滴る汗 本日の水分消費量

空気が沸騰した8月2日(木)。
夏登山の体慣らしを兼ねて、いつもの御岳/日の出コースを歩いてきた。
熱中症で毎日多くの人が倒れる昨今であるが、奥多摩エリアの最高気温は地元武蔵野市と比べて絶えず3~4℃は低いので、この程度なら問題なく歩けるだろうと決行した。

鳩ノ巣駐車場へ到着したのは7時40分。
車の外気温センサーは28.5℃を示し、これはリチャードを連れての早朝散歩時とほぼ同じレベルだ。但、最近雨が降ったのか、湿度が高く、着替えていると見る見るうちに首回りや腕がべたついていく。
それにしても駐車場が空いている。うちのを入れて4台とは何とも寂しい。この猛暑では出かける人も少ないのだろうか。
持参したおニューのミズノ速乾シャツに着替え、軽い準備体操を行った後に出発した。

鳩ノ巣まできても、熱を目一杯に吸い込んだアスファルトの照り返しはさすがに熱かったが、山道へ入ると辺りは一変。日光を遮る木々と、僅かな湿り気を発する地表が、快適な空間を作り上げていたのだ。
これも山歩きの醍醐味だと思うと、瞬く間に気持ちがリフレッシュする。

大楢峠に近づくにつれ傾斜は増していく。一カ所ちょっとした岩場があるのだが、そこを超えるあたりから一気に汗が噴き出してきた。今年の猛暑パワーは日陰の樹林帯であっても30℃近くまで上げているのだろう、額の汗が頬を伝って地面へと滴り落ちる。こうなると速乾性のシャツなど全く用を足さない。既に濡れ雑巾と化したシャツの裾を思いっきり絞ると、汗が音を立てて地表へ落ちた。
二俣尾のセブンで総量2.5Lの水分を購入したが、予想以上に水分が失われ、ここまでにポカリと水を合わせて1Lを消費。このペースだと確実に足りなくなるが、幸い御岳山には自販機があるので、そこで補給することにした。

何遍通ったか分からぬ馴染みのルートだが、山道のコンディションや景観は毎回変わるから面白い。
今回は台風の影響で折れた木の枝が山道のいたるところに散乱し、引っかかったり滑ったりと非常に歩き辛い。足元に気を取られると、歩行のリズムが狂って疲れやすくなる。こんな時は意識して呼吸を深くすることが肝心だ。
次回歩こうと考えている、大楢峠~鍋割山ルートの入り口をしっかりと確認し、そのまま裏参道を進んだ。

徐々に風が出てきて、ムシムシ感はだいぶ和らいできた。それでもまだまだ汗は噴き出るので、こまめな水分補給が肝心だ。
それにしても新緑が終わった後の夏枯れであろうか、森全体が疲弊しているように感じてならない。花もほとんど見かけず、寂しい限りだ。
一方、いつもより幾分大きい川音が届いてくるのは、水量が増している証。御岳山までに4本ある小さなせせらぎが、珍しくその全部が威勢のいい流れに変わり、その清涼感が火照った体を包み込んだ。
間もなくして御岳山に到着。鳩ノ巣からここまで人っ子一人見かけなかったのは実に珍しいことだ。

メインストリートの急坂を登りつめると、お目当ての自販機が現れた。これぞ砂漠にオアシス。良く冷えて美味そうなやつが並んでいて目移りするが、最後はオランジーナに落ち着きボタンを押した。

― くぅぅぅ、、、うまい

生温くなったザックのポカリとは月とスッポンの刺激的清涼感。大袈裟のようだが、世の中にこれほどうまい飲み物があったのかと感心する。冷たさと炭酸はやはり絶大なのだ。
ベンチに腰掛け、何気に通行人へ目をやっていると、犬を連れたハイカーカップルがやってきた。
ここ数年、犬連れハイカーを時々見かけるようになったが、あれは如何なものだろう。日常生活を離れ、大自然を求めて歩いてきた人達にとって、よほどの犬好きでもない限り、山中で飼犬を目の当たりにすることは必ずしもウェルカムではないと思うし、犬自身も太古の野生犬ではなく、人と同じ生活に改良順応してきた“ペット”なので、特に今年のような酷暑の山歩きに連れ出されたら、それこそいい迷惑。発汗のない犬は、寧ろ人間より熱中症にかかりやすいのだ。

