バイク屋時代55 落札!

 毎週水曜日のBDS詣でが始まったのは、新緑の燃えるころ。急激な気温の上昇は、慣れない仕事で疲れがたまる心身へ追い打ちをかけた。
 さて、仕入れ専用車として貸与されたハイエースだが、この車はそもそも商用車である。ルーフに多少の断熱処理をしてあるほかは、もろ鉄板だ。夏の直射が当たればキャビンはすぐにサウナ室へと変貌する。普通にエアコンが効けばそれほど問題にはならないが、日ごろのメンテを怠っていたのだろう、吹き出し口からは温い風しか出てこない。オークション開催日は、短くとも四時間はハンドルを握っているわけで、この劣悪な環境が疲労の原因になったことは言うまでもない。
「社長、ハイエースのエアコン、修理に出しますよ」
「なるべく安くね」
 三鷹にある知り合いの修理工場であんばいを見てもらうと、
「これ、かなり錆びがひどいんで、ちゃんとやると十五万円はいっちゃいますね」
「とりあえず冷風が出てくればいいんですが」
「なるほど、沖縄ナンバーだ。あっちは潮風すごいから錆もね~」
 一週間後。修理完了したエアコンから冷っとした空気が出てきたときは、シンプルに感動した。

 BDSまでの所要時間は、首都高さえ混んでなければ二時間弱。足繁く通うにはかなりな距離ではあるが、現車確認は外せない。いいものを可能な限り安く手に入れる最も確実な方法だから。
 BDS初日は期待感がふくらんだ。出品表を見ると、電動アシスト自転車のエナクルが十一台も出ていた。これまでの落札価格で行けるなら全部欲しいところだが、まずはものを見てからだ。

 駐車場へ車を置き、展示場の入口をくぐる。いきなり目に飛び込んでくるのは、すさまじい数のバイク、バイク、バイク。この中から買付表に記した二台のモンスター、S4RとS2Rをまずは探さなければならない。出品番号順に展示エリアが割り振られていて、しかも輸入車はまとめて置かれているのでおおよその場所はすぐにわかった。それでも入り口からはかなり歩く。
 最初のご対面はS4R。外装、フレーム、油脂漏れ、消耗パーツの度合いを確認したら、エンジンをかけ て、音、排気煙、ミッションなどを確認する。ほぼノーマル車、立ちごけレベルの転倒跡が左右にある。出品評価を見ると五点がついている。品質評価士による評価は十段階で、五点以上が問題も少ない上物で、八点越えは極乗車、十点は新車である。反対に四点以下は、加修にそれなりの金額を覚悟しなければならなく、二点以下は部品取りと考えていい。次のS2Rは、ざっと見てもきれいで、加修はそれほどかからないように思えたが、エンジンをかけると異音が気になった。クラッチは湿式だが、わずかに乾式のようなノイズが出ているのだ。評価は四点。コメントには“※エンジン異音”と記してあるが、BDSの品質評価士がどれだけドゥカティのことを掌握しているかは疑わしい。なぜなら、車両が乾式クラッチの場合、ほとんど“※エンジン異音”と記してあるからだ。乾式クラッチの音ってのは、ドゥカティを知らない人に聞かせれば、ガラガラガラと、あたかもエンジンがぶっ壊れているのではと感じるはずだ。しかも中古車の場合、クラッチの金属カバーをカーボン製などの開放タイプに交換していることが多く、そうすればなおさら音が外へ飛び出し、やかましくなる。
 二台は綿密なチェックの上、合格とした。あとは落札できるかどうかだ。時間が押し迫っているので、この後すぐに自転車展示場へと向かった。

 エナクルの実際の出品数は八台に減っていた。そのうちの二台は錆がひどくパスしたが、残った六台は、見た目も電装関連も特に問題はないようなので合格と判断。仕上げに必要なケミカルやショートパーツ、そしてチューブ、タイヤは、格安品をすでに入手してあるので、落札したらハイエースに載せて持ち帰り、すぐにでも仕上げ作業にかかれる。

