バイク屋時代64 スポーツスター人気

 四名体制となったBFは様々な問題が勃発した。
 HD調布にいたころ、BFの仕事を任されたわけだが、手始めに不良在庫の整理からスタートし、ヤフオクを使っての中古電動アシスト自転車販売、そしてBDSやオークネットを使った仕入れを開始し、本格的な中古バイクの販売へと駒を進めていったが、実質のスタッフは俺一人だった。当初はあくまでも暫定的な施策だったので、倉庫やトラックの使用料など、本来かかるべき経費を計上しなかったこともあり、帳簿上は黒字を続けていた。ところが海藤くんと広田くんを引き受け、その後、のぶちゃんを代表に置いた組織に格上げしたため、人件費は一気に四倍となり、さらに府中店二階のBF展示スペース分の家賃を計上してみれば、見事に赤字転落。主な要因はメカの仕事がほとんど入ってこないことである。アフター等々は、メカ二人に個人的に付いているお客さん以外はHD三鷹で行っていたから無理もなかったが、二人の給与は歩合制、仕事がなければ実入りは大幅に減少する。どうしようもないが、彼らにしたら面白くない。
「歩合制にしてくれなんて言った覚えないですよ」
「もとの給料体系に戻してもらえないですか」
 と、うっぷんの溜まった二人は、それぞれ大崎社長へ詰め寄った。
「以前やった個人面談の時に言ってたよ。忘れちゃだめだな」
「記憶にないです」
 言った言わない問答である。
「いずれにしても府中店はスタートしたばかりだから、会社も借金抱えてきついんですよ。だから一日でも早く通常の仕事量に戻すことが先決だね」

 しかし、ただ待っていても仕事は増えない。そこで普段から疑問に感じていたことを話してみた。
「社長、三鷹の工場って仕事が溜まってるんでしょ? だったら仕事を下さいよ。こっちはベテラン二人なんだから」
「そうだね。武井くんに聞いてみる」
 理にかなっていると思って提言したが、三鷹店店長の阿木も工場長の麻生も、この意見には不満があるようで、
「うちのメカも、自分のお客さんのアフターは自分の手でやりたいみたいです。それをBFへ持っていったら今後の士気にかかわりますよ」
 と、突っぱねてきた。
 しかし現状はいっぱいいっぱいで、新規客の修理受付ができない状態が続いていた。だったらBFへ回すのは新規客分だけという条件で再度話を持ちかけると、渋々ではあるが承諾を得たのだ。ところが三鷹店は正規ディーラー、これに対し府中店は単なる中古車店。新規客の大半は正規ディーラーだからという安心感があるから頼みに来るわけで、一般店だったら他にもあるとの声が多く、そう簡単には事が運ばない。それでもオイル交換などのクイック作業を積極的に回してもらい、少しづつ仕事を増やしていったのだ。

 一方、営業の方は新たな展開が見え始めた。グーバイクの反応が俄然よくなり、内容をチェックすると、遠方からの問い合わせが増えている。ちなみにハーレーのみならず、この傾向はBFが扱うバイクにも表れていた。ただ、驚いたことに車両価格が300万円を超えるような高級中古車への問い合わせが、北海道や九州と、簡単には来店できないような超遠方から相次いでいるのだ。つまり実車を確認せずに商談へ入るパターンだ。お客さんに聞いてみると、なるほど理由があった。要するに田舎になればなるほど、中古車の流通在庫は少なくなり、地元で吟味などは到底できない。よって致し方なく通販を頼るだが、一番の心配事は販売店の信用。買ったはいいが、届いたバイクが目を覆うようなレベルでは困る。そこで正規ディーラーならばそれほど心配はなかろうという考えの下、物色を始めていたのだ。ただ、ハーレー正規ディーラーは中古車の在庫を多く持っていない。なぜならショールームに展示できる中古車の台数に制限があるからだ。しかも“HD認定中古車に限る”と言う縛りもある。よって、マフラーを交換したような不法改造車や、社外パーツ満載のカスタム車などは一切NGである。そんな中、モト・ギャルソンの営業指針は<中古車ハーレーの拡販>。つまりHDJからの縛りや制限などとは無縁の別会社、バイクフィールドにて府中店を立ち上げたのだ。
 府中店のショールームには、詰め込めば三十台のハーレーが展示可能である。スポーツスター、ダイナ、ソフテイル、ツーリングなど、ラインナップすべてが並ぶ。お客さんが来店した際も、選択肢がぐっと広がり、成約へのきっかけも作りやすくなる。さらに二階倉庫にも二十台ほどの在庫を持てば、グーバイクや、自社ウェブサイトでの訴求力は強いものになる。以前BDSへ行った時、千葉県下の輸入二輪車販売店ではダントツトップを走るG商会のS社長から面白い話を聞いた。