12時30分、日の出山山頂に到着。早速残った小さなおにぎり二個を食しようとしたが、これまで大量の水分を取り続けてきたせいか、あまり食欲が湧かない。一個を喉に通すだけで精いっぱいだ。ひどく疲れているわけでもないし、どこか具合が悪いわけでもない。とにかく胃が水分以外のものを受けつけない。
東屋を独占していたので、甘んじてベンチに仰向けになり、帽子を顔に被せて目を瞑ってみた。
山頂を通過する風が体を適度に冷やしてくれ、なんとも心地よい。腹回りや袖口にしみ込んだ汗が冷たく感じてくると、一気に睡魔が襲ってきた。

ちょっとの間眠ってしまったようだ、人が近づいてくる気配で目が覚めた。
到着した時は、女性ハイカーが一人だけだったが、見回すと、年配夫婦一組と4名の若者グループが加わっている。ここはいつ訪れても賑わいがある。
あまり休んでいると疲れが出てくるので、早々に荷物をまとめて出発した。

それにしても今回は足の調子がこの上なく良かった。梅ノ木峠を超えても左膝は快調で、筋肉疲労はあっても腸脛靭帯炎の前兆である“張り”が出てこないのだ。この一点だけで山歩きは楽しくなるし、また自信も付く。
先回の山歩きから結構な間があるのに、これは日々行っているストレッチの賜物かもしれない。
腸脛靭帯炎でお悩みの方々、ぜひ日々のストレッチをお試しあれ!

本日の水分消費量:4.5L
鳩ノ巣駐車場到着:15時40分

自分にお疲れさん☆☆☆

奥多摩小屋

奥多摩小屋が平成31年3月31日をもって閉鎖となる。そして同時にテントサイトも使用不可に なるとのことだ。
どうやら老朽化が進み、安全が確保できなくなったようだ。何しろ初めてのテン泊がここだったので、このニュースが耳に入った時、正直なところ寂しい思いがした。

東京都の最高峰「雲取山」へ向かうメインルートにある石尾根。この終盤に位置する奥多摩小屋は、周囲の山々を広く眺望できる文句なしのロケーションにある。
宿泊に使うのもいいだろうが、それよりも雲取山登山の休憩地点としての存在価値が光る。
何故ならこの先には雲取山山頂に至る最後の急登が待っているからだ。小屋の前にはちょっとしたベンチとテーブルがあって、いつ訪れてもその周辺には必ず人の姿やザック等々が見受けられる。
景色を楽しみながらの一服はとてもリラックスできて、“あとひと踏ん張り!”へ向けての準備にはもってこいなのだ。
しかしこの奥多摩小屋、確かに一見廃屋と見間違うほど朽ち果てたムードが漂っていて、これまでに宿泊客を見たのは一度きり。一方、広いテントサイトはいつも賑わいがあり、奥多摩テン泊の一大スポットになっている。なにしろ防火帯である岩尾根に位置するので、その解放感は奥多摩唯一。陽が落ちると富士山登山者の連なる明かりがはっきりと確認でき、それを肴にビールをやればこの上ないアウトドア気分に浸れるのだ。

こうなると、初のテン泊を思い出す……

そもそもキャンプというもの、遊び心に溢れていてテントの設営からして面白い。
しかし、たまにしかやらないことだけに、組み上げの順番はいつもうろ覚え。四苦八苦の末、何とかフライシートを被せ終えると、<マイホーム完成!>と暫し眺めてしまう。
森の中に溶け込むようなこの小さなテント。この中で一夜を過ごすと思うと無性にワクワクするのだ。
続いて夕飯の準備。

