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腸脛靭帯炎

先日の西沢渓谷で膝の調子に自信を持った私は、更に弾みをつけようと、翌々週の休日に、今度は奥多摩へと出掛けてみたのである。
山に入って一日中快調に歩けた時の喜びは大きい。これは膝痛持ちしか分からない“感動”と言って憚らないもので、激しく痛む左膝を庇いながらの下山になれば、精神的にも辛く、いったい何のために山へ入っているのかと、自問自答までが飛び出すことさえあるのだ。

25年程前まで、多少だがゴルフを嗜んでいた。学生時代にゴルフ場でアルバイトキャディーをやったり、体育の授業にゴルフがあったりと、若い頃から少なからずの関わりがあったので、それほど好きではなかったが、一応一通りの道具は揃えていた。
今の勤め先に入ると、社長が大のゴルフ好きということで、年に2~3回はスタッフコンペを楽しんだり、同業者のコンペに参加したりと、プレイの頻度は高まっていった。
そんなある日、あと2ホールを残すという頃、突如左膝に違和感が出始め、それは徐々に痛みへと変わり、終いには足を引きずるまでになってしまった。
クラブハウスで軽食を取り、それでは帰ろうかと下り階段に一歩踏み出すと、またもや痛みが走り、手すりを使わなければまともに下ることすらできないのだ。しかしそんな後でも平坦路では痛みらしい痛みは感じず、翌日になれば、昨日の膝はどうなっていたのだろうと、首を傾げるくらいに回復するのだった。
実はこれが【腸脛靭帯炎】の典型的な症状であり、こいつが山歩きを趣味にした時、大きな壁となって圧し掛かってきたのである。
そもそも腸脛靭帯炎とは、< 膝の屈伸運動を繰り返すことにより、腸脛靱帯が大腿骨外顆と接触(擦れる)して炎症(滑膜炎)を引き起こし、疼痛が発生する >というもので、これまでは予防策として、山に入る直前に膝脇のストレッチを行い、接触点周辺の張った靭帯の緊張を解してやったりと、そこそこに意識して続けてきたが、余り効果らしいものは得られなかった。
そこで更に詳しく調べ進めると、この腸脛靭帯は腰回りにある大腿筋膜張筋や臀部全体の筋肉と繋がっていて、その辺の張筋や筋肉も同時に柔らかくしなければ全く意味のないことが判明した。
特に日頃から行う大腿筋膜張筋のストレッチは重要なポイントらしく、それではと、毎朝夕に15分間ほど行うことにしたのだ。
まだ始めたばかりなので、どれほどの効果が出ているかは定かでないが、先日の西沢渓谷では、約4時間の歩行の間に一度の違和感も痛みも発生しなかった。

11月2日(木)。この上ない快晴に恵まれた奥多摩地方。体調はボチボチだったが、何より膝の調子が上向きだったので、馴染みのコースで様子を見てみようと、<鳩ノ巣駅⇒ 御岳山 ⇒ 日の出山 ⇒ 愛宕尾根 ⇒ 二俣尾駅>を選んだ。コンディションが整うと、心は自然と高揚してくるものである。
馴染みの鳩ノ巣無料駐車場へ車を停めると、すぐに出発。R411を横断して多摩川を渡った。

「なんだって、工事中?!」

補修工事の為にいつものルートは使えず、迂回ルートが指示されていた。読めば城山経由となっていて、距離は少々増えるようだが、初めての道は楽しみでもあった。一応山地図を開いて確認すると、なんとこの迂回路、載っていない。普段は余り人の入るところではないのだろう、すぐに荒れた道を想像する。

