珍々亭・武蔵境

地元武蔵野市にある珍々亭は、油そばの元祖中の元祖店。最初に暖簾を潜ったのは彼此30年前になるが、ここの油そばは一度食すると、2~3カ月の間をおいて再び食したくなるという不思議な魔力を持っている。

「珍々亭行かない?」

女房も同じ。忘れた頃に脳裏へふっと現れるのだろう。

「いいね、行こう」

店が見えてくると、相変わらずのウェイティングの列。待たないで入れたためしはない。
入口の引き戸へ張り付けた掲示物へ目をやると、珍々亭の専用駐車スペースが記載されている。以前は確か1番、2番、18番、19番だったが、現在は18番、19番、20番、21番になっていた。要注意である。

駐車スペースはいつもどおりの満車状態。こんな時は駐車場内で空くのを待つしかない。
すると間もなくしてサラリーマンらしき若い男性二人が店の方から歩いてくるではないか。間違いなく食べ終わった客だろうと注視していると、案の定18番に留めてあるハイエースに乗り込んだ。
ラッキー!

店へ向かうと、先に店先で降ろした女房がまだ列の中にいた。横に並ぶと、いつもの恰幅の良いおばさんがメモを片手に店から出てきた。ちなみにここの女性スタッフは皆太目。

「先にご注文伺います」
「油そば2つ。並みと大で」

それから5~6分して、カウンダー席に通された。
店内を見回すとやはりガテン系の客が多いが、女性もちらほらといる。この味だったら女性でも間違いなくノックダウンだろう。

「はい、おまちどうさま」

席に着いて更に待つこと5~6分。調理場のご主人が直々に油そばを持ってきてくれた。
なると、厚めのチャーシュー、ネギ、メンマ、そして太目の麺達が「早くまぜてくれ!」と叫ばんばかりのオーラを放っている。私はまぜる前に酢は適量流し込むが辣油は入れない。
まぜまぜが始まると何とも食欲をそそる香りが立ちこめてくる。この時点で唾液が迸り始め、既に箸の間には一口分の麺が絡んでいる。
ズルズルッとやると、30年間変わらない圧倒的な旨味が舌を酔わせた。

「やっぱりおいしいね」
「うんうん」

ふと腕時計を見ると午後1時を回っているのに、ウェイティングはまだ続いていて、改めて珍々亭の人気の程が窺えた。
二人とも満腹で大満足だが、また三月も経たないうちに、

「珍々亭行かない?」

の一言が聞けそうだ。


コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です