大沢荘・山の家

山の家

 西伊豆の松崎町を流れる那賀川。その上流域にひっそりとした佇まいを持つのが大沢温泉だ。
 海と港の印象が強い松崎だが、この界隈まで来ると辺りは一気に深山ムードへと取って代わり、流れる空気に潮の気配はない。
 小さな橋を渡ると先ずは左手に唯一の旅館“大沢温泉ホテル”があり、集落の最後に立ち寄り温泉である大沢荘・山の家が対岸に見えてくる。
 建物は遠目でもかなりな古さを感じるもので、失礼な言い方だが、相当に朽ちた印象である。
 現在は脱衣場も含めて完全に男湯と女湯に別れているが、20年程前に初めて訪れた時は驚いた。脱衣場が男女に分かれていたので、何の疑いもなく服を脱いで湯に入ろうとしたら、そこは仕切りのないただひとつの露天風呂、つまり混浴だったのだ。残念なことに女性の姿はなかったが、湯量豊富で広々とした温泉を独り占めにでき、第一印象はとても良かったことを覚えている。
 今はその広々さも二分の一に縮小、少々残念ではあるが、ゴボゴボと音を出しながら湧き出てくる源泉の勢いに変わりはなく、野趣溢れるロケーションと相俟ってトータルの魅力に衰えはない。

大沢荘・山の家
静岡県賀茂郡松崎町大沢川之本445-4
■営業時間(年中無休)
5月~8月:8:00~21:00
9月~4月:9:00~21:00
■料金
大人:500円       子供:300円

H.I.S. 日帰りバス旅行

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運営者任せとリーズナブルな参加費で、我が家の恒例行事として定着しつつある日帰りバスツアー。
今回は山梨県の昇仙峡を中心に周遊するH.I.S.の企画を選んでみた。

「あれ、誰から電話だろ?」

新宿西口の三菱東京UFJ前は、各旅行会社が企画するバスツアーの集合場所として定着している。
歩道を占拠する大勢の出発待ち客をかき分けて進んでいくと、我々の受付はすぐに見つかった。
添乗員が掲げるH.I.S.のブルーの旗は実によく目立つ。
バスは既に到着していて、乗り込んでいる客もけっこういるようだ。
腕時計を見ると7:15。出発まで若干の時間が残っているので、近くのコンビニへ買い出しとトイレ借用で急いだ。
用を済ませてバスへ戻ろうとした時、携帯電話が鳴った。

「はい、木代です」
「H.I.S.ですけど、出発時刻が過ぎているのでよろしくお願いします」
「えっ、“半”でしょ?」
「20分です」

朝からやってしまった。

1月2日(金)。参加客30名を乗せたバスは軽快に中央道を走った。心配された正月渋滞も無いようだ。
車内は適度な暖房がきいていて、たちまちウトウトとしてくる。
乗り物に揺られながらの一眠りは実に気持ちがいい。

勝沼ICを下りると、最初の目的地“ハーブ庭園旅日記”へと向かった。
暖かい季節なら様々な花やハーブが広い庭園に咲き乱れているのだろうが、この時期は温室内の鮮やかなシクラメンとゴージャスな胡蝶蘭が来場客を迎えているようだ。
それにしてもここのスタッフは営業上手だ。ウイットに富んだ商品説明は、100%ハーブの化粧水やローション、そして目に良い果汁100%のブルーベリージュースを見事に売りまくっていく。

「それください」

おっと、やられたようだ。
うちの女房、ブルーベリージュースのボトルを掴んでにんまり。
しかし最後の餅つき体験では、周りから「よいしょ==」なんて歓声があがって、なんだか楽しくなってしまった。
ちなみにハーブ庭園旅日記は入場料が無料だ。

次に向かったのはマーズワインセラーズ。
昨年のゴールデンウィーク・バスツアーで、ほったらかし温泉へ行く途中で寄ったところだ。
好みの問題とは言え、ここで試飲できるワインの殆どが、赤玉ポートワインに代表される糖分たっぷりの甘いもので、最初のひとくちならまだしも、ふたくちめになるとその甘さが煩くなり、私の場合はNo,Thank Youとなる。
出しゃばるつもりはないが、スタッフの説明するがままに試飲を進めていけば、初めて訪れるツアー客の多くが、全てのマーズワインが甘いものだと勘違いするだろう。