それまでの林道から右手となる山側に入ると、一気に高度を上げようとする巻き道が連続した。枯葉が積もった極端に狭い山道をトラバースしていくのは、結構な神経を使う。山側にホールドできる樹木があれば安心だが、全くないところを3m、5mと進むには、とにかく集中する以外ない。
何度かの急登をクリアすると、“鳩ノ巣城山”の道標が忽然と現れた。見晴らしは全くきかないが、頂は平らでそこそこの広さがあったので、ここで休憩を入れることにした。
切り株に腰掛け、菓子パンを頬張る。まだ歩き始めだが、疲れているのか、甘さが体に染み入っていくようだ。
予想以上に汗をかいていたので、パーカーを脱ぐと、木々を通り抜ける微風を感じられ、背中がヒヤッとした。
ここも奥多摩に多く見られる施業林だが、私は好きである。

大楢峠に到着すると、馴染みの山にいる安心感がこみ上げてきた。今回は計画通りに裏参道で御岳山へ向かうが、次回はここから鍋割山へ向かうルートにトライしてみようと思っている。
そう、この頃になって当たりが出てきた感のあるモンベル・ツオロミーブーツは、堅牢且つ非常に歩きやすいので、トレッキングブーツを検討している諸氏にはおすすめしたい。

御岳の集落に到着すると、いつもながらの活況が出迎えてくれた。改めてここは人気のスポットなのだとしみじみ感ずるところだ。
目抜き通りに入ると、どこかの女子高のハイキングらしく、山頂方面から数人単位のグループで次から次へと降りてきた。彼女達に疲労などないのだろう、皆黄色い声を発し、それは賑やかだ。ところが偉いもので、殆どの子達がすれ違いざまに、<こんにちは!>の一声を投げてくるのだ。これは先生方の指導の賜物だろう。

御岳から日の出山へ向かう道筋で、何と5名のハイカーに抜かされた。自分で言うのもなんだが、私の歩行速度は遅い。しかしこれは長年の山歩きで得た最適なペースであり、絶対に崩すことはない。
ところがだ、若い子や同年代の方々に抜かれも全く動揺はしないのだが、最後に抜いていった一人の男性は、どう見ても70歳代。背中が丸く顎も出ているのに、恐ろしくハイピッチなのだ。この時ばかりはいつもの自分を見失った。気が付くと男性の背後数メートルに付き、追尾を始めていたのだ。
男性は歩幅が極端に小さいのでハイピッチになるのだが、それにしても速度がある。急にそのペースに合わせた為に息が上がったが、今日は膝の調子が良いので構わずついていった。しかし正直なところ、この速度はきつかった。
300mほど追尾しただろうか、男性のペースは頑固なまでに落ちず、徐々にだがその背中が小さくなっていったのだ。

― あ~、馬鹿な真似はやめよう。

敗北である。男性は間違いなく山のベテランであり、そのキャリアは相当なものとみた。山が好きと言ってもたまにしか歩かない私では敵うわけがない。それより一時の感情でペースを崩したことが悔やまれてならず、伊豆スカイラインで峠ライダーをやっていた頃から少しも成長していない自分に気が付き、とてつもなく情けなくなってきた。

日の出山山頂に到着し、辺りを見回したが、あの男性の姿はなかった。
ここで休憩しないわけはないので、途中、五日市方面へ降りて行ったのだろう。全く恐れ入ったものだ。
オーバーペースでかなり疲労してしまったが、多少なりとも食欲はあったので、昼食にありつくことにした。
最高の天気で眺望は素晴らしく、西武ドームがくっきりと見える。更にはポカポカ陽気が山頂を覆っていたので、満腹になると眠気が襲ってきた。山の良さを感じる一瞬である。
若い女性の二人組、年配女性の二人組、カップル三組、単独女性一人、そして単独男性は私を入れて四名。いつもながらの賑やかさ。アクセスが良くこれだけの景色を眺められるのだから、人が集まるのも 頷ける。私自身、何度訪れたか分からない。

