小学校六年の一年間は、同じクラスのトミオとよく遊んだ。
トミオにおれ以外で親しくしていたやつは恐らくいなかったと思う。彼の家にはたびたび招かれ、初となる金持ちの家の雰囲気に圧倒されたものだ。おまけに彼は一人っ子。両親の愛情を一身に受けている様子がありありと伺えた。

トミオの住む家は千本浜公園に沿った高級住宅街にあり、二百坪はあろう敷地に、寿司屋と母屋が隣り合うように建っていた。しかも寿司屋と言っても、よく街で見るこぢんまりした店ではなく、いくつかの個室を備えた料亭に近い規模なのだ。
トミオ家は皆、犬が好き。コンテストで数回賞を取ったことのある柴犬一匹と、庭には五匹の雑種が放し飼いになっていた。最年長はメスで雑種の“クマ”。彼女は十一歳になるが、これまで百匹近くの子犬を生んだとのこと。

トミオのおやじさんは和食の料理人で、二名の職人を使っていた。おふくろさんはいつも和服を身にまとい、いかにも女将っていうオーラで満ち溢れている。
「あら、いらっしゃい」
「おじゃまします」
勝手知ったトミオの家。二階の角部屋である彼の部屋に行くと、すでにプラモデルの箱を開けて、設計図を開いていた。
「なに作るの」
「ゴジラ」
彼は怪獣の大ファン。
「なに持ってきた?」
「今回はゼロ戦」
「ふ~ん」
あまり会話をすることもなく、すぐに二人とも組み立てに集中する。
そのうち、階段を上がってくる足音が聞こえ、おふくろさんが盆にのせた麦茶と饅頭を、ちゃぶ台のように小さなテーブルへ置いた。
「ごくろうさんね。トミオちゃんはなにつくってるの?」
「…」
「あらやだ、きもちわるい。木代さんのような、もっときちんとしたもの作りなさいよ」
「好きなんだよこれが」
トミオは不器用なやつだ。部品と部品の合わせ面から接着剤がはみ出している。そもそも部品のバリが完全に取れてない。ひたすら枝から外してはくっつけているだけだ。
「プラボンドつけ過ぎじゃないか」
「えっ? ああ…」
トミオはいつだってどこ吹く風。
それにしても自分の部屋があるってのは憧れたし、羨ましかった。


トミオと二人で初めて釣りに出かけた日、朝からちょっと腹の調子が悪かった。
赤堤防で釣り糸を垂れていると、いつしかヘソの周りに締めつけられるような痛みを感じはじめ、吐き気もしてきた。これは尋常じゃないと、釣具屋の裏の草むらへダッシュして思いっきり吐いた。多少はスッキリしたが、痛みは治まらない。
「ごめん。気分悪くなった、、、帰るわ」
するとトミオ、突然釣り道具を片付け始めた。
「歩ける?」
「ああ」
これだけ持ってくれと、釣り道具が入ったバッグをさし出すと、おれの前に回った。
「おぶってやるよ」
突然のことに、びっくり。
「だ、だいじょぶだよ」
「ほら、のれ」
トミオは背丈こそおれよりわずかに小さいが、体格はガッチリ型で、体育の授業で騎馬戦をやる時は必ず“中”をやり、怖いほどの突進を平気な顔してやるから、皆に恐れられていた。
軽々と背中にのせられ、松林を抜けて、子持川沿いの小径をゆっくりと自宅へ向かう。
「ごめんね…」
この間、トミオは一言も口を利かなかった。

小学校を卒業すると、トミオは市立中学へは行かずに、どこかの私立中学へ進学、それを機に交流は途絶えてしまう。あれだけ仲良くしていたのになぜだろうと、思い起こせば不思議だ。
それから一年半後。四年間にわたる沼津での生活にピリオドを打った木代家は、東京へ戻ることになる。









