実感。ここが東京都とは恐れ入る。
空腹が頂点に達していたので、何はともあれおにぎりを頬張った。いなり寿司の甘さが疲れた体に染み渡るようだ。
人気スポットのお昼時とあって、山頂はざっと20数名のハイカーで賑わっていた。見れば先ほどのご夫婦も弁当を広げている。苦労して登ってきた者だけが味わえる贅沢なランチタイムだ。

真後ろのベンチを陣取って、山の話やら食べ物の話やらで大いに盛り上がっていた年配女性8人組がそろそろ出発のようである。
腕時計に目をやれば、30分近くも経過していたので、私もそろそろ出発の準備をすることにした。まだ13時前なのに陽光は斜めに射し、山々の斜面にコントラストを作り始めていた。

岩茸石山からは急降下が続いた。膝と大腿筋に最もストレスが押し寄せるステージの始まりである。
先々回、そして先回も左膝は絶好調だっただけに今回も期待が掛かるが、この時点で症状らしきものは全く感じず、下山速度も幾分上がった。
暫くの間、人の気配のない山行が続いた。こうなると山は本当に静かである。今日は風がないから尚更だ。こんな時は必ずと言って鼻歌が出てくる。今日は「BE MY BABY」。もちろんCOMPLEXである。

愛しているのさ 狂おしいほど
会えない時間が 教えてくれたよ
もう離さない 君がすべてさ
BE MY BABY
BE MY BABY

ところがその静かな山歩きもそれほど長くは続かなかった。前方から賑やかな喋り声が聞こえ始めたのだ。
間違いなく先に出発した、あのおばさん8人組だろう。見る見るうちに最後尾が近づいてきた。

「しんどい人は巻き道を行って、先で待っててくださいね」

追いつくとそこは惣岳山頂上直下。リーダーらしき女性がてきぱきとアドバイスを出して、登頂組と巻き道組に分けている。見たところ最年長で年齢は70歳手前か、、、
その彼女と目が合った。

「どうぞお先に。私たちゆっくりなんで」

お言葉に甘え、岩に取り付いた。
ところが暫くすると、ぴたりと背中に張り付くような気配を感じ、振り向いてみたら、なんとリーダーが。
どうぞお先にと言ったくせに、全然“ゆっくり”ではない。寧ろ<煽るのかよ?!>である。
ここの岩登りは険しいというほどではないが、一気に登りつめるには推進力、つまり腕と脚の筋力が必要だ。果たしてこの年齢のご婦人が、どのような登り方を披露してくれるのか、ちょっと興味が湧いてきた。
岩場はいたるところに頑強な木の根が露出していて、それをしっかりと掴めば、力任せの直登も可能だが、安全且つ体力を消耗しないルートを選びながら歩を進めれば、リーダーはこれでもかと追従してくる。しかも余裕さえ感じる。だったら直登に切り替えようと一気にペースを上げると、さすがに距離が開いた。そのまま速度を落とさず頂上まで登りつめ、眼前にあった丸太のベンチが空いていたので、ザックを置いて腰掛けた。
すると間もなくしてリーダーが現れ、続いて3名のメンバーが上がってきた。意外や皆余力はありそうだ。同年代の女性がこれほど頑張れるのだから、私などまだまだ修行不足。
<山の体は山でしか作ることができない>
これを肝に銘じ、更に山へと入ろうか。

ゴールの御嶽駅までは、ずっと下り坂が続いた。おまけに最後の最後にきて三度のアップダウンが待ち受けた。疲労が溜まった下肢には辛い場面だが、今回も膝に痛みが出なかったので、気持ちは終始前向きでいられた。やはり山歩きに於てコンディションは最低条件であり、これが揃わなければ山は楽しむどころか苦痛でしかないのだ。

腸脛靭帯炎

先日の西沢渓谷で膝の調子に自信を持った私は、更に弾みをつけようと、翌々週の休日に、今度は奥多摩へと出掛けてみたのである。
山に入って一日中快調に歩けた時の喜びは大きい。これは膝痛持ちしか分からない“感動”と言って憚らないもので、激しく痛む左膝を庇いながらの下山になれば、精神的にも辛く、いったい何のために山へ入っているのかと、自問自答までが飛び出すことさえあるのだ。

