2019年・年末撮影会

初日、雨。二日目、強風。
2019年の年末撮影会は、これまでにない悪天候に見舞われたが、終わってみればやはり年を締めくくるに相応しい楽しめる恒例イベントとなった。

「雨なんて久しぶりだな」
「Mさんが参加した時以来だよ」

年末撮影会を始めてから十数年の月日が経つが、雨だったと確実に記憶しているのは過去に一度きり。
よって、ついてないと言えばその通りだが、相手が天候だけに抗うことはできず、仕方がないので、次回撮影会の下見を行ったり、雨脚が弱るのを見計らって短時間で撮影をしたりと、苦しい中、何とか楽しみを見つけようと動き回ってみた。
実は今回、普段殆ど使わないレンズを持参してきたので、何とか試し撮りでもいいから使ってみたかった。
私が所有するレンズの中には、シグマのマイクロの他に、Nikkorの24mm f/2.8Dと20mm f/2.8Dの単焦点がある。ところが春先の開花時期にマイクロを使う以外、単焦点の出番は普段殆どない。何故ならその必要性を感じなかったからだ。

2002年にニコンD100を手に入れると、これまでにNikkor、シグマ、タムロンのズームレンズだけで撮り続けてきたが、明るいもの、寄れるもの、そして手振れ補正と、それぞれに求める付加価値はしっかりと盛り込まれていて、これまでに大きな不満を持ったことはない。
そもそもズーム機能というものは、一般的な撮影に於ける80%のSituationに必要であると私は思う。
ところが、D100を手に入れた頃、ちょくちょく購入していたカメラ雑誌に単焦点レンズの特集記事が組まれていて、何気にページをめくっていくと、徐々に単焦点レンズのメリットに興味を持つようになってきたのだ。
こうなると試したくなるのが人情。そこで取り合えず入手したのが<AI AF Nikkor 24mm f/2.8D>。
一度くらいは使ってみても損はないと、廉価だったこともあり中古品で手に入れた。
早速当時のメイン機D100に装着、井の頭公園で試し撮りを行ってみると、慣れてしまったズーム機能がない為に構図がとりにくく、ちょっとしたシャッターチャンスも逃してしまう始末。使い勝手の印象は“よく分からない”が正直なところ。しかし帰宅してPCでモニターすると、なるほど、写真にもよるが立体感はよく出ているようだ。同じ条件下で撮影したわけではないので断定はできないが、当時よく使っていたシグマの24-300mmという高倍率ズームと較べれば、若干だが立体感とシャープさは上を行くと感じた。
但、撮影時の機動性に不満が残り、この試し撮り一回限りで保管ケース送りとなる。
その後、タムロンの<SP AF28-75mm F/2.8 XR Di >を使うようになってからは、完全に単焦点レンズへの興味は失せた。全域F2.8の明るさと痛快な合焦スピード、更にはNikkor24mm以上と思える解像度の高さはズームレンズの可能性を遺憾なく感じさせるレベルだったのだ。
それでは、なぜまた?!
D600との相性とでもいうのだろうか、ずいぶん前だが、T君から譲ってもらった<AI AF Nikkor 20mm f/2.8D>を、先日何気にD600へ装着して、自宅近くの玉川上水でスナップをしてみたのだ。すると、開放近くで生じる周辺光量落ちがやや目に付いたものの、寧ろ渋い味わいを醸し出している。基本的な解像感は申し分ないし立体感も極々自然。これがもうすぐ発売から30年は経とうという、オールドレンズならではの味わいかもしれない。
年末撮影会はある意味お祭り。だったらこの小さくて古いレンズをまじめに使ってみようと思いついたのだ。

下田にある宿の場所を確認すると、そのまま市街を抜けて入田浜~大浜を見て回り、明日訪れる予定の、田牛の龍宮窟駐車場をチェックした。
昼過ぎから若干空が明るくなってきたが、相変わらず雲は低く垂れこめ、しとしとと小雨が降り続けている。
県道沿いにあった蕎麦屋で昼食を取った後は、目と鼻の先にある蓑掛岩周辺を時間をかけて見て回った。奇岩が立ち並ぶ蓑掛岩は、ほぼ伊豆半島の先端に位置し、様々な角度、時間帯等によってその景観を変えるフォトジェニックな撮影ポイントである。

「この程度の雨なら、カメラ、大丈夫だよね」
「全然いけるよ」

早速D600+20mmを取り出した。
港から山側を望むと、稜線に風力発電の巨大なプロペラがいくつも立ち並んでいる。再生エネルギーの積極利用は地球温暖化対策の重要な柱であり、今後も推進していく必要があるが、いかがなものだろう、この伊豆の自然に於ける景観と生態系への影響は多大であり、一個人としては山々を破壊する有料道路の開発を筆頭に、再考を心から期待している。
巨額な血税の費用対効果を住民視線でしっかりと捉えているのか、また、プロジェクトの結果に対する責任を取れる度量があるのか。