秋の夕陽はつるべ落とし。余りのんびりしていると愛宕尾根でヘッドライトを使う羽目になる。さっそく下山を開始した。

ここからが正念場である。腸脛靭帯炎、つまり膝痛は下り時に発症するからだ。
頂上からは急な下り階段が連続し、それは膝痛が起きる典型的な状況と言える。調子の悪いときは早くもこの階段で違和感が出てしまい、ゴール直前である愛宕尾根の急坂を、痛みに耐え、歯を食いしばりながら、亀のような速度で下っていくのだ。

― 今日はどうした?! なんだかいい感じだぞ~☆

それでも左膝を気にしながら歩を進めたが、あっという間に梅ノ木峠に到着し、最後の休憩に入った。
ここにはおあつらえ向きのベンチがあるので、どっしりと腰を据え、ストレッチを始めた。腰回りを伸ばしたら、次は膝外側の靭帯を伸ばす。これを3セット行うと下半身が幾分軽く感じるようになり、気分も落ち着いてきた。
東へ目を向けると、山間を縦横無尽に走る送電線に斜光が反射し、夕暮れの様相が濃くなりつつあるのが分かった。ザックを背負って水分補給を行うと、早々に出発した。

愛宕尾根でも膝は絶好調。結局、ゴールである愛宕神社に至るまで、違和感すら覚えることはなかった。
非常に嬉しいことではあるが、今後を考えれば、その要因を知りたいもの。
先回の西沢渓谷が足慣らしとなったのか、はたまた最近始めたストレッチの効果が出たのか、それともその二つの相乗効果によるものなのか。
山歩きも雪が降りだせば来春までお預けだが、その期間こそ膝を改善する大事なインターバルになる。
今後は更に研究を重ね、来春こそテン泊を復活させたいと思っている。

西沢渓谷

一度は歩いてみようと、以前から気に留めていた「西沢渓谷」。
<四季を通じて楽しめ、特に紅葉の頃は素晴らしい渓谷美が!>と、Webサイト、雑誌等々、どれを見開いてもそそるキャッチが飛び出してくる。
そんなわけで、久々の快晴となった10月26日(木)。紅葉もそろそろ始まる頃だろうと、意を決して出かけてみたのだ。

真新しいタイヤで乗り心地が良くなったE46。滑らかなフィーリングを保ちながら、早朝の中央道をストレスなく走る。勝沼ICを降りると、フルーツラインをひたすら北へ向かい、途中、R140へ合流。ここから西沢渓谷の入り口は間もなくだ。
アクセスと流れの良さに助けられ、9時前には駐車場へ到着。所要時間は2時間を切った。
それにしても、さすがの人気トレッキングコース、見渡せば平日なのにほぼ満車である。あちらこちらで出発の準備をするハイカーを目にして、期待感は膨らんだ。

歩き始めは平坦な林道が続く。飽き始めたころに西沢山荘が見えてきて、ここから渓谷道へと降りていくのだが、それにしても年配者の多いことには驚いた。しかも殆どが群れ成して行動している。見るからに山歩きの経験が少なそうな人ばかりで、正直なところ危なっかしい。渓谷道には濡れた大小の岩が多く、滑って足首を挫いたりする危険性は大いにあるのだ。とかく西沢渓谷はハイキングコース的な見方をされているので、初心者が多いのは頷けるが、実際は鎖場などもあるれっきとした登山道だということを忘れてはならない。

渓谷美は下馬評通りに美しかった。様々な流れや大小の滝は目を楽しませてくれ、何度も立ち止まっては見入ってしまう。しかし渓谷道の道幅は全域に渡り狭く、三脚を立てれば他のハイカーが通れなくなる程で、腰を入れて撮影を行う場合は、早朝または渓谷道を外れた場所を狙うしかないだろう。

メインビューである“七ツ釜五段の滝”に差し掛かった時、思わず<凄いな!>と口に出てしまった。
それまでにも美しいビューポイントは多々あったのだが、ここは何と言っても迫力が桁外れだ。自然が作り出す造形美というものは、唯々脱帽であり、堪らなくMiracleである。夏に訪れた“にかほの元滝伏流水”にも感動したが、ここも負けてはいない。大昔、初めてこの渓谷に入り込み、この光景を目の当たりにした人はさぞかし驚いたことだろう。