昼飯は昇仙峡入口にある“ほうとう会館”にて、ほうとう定食をいただいた。
その店名からして、ほうとうの伝道と言うべき味とクオリティーを期待したが、結果はハズレだった。ダシが殆ど効いてなく、やたらと薄味の汁。オーバーボイルの麺。里芋はできあがり直前に入れたと思われるパックの水煮等々、残念ながら同じ山梨県下の人気店である“ほうとう不動”や“小作”とは比較にもならないレベルだった。
但、セットで付いていた鮭の御飯と野菜のバター焼きは上々の風味で、これがなかったら少々寂しい定食だったかもしれない。

shousenkyou

十数年ぶりに歩いた昇仙峡は、新鮮味こそ感じられなかったが、落差30mを誇る“仙娥滝”は何度見上げても迫力があり、飛沫で浮き上がる虹は見事だった。
V2のファインダーにはシャドー部に青味のかかった滝壺が映し出され、自ずと構図作りには力が入った。ここだけで約20枚を撮影する。
深い渓谷は非常にコントラストが高く、露出設定が難しかったが、V2のダイヤル操作に慣れてくると、こんな時はAEロックが大きな武器となり、リズミカルに様々な濃淡で撮影することができた。

さて、最後となった目的地は、絶景を眺めながらの露天風呂“みたまの湯”だ。
広い駐車場は殆ど満車状態で、その余りな混雑ぶりは到着したとたん引いてしまうほどだ。
受付を済ませ脱衣所へ行けば、予想どおりの人いきれ。風呂に入る前に汗をかきそうだ。
しかしお湯の具合は私好み。どちらかといえばぬるめで、気持ち良く長く浸かれるタイプ。泉質もマイルドで気分を和らげてくれる。おまけに浸かりながら眺められる富士山やアルプスもなかなかのものだ。

「お湯の感じ、良かったわ」

次回は平日で空いている時に訪れてみたい。

帰路の中央道は一度の渋滞で済み、ほぼ予定通りに新宿へ戻ってくることができた。
なんだかんだ言っても、オール込み一名8,000円で楽しめるバスツアーは、マンネリがちな日々の生活にアクセントを付けてくれる、手軽でナイスなイベントと言えそうだ。

2014年・年末撮影会

狩野川源流

山に入った後は街を歩き、そして海を見渡す。
馴染みの伊豆から更なる手応えを得られた昨年末の撮影旅行。開催し続ける大切さと楽しさを確認できた、心に残る二日間であった。

12月30日(火)午前5時。水道道路に停めた車へ機材を運ぶ。

「おはようっす」
「けっこう寒いね、鼻水出っぱなしだよ」

アレルケアのおかげで軽減傾向にある過敏性鼻炎も、さすがに早朝の冷気には反応してしまったようだ。
今回はより多くの被写体を探し出そうと、出発時刻をいつもより一時間早めて設定。定刻きっかりに伊豆を目指し出発した。
メンバーは原点に戻って友人のTくんと私の二人だ。

この恒例行事はそのTくんと2002年の暮れに城ヶ島で行った撮影会が発端となる。
予想以上の楽しさから、年に一度はこんな催しを持とうと意見が一致、翌年は撮影地を伊豆に移し、何年かは日帰りで楽しんできたが、2006年に初となる一泊を敢行、宿泊地は西伊豆の松崎で、漁港のすぐ近くにある“豊崎ホテル”を利用した。
その後、諸事情で開催できなかった年もあったが、参加メンバーの増減を伴いながら、湯ヶ島(2回)、須崎、下田、雲見、そして浮島と、毎回宿泊場所を変えては今日に至っている。
撮影の面白さはもちろんのこと、同好の士が酒を酌み交わし年を締めくくる楽しさはこの上なく、年中行事として定着するのに時間も苦労もかからなかった。