25年程前まで、多少だがゴルフを嗜んでいた。学生時代にゴルフ場でアルバイトキャディーをやったり、体育の授業にゴルフがあったりと、若い頃から少なからずの関わりがあったので、それほど好きではなかったが、一応一通りの道具は揃えていた。
今の勤め先に入ると、社長が大のゴルフ好きということで、年に2~3回はスタッフコンペを楽しんだり、同業者のコンペに参加したりと、プレイの頻度は高まっていった。
そんなある日、あと2ホールを残すという頃、突如左膝に違和感が出始め、それは徐々に痛みへと変わり、終いには足を引きずるまでになってしまった。
クラブハウスで軽食を取り、それでは帰ろうかと下り階段に一歩踏み出すと、またもや痛みが走り、手すりを使わなければまともに下ることすらできないのだ。しかしそんな後でも平坦路では痛みらしい痛みは感じず、翌日になれば、昨日の膝はどうなっていたのだろうと、首を傾げるくらいに回復するのだった。
実はこれが【腸脛靭帯炎】の典型的な症状であり、こいつが山歩きを趣味にした時、大きな壁となって圧し掛かってきたのである。
そもそも腸脛靭帯炎とは、< 膝の屈伸運動を繰り返すことにより、腸脛靱帯が大腿骨外顆と接触(擦れる)して炎症(滑膜炎)を引き起こし、疼痛が発生する >というもので、これまでは予防策として、山に入る直前に膝脇のストレッチを行い、接触点周辺の張った靭帯の緊張を解してやったりと、そこそこに意識して続けてきたが、余り効果らしいものは得られなかった。
そこで更に詳しく調べ進めると、この腸脛靭帯は腰回りにある大腿筋膜張筋や臀部全体の筋肉と繋がっていて、その辺の張筋や筋肉も同時に柔らかくしなければ全く意味のないことが判明した。
特に日頃から行う大腿筋膜張筋のストレッチは重要なポイントらしく、それではと、毎朝夕に15分間ほど行うことにしたのだ。
まだ始めたばかりなので、どれほどの効果が出ているかは定かでないが、先日の西沢渓谷では、約4時間の歩行の間に一度の違和感も痛みも発生しなかった。

11月2日(木)。この上ない快晴に恵まれた奥多摩地方。体調はボチボチだったが、何より膝の調子が上向きだったので、馴染みのコースで様子を見てみようと、<鳩ノ巣駅⇒ 御岳山 ⇒ 日の出山 ⇒ 愛宕尾根 ⇒ 二俣尾駅>を選んだ。コンディションが整うと、心は自然と高揚してくるものである。
馴染みの鳩ノ巣無料駐車場へ車を停めると、すぐに出発。R411を横断して多摩川を渡った。

「なんだって、工事中?!」

補修工事の為にいつものルートは使えず、迂回ルートが指示されていた。読めば城山経由となっていて、距離は少々増えるようだが、初めての道は楽しみでもあった。一応山地図を開いて確認すると、なんとこの迂回路、載っていない。普段は余り人の入るところではないのだろう、すぐに荒れた道を想像する。

それまでの林道から右手となる山側に入ると、一気に高度を上げようとする巻き道が連続した。枯葉が積もった極端に狭い山道をトラバースしていくのは、結構な神経を使う。山側にホールドできる樹木があれば安心だが、全くないところを3m、5mと進むには、とにかく集中する以外ない。
何度かの急登をクリアすると、“鳩ノ巣城山”の道標が忽然と現れた。見晴らしは全くきかないが、頂は平らでそこそこの広さがあったので、ここで休憩を入れることにした。
切り株に腰掛け、菓子パンを頬張る。まだ歩き始めだが、疲れているのか、甘さが体に染み入っていくようだ。
予想以上に汗をかいていたので、パーカーを脱ぐと、木々を通り抜ける微風を感じられ、背中がヒヤッとした。
ここも奥多摩に多く見られる施業林だが、私は好きである。

大楢峠に到着すると、馴染みの山にいる安心感がこみ上げてきた。今回は計画通りに裏参道で御岳山へ向かうが、次回はここから鍋割山へ向かうルートにトライしてみようと思っている。
そう、この頃になって当たりが出てきた感のあるモンベル・ツオロミーブーツは、堅牢且つ非常に歩きやすいので、トレッキングブーツを検討している諸氏にはおすすめしたい。