 さあ、初の入札だ。少しドキドキしながら応札室へ入り、左通路側の席を陣取った。スタートは午前十時、もう間もなくである。壇上に係員が数人並び、挨拶が始まった。周囲を見回すと、ほぼ六割の入りだ。
 正面の大画面に四台のバイクが映し出され、オークションがスタート。最初に競るのは自転車。右端のDレーンへ集中する。エナクル一番から四番まではだれも押さなかったので、すべて一台7,000円で落札できた。残りの四台には若干の競りは入ったものの、9,000円から10,500円で落札。結局八台すべてを手に入れた。幸先上々である。ドゥカティの二台は午後になるので、ハイエースを自転車展示場へ回して、先に積み込みを終わらせた。時計を見るとそろそろお昼、食堂へ行ってランチだ。

 BDSの会員には、来場するたびにIDカードへ2,500円分の食事ポイントがオンされ、好きなものをメニューから選ぶことができる。レストランコーナーではステーキから寿司まで、隣の喫茶コーナーでは各種飲み物、サンドイッチなどの軽食、ケーキ類と、ほとんどのものがそろっている。朝来場したらモーニングコーヒー、昼は生姜焼き定食、そして帰りしなには紅茶とチョコレートケーキと、これだけいただいてもポイント内で収まるのだ。

 応札室へ戻り、十三時半にS4Rが始まった。0円スタートだからすごい勢いで上がっていく。35万円で売り切りとなると、やや上昇速度は落ちたが、それでも合間なくランプが点灯するのは、落とそうと頑張っているショップがあるのだ。ちなみに競りのボタンを押すと、該当車両にランプが点灯する。買付計画は上限40万円なので緊張が走る。しかし勢いはそのままに40万円を超え、まだひっきりなしに点灯している。こうなると気持ちはイケイケだ。45万円になってしまったが、やけくそになって押してみると、ランプは追ってこない、落札である。オーバーしたがここはドンマイ。整備する際に大きな問題さえ出てこなければ、60万円以上の売値はつけられそうなので十分商売になる。
 一時間後、次はS2Rだ。
 20万円売り切りからぐんぐん上がっていく。買付計画は35万円。
 S4Rと比較すると、市場での人気はいま一歩。四点ものなのでいけそうな気がする。参考までに、S4Rはスーパーバイク996の水冷エンジンを搭載した最高出力119馬力のモンスター。S2Rは排気量800ccの空冷エンジンを搭載し、出力も77馬力とおとなしいが、湿式クラッチ仕様で抜群に乗りやすいモンスター。
 30万円は超えたが、そろそろ落札しそうな雰囲気である。そのまま押し続けると32万円で落とせた。
 自転車に次いで、バイクも計画通りに買え、興奮冷めやらない初オークションである。

 自転車は共進倉庫へ運び込み、俺自ら仕上げ作業を行うが、ドゥカティは杉並店の大杉くんと相談の上、外注という形で仕上げてもらう。
「二台買えたって?」
「まあね。そんなに急がないから、よろしくたのむよ」
「OK。じゃ、明日にでも持ってきたら」
「だいじょうぶなんだ。じゃ、お言葉に甘えるね」
 こんな流れである。
 ところが二台のモンスターを持ち込んだ翌日、整備していた坂上メカから電話があった。
「部長。S2R、高くつきますよ」
「えっ?! まじかよ」
「まじです。クラッチスプリングが一か所折れてました」
「だからちょっと変な音がしてたんだ。お手柔らかにな」
「いや、バッチリいただきます」
 後日、杉並店から請求書のFAXが届くと、通常の仕上げ整備とは別途に、部品代並びに交換工賃として60,000円がオンされていた。これで最終原価は40万円を超えたが、それでも7~8万円は抜けると見込んでいる。中古商売はある意味博打。えらく儲かることもあれば、赤字になることもある。やるべきことは、さらに目利きの力を上げ、売り買い相場に精通できるよう努めることだ。
 モト・ギャルソン各店で下取車のある商談が入ったときは、基本的に俺へ一報が入り、車両詳細を聞いたうえで、下取り額を回答する流れになっている。常に現状の相場や売れ筋をつかんでいれば、下取った車両をBFで直販するにも、はたまたオークションで売るにしても、利益幅を大きくできるチャンスが生まれるわけだ。

