幾度訪れただろうか。
自宅から自転車で15分。小金井公園の西端にある江戸東京たてもの園でカメラ遊びに興じるのは、いつしか定例になっていた。
入場料400円を払えば、四季折々の風情を満喫でき、歴史を作った偉人達の住まいや、懐かしき昭和の町並みまで眺められるユニークなところなのだ。
しかも出掛けるのはいつも木曜日なので、園内に人影は乏しく、思ったところで思ったようにレンズを向けられるのもストレスがなくていい。
12月24日(木)。先日女房と小金井公園へ行った時から既に三週間が経っている。
よって園内の紅葉も終盤に入り、僅かに葉の残る木々達が寒々しさを強調していた。
先ずは東のエリアから見て歩こうと、出入り口のすぐ脇にある高橋是清邸へ足を向けると、その玄関前にそびえるモミジだけが目に鮮やかな葉を充分蓄えていて、逆光となった強い西日が艶やかな色空間を作り出していたのだ。
早速色の中に飛び込んでV2で狙い始めると、いつの間にかがっちりとした体つきをした中年男性が傍でレンズを向けていた。
「ずいぶんと綺麗ですね」
「この樹だけですね」
詳しい機種は不明だが、彼のカメラはキヤノンのミラーレスだ。私のカメラにも気が付いたのか、鋭い視線をV2へ当てている。同じミラーレスだから気になるのかもしれない。
コンパクト軽量、且つ写りも一昔前のデジイチ並とくれば、これからミラーレスの愛用者はどんどんと増えていくのだろう。
そして写真好きは彼だけではなかった。
昭和の商店が立ち並ぶ東ゾーンへ行ってみると、若い男性がキヤノンのデジイチで路面電車を撮っていた。やはり西へレンズを向けて逆光を利用しているようだ。脇の閉め方から初心者ではないことが良く分かる。
昨今のデジイチは恐ろしく高いISO感度を使えるので、手ぶれ補正レンズを併用すれば殆どの被写体を三脚なしで捉えることができるのだ。
“番傘屋”の前で今度は小柄な初老男性に目が止まった。ショーウィンドに展示される色艶やかな番傘に見入っているようだが、彼もデジイチを肩から提げていて、そのストラップには“NikonD300”の文字が光っていた。
D300を所有しているとなれば、自他共に認める写真好きだろうし、ハイアマチュアだってことも考えられる。意外やここには色々な写真好きが集まってくるようだ。
番傘屋、銭湯、居酒屋、旅館等々で撮影を行ない、日もかなり陰ってきたのでそろそろ西ゾーンへと場所を移すことにした。
こちらには洋館が建ち並び、田園調布の家・大川邸、デ・ラランデ邸がモダンな雰囲気を放っている。
しかし、晩秋はつるべ落とし。気が付けば周囲は一層の闇が落ち始め、終いには閉館のアナウンスまでが流れ始めた。
あっと言う間の撮影だったが、ここには被写体の切り取り方に酷く考えを巡らさなければならない難しさが潜んでいて、これがリピートさせる要因の大半ではないかと思っている。
一見単純で簡単そうと思われる景色が続くが、生活感のない抜け殻のような町並みにはどこへレンズを向けても伝わってくるものに乏しく、画として成立させることは容易でない。
色、光り、影、形を頼りに被写体の構図を決めていくという、撮影本来のプロセスに従順になって初めて見いだせる成果は、ここならではのものかもしれない。
本日園内で見かけたカメラ好きの諸氏達は如何なものだろうか。