御岳の集落に到着すると、いつもながらの活況が出迎えてくれた。改めてここは人気のスポットなのだとしみじみ感ずるところだ。
目抜き通りに入ると、どこかの女子高のハイキングらしく、山頂方面から数人単位のグループで次から次へと降りてきた。彼女達に疲労などないのだろう、皆黄色い声を発し、それは賑やかだ。ところが偉いもので、殆どの子達がすれ違いざまに、<こんにちは!>の一声を投げてくるのだ。これは先生方の指導の賜物だろう。

御岳から日の出山へ向かう道筋で、何と5名のハイカーに抜かされた。自分で言うのもなんだが、私の歩行速度は遅い。しかしこれは長年の山歩きで得た最適なペースであり、絶対に崩すことはない。
ところがだ、若い子や同年代の方々に抜かれも全く動揺はしないのだが、最後に抜いていった一人の男性は、どう見ても70歳代。背中が丸く顎も出ているのに、恐ろしくハイピッチなのだ。この時ばかりはいつもの自分を見失った。気が付くと男性の背後数メートルに付き、追尾を始めていたのだ。
男性は歩幅が極端に小さいのでハイピッチになるのだが、それにしても速度がある。急にそのペースに合わせた為に息が上がったが、今日は膝の調子が良いので構わずついていった。しかし正直なところ、この速度はきつかった。
300mほど追尾しただろうか、男性のペースは頑固なまでに落ちず、徐々にだがその背中が小さくなっていったのだ。

― あ~、馬鹿な真似はやめよう。

敗北である。男性は間違いなく山のベテランであり、そのキャリアは相当なものとみた。山が好きと言ってもたまにしか歩かない私では敵うわけがない。それより一時の感情でペースを崩したことが悔やまれてならず、伊豆スカイラインで峠ライダーをやっていた頃から少しも成長していない自分に気が付き、とてつもなく情けなくなってきた。

日の出山山頂に到着し、辺りを見回したが、あの男性の姿はなかった。
ここで休憩しないわけはないので、途中、五日市方面へ降りて行ったのだろう。全く恐れ入ったものだ。
オーバーペースでかなり疲労してしまったが、多少なりとも食欲はあったので、昼食にありつくことにした。
最高の天気で眺望は素晴らしく、西武ドームがくっきりと見える。更にはポカポカ陽気が山頂を覆っていたので、満腹になると眠気が襲ってきた。山の良さを感じる一瞬である。
若い女性の二人組、年配女性の二人組、カップル三組、単独女性一人、そして単独男性は私を入れて四名。いつもながらの賑やかさ。アクセスが良くこれだけの景色を眺められるのだから、人が集まるのも 頷ける。私自身、何度訪れたか分からない。

秋の夕陽はつるべ落とし。余りのんびりしていると愛宕尾根でヘッドライトを使う羽目になる。さっそく下山を開始した。

ここからが正念場である。腸脛靭帯炎、つまり膝痛は下り時に発症するからだ。
頂上からは急な下り階段が連続し、それは膝痛が起きる典型的な状況と言える。調子の悪いときは早くもこの階段で違和感が出てしまい、ゴール直前である愛宕尾根の急坂を、痛みに耐え、歯を食いしばりながら、亀のような速度で下っていくのだ。

― 今日はどうした?! なんだかいい感じだぞ~☆

それでも左膝を気にしながら歩を進めたが、あっという間に梅ノ木峠に到着し、最後の休憩に入った。
ここにはおあつらえ向きのベンチがあるので、どっしりと腰を据え、ストレッチを始めた。腰回りを伸ばしたら、次は膝外側の靭帯を伸ばす。これを3セット行うと下半身が幾分軽く感じるようになり、気分も落ち着いてきた。
東へ目を向けると、山間を縦横無尽に走る送電線に斜光が反射し、夕暮れの様相が濃くなりつつあるのが分かった。ザックを背負って水分補給を行うと、早々に出発した。

愛宕尾根でも膝は絶好調。結局、ゴールである愛宕神社に至るまで、違和感すら覚えることはなかった。
非常に嬉しいことではあるが、今後を考えれば、その要因を知りたいもの。
先回の西沢渓谷が足慣らしとなったのか、はたまた最近始めたストレッチの効果が出たのか、それともその二つの相乗効果によるものなのか。
山歩きも雪が降りだせば来春までお預けだが、その期間こそ膝を改善する大事なインターバルになる。
今後は更に研究を重ね、来春こそテン泊を復活させたいと思っている。