 さて、それはさておき、手に入れた八台の電動アシスト自転車エナクル。これをいち早く仕上げ、売りさばかなければならない。ドゥカティ二台は、グーバイクへアップデートすればいいが、自転車にはそのような販売サイトがないので、ヤフオクを頼ることにした。どのような反応がでるか楽しみでもある。
 グーバイクには先日BFとして新たなIDを取得した。予算がないので、掲載台数4台のもっとも小さな契約枠だ。この四台枠をいかに効率よく回していくかで先々は決まる。
 いきなり仕事量が一気に増えたが、久々にやる気が出てきた。

初詣・大江戸散歩

「初詣は二日にしようよ」 
 女房の仕事先は年中無休。年始最初の休みを初詣にあてることにした。
「参拝したらさ、そのあと散歩しないか」
「どうゆうこと?」
 数年前から初詣は浅草の浅草寺と決めている。ややマゾっぽいが、あの強力な喧騒と人いきれを浴びないと、新年が始まった感じがしないのだ。
「おもしろいサイトがあってさ、その中に“大江戸散歩コース”ってのを見つけてね、浅草寺から名所旧跡をたどって三ノ輪まで歩くんだ」
「いいじゃない」
 浅草寺~べらぼう 江戸たいとう大河ドラマ館~姥ケ池~待乳山聖天~平賀源内墓~小塚原刑場跡~延命寺~浄閑寺~三ノ輪駅
 以上がコースだ。おおよそ5km、徒歩のみで一時間半ってなところだろう。
 
 一月二日(金)。中国人観光客が激減しているはずなのに、浅草界隈の人出は例年となにも変わらない混雑ぶりだった。仲見世から境内まではまさに人の激流である。ただここ数年来、交通整理が行き届いているため、流れは比較的スムーズ、それほどイラつくこともなくなった。
「お賽銭投げたらどっち?」
「右。いつもと反対」
「わかった」
 参拝が終わり、境内の喧騒から脱出すると、気温が一気に下がる。
 信号待ちで立ち止まると目の前が大河ドラマ館。ここは写真だけ撮ってスルー。すぐに同じ左側に姥ケ池が見えた。ずいぶんと小さな池だが、大昔は隅田川へとつながっていたそうだ。
 隅田川沿いの大通りに出たら左折、まもなくして良縁、商売繁盛の御利益があると言われる、待乳山聖天(まつちやましょうでん)の角に出る。石段を上がり境内に入ると、こぢんまりとした寺院のわりに参拝者はけっこう多く、人気のほどがうかがえた。能のようなものが行われていたので撮影しようとしたら、すぐに終わってしまい残念。
 再び大通りを歩く。
「おなかへったね」
「店っぽいもんないけど、最後に南千住や三ノ輪の駅に行くから、そのあたりでランチできるんじゃないの」
 白髭橋西詰を左折、いったん住宅街に入って迂回すると平賀源内の墓があった。彼は日本の元祖マルチクリエーター。オランダ製の壊れたエレキテルを修理・復元し、日本に電気の概念を広めたことが有名だが、この他にも、本草学者・地質学者・蘭学者・医者・発明家・戯作者・画家・俳人としても大活躍したそうだ。
 次は泪橋を右折して、南千住駅へ向かう。
 駅の隣、高架線脇にたたずむのが延命寺で、境内には小塚原刑場跡がある。小塚原刑場は江戸の二大刑場のひとつで、もうひとつは品川区の鈴ヶ森刑場。ショックだったのは処刑の方法。磔刑(はりつけ)、火刑、梟首(さらしくび)が主だが、他になんと刀の試し切りまで行われていて、累積処刑者数は二十万人を超えると言う。よって延命寺は、処刑された人々の霊を弔うために建てられたものなのだ。
「駅前に行ってみよう」
「おなかもすいたけど、なんだか疲れちゃったぁ~」
 南千住の駅前に出ると、マック、バーガーキング、デニーズ、日高屋が営業していた。
「おまえの好きなバーガーキングにする?」
「今日はハンバーガーって気分じゃない」
「じゃ、日高屋にしよう。おれ行ったことないし」
 ちょうど昼時とあって満席だったが、すぐにカウンターが空いたので並んで陣取った。女房がかた焼きそば、私はタンメンと餃子のセットを注文、間もなくして運ばれてくると、どちらも見た目から量が多そうだ。それでも腹ペコだったから即完食、うまかった。