東名高速は裾野ICで下りて、R141を南下した。大仁のマックで休憩の後は、新天城トンネル手前まで進み、水生地下を左折、右側に流れる川に沿って上がっていった。初っ端の撮影地はずばりこの川だ。狩野川の源流域で、初夏や紅葉の時期にはその美しさから“伊豆の奥入瀬”とも呼ばれるらしい。昨年11月半ばに歩いた天城・八丁池の下山時にたまたま見つけたところだが、さすがこの時期になると川域一帯は完璧な冬枯れ状態である。

「寒いっすね」

山中に入ると途端に風が強くなりしかも冷たい。再び鼻は洪水となり、耳も痛くなってきた。
三脚にD100+SIGMA12-24mmを固定し、車道から川へと下りていく。厚く蓄積した枯れ葉は時として落とし穴を作り、歩行は慎重さを強いられる。

「エツ、大丈夫か」

なんとTくんは左足を骨折しての参加だ。よってこんなsituationでは探るように一歩々々踏み出していかねば、最悪の結果を生み出す危険性がある。
お互いポイントを求めて渓谷を彷徨うが、寒さと足場の悪さに邪魔され思ったように撮影が進まない。ここは判断し、切りのいいところで引き上げることにした。
次の撮影地は爪木崎公園を予定していたので、一旦東海岸へ出てから須崎を目指すことにした。

浮島海岸

「アロエの花はまあまあだけど、水仙がイマイチかな」
「七分咲きだね」

水仙の群生地として有名な爪木崎ではあるが、通年ピークは1月中旬~下旬なので、年末撮影会では時期的にやや早い。一昨年の同会では、“日の出の海岸”を狙って訪れたので、水仙の開花状況についてはノーチェックだったのだ。
確かにきれいな公園ではあるが、何となくベタな感じが漂っていて、その為か気分が上がらず、辺りを歩き回ったりもしてはみたが、早々の切り上げが肝心と判断した。

「浮島の遊歩道はお初だから、早めにチェックインして辺りをうろつこう」
「それがいいかも」

なかなかいい画が撮れずトーンダウンしているTくん。そう言う私も同じだった。

「腹減ったな、昼飯にしよう」
「そうしましょう」

起きがけにトースト一枚、大仁のマックで小休止の際にパンケーキセット。
このメニューはどれも消化が良すぎる。
下田でラーメン屋を見つけてガッツリ食った後は、宿泊地の浮島へと直行した。
昨年の初日こそ大雨に泣いたが、それまで年末撮影会では概ね天候に恵まれてきた。
今回も文句のない晴天が広がっている。
恐らくだが、その絶好なコンディションが為に気分を走らせ、落ち着きを失った精神状態が面白い被写体を見逃す原因になっていたのではと思い返した。
寧ろ、“小雨そぼ降る”などという状況の方が、気持ちも静まり、思ってもみなかった被写体を発見してニンマリしたりする。
なかなかどうして、写真撮影は難しいのだ。

午後3時を少し回った頃、宿へ到着。一服の後、カメラを手にして浜へ出た。
強い風は沖に無数の白波を作り、右手にある燈明ヶ崎遊歩道の入口階段付近は、波が岩に当たり盛大な飛沫を巻き上げている。
レンズを庇いながらその階段を上がっていく。
振り返ると、足を庇いながらゴロ岩の海岸を必死に歩くTくんが目に入った。挫いたらとどめになるから当然だ。
それでも彼曰く、下り坂が一番きついとのことだ。遊歩道の上りは怪我を物ともせず、結構なペースで歩いてくるが、下るとなるとそれは一歩一歩に変る。

「そろそろ夕陽だ」
「赤みを帯びてきましたね」

空気が澄んでいるのか、刻一刻と変化する濃いオレンジ色は、見事としかいいようのないグラデーションを放ち始めた。自然が作り出す壮大なスクリーンにはいつだって釘付けなのだ。
暫し撮影に集中するが、鬱蒼とした木々に囲まれた遊歩道はあっと言う間に薄暗くなる。

