音楽初心者の私にとって、“千本浜ライブ”は正に事件であった。
レコードを何度聴いても決して感じることのなかった演奏者の巨大なエネルギーは驚きの発見であり、これまで裏方だと思っていたドラムやベースが、実はライブパワーの根源であることにも気が付いたのだ。
幾度も襲いかかってくる鳥肌の波を抑えることは最早不可能となった。
ー ギターが欲しい、、、何が何でも、、、
手に入れたくて堪らないギター。
ある日、意を決して親にねだってみると、呆気なくNGを出されて浮き上がっていた気持ちは奈落の底へ。
【ギターは不良の始まり】
当時はわけの分からない風評も流れていて、これも親のだめ出しを煽ったのではなかろうか。
親父は典型的な会社人間で、家族に対してはきちっと毎月の給金を入れ、不自由なく生活させていれば全てOKという考えを持っていたように思う。
恐らく今回の件も深くは考えずに、
「ギターは駄目だと雅敏に言っておけ」
と、母親に指示したのだろう。
親父とまともな会話をした記憶は殆どなく、それは弟も同様だったに違いない。
ねだるのも、不平を言うのも窓口は全て母親だった。
そんなある日のこと。
Kの家へ遊びに行ったら、
「いいもの見せてやる」
含み笑いの彼は、意味深な視線を投げてきた。
「なんだ、何があるんだよ」
果たして押し入れの中から持ち出してきたそれは、黒っぽいカバーで覆われているものの、特徴的なその形は中身を見るまでもなかった。
「ギターかよ!」
「正解」
Kの勝ち誇った表情が悔しくて堪らない。
いつも自分の傍にギターを置けるなんて、今の自分にとっては夢のまた夢だ。
「持たせて」
「いいよ」
初めて抱えたギターはガットギター。いわゆるクラシックギターである。
当時のKや私にギターの知識は乏しく、とにかく弦が6本あって、練習にさえ使えれば文句はなかったから、そのギターはジョンの持つRickenbackerと何ら変ることのない輝きと魅力を放って見えた。
「これ、コードブック」
「なにそれ」
Kのやつ、何だが本格的なものまで手に入れている。やる気だな。
「その印どおりに弦を押さえるとコードが弾けるんだ」
「なるほど」
言うが易。これがやってみるとたいそう難しい。
でも、楽しい!
初めて爪弾いたギター。そのワクワク感は尋常でない。
K宅通いがますます頻繁になりそうだ。