 常磐線沿いに住宅街を進む。しばらくすると線路の左側に黒い瓦屋根が見え、左へ回り込むと、それが浄閑寺だった。
 見た目は単なる寺院だが、歴史を調べるとこれまた驚いた。ここは遊女たちの供養寺なのだ。その昔、近くに吉原遊郭があって、安政の大地震の際に多くの遊女が亡くなったおり、その遺体をこの寺に“投げ込むように葬られた”ことから、投込寺(なげこみでら)と呼ばれてきたそうだ。いやはや、なんとも荒っぽい。
「もうへとへと、コーヒーでも飲んで休憩しよう」
 三ノ輪駅の交差点にあったドトールへ入る。
「ホットでいい?」
「ああ、それとシナモンロール」
「よく入るね」
 実際、私もヘトヘトだったので、とにかく甘いものが欲しくてたまらなかった。しっとり甘~いシナモンロールをコーヒーで流すと、やっと人心地がついた。

 この大江戸散歩、やってみればなかなか面白い。新たな目線で東京を眺めたり、歴史の勉強になったりと、なにより気軽にトライできるところがGooだ。もちろん、今回のコースはほんの一例。この他にも興味深い大江戸ルートがたくさん掲載されているので、いろいろと下調べの上、この冬から歩き回ってみようと思う。

さんたつ by 散歩の達人

謹賀新年 ことしはアクティブに☆

2018年早朝 沼津千本浜より

 あけましておめでとうございます。
 本年も【西久保日記】をどうぞよろしくお願いいたします。
 さて、二十年近く続けている“年末撮影会”。相棒Tくんの一身上の都合により、今回初の中止と相成った。そのせいか、なんとなく去年に忘れ物をしたような気がして落ち着かない。

2020年日没頃 ふじのくに田子の浦みなと公園より

 二千年の初頭。デジタル一眼レフブームに乗せられた男四人が、それぞれピッカピカの愛機を手にして雁首を合わせた。
「みんなでなにか撮りに行きたいね」
「だったら伊豆に行こうよ」

2021年夜明け 西湖より

 夜明け前の突き刺さる冷気の中、四人が乗ったTくんの車は伊豆へ向けてGO!
 途中で景色のよさそうなところがあれば、車から降りてシャッターを切る。このようなことを日がな一日繰り返し、とりあえず計画どおりに熱海からぐるっと時計まわりで伊豆半島を一周した。これが年末撮影会の始まりである。ただ、日帰りではかなり体に堪えるので、次回から一泊二日にしようとグレードアップを提言。
「いいじゃないですか!」
 すると、予想はしていたが、年末撮影会とは言いつつ、温泉入って、うまいもの食って酒飲んでと、カメラを出汁にした忘年会と化したのだ。

2022年夕刻 西伊豆雲見 烏帽子山頂上より

 それはさておき、富士山ほど神々しい美しさを放つ存在はない。私など、仰げば思わず手を合わせることも屡だ。
 石廊崎から西伊豆へと北上していくと、富士山のビューポイントが多々あるが、やはり駿河湾越しの姿は息をのむほど美しい。年末撮影会でも、千本浜、戸田港、烏帽子山、そして奥石廊崎と訪れ、なんとしてでも富士山の魅力を撮り込もうと奮起したものだ。

2023年早朝 山中湖より

 年末撮影会の過去データをチェック、よさげな富士山をピックアップしてみた。
 今年も見聞を広げつつ、楽しい写真撮影を心がけたい。

バイク屋時代54 買うぞ、BDS!