「そろそろ戻りましょう」
「OK。ずいぶん撮れたしな」

足元に気を遣うTくんにとって街路灯のない散策路は危険この上なく、早めの退散はベストなのだ。
海岸線に沿って伸びるR136は馴染みの道だが、堂ヶ島周辺にこれだけの島々が点在し、どれも固有の景観を放っていることは、こうして海へ一段下がって足で歩き回らないと絶対お目にかかることはない。
新たな伊豆の発見だ。

かしわや食堂

「乾杯」
「お疲れさん」

飛びっきりの肴を目の前にして芋焼酎が進みに進んだ。酔うと饒舌が増すTくん、今夜は特に調子が良さそうで、写真のこと、仕事のこと、そしてアイドル話等々で盛り上がった。
宿は浮島海岸が目の前に広がる『民宿・五輪館』。海水を含む塩化物温泉でばっちり温まれ、一泊二食付き8,100円(税込)はとてもリーズナブル。これまた伊豆の新発見か。

翌朝は浮島海岸に腰を据える。
風もやや穏やかになり、そのせいか辺りの雰囲気が一変したように感じた。
写真撮影もいいが、こんな穏やかなところなら、子供の頃にずいぶんとやった雑魚釣りに、日がな一日興じたいと思ってしまう。
この後、撮影場所を隣町の田子に変えて、港を中心にスナップを行った。

「おおっ、凄いよこれ!」

ラッキーなことに、西伊豆名産“タカアシガニ”の水揚げに出会したのだ。
4人の男がバケツリレーのように漁船から岸壁に駐車中の車へと手際よく積み込んでいくのだが、次から次へと船底の水槽から出てくるカニの数が膨大で、一体どれ程入っているのかと溜息が出てくるほどだ。
戸田辺りでタカアシガニ料理をいただくとなれば、脚2~3本の定食で5~6,000円もする高級食材だから、いくら卸値といっても一舟全部でおいくらになっちゃうの?!ってな感じである。
いかにも正月らしい光景に、シャッターは何度も下りるのであった。
“かしわや食堂”で豪快なアジフライ定食(1,200円)に舌鼓をうち、田子を出発。とんとん拍子に進んでいく一泊二日の旅も最終段階へと入った。

「ラスト、どこで撮る?」
「途中はパスして沼津まで行っちゃいましょうよ」

途中の戸田や大瀬崎は昨年の撮影会でとことん歩いたから、やはり別のところにしたかった。
その時だ、ふと郷愁をそそる光景が脳裏を流れた。

「そうだ、我入道へ行こう。狩野川の対岸だよ」
「まかせます」

沼津の中心的観光スポット“沼津港”。そこから狩野川を挟んで東側にあるエリアが我入道だ。
シンボルである牛臥山と狩野川河口の間に広がる牛臥海岸は、西の千本浜と並んで市民の憩いの場になっている。何もないと言えばそれまでだが、地元の臭いを嗅げればOKと思って選んでみたのだ。
港大橋を渡る前に左へ折れれば海岸への入口がある。

「へー、いいところじゃないですか」

南国高知出身で元船乗りのTくんは、何はなくとも海があればという、生粋の海好きである。
尤も、沼津を第二の故郷と言い切る私も同じだが、、、

「おっ、カイトボードやってるよ」

牛臥海岸は砂浜なので、こうしたマリンスポーツがやりやすいのではなかろうか。
遠くには沼津港の水門“びゅうお”が見える。
斜光がやけに眩しく、辺りは既に夕暮れ間近な気配が漂っている。
狩野川の岸壁まできた時、右手にある小山の頂上に社らしきものが目に入った。昔沼津に住んでいる頃から何となくは知っていたが、我入道は生活圏外だったので、それほど気にはとめていなかった。
ところがこうして見上げると何ともいえぬ趣があり、そこからの眺めは決して悪くないだろうと、せっかくなので行ってみることにした。
墓地を横切って左手へ進むとそれはすぐに見つかった。
急な石段があり、手前には賽銭箱らしきものも置いてある。