七ツ釜五段の滝から先は短いが急登となり、案の定渋滞が始まっていた。

「どうぞお先に」

これで2回目のコールである。ざっと見渡しても70歳前後の方が多いので、こんな坂では当然歩く速度は遅くなり、歩みに滞りが出てしまう。皆、顔を赤らめ、呼吸も苦しそうだ。特に頂点である森林軌道の手前からは急峻さが増し、先を行く一人の男性は、木の階段を一段上がるたびに立ち休みを繰り返して、長い渋滞をこしらえていた。
純然たるハイキングコースだと思って歩き始めた年配者の方々には、ちょっとしんどい場面だろう。

登り切ると、ベンチがいくつか配列され、多くのハイカーが休憩の真っ最中だった。ここで私も昼食を取ることにした。
人いきれはあるものの、木々を通る空気は爽やかで、自然に包まれる気持ちの良さは十分に感じられる。おにぎりを平らげると、リラックスしたのか、ちょっとだけ眠くなってきた。
下山は森林軌道をひたすら下っていくのだが、傾斜は緩やかで膝に負担が掛かることはない。但し、結構距離があって、しまいには辟易としてくるほどだ。正に「終わり良ければすべて良し」の真逆のパターンであり、この点だけは惜しいところだ。

久々の山歩きだったので、なるべく体に負担の掛からないコースにしようと、ここ西沢渓谷にトライしてみたわけだが、この点は大正解。筋肉痛も持病の腸脛靭帯炎も全く起こらず、理想的な足慣らしができたと思っている。

油断禁物

7月17日(月)付けの読売新聞に【低い山でも遭難多発】という見出しの記事が載った。以下は記事の抜粋である。

昨年の山岳遭難は2,495件、2,929人と、共に過去2番目に多く、死者・行方不明は319人。低山が多い首都圏(東京、埼玉、千葉、神奈川)に限ると、件数、遭難者数とも5年連続増で、昨年は34人が死亡。今年も遭難は多発しており、最高峰が400m強しかない千葉県でも、5月末までに3人が死亡した。

例を挙げよう。
3月10日(金)。千葉の鋸山では、71歳同士の男女が、よりによってハードな登頂を強いられる難コースを選び、山頂近くで目撃されたときには疲労で足元もおぼつかなかったという。しかもこの時点で時刻は午後4時。季節を考えれば既に夕闇が迫っていたはずだ。疲労困憊を背負いながら暗い山道を下るのは、ベテランでも緊迫するところ。
恐らく焦りが働いたのだろう、山道と斜面を誤認して滑落。発見は4日後だったという。
これは無計画な登山がもたらす事故の典型と言えそうだ。

5月5日(金)。山梨の尾白川渓谷では、小学4年生の男児が渓谷へ転落、死亡した。
ここは二度ほど歩いたことがあるが、尾白川渓谷を紹介するいくつかのキャッチコピーからは、何気にハイキングコースレベルと勘違いさせるニュアンスが漂う。しかし実際は紛れもない山道なのだ。深い谷をトラバースしていくコースには、何ヶ所も危険なポイントがあり、足を滑らしたら最後、大人でも致命的な結果を招いてしまう。
山道は花崗岩が風化した砂利が多い為、滑りやすく、トレッキングシューズの着用は必須。ちなみに男児が履いていた靴はスニーカーだった。