 急務は新たな商材の入手だ。不良在庫を売るだけではすぐに先が見えてくる。そもそも俺はバイク販売一本で歩んできた。当然、販売スキルは社内の誰にも負けない。国産時代から手掛けてきたので、現行のハーレーやドゥカティはもちろん、発売が一九八〇年代以降の国産バイクなら十分な商品知識を持っている。BFはハーレージャパンとは全く関係がないので、なにを売っても自由。だったら今後の商材は中古バイク以外にはないと、素直に方針がまとまった。ただ、商材の仕入れは難しい。一般ユーザーが売却を考えれば、大々的な宣伝広告を行っている、バイク買取り業者大手の“バイク王”や“レッドバロン”へ依頼するのが流れだ。一般ユーザーからの仕入れはベストな方法だが、悲しいかな町のバイク屋が入り込む余地はない。

BDS柏の杜会場

「社長。BDS使いたいんですけど」
「うん、いいじゃない。木代くんは会員登録済だけど、会場には行ったことないよね」
「ええ」
「おれも久しく行ってないから、見学かねがねいっしょに行くか」
 BDS柏の杜は、東京ドーム2.5個分という国内最大規模のバイクオークション会場だ。所在地は千葉県の柏で、国内外問わずあらゆるバイクが平均三千台以上並び、資金と運さえあれば希望の車両を手に入れられる。BDSの利点は現車チェックが可能なこと。出品表に欲しいバイクがあれば、現車を前にして心行くまで状態の確認ができる。BDSの次に規模の大きいオークネットは、通信オンリーなので、バイクのレベルは査定士の評価点を信じるしかない。ただ、もちろんBDSでもリモート応札は可能だが、せっかく現車確認ができるのだから、自分の目だけを信じて買い付けたいもの。 
 大崎社長のパサートに乗り込むと、首都高~中央環状~常磐道・柏IC~R16と進んだ。所要時間はおおよそ二時間弱。社長も久しぶりだったので、会場の直前まできて道に迷い、住宅街を右往左往。やっとのことで到着すると、BDSの規模に目を見張った。
 係員に案内された応札室へ。空いた席に二人並んで着くと、実際にシステムを使ってのレクチャーを受けた。見回せば約半分ほど席は埋まっていて、皆モニターへ真剣なまなざしを向けている。

応札室

「ハーレー、あんがい安いんだな。買いたくなるね~」  
 三十分ほどモニターを眺めていると、なんとはなしに相場がわかってくる。やはり国産の落札額は高く、人気のほどがうかがえた。反面、ドゥカティは車種問わず安く、ハーレーも含めて輸入車は十分に買いの価値はありそうだ。それにしても驚くのは国産の旧車。ホンダCBX400FやカワサキのZⅡ等々だ。落札額は新車価格をはるかに超えており、二~三年前から始まった旧車ブームがブームには留まらず、新たなビジネスジャンルとして定着しているのが実感できる。
 だいたいの流れはわかったので、応札室を出て他の施設を見て回った。
 部品オークションの倉庫を覗くと、様々なものがこれまた大量にスチール棚に並んでいる。一応確認したが、ハーレー、ドゥカティ関連はごくわずかしかなかった。

サンヨー・エナクル


 そして意外や興味を引いたのは自転車オークション。ロード、クロス、ママチャリ、そして電動アシストまで並んでいる。ロードやクロスは新車が多いが、フレームサイズを見ると、極端に大きいものと小さいものがほとんど。いわゆる売れ残りだ。落札額を確認すると、ものによってはけっこう安い。なかでも電動アシストの出品は、そのほとんどがサンヨーの“エナクル”。ニッケル水素バッテリーを使った旧型だ。落札額は一万円以下と激安。三台ほど作動確認をしてみると、バッテリーが弱いがどれも通電OK、アシストも効く。充電器が付属しているのでこのまま売ることができそうだ。
 昨今、電動アシスト自転車の人気はうなぎのぼり。人気モデルになると納期が半年後になることもあるそうだ。メインのユーザーは小さい子供のいる主婦で、後ろには子供、前かごには買い物を満載しても楽に発進でき、ちょっとぐらいの坂ならスイスイと上っていくから人気が出るのもうなずける。ところが新車価格が高いのがたまにきず。パナソニックやヤマハの中堅モデルになれば十五万円以上はする。
「社長、うちは古物商をもってるから、自転車組合には入れますよね」
「だいじょうぶだと思うよ」
「バイクはさておき、その前に電動アシストを売ってみようかと」
「儲からないんじゃないの」
「仕入れ資金がわずかだから、手始めにはうってつけですよ」

