大学でしっかりと勉強し、そのスキルを生かせる分野で大いに羽ばたいてみたい。
これが入学直後の偽りない願望であった。
ちょっとくすぐったいが、自分でも“熱いな~~”と感じた一瞬である。
しかし、少しぐらい数学が好きだという理由だけで、安直に工学部を選んだことがどれだけ見当違いだったことなど、その時点では知るよしもなかった。
そして大学生活には様々な“甘い誘い”があることも…
「次の授業は?」
「4限だよ」
「それじゃちょっと囲むか」
トランプ、花札、将棋に囲碁、バンカースからインベーダー、ファミコン、PCゲーム等々、今日まで色々なゲームを楽しんできたが、ぞくぞく度、熱中度、奥深さで麻雀を越えるものはない。
ところが幸か不幸か、これを知ったことで教室から遠のく最大の要因を背負ってしまうことになる。
現況から目を背けるという意志の弱さも手伝って、初心貫徹は入学後半年もしないうちに崩れていくのだった。
ー 俺ってサービス業向きかもな。
こんな逃避的考え方が渦巻き出せば、高等な数学、物理学、そしてドイツ語なんぞ頭に入るわけがない。
がむしゃらに勉強したって、おいそれとマスターできない内容なのに、さぼりが続けばちんぷんかんぷんは当たり前。次第に教室から足が遠のき、気が付けば雀荘で熱戦だ。
自分の馬鹿さ加減に嫌気がさし、涙が滲んだことも屡々。ついに留年が決定した時は、親の顔を正面から見ることができなくなった。
結局負け犬になってしまったが、この時点から再び勉学を極めることは到底不可能と結論付け、とにかく卒業だけは果たして、フレッシュマンとなった暁には好きなジャンルで思いっきり働こうと、張り裂けんばかりの決意を胸に秘めるのだった。
ー 俺という男の存在を認めてもらうんだ!
既に内定を取っていたのが、現在は株式会社セブン&アイ・フードシステムズの子会社となっている『株式会社デニーズジャパン』(当時名称)。優良企業であるイトーヨーカ堂の子会社ということ、そして普通のレストランとは一線を描く、オリジナリティー溢れるメニューに新鮮みと将来性を感じ、早々にリクルート情報を入手した。
新入社員から管理者に至るまでの道程には、店舗内の仕事を全てをマスターすることが義務づけられていて、これがとても好印象。新卒者にも分かり易くトータルマネージメントを打ち出しているのだ。因みに競合他社のすかいらーくやロイヤルホストは、古来からあるレストランの組織図どおりに店長コースと料理長コースが完全に別れている。
先ずは窓ふき、トイレ掃除、皿洗い等々をみっちりと仕込まれ、次の段階で調理をイロハから勉強、キッチン業務をある程度マスターできたら今度はウェイターとなって接客を経験する。担当職の仕事を一通り身につけると、推薦が必要だが昇格試験にトライできる。見事合格すれば管理者見習いとなり、仕事をしながら店舗管理を学ぶ。そしてマネージメント能力が評価されれば店長へと昇格していくのだ。
示されたのは非常に明確な流れであり、これなら奮起の甲斐ありと素直に感じることができたのだ。
卒業の目処が立ってくると、気持ちだけは一足先にデニーズのフレッシュマン。大学のことは既に忘れ、3月20日からスタートする新入社員研修に意識が集中する。
日ごと盛り上がる“やる気”は、ここ数年間感じることのなかった熱いパワー。
さぁー、始まるぞぉぉぉ!!!