何れも低山という油断が起因する事故と思われ、観光地でもその裏側には大きな危険をはらんでいる事実を表している。

精神の浄化

6月22日(木)。久々の山歩きを楽しんだ。最後に行ったのが去年11月の“八丁池”だから、既に8カ月が経過している。
山から遠のいた理由は様々あるが、やはりマンネリ化してきてきたことが一番だと思う。その他にもD600での試し撮りスナップが面白くなったり、はたまたリチャードとの公園巡りが楽しかったりで、以前より目が向かなくなったのが正直なところだろう。
<それじゃあ、なんで?!>
梅雨入りで毎日が不安定な空模様の中、貴重な晴れ予報が出ていたこと、そしていつまで経っても良くならない腰痛に、<逆療法でもくれてやれ!>と、少々やけっぱちな心情が働き、今回の山歩きとなったのだ。
そんなことで、ルートは足慣らしによく選ぶ“御岳山~日の出山”に決定。当日はゆっくりと7時に自宅出発した。

それにしても腰痛の治りが悪い。一カ月以上経ってもほとんど症状に変化がなく、不安ばかりが膨らんでいく。痺れは一切感じないので椎間板ヘルニアではないと思うが、清水さんのお父さんが手術すれすれまで悪化させ、一カ月近く仕事にならなかったと聞いて、今までは放っておけばそのうち治ると強気でいたが、そろそろ病院へ行かねばと考えている。

8時半前に二俣尾のセブンへ到着。道の流れは頗る良い。
さっそく車から降りようとすると、

「うっ!」

重い痛みが邪魔をして、シートから腰を浮かせることができない。座った状態が長く続くと必ず痛みが起きるが、それにしても強烈だ。座面に手をつき、体を支えるようにして何とか立ち上がったものの、これで山を歩けるのかと心配になってきた。
鳩ノ巣の無料駐車場へと車を移し、着替えなどの出発準備を整えた後は、入念なストレッチングで腰の緊張を解した。うっすらと汗をかくまで繰り返すと硬さが取れ、幾分軽い感じになってきたので、予定通りに出発。R411を横断して多摩川に架かる雲仙橋を渡る頃には、何とか痛みも落ち着いてきて、久々の山歩きを楽しもうという前向きな気分になってきた。
幾分水量を増した眼下の多摩川は、いつもながら美しい渓谷美を放っている。
この先の集落を通過すれば、山道の入り口だ。

前日の雨でそうとうにぬかるんでいると覚悟を決めていたが、こちらはそれほど降らなかったようで、山道のコンディションも上々だし、空気感にじっとりさはない。むしろ木々の間を爽やかな風が駆け抜け、その気持ちよさに鼻歌までが飛び出した。
但、山中は新緑を通り越し、猛然な勢いで草木が成長しているので、いたるところで枝葉をかき分け進むことになった。
大楢峠で短い休憩の後は、いつものように御岳山へと向かった。
前回はこの先で巨大な角を持つ牡鹿と遭遇し、腰を抜かした。熊じゃなくて助かったが、鹿でもあれだけでかい奴だと、その存在は恐怖そのもの。
小さな沢と、ちょっとした岩場を超えると、御岳山の集落はもうすぐだ。

「おっ?解体か」

このルートで集落入りすると、最初に出迎えてくれるのが藁葺屋根の古い民家である。ところがその古民家がついに解体の運命らしい。見れば一部の柱と梁を残して殆ど骨組み状態になっている。完全な解体ではなく恐らく修復だと思われるが、親しんだオリジナルが消えてしまうことは寂しいことだ。
それはさておき、ここから始まる石垣はいつも目を楽しませてくれる。なぜなら、この石垣には季節ごとに何らかの可憐な花がいつも開花しているからだ。先回訪れたときには、なんとカタクリを見つけることができた。カタクリと言えば御前山の群落が見事だが、ほかの花にまじってきっちりと咲いている様は、中々の妙を感じる。
ここまでは腰痛の影響もほとんど出ていなかったので、いつも利用する紅葉屋へは寄らずに、このまま日の出山へと歩を進めた。
それにしても、この人影まばらはどうしたことだろう。いつもそこそこの活況を見せている御岳山集落なのに、、、