 販売組合に加入しないと防犯登録を発行できないので、申請方法を調べると、まずは所定の種類を作成し、秋葉原にある販売組合の事務所へ持参するとある。訪ねてみると、一時間ほど、防犯登録の発行、管理、そして報告書の記入方法のレクチャーを受けた。それから一週間後、グッズ一式が到着、発行が可能となった。実に簡単だった。

 HD調布には、以前HD沖縄が使っていたトヨタのハイエースがある。ディーゼルエンジン、ロングボディーのハイルーフだ。ハーレーイベント時にしか使ってないこの車を、買付け用として借りることになった。載せ方にもよるが、自転車なら十台近く、バイクだと、250ccクラスで二台、ハーレーなら一台といったところか。この車、俺のBF時代の良き相棒となって、BDSまでの往復140kmを何度駆け巡ったことか。

 倉庫の雑多なパーツの処分は大方完了できたので、切りのいいところで仕事のメインを買付へとスイッチした。最初に行ったのは買付計画表の作成である。買いたいバイクの売り相場から売価を想定し、最低限の利益を決めれば、仕入れ額の上限が算出できるような計算式をインプットした。熱くなる競りの際に、ボタンの押しすぎを防止する役目もある。せっかく競り落としても、儲からなければ意味がない。
 試しに直近の落札データからシミュレーションしてみると、現実が見えてきた。全般的に人気のある国産バイクは、とても買えそうにないこと。例を挙げれば、売り相場三十万円ほどのヤマハ・SR400の落札額が二十万円台後半と、わけのわからないことになっているのだ。競り落とした店は、いったいいくらの売価をつけるのか。おそらく諸経費+αほどの利益しか考えてないだろう。二輪業界の儲からない実態を垣間見るようだ。
 これに対してドゥカティだと十分な勝算が見込め、ホッとすると同時にニンマリである。一般的な二輪中古販売店は輸入車を嫌う。相対的な人気がないし、整備の際にも独特なノウハウが必要になるからだ。ハーレーは輸入車の中では人気が高いが、モデルによっては十分ビジネスになりそうだ。人気のスポーツスターなどはうまみがないが、ツインカム88あたりのソフテイル、ダイナだったら、かなりな上物でも安く落とせそうだ。
 とりあえずドゥカティの目利きには自信があるので、買付計画に二台のモンスターを選んでみた。あとは例の電動アシストがいくらで落札できるかである。BDSの開催日は毎週水曜日。総務に仕入れ予算を確認し、さっそく来週にでも行ってみよう!

さわやかハンバーグ・女房とランチ

 十二月二十三日(火)。義母の介護認定の件で、女房と二人、沼津へ行ってきた。
 担当の方が午後一時半に義母宅まで来てくれるというので、早めに出かけてゆっくりランチを楽しむことにした。
「さわやか行こうよ」
「ウェイティング確実だぜ」
「十一時に着けば大丈夫じゃないの」
 押しの一本に負け、渋滞を考慮しつつ八時半に出発した。
 “さわやか”とは、静岡県下のみに展開するハンバーグチェーンのこと。地元の客だけではなく、県外からも多くの来店がある超繁盛店として有名だ。