「ちょっと上ってくる」

上まで行くと確かに祠を倍ほどにした社があったが、両サイドを小山の斜面に囲まれて周囲の展望は利かない。諦めて一旦下まで下りると、

「こっちにもありますよ」

なるほど、この小山にはなんと2ヵ所の神社が祭ってあるのだ。
次の石段は長かったが、上り切ると社の周りにはスペースがあって、振り向けば伊豆半島、そして目の前には沼津の市街と富士山までが見渡せる。

牛臥海岸

「いい眺めだ」

これを聞いてTくんも痛む足を引きづりながら上ってきた。
今夜から始まる初詣での為だろうか、沢山の提灯が石段に沿って下から上まで取り付けられていて、更には電源も入っている。最初は周囲の明るさで気が付かなかったが、次第に夕闇が降りてくると薄明るく灯り始め、時間の経過と共にそれは幻想的な明るさを帯びるようになってきた。

「ちょっとここで撮ろうよ」
「いいっすね!」

再三だが、二日間はあっと言う間だ。
況して趣味を同じくする同好の士が集うのだから、時間の進みは尚更早く感じるもの。
毎度二日目のこの段階に入ると、撮影の乗りも良くなり気分は最高潮に達する。そして名残惜しさも最高潮となり、早くも次回への期待がふくらみ始めるのだ。

「来年こそ伊豆じゃないところへ行こう」

牛臥海岸を二度味わう如くゆっくりと歩き、カメラを車に納めると我入道を後にした。

■ 写真アルバム ■

謹賀新年

akamaou720大晦日にいい調子で酒が進んだせいか、床を抜け出し時計に目をやったら、既に10時を回っていた。毎度のことだが、新年の幕開けは気怠さと共に始まる。
女房の用意してくれた雑煮とおせちを平らげた後は、ロックを連れ出し初散歩。外の空気を吸い込むと体が急速に覚醒していき気分が盛り上がる。大晦日の夜から寒気が入り込んでいるとのことだが、それほど気温は低くなく、散歩をするにはいいあんばいだ。ロックも同感だろう、リードを引っ張る力がいつもの倍だ。
人気のない街を見渡せば正月休みを実感でき、ポツリと芽生えた小さな余裕が、これまた小さな幸せを呼び起こす。

ー あれ、雪だ。

ふと窓に目をやると、いつの間にかどんよりとした雲が垂れ込め、僅かではあるがちらほらと白いものが舞っている。
こんな時は暖房を効かせた部屋の中が一番。年末に撮影した写真選びに没頭できそうだ。
そうと決まれば、あれを出そう。
切れ味最高の“赤魔王”と、昨日海老名SAで仕入れた鱗吉の“いわし揚げ”だ。
これで作業は間違いなく楽しくなる。

沼津・千本浜

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海原の先には伊豆半島、背には愛鷹山と富士山、そして果てしなく西へと延びる防波堤。これほど爽快な景色が一ヶ所に集まった場所は、なかなか他ではお目にかかれない。
そう、千本浜は私にとって第二の故郷、“沼津”のシンボルと言っていい景勝地であり、古くから市民の憩いの場として親しまれている。
但、これほどナイスなところなのに、なぜか千本浜は<景勝地=観光地>という公式が当てはまらない。
堤防の上でまどろむ人、散歩やジョギングを楽しむ人、自転車で疾走する人、トランペットを奏でる人、浜で竿を振る釣人等々、周囲を見回せばその殆どが地元民。
幼年期を千本浜の近くで過ごした私には、ここに集う人達を一目見れば地元民かそうでないかはすぐ分かる。とりわけ観光客の判別には自信がある。
沼津市内の観光メッカは、今や年間145万人が訪れるという沼津港だ。土産物屋、飲食店、それに大型駐車場が次々に新設され、人気飲食店ともなれば、平日でもランチ時にウェイティング客で溢れかえる。
そんな喧騒のるつぼから徒歩十分の距離にある千本浜には、いつもゆったりとした時間が流れ、訪れた人の心を優しく癒やしてくれる。
特に夕暮れ時に感じる風情は別格の趣があり、茜色に染まった空気が全てのものを包み込んでいく時、日常に於ける平穏とは何かを、改めて見つめなおしたい気分に駆られてしまう。

写真好きな中年男の独り言