集落から日の出山までは、尾根道を行くことになり快適だ。
ケーブルカーで上がってきた大勢のハイカーも流れてくる人気のルートでもある。

「こんにちは!」

おそろいの“岳”Tシャツを着こんだ若い人5人組が軽快な速度ですれ違う。
紅潮した頬からは若者ならではのパワー感が漲り、歩き去った後姿を眺めれば、無意識のうちに羨ましさがこみ上げた。悲しいかな、これも歳を取ったせいか、、、

13時過ぎに日の出山山頂へ到着。ややガスっていたが眺望は十分。お気に入りの場所だけに、昼食タイムを兼ねてゆっくりと時間を楽しむことにした。
ここは東から南にかけての眺めが良く、空気が澄んでいる時などは西武ドームがくっきっりと確認できる。大岳山方面も広々としていて、山の連なりが登山心を掻き立てる。
ぐるり見渡すと、東屋に2名の年配男性。手すり側のベンチに年配女性の2人組。西側には年配男性が出発準備の真っ最中。そして向かいのベンチにはやや小太りの30代と思しき女性がガイドブックに見入っている。誰と会話をするわけでもないが、狭い山頂に集っているだけで、なんとなく近しく思えてくるのだから不思議だ。
おにぎり2個とクロワッサン1袋を平らげた後は、入念にストレッチングを行った。
腰に問題はなかったが、いつもの左膝に違和感を覚えはじめたからだ。
多少のアップダウンはあるものの、ここから愛宕神社までは下りとなるので、この兆候は不安材料になる。違和感の本元である腸脛靭帯炎は、下り時にのみ起こる痛みなのだから。

結局、愛宕尾根の下りは涙・涙・涙であった。
山を歩き回るための筋力は殆ど振り出しに戻っている筈なので、これは致し方のないことだが、送電線塔から先の急坂の連続では、ウッと声が出るほどの痛みも走り、情けない気分を通り越して苛立ちを覚えてしまう。特に愛宕神社の長い石段を下る際は、手すりに思いっきり体重を乗せて、一歩一歩だった。
しかし、そんな痛みを差し引いても、山歩きは楽しいものだ。
鳩ノ巣~古里~川井~御嶽~沢井~軍畑~二俣尾と、青梅線の駅で6駅分、路線距離にして10Km以上に登り下りの負荷を加えた山中の道を、自分の足と感覚だけを頼りに歩き切る達成感は、何度味わっても気分がいい。
そして7時間半もの長い間、自然の中に身を置くことは、精神の浄化に大きく寄与すると私は信じている。

天城の森・八丁池

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11月9日(水)。日々紅葉の情報が入る中、二年ぶりの八丁池を目指してみた。
天城の森は紅葉の時期ならずとも足を踏み入れたい魅力的なところだが、自宅から160Kmと距離感があり、そして近頃頓に増えた野暮用で、なかなか出掛けるきっかけがつかめないのが現況だ。
こんな時いつも思う。暇と金が欲しい、、、と。

5時に自宅を出発。驚くほど空いた東名高速を飛ばし、裾野ICを降りるとデニーズ三島北店で朝食。その後セブンで食料の買い出しを済ませ、スタート地点である水生地下駐車場に着いたのが9時を回った頃だ。
見回すと2組のハイカーが既に登山準備中。どちらも夫婦者と思しき人達で、方や50歳代前半、もう一方は30歳代半ばほどであろうか。若い方の奥さんは原色中心のウェアをバッチリと着込み、山ガールの見本のようだ。
そうこうしているうちに年増夫婦は出発、国道を渡ると森の中へ消えていった。

八丁池までの往路は今回も“上り御幸歩道”を使った。奥多摩辺りでは少なくなった原生林の素晴らしさを味わえるナイスなルートである。八丁池そのものより、ここを歩けるところにこの山行の醍醐味があると言っていい。そもそも天城の森の最大のポイントはブナとヒメシャラが織りなす魅惑的な景観にあり、しかも飽くことのない素晴らしいものなのだ。
特に今回は随所で程よいガスが立ち込め、息をのむほどの幻想的な世界を何度か見られラッキーだった。