「ハーレーの中古車をビジネスレベルで売ろうとしたら、最低でも五十台の在庫が必要なんだよ。この数は長い経験でわかったことでね、五十台を大きく割ってくると必ずと言って売れなくなる」
 これはハーレーの各ファミリーの売れ筋を松竹梅で揃えると、おおよそ五十台近くなるということである。ただ、一般的にハーレーの台当たり仕入れ平均は百七十万円前後になるので、在庫金額は八千五百万円にものぼり、うちの財力では到底不可能である。よって在庫金額五千万円を目標とし、商品の偏りが出ないよう日々確認、一定の在庫日数を経たものはオークションで売り払い、新たなものを仕入れなおすという“リフレッシュ”に尽力した。
 ところがハーレーの世界にも売れ筋と死に筋があり、これが近年極端な傾向を見せ始め、リフレッシュもなかなかどうしてままならない。

 昨今、排ガス規制の問題を受けて、スポーツスターのエンジンが製造できなくなるという情報が頻繁に耳に入るようになり、ただでさえ人気モデルである、XL883N・アイアン、XL1200X・フォーティーエイトの二機種が、中古車市場で異常ともいえる引き合いが起きており、ファインカスタムを施した極上車などは、新車の仕切りを上回る高値で落札されるのだ。元々スポーツスターファミリーは製造台数が少なく、各ディーラーへの引き当て台数も微々たるものだったので、尚更中古車に注目が集まった。
 すると、買取業者はいつでもこの二機種に限り、高値で買い取るという情報が広まり、せっかく新車を購入したものの、あまり乗る機会に恵まれず、宝の持ち腐れを感じ始めたユーザーが売りに転じ始め、うちの既納客にもその傾向が表れ始めた。先日も三鷹店で新車を購入したお客さんが、府中店へ売りの相談で来店した。
「去年買ったフォーティーエイトなんですけど、あんまり乗らないんで売ろうかなって思ってるんです」
「そうですか。ちょっともったいない感じもするけど、決心がついているならぜひうちに売ってください」
「だいたいでいいので、買取値段を教えてほしいんですが」
「お客さんのフォーティーエイトの状態は、先ほど三鷹店の担当に問合せしました。それほど距離も進んでないし、車検も二年近く残ってますので、どうでしょう、180万円では?」
「190万円にはなりませんか」
「それはきついかな…」
 一瞬考えるそぶりを見せたお客さん、
「実はレッドバロンで見積もりをお願いしたところ、今なら190万円って回答があったんです」
 ネットには買取情報が溢れかえっている。相場状況を調べて「少しでも高く」と、あいみつに持っていくのは当然の流れだ。
 けっこうて厳しい金額ではあったが、当社の既納客であることと、立ちごけなしの極上品、Screamin’ EagleのサイレンサーとK&Hのカスタムシート付という内容だったので、買取は成立した。ちなみに五点評価以上のフォーティーエイトだと、つい最近のBDS落札実績を見ても185万円は下らない。実際にBDSで買うと、185万円に消費税と手数料が加算されるので、実際の支払額は200万円を超えてしまう。それでもフォーティーエイトなら一週間もかからずに売りさばけるので、ちょっと無理をしても買ってしまうのだ。尚、スポーツスター以外でも、ブレークアウトや最終型ツインカムエンジンのローライダーなどは同じような傾向にあった。


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