ファインダーを覗くと、固定された画角が「撮れるのかい?」と、いきなり訴えかけてきた。
ちょうどその時、右手の堤防にウミネコが降り立ったが、ズームアップできないもどかしさに早速舌打ちが。画角にあった被写体を探す流れは慣れていないので苦しいところだ。特に年末撮影会のように歩きながら被写体を探すようなやり方では、当然ながらズームの方がシャッターチャンスは多い。
明日は晴れるというから、行動半径もぐっと広がるに違いない。20mmのテストは初日で終了としよう。

宿泊先は下田外浦海岸にある<伊鈴荘>

部屋の窓を開ければ眼前は海なので開放感は満点。気さくな女将さんに新鮮度抜群な海の幸、それに湯量たっぷりな温泉が体の芯から温めてくれ、これで一泊12,000円はリーズナブル。
毎年宿を変えるのも楽しみだが、ここはリピートしたい宿のベスト3に入りそうである。

「今日は風が強くなるそうですよ」

チェックアウトの際に女将さんが気になる一言を放った。

「特に西側は酷いらしいです」
「そりゃまいったな、今日は西側を辿って沼津まで行く予定だからね」
「昨日は雨で今日は風かぁ~~」

宿を出てから龍宮窟までは良かったが、その後、女将さんの言った通り、徐々に風は強くなってきた。これから更に荒れてきたら、行く先々は海ばかりなので、良い被写体に恵まれるかは微妙だ。
龍宮窟での撮影が終わり次へと進むが、ここから国道へ抜ける道は、昨日の下見で極めて通り辛いことが分かっていたので、来た道を戻ることにした。
すると、来る時は気が付かなかったが、大浜の駐車場から少し行った左側に神社を発見、

「あれ、あそこ、何気にいいな」

吉佐美八幡神社は、まさにぽつんと現れた。鳥居越しに佇む神祠の静寂感に惹かれ、車を降りると大凡30分間撮影に没頭、強風の中の静寂と言わんばかりの趣は、イスノキの大樹が醸し出すところが大きかった。

予定していた蓑掛岩へ到着すると、港の外水平線に至るまで白波だらけ。さらに蓑掛岩周りの岩礁からは派手な波飛沫が立っている。だったらこの荒々しさを切り取ろうと、波打ち際まで進んでカメラを向けた。ここはD7000+18-200mmを持ち出す。
100mm程にズームアップすると、ファインダーの世界はまさに嵐。これは画になると、無我夢中で20ショットを撮り収める。その時ふとカメラに目をやると、案の定、潮でベタベタ。特にフィルターが酷いことになっている。

「エツさぁ、クリーニング液持ってる」
「あるある」

ボディーはあとでじっくり掃除するにしても、フィルターにこれほど潮が付くと撮影にも影響しそうだ。頭の髪の毛などは、バサバサガチガチで指も通らないし、唇を舐めれば塩っ辛い。

次に予定していたのが奥石廊のユウスゲ公園。ここは遮蔽物の全くない岬のてっぺんだから、折からの強風でさぞかし凄いことになっているだろう。

「どうする」
「怖いもの見たさだよ、行こういこう」

ということで車から降りようとしてドアに手を掛けたが、風圧でやたらと重い。
カメラをたすきに掛けて、いざ階段を登ろうと前を見上げたら、中学生くらいの女の子が中腹程を歩いていた。すると危険を感じたのだろう、我々の傍にいたお父さんが、

「戻りなさ~~い! 危ないよぉ~~!」

声を張り上げた。
あのスリムな子では本当に危ないかもしれない。若しも突風にあおられてこの下へ落ちたら、間違いなく最悪の事態になる。
我々も強風に振られながら鐘のある広場まで行ってはみたが、真面目にここは凄まじく撮影どころではない。
戻って車に乗り込むと、腹も減ってきたこともあり、ここは一気に土肥まで歩を進めた。
毎度馴染みの台湾料理屋「龍華」でランチを取る。ボリューム満点で味も良く、疲れた体にパワーが蘇る。

「どうします淡島は」
「どうもこうも、こんな風があったんじゃ三脚が立てられないよ」
「だよね、夜景のスローシャッターなんてこれじゃブレブレだ」

昨年初トライした、発端丈山に通ずる登山道から狙う淡島とバックに聳える富士山。しかし撮影一時間前ほどから雲が張り出し、肝心な富士山が隠れてしまったのだ。そのリベンジということだったが、これは諦めるしかないようだ。

「でも、このまま帰るんじゃ物足りないね」
「だったらさ、最後、戸田の御浜岬へ行こう。あそこだったら駐車場も無料だし」
「そうしましょうか」

というわけで向かった戸田。到着してみれば風は更に激しくなっていた。
防風林の内側にいても容赦なく風は通るし、しかも急に気温が下がってきたので、寒さで震え上がくる。但、夕暮れに入る前の斜光は周囲を美しくライトアップし、気が付けば一時間も撮影に没頭していたのである。

何かと予定通りにはいかなかった今回の撮影行だったが、被写体を探し、レンズを選び、そして構図を考え露出を決める、そんな単純な行為こそ楽しさの根源であり、写真撮影の醍醐味であるということを改めて味わう旅でもあった。
そしてこの楽しさを感じられる限りは、Tくんも私も写道楽の道からは抜けられないだろう。

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