旧天城トンネル脇から山道へ足を踏み入れると、何かいつもと違う雰囲気に気が付く。そう、先回は森全体が咆哮をあげるほどの強風に見舞われたのだが、今回は打って変わっての無風状態。まだ三度目だが、これほど静かな天城の森を体験したのは初めてである。聞こえるのは落ち葉を踏みしめる音と鳥のさえずりだけ。暫し静寂の空間に酔いしれた。

一時間も歩いた頃だろうか、前方から女性の声らしきものが飛んできた。耳を澄ませると、、、
「わー、きれい!」、「あははは、やだー」、「すごーい!」とかを連発している。
徐々に声の元へ近づくと、先行していた若夫婦の姿が目に入った。よく見ると二人とも一眼レフを構えていて、木々やコケらしきもの熱心に撮影しているではないか。
ご主人はひたすら被写体を捕らえシャッターを下ろしているようだが、奥さんは何かにつけ声を発している。
「これいいかも!」とか、「ちょっと難しいかな~」とかである。
私も写真好きの一人としてわかる部分もあるが、度が過ぎる音量は正直耳障りであり、もっと周囲の空気感を理解してもらいたいと思った。

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一年前の瑞牆山登山以来、一度も山に踏み入れていない鈍った体は、ワサビ田を過ぎたころからずっしりと重さを感じてきた。スタミナ不足は明白だが、それ以上に腰回りに痛みが出始めたことが気になった。思った以上に下半身が弱っているのだろう。歩行に踏ん張りがでず、安定感は欠けたままだ。そのうちに息も上がってきたが、ここは体に鞭を打ち、立ち休みもそこそこにして一気にゴールまで急ぐことにした。
爺さんのようにどっかり座って長々と休憩することは、心情的にも許されない。

八丁池の直前まで来ると、前方から賑やかな話声が聞こえ、間もなくすると年配ご婦人の8人組が下ってきた。

「あら、こんにちは」
「こんにちは」

60歳代後半の面々と見たが、皆、元気いっぱいだ。

「池はもうすぐですから、頑張ってね♪」
「はい、ありがとうございます」

酷くやつれた顔をしていたのかもしれない。励まされて消沈するとは、なんとも情けない話である。やはり最低でも月に一度は山に入り込まないと、必要な筋肉はどんどんと退化してしまうのだ。若い頃と違い、この辺の管理をしっかり行なわないと、いざ山行のチャンスが到来しても対応できなくなる。

池に到着すると、先行していた年輩夫婦、そしてお喋り好きな奥さん夫婦の姿が目に止まった。その他にも若い男性の二人組に、私と同年代と思しき男女4人組が東屋の前でそれぞれ寛いでいた。
腕時計を見ると13時ちょい前。ここまで3時間半も掛かっている。いくら撮影しながらの山行と言っても少々ローペースである。
先ずは東屋のベンチに陣取り一息ついた。吐息の白さで気が付いたが、周辺の気温はかなり低く、おまけに少々風も出てきたようだ。体を冷やさぬように急いでジャケットを羽織った。冷たくなった手でストーブ、コッヘルを取りだし、昼食の準備に取り掛かる。腹も減ったし、何より暖かいものを飲みたかった。
湯が沸くまでの間、暫し湖畔で撮影にトライ。紅葉の進行状況は八分と言ったところだが、入口周辺のモミジはきれいに発色しており、十分な被写体と言えよう。
久々の山歩きはしんどかったが、カメラさえ構えてしまえば発見が連発して心が踊る。意識せず自由自在に扱えるNikon1・V2は、もはやなくてはならないフィールドの友である。
どんなカメラも欠点を挙げれば必ず幾つか出てくるものだが、このV2の持つ撮影機能と1インチセンサーが生み出す立体感ある画は、欠点など忘れ、撮る楽しさをこれでもかと訴えてくる。
一般的に言って、ニコン・ミラーレス機に対しての評論に芳しいものはない。だいぶ前の記事には、“Nikon1に未来はなく、早々にディスコンか”とまで書かれていたものだ。そんな風評があってか、ユーザーレベルの人気度を見ても下位に甘んじている。
しかしだ。“連写とスナップは得意だが、風景となると力不足”などと安易に嘘ぶるV2のインプレッション記事が、如何に多くの読者に誤解を与え、手に取るきっかけさえもを奪っている事実を真面目に考えてもらいたいのだ。

