七月二十七日(水)。おおよそ一か月ぶりに山を歩いた。
気温が高く、終始汗が噴き出るしんどい山行だったが、やはり森の中は別格の居心地だ。馴染みの麻生山へはいつも白岩の滝スタートなので、上り始めはずっと渓流沿いだから涼しくていいが、麻生平の光が見え始める頃になると、瞬く間に熱気が襲ってくる。ポリエステル100%のKappaのポロシャツは、既に乾いた部分が全くない汗みどろ状態。絞れば間違いなくジャーっと滝のようになる。いくら速乾性とはいえ、これだけ汗を吸い込めば、山にいる間に乾くことなんてありえない。ただ、百八十度の視界が広がる麻生平へ出ると、山々を舐めまわす風が体を包み、スーッと冷えていき気持ちがいい。
空にはいかにも夏らしい雲が広がって、これを眺められただけでも価値ありと思った。そもそも夏の空っていうのはアートなのだ。入道雲をはじめ、うごめく生き物のようだ。夕方になればそれに茜色が加わり、大空はまさにキャンパスと化す。
麻生山から日の出山に向かう尾根を歩いていると、辺りが急に薄暗くなりはじめた。やばいと思いつつ歩を進めていると、案の定ポツリポツリと落ちてきた。雲の低さと黒さから、夕立並みの雨になるのではと、急いでカッパを取り出すと、殆ど同時に大粒の雨が森を騒めかすほどに振り落ちてきた。一瞬視界が薄れる激しさだったので、山道から逸れ、枝葉が密に折り重なっている場所を探して、暫しやり過ごすことにした。すでに北の空には明るさが戻ってきている。ほんの十分ほどで振りはだいぶ和らいできたので、水たまりを避けながらふたたび歩き出した。
日の出山分岐まで来ると完全に雨は上がり、新たな青空が広がった。分岐にあるいつものベンチに腰掛け、休憩である。それにしても静かだ。ここまで会った人といえば、スタート直後に下山してきた年杯男性一人だけ。ところがさすがに人気の日の出山だけあって、おにぎりにかじりついていると、二組の親子連れが頂上方面から降りてきた。
「こんにちは。雨、やられませんでした」
「おかげさんで、その時は頂上の東屋で雨宿りですよ」
どうりで、涼しい顔をしているわけだ。親子連れはそれぞれ別組で、最初に降りてきたのは、お父さんと中学生ほどの娘さん。その後の組がお父さんと小学校中学年ほどの男の子だ。夏休みにお父さんと一緒に山歩きなんて、仲の良さがうかがえる。ふとうちの娘を考えた。虫が大の苦手で、疲れるのは嫌と、女房と全く同じ性分。山へ誘ったことはないが、どうころんでも無理っぽい。あと十年たったら、ラストチャンスで孫娘を誘ってみるか。その時まで山へ入れるように、体を鍛えておかないと。まじめに考えると、こりゃ大変だぁ!!
白岩の滝コースは、休憩と途中の写真撮りを含めても、四時間あれば回れるハイキングレベルだが、渓流あり、尾根歩きありと、そこそこの変化も楽しめる。体への負担が小さいから、ちょっとした運動不足の解消手段としても刈寄山と並んでおすすめだ。ところが今回、慢性化している膝痛は全く起こらなかったのに、右の股関節に嫌な痛みが出始めた。あそこが治れば次はここと、これも加齢の宿命なのだろうが、ここは真摯に受け止めて、少しでも悪化しないように対策を講じる必要がありそうだ。