「ご飯炊いてみましょうよ」

初テン泊のパートナーは山友のMさん。
その彼から頼もしい一言が発せられた。これまでは日帰り登山だったから、ストーブを使ってもお湯を沸かしてカップ麺が精々。ところがテン泊は帰りの心配がいらないからじっくりと調理に時間を掛けられる。

「いいね。でもちゃんと炊けるの?!」
「大丈夫だと思いますよ」

やや心配だったが、持参したヒートパックのおかずでも、炊き立てのご飯があれば最高のディナーになる筈だ。

「OK。じゃ、俺が水汲んでくる」

奥多摩小屋の水場は、尾根道から南へ少々下ったところにあり、これまでの山歩きで疲れた足腰にはやや辛い距離感である。
先客2名が汲み終えた後、先ずはプラティパスに詰め込む前に手ですくって飲んでみた。
<うまい!>
そもそも奥多摩山系の水はうまい。獅子口、雲取山山荘、そしてここ奥多摩小屋の水場、どれも甲乙つけ難いふくよかな味がする。
今回はウィスキーを持参していたので、さっそく戻って水割りだ。

結局炊きあがったご飯は芯ありだったが、よく噛めば甘みも出てきて問題には及ばず、寧ろこの不完全さがキャンプの醍醐味へと繋がるのだから笑えてしまう。
他愛ない会話が延々と続いたが、この上ない解放感が否応なしに場を盛り上げた。

一時間も経っただろうか、普段の山歩きより大きく重い荷物を背負ってきただけに、疲労は確実に蓄積したようで、水割りを3杯開けたところで、瞼が急に重くなってきた。時計を見たらまだ19時前だったが、そろそろ寝袋に潜り込みたい感じである。
テントでちゃんと眠れるかと、最初は少々不安であったが、疲れのおかげで結果は超爆睡。日が変わる頃に一度尿意で目が覚めたものの、その後は鳥のさえずり と共に朝を迎えるまで、夢を見る間もなく眠り続けたのである。
この時の爽快な目覚めは今でもよく覚えている。

初っ端 2018

五日市小学校

4月19日(木)。二連休の初日は快晴との予報がでた。今シーズン初っ端の足慣らしにはもってこいと、急遽山行を計画。もちろんコースは馴染みの御岳山である。
先回は鳩ノ巣~城山コースを使ったので、今回は久々に古里から大塚山経由で登ってみることにした。

毎度のことだが、初っ端は足ができていないので、膝痛との戦いになる。持病の腸脛靭帯炎だ。少しでもこれを和らげようと、日々ストレッチングにいそしんではいるが、それがどれほどの効果を得られるか、今回の山歩きには期待が掛かっていた。
鳩ノ巣駐車場へは8時半に到着。青梅街道の流れが頗る良く、予定より30分も早く着けたので、余裕をもって青梅線8:54の上りに乗ることができた。ちょうど通学時間帯なのか、小学生7名が一緒に乗り込み、また同じく古里で下車した。ということは鳩ノ巣に小学校はないのだろうか。
準備運動を終え、古里の御岳山登山口を出発したのは9:15。快晴で風もなく、地元よりやや肌寒い気温は、山歩きを快適にさせてくれそうだ。

久々の山は例外なく手厳しい。
歩き出しから上りの連続で、どうにもこうにも息が乱れ、一気に汗が噴き出してきた。30分もすると何とか体が慣れ始めたが、悲しいかな、負荷から遠ざかっていた体を再び山慣れさせるのは、年々難しくなってきたようだ。
出発から1時間弱で大塚山へ到着。いつ訪れても賑やかな山頂なのに、今日は人っ子一人いない。それではと、一番きれいで日当たりのいいテーブルを独り占めにし、セブンイレブンの新商品“ソースが決め手!コロッケパン”を取り出し早速いただく。パンはややパサついていたが、ソースがよくきいたコロッケとの相性はGoo。パッケージには“温めて美味しい”と書いてあったので、まあ、パサつきはしょうがないところか。
風が出てくると急激に汗が冷やされ、寒さを感じる。
大凡15分の休憩で出発。日の出山を目指す。