西沢渓谷

一度は歩いてみようと、以前から気に留めていた「西沢渓谷」。
<四季を通じて楽しめ、特に紅葉の頃は素晴らしい渓谷美が!>と、Webサイト、雑誌等々、どれを見開いてもそそるキャッチが飛び出してくる。
そんなわけで、久々の快晴となった10月26日(木)。紅葉もそろそろ始まる頃だろうと、意を決して出かけてみたのだ。

真新しいタイヤで乗り心地が良くなったE46。滑らかなフィーリングを保ちながら、早朝の中央道をストレスなく走る。勝沼ICを降りると、フルーツラインをひたすら北へ向かい、途中、R140へ合流。ここから西沢渓谷の入り口は間もなくだ。
アクセスと流れの良さに助けられ、9時前には駐車場へ到着。所要時間は2時間を切った。
それにしても、さすがの人気トレッキングコース、見渡せば平日なのにほぼ満車である。あちらこちらで出発の準備をするハイカーを目にして、期待感は膨らんだ。

歩き始めは平坦な林道が続く。飽き始めたころに西沢山荘が見えてきて、ここから渓谷道へと降りていくのだが、それにしても年配者の多いことには驚いた。しかも殆どが群れ成して行動している。見るからに山歩きの経験が少なそうな人ばかりで、正直なところ危なっかしい。渓谷道には濡れた大小の岩が多く、滑って足首を挫いたりする危険性は大いにあるのだ。とかく西沢渓谷はハイキングコース的な見方をされているので、初心者が多いのは頷けるが、実際は鎖場などもあるれっきとした登山道だということを忘れてはならない。

渓谷美は下馬評通りに美しかった。様々な流れや大小の滝は目を楽しませてくれ、何度も立ち止まっては見入ってしまう。しかし渓谷道の道幅は全域に渡り狭く、三脚を立てれば他のハイカーが通れなくなる程で、腰を入れて撮影を行う場合は、早朝または渓谷道を外れた場所を狙うしかないだろう。

メインビューである“七ツ釜五段の滝”に差し掛かった時、思わず<凄いな!>と口に出てしまった。
それまでにも美しいビューポイントは多々あったのだが、ここは何と言っても迫力が桁外れだ。自然が作り出す造形美というものは、唯々脱帽であり、堪らなくMiracleである。夏に訪れた“にかほの元滝伏流水”にも感動したが、ここも負けてはいない。大昔、初めてこの渓谷に入り込み、この光景を目の当たりにした人はさぞかし驚いたことだろう。

七ツ釜五段の滝から先は短いが急登となり、案の定渋滞が始まっていた。

「どうぞお先に」

これで2回目のコールである。ざっと見渡しても70歳前後の方が多いので、こんな坂では当然歩く速度は遅くなり、歩みに滞りが出てしまう。皆、顔を赤らめ、呼吸も苦しそうだ。特に頂点である森林軌道の手前からは急峻さが増し、先を行く一人の男性は、木の階段を一段上がるたびに立ち休みを繰り返して、長い渋滞をこしらえていた。
純然たるハイキングコースだと思って歩き始めた年配者の方々には、ちょっとしんどい場面だろう。

登り切ると、ベンチがいくつか配列され、多くのハイカーが休憩の真っ最中だった。ここで私も昼食を取ることにした。
人いきれはあるものの、木々を通る空気は爽やかで、自然に包まれる気持ちの良さは十分に感じられる。おにぎりを平らげると、リラックスしたのか、ちょっとだけ眠くなってきた。
下山は森林軌道をひたすら下っていくのだが、傾斜は緩やかで膝に負担が掛かることはない。但し、結構距離があって、しまいには辟易としてくるほどだ。正に「終わり良ければすべて良し」の真逆のパターンであり、この点だけは惜しいところだ。

久々の山歩きだったので、なるべく体に負担の掛からないコースにしようと、ここ西沢渓谷にトライしてみたわけだが、この点は大正解。筋肉痛も持病の腸脛靭帯炎も全く起こらず、理想的な足慣らしができたと思っている。