プリンセチア

プリンセチア

今年こそは絵を描こう!と一旦は心に誓ったものの、気が付けば年末を迎えてしまった昨年。
これを大いに反省し、先ずは始めることが肝心と考え、先週の休日にボールペンを使い、傍にあった“手袋”をとりあえずスケッチしてみた。
小学生の頃は漫画が好きで、教科書の余白に“伊賀の影丸”や“8マン”を描きまくり、それを担任に見つかり大いに怒られたものだ。そんなことがあって、漫画の腕は人並み以上だと自負していたが、どうもスケッチは違った技法と見方が必要なようで、描き上がった手袋の絵はとてもじゃないが人様に見せられるものではなかった。
情けなさと悔しさをぐっと呑み込み、再度じっくりと観察し直して、良くなかったと思う部分を意識しながら、もう一度トライしてみた。
今度は少々時間を掛けて慎重に形をなぞっていったが、やはり思うようにペンが進まず、意図としているスケッチにはまるで近付けない。やはり絵画の基本をある程度分かっていないと、作画の手順を見いだすことができず、これでは何度やっても右往左往するだけだろうと、一端中断して打開策を講じることにした。
但、今更絵画スクールへ通うのも現実的ではないので、こんな時の助け船“動画サイトYouTube”からめぼしい手本をいくつか見つけ出しては、それを繰り返し見てノウハウを蓄積しようと考えたのだ。
最初の計画では、鉛筆でデッサンし、それに水彩絵の具で色付けをするというものだったが、画材選びの段階で既にちんぷんかんぷんとなってしまい、それだったら仕事やプライベートで普段から頻繁に使っているデジタルソフトで描く方が、自分なりに工夫できるし、道具を揃える手間と費用も省けると考え、早速手持ちの描画ソフト“Photoshop”と“Illustrator”でトライすることにしたのだ。

大沢荘・山の家

山の家

西伊豆の松崎町を流れる那賀川。その上流域にひっそりとした佇まいを持つのが大沢温泉だ。
海と港の印象が強い松崎だが、この界隈まで来ると辺りは一気に深山ムードへと取って代わり、流れる空気に潮の気配はない。
小さな橋を渡ると先ずは左手に唯一の旅館“大沢温泉ホテル”があり、集落の最後に立ち寄り温泉である大沢荘・山の家が対岸に見えてくる。
建物は遠目でもかなりな古さを感じるもので、失礼な言い方だが、相当に朽ちた印象である。
現在は脱衣場も含めて完全に男湯と女湯に別れているが、20年程前に初めて訪れた時は驚いた。脱衣場が男女に分かれていたので、何の疑いもなく服を脱いで湯に入ろうとしたら、そこは仕切りのないただひとつの露天風呂、つまり混浴だったのだ。残念なことに女性の姿はなかったが、湯量豊富で広々とした温泉を独り占めにでき、第一印象はとても良かったことを覚えている。
今はその広々さも二分の一に縮小、少々残念ではあるが、ゴボゴボと音を出しながら湧き出てくる源泉の勢いに変わりはなく、野趣溢れるロケーションと相俟ってトータルの魅力に衰えはない。

大沢荘・山の家
静岡県賀茂郡松崎町大沢川之本445-4
■営業時間(年中無休)
5月~8月:8:00~21:00
9月~4月:9:00~21:00
■料金
大人:500円       子供:300円

エレキバンド・その11・初演奏

woodstock四畳半に3人の男と楽器。この圧迫感にゾクゾクッときた。

「へっへっへっへっ…」

ドラムをセットしながらIが意味不明な笑いを漏らしている。
いつものことだが、気色の悪い奴だ。
傍ではゴメスが慣れない手つきでベースのチューニングを始めた。
アンプは一台しかないので、ゴメスの隣に私のシールドを差し込む。アンプに近付くと独特な真空管臭さが漂い、ムードはとてもエレキ。
アコースティックで健全な雰囲気のフォークバンドとはここが異なる。

「なんでもいいから、やろっ」

Iが急かす。
彼は“待てない男”なのだ。

「とりあえず、グリーン・オニオンでいくか」

グリーン・オニオンはブッカーTのInstrumental ヒット曲。多くのバンドやプレイヤー達がカバーしていて、非常にシンプルな3コード進行はアドリブの練習にも最適。
ダンダダダーダー、ダンダダダーダー、ダンダダダーダー、を延々と繰り返すだけだが、ピーター・グリーンやマイク・ブルームフィールドを耳にタコができるくらい聴き続けてきた自分には、この3コードが耳に入ると、ぎこちないがそれに合わせて自然に指が動くようになっていた。
やはり聴くことは何よりも大事なレッスンだ。
色々なフレーズを頭にたたき込んでおくと、いつか必ず自分が奏でるアドリブのデータベースとなって生きてくる。
音楽理論に疎く譜面も読めない私には、音楽をパターンとして覚える手段しかなかった。

ゴメスに単純この上ないベースラインを教えていく。彼は少々ギターをかんでいるので、すぐに覚え、慣れてくると抑揚まで付け始めた。コードはAだ。

「ちょっと合わせてみよう」

ついに生まれて初となるエレキ演奏が始まった。
近所への迷惑を考え、ずいぶんと音量は絞っていたが、それでもアンプで増幅したギターとベース、そして生のドラムが混ざり合った瞬間、言いようのない快感が駆け巡り、鳥肌までが立ってきた。
アンプは増幅器だが、単に生音を大きくするだけではなく、エレキ独特の音へと変化させる機能にポイントがある。後日Iが調達してきたエフェクター、“ファズ”と“ワウワウ”は、ストレートなギター音をロック風に変える優れもので、これをきっかけに独自の音作りにも意識が向くようになる。
ファズを使った演奏を楽しんでいると、何気にロック音楽の某が分かったような気分になるから不思議だ。

ー これだよ、これがエレキバンドなんだ!

これまで指の皮が厚くなるほどチョーキングの練習を続けてきたが、生音だとイマイチその効果を実感することができなかった。ところがこうしてアンプを通すと、伸びやかな音がはっきりと出てその変化に酔いしれる。
エレキギターとアンプの組み合わせは想像を超えるインパクトだった。ここを機とし、練習はできる限りアンプを使うようになっていく。
ギターばかりに現を抜かす馬鹿息子を前に、両親は辟易と心配の繰り返しだったことだろう。

「ボリューム下げなさい!!」
「分かった分かった」

中学校3年生、夏のことだ。

santana woodstockちょうどこの頃アメリカでは、伝説のロックフェスティバルとして今日に語り継がれている、“Woodstock Music and Art Festival”が開催され、何と40万人の観客を動員した。正にアメリカ音楽史に残る歴史的なイベントと言えよう。
デビュー版を一度聴いただけで大ファンとなった“サンタナ”も参加しており、当時のロックミュージック界の盛り上がりを実感した。
そして時代はロック黄金期の70年代へと突入する。
様々な個性を持ったバンドが続出、また素晴らしい内容を持った新譜もマシンガンの如く発表され、高校受験という人生の大関門を眼前にして、厳しい気持ちの切り替えに喘ぐ、悩ましい毎日の繰り返しだった。

この年、日本の歌謡界では、内山田洋とクール・ファイブがデビュー曲“長崎は今日も雨だった”をひっさげて登場し大きな話題となった。
今でもカラオケに行くと必ず歌う大好きな曲だ。

「おいっ、最高だったな!」
「いいね、またやろう」

充実感と驚き。3人の紅潮する頬をふと思い出した。

写真好きな中年男の独り言