どうにもこうにも森に入り込みたくなり、馴染みの御岳山コースを歩いてきた。
11月25日(月)。三鷹駅7時12分発・青梅行は予想外の乗客の多さにびっくり。そしていつものことだが、通勤通学者の中に混じり多くのハイカーが幅を利かせている。
ドアが閉まり発車というタイミングで「中央本線・相模湖駅で人身事故が発生し、ダイヤ調整のために遅延が起きることがあります」と車内アナウンスが流れドキッとする。わずかでも遅れると、青梅駅で乗り換え時間が1分しかない8時3分発奥多摩行を逃してしまうからだ。実は以前、山友のHさんと同じ電車に乗って遅延があり、山行計画を急遽変更するはめになったことがある。
予定どおり8時36分、古里駅へ到着。駅前のセブンで食料を調達し、8時45分に登山をスタート。まずは吉野街道から大塚山登山口へと向かう。10年ほど前はこのルートをたどるハイカーは少なかったが、ここ2~3年、明らかに増加傾向。これも登山ブームの影響か…..
10時35分、大塚山へ到着。寛いでいるハイカーは二名いたが、とにかく寒い。歩いているうちは全く感じなかったが、ベンチに腰掛け間もなくすると、下着が吸い込んだ汗が冷えてくる。おもわずフリースを羽織ったが、こんどは脚が冷えてきてどうにもこうにも。おにぎり一個とプロテインスナックを食してすぐにスタートした。
初夏になれば鮮やか極まるヤマツツジの道も、今は落ち葉が積もり寒々しい。急な下り坂は舗装路へと合流し、真っ赤になったモミジが出迎える御師集落に入った。いつもは脇目も振らず日の出山へ向かうが、今回は御嶽神社へ寄ることにした。
十数年ぶりの町場通りは多くの観光者で賑わい、随神門をくぐると疲れた足腰に鞭を打って330段ある石段に取りかかった。腰の曲がった老夫婦が手すりを頼りに一段一段歩を進めている。そこまでしても参拝したいのは、古くから霊山として数々の神様を祀る武蔵御嶽神社だからこそだろう。
日の出山への尾根道に入ると、さっきまでの喧騒はどこへというほどの静けさに包まれる。延々と植林帯ばかりが続くが、私はここが好きだ。歩きやすい山道には木漏れ日が差し、凛とした空気が気持ちを引きしめる。これこそ山中というリアルがいいのだ。森に入り込みたい欲求がよく起きるのは、こんなシーンの積み重ねだろうか。
案の定、日の出山の頂上広場はものすごい活況である。数えると私を含めて22名のハイカーで賑わっている。東屋に陣取り、豪快に肉を焼いて盛り上がる若者グループ、背負い籠に赤ん坊を載せた若い夫婦、男女高齢者の6人組、おしゃべりに花が咲く年配女性3人組等々、まさしくここは人気の山だ。
さすがに秋。空気が澄み渡り、真正面には東京都心部が、右手の麻生山の背後には遠く丹沢の山々がくっきりと見渡せる。
梅野木峠へ向かう下山路は、先ほどの山頂とは打って変わっての静けさ。恐らくほとんどのハイカーは“つるつる温泉”方面へ降りていくのだろう。
今日はすこぶる体調がよく、ここまで疲労はあまり感じなかったが、やはり終盤に入るとやや足が重くなってくる。開けた右側に送電線が見え、梅野木峠が近いことがわかり自然と鞭が入る。こんな時は注意が必要だ。転倒こそ免れたが、さっきから二度も浮石に乗って滑ってしまう。
ベンチに腰掛け最後に残ったこチョコクロワッサンで小休止をとる。
そのうち登山道からこちらへ向かって歩いてくる年配夫婦に気がついた。一旦は右手、つまりつるつる温泉方面へ下って行ったが、すぐにUターンして戻ってきたのだ。
「すみません。青梅線の駅に行くには、この細い道をまっすぐでいいんですか?」
「そうです。二俣尾の駅が一番近いかな」
「ありがとうございます」
地図を持っていないようだ。このエリアは不明瞭なところはほとんどないし、道標がしっかりしているので、登山というよりハイキング気分で訪れるハイカーが多いのだ。だいぶ足の重さも解消したので、私も出発することにした。
愛宕尾根と梅園との分岐に着くと前方に仰々しいフェンスが張られている。注意書きを見ると、愛宕尾根で崩落があり通行禁止と書いてある。いつもどおりに二俣尾へ降りたかったが、仕方がない。先行した年配夫婦は一瞬ここで迷ったことだろう。
無事登山口にたどり着き、今度は青梅線の日向和田駅を目指し、一般道で歩を進める。以前このコースを歩いたときは夏だった。焼けたアスファルトが発する熱に残り少ない体力を奪われ、完全グロッキーにおちいたことを思い出す。