今回は己に厳しくいこうと、常用グッズのトレポは終始使わないと決めていた。弱った足腰はとかくバランスを失いがちだが、そんな時トレポはとても役に立つ。しかし、裏返せばごまかしがきいて、本来のバランス感覚が戻りにくくなるという弊害もある。
更に今回は“歩き方”にも工夫を入れた。膝に負担がかからないよう、なるべく足をまっすぐ前へ出す歩き方だ。私の歩き癖はつま先を外側に向ける外股だが、一方方向へしか動かない膝関節にとってこれはやや重荷。360度方向、つまりピロボールのような動き方をする肩関節とは構造的に異なり、一方方向以外への動きに対しては、股関節がそれを補っているのだ。肘と肩、膝と股間という関係である。

日の出山山頂直下まで来ると、何やら上の方から子供の声が聞こえてきた。
歩きづらい石段を一気に上がると、そこには大勢の子供たちがいるではないか。すぐに座りたかったので、あちらこちらのベンチを見回したが、一番手前にはおじさん三人組が、そして東屋の向こう側は全て子供たちに占拠されていた。ところが東屋には引率の先生らしき男性一人しかいなかったようなので、手前のベンチに腰掛けた。

「こんにちは」
「遠足ですか」
「はい、五日市小です」

ざっと見まわして生徒40名、引率の先生5名といったところか。今日はとりわけ人影に乏しい山中だったから、この賑やかさは新鮮である。

「何年生ですか」
「6年生です」

6年生と言っても、5年生が進級したばかりなので、皆小柄で幼く見える。特に男の子は顕著で、どちらかと言えば女の子の方が平均して体格がいいのでは。

「これから金毘羅尾根を下って帰るんです」
「へーっ、結構距離ありますよね」
「8kmくらいですか」

その時、一番年かさのいっている先生が近づいてきて、

「そのカメラ、ニコンなんですね」

見ればその先生、バッテリーグリップを装着したニコンD7200を首にかけている。聞けば、D800も所有している根っからのニコンファンらしく、フィルム時代は色々なところへ出かけては撮影を楽しんだそうだ。しかしこの頃の被写体はもっぱら生徒達らしい。

「これNikon1のV2ですけど、すでに販売は終わってます」
「私、手が小さいので、これしっくりくるな~」

この先生、かなり機械ものが好きなようだ。細かく観察しているし、目が真剣である。

「山歩きにはもってこいですね」

そう来ると思った。もはや山歩きにV2は欠かせないのだ。

歩き方に工夫をしつつここまで来たが、そのせいか、下半身の疲労度はいつもの“初っ端”より低いような気がした。但し、残念ながら左膝には相変わらずの違和感が発生していたが、全体としては上々だと思うし、少なからず日頃のストレッチング、そして歩き方の工夫による効果が表れたのだろう。

下山にかかると、日の出山の東側は再び人影がなくなり、先ほどまでの喧騒が嘘のような静けさに包まれた。
実は私、こんな樹林帯歩きが好きだ。植林だろうが自然林だろうが構わない。木々に覆われ日差しが届きにくい樹林帯には、真夏でも爽やかで冷っとする空気が必ず流れていて、それが体にまとわりつく感触がたまらないのだ。
こんな一瞬、山へ来て良かったと思う。

この後、いつもなら愛宕尾根を下って二俣尾に出るのだが、今回は吉野梅園を通り、日向和田へ出るルートを選んでみた。距離感的にはほぼ同じだが、こちらは一般道へ出てから駅までの距離が長く、幸か不幸か、カンカン照りに見舞われたことが体に響いた。やっと町へ出たというのに、汗が噴き出して止まらない。たまらずザックから最後の500mlリットルミネラルウォーターを取り出し、グビグビと流し込む。

「ふ~~、生きかえる」

多摩川に反射する西日がやけに眩しく、それは山行の終わりを告げていた。