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寒さのため沸騰に時間の掛かった熱湯をカップ麺へ流し込むと、3分の間におにぎりと甘いパンを平らげた。体こそ疲れてはいたが、頗る調子のいい胃腸は大変な空腹を訴えていたのである。
毎度のことだが、山でいただく食事は本当に美味しいものだ。特に寒い時のカップ麺は本物のラーメンを凌ぐ。
スープを一滴残さず飲み干すと、やっと一息付け、若干だが体が温まってきた。
改めて周囲を見回すと、夫婦二組が早々と荷物を片付けて出発準備をしている。若い男性二人は既に天城縦走ルート方面へと姿を消していた。
やはり底冷えが厳しいので、長居が出来ないのだ。
気が付くと東屋には私一人。寒さも静けさも、そして眺めも独り占めである。
せっかくなので、このまたとない空間に暫し身を置くことにした。
池に目をやると、多少風が強まったのか、頻繁に水面のさざ波が現れては消えている。深い自然の中ではこんな変化をただぼうっと眺めていても飽くことがなく、時として様々な撮影ヒントも浮かび出す。
数年前に出掛けた滑沢渓谷では、二つの支流がぶつかり渦巻く様子がとても面白く、寄ったり引いたり、はたまたレンズを換えたりして、そこだけで50枚近くも撮ったものだ。
こんな楽しさを発見できるのも自然の摩訶不思議があってこそであり、興味は尽きることがない。

下山にも先回同様、“下り御幸歩道”を使った。
このルートも見事な原生林を堪能することができるので、眺めながら、そして撮影しながらの下山となった。
久々の山歩きは体に堪えたが、今回はなぜか膝の調子が良く、急な下りの連続でも悲鳴を上げることはなかった。もっとも奥多摩の急峻なルートと較べれば体力消耗度は低いと思うので、単純には喜べない。
淡々とした下りの後は更に淡々とした林道歩きが残っていた。なだらかな下りの舗装路だが、この路面の固さが意外や体の芯に堪える。しかしここまで来れば、あと一踏ん張りでゴールだ。
分岐まで下りて来ると、橋の手前に八丁池にいた年輩4人組の姿が目に入った。輪になり地図を広げているので、ルートの確認だろうか。

「お疲れさんです」
「すみません、ちょっと聞いていいですか」
「はい」
「水生地下って、こっちの道でいいんですか」
「これ真っ直ぐです。僕もそこに車を停めてあるんで」
「そーですか」

ここから駐車場までの大凡10分間少々。4人組とお喋りをしながら下ることになった。
恐らく同年代と思われる男性二人、女性二人の彼らは、千葉県市川市から来たとのことだが、どのような関係の集まりかは定かでない。定期的にアウトドアを楽しんでいて、その基本はキャンピングカーだと言う。大人4人が余裕で横になれる大きさがあり、この後も近くのオートキャンプ場で一泊するそうだ。
彼らもやたらと元気があり、わいわいがやがややりながらも歩くスピードは結構速い。

「それじゃこれで」
「気を付けて!」

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キャンピングカーはその重みのせいか、ちょっと心配なほどにタイヤを撓ませ、車体を傾けながらゆっくりと駐車場を出て行った。そして国道に出たところでサイドウィンドウに午後の日差しが反射した。
山々は既に夕連れの様相である。
爽やかな疲労が残る体をシートに収めると、一本残ったミネラルウォーターを開けのどを潤した。

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