 到着するとラッキーなことに、ウェイティングは四組のみ。十五分ほど待つとテーブルへ案内された。実はこのさわやか、十一年前に一度利用したことがあり、そのクオリティは経験済み。“まわりはこんがり中はレア”という焼き方がさわやか流。これにオニオンソースは抜群の相性。ボリューミーだがご飯がやたらと進む。ただ、ここにも値上げの波は押し寄せていて、同じメニューが先回は1,058円(税込)、現在は1,760円(税込)とずいぶん上がった。それでもラーメンが1,000円以上する昨今を考えれば、十二分に価値のある一品だ。

「いらっしゃいませ。さわやかは初めてご来店ですか?」
「以前に一度利用しました。ランチメニューの“げんこつ”と“おにぎり”をお願いします」
 ハンバーグの大きさの違いだけである。げんこつ250g、おにぎり200gで、その他はすべて同じ。二人ともライスとオニオンソースをチョイスした。
「今日は観光ですか?」
「沼津の実家に用事があってきました。東京からです」
 この頃のファミレスには見られないフレンドリーな接客がとても新鮮。
 十分ほどで料理が運ばれた。ウェイターがボールのようなハンバーグを二つに切り分けると、焼けた鉄板へ切り口を当てる。ジューッという音とともに盛大な煙が立ち込める。そこへソースをかけると、さらに賑やかになった。
「ごゆっくりどうぞ」
 さっそくいただくと、その味はまったく変わらなく、ひと安心。食べ応えのある量だが、女房も私もあっという間に完食した。
「お味はいかがでしたか?」
「おいしかったね」
 注文はタッチパネル、料理を運んでくるのはロボット、そしてセルフレジ。人件費削減と効率化を目指しているのだろうが、このように無味乾燥で人の体温を感じられないやりかたには限界がある。仮に目視しているものが得られたとしても、その次が見えてこない。

 昼過ぎ。女房を義母宅前で降ろすと、千本浜へとハンドルを切った。介護の用件はだいたい二時半ごろには終わるというので、それまでの間、カメラを持って懐かしい沼津の地を歩いてみることにした。
 沼津第二小学校は四年生の二学期から卒業まで、そのあとは沼津第二中学校へ進級し、二年生の夏休みまで過ごした。感受性が旺盛な小中学校生にとって、海、川、山のある沼津はまさに楽園だ。楽しい思い出は数えきれない。

 まずは第二小学校。敷地の一角にパン工房があり、給食にはいつも焼き立てのパンを出してくれた。初登校の時、ずいぶんといい匂いのする学校だなと不思議に感じたのをよく覚えている。もちろん焼き立てのパンは抜群においしかった。

 千本松原の中を歩くと思い出す。
 中学一年の夏休み。部活が終わって家に向かう途中、どこからともなく賑やかな音が飛んできた。もしやと思い踵を返す。音に向かっていちもくさんに歩いていくと、松原のど真ん中でやっているではないか、生のエレキバンドが。
バスドラに“Red Cherries”と記してあり、VENTURESのヒット曲を演奏していた。生演奏はこの上ない迫力と刺激に溢れ、これが発端となって、大学を卒業するまでバンド生活を楽しんだ。

 第二中学校の校庭にバスケットコートが見当たらない。まっ、ごく当たり前のことだ。あれから約六十年の月日が流れているのだ。バスケットコートどころか、校舎も完全に建て替えられ、昔の面影は跡形もない。

 二中をあとに、通学路である子持川の遊歩道を歩いた。水量は激減したが、その代わり水質はよくなった。種類はわからないが、数百匹を超える稚魚の大群が、光る水面の下、元気に泳ぎ回っている。ここは港湾に至るまで桜が植えられているので、春はすばらしい光景が広がる。

 時間がまだあったので、久しぶりに“びゅうお”へ行ってみた。三百六十度の大パノラマが楽しめる沼津港のランドマークだ。天気が良かったので、富士山から沼津アルプス、そして伊豆方面までよく見渡せた。沼津ってのは、本当にいいところにあるのだとつくづく思う。

 POLOを停めてある千本浜の駐車場へ向かっていると、スマホが鳴った。
「終わったよ。マックで待ってるね」
「OK」

写真好きな中年男の独り言