「日記」カテゴリーアーカイブ

昔の町並み

西久保一丁目 コミセン通り

 友人Hさんとのおしゃべりが弾んだ。
 彼は御年七十三歳、強い好奇心とバイタリティー溢れる行動をもって人生を駆けてきた男である。
「町の様相もずいぶん変わったね」
 ロイヤルホスト武蔵境店の窓から駅前を見下ろしつつ、Hさんが呟いた。
「かなり前だけど、吉祥寺のF&Fでね、古い武蔵野の町を撮影した写真展があったんで行ってみたら、高名な写真家のそれよりよっぽど感激したよ」
「地元の景観を記録としてもっと撮っておけばよかったな~」
「でも昔はフィルムやら現像やらで、写真っていうのはけっこう金のかかるもんだったから、地元の町並みを撮るなんてな発想は生まれなかったよ」
「写真は旅行に行ったときに、いい景色を撮るもんだったね」
 
 町の変化を写真で追うのはなかなか興味深い。写真展で見つけた、克明に描写された三鷹北口駅前の一枚が、幼いころの記憶を蘇らせた。駅前に青果店がポツンと一軒あるシーンだが、思わず目が釘付けである。撮影の対象は、駅前、幹線道路、商店街など大きく様変わりしたところが中心になっていて、当然ながら住宅街はほとんどなかった。できれば自宅から三鷹駅までの通勤通学路に沿っての写真を見たかった。
 リチャードの散歩でよく使う道程にしても、ぐるりと見まわせばずいぶんと変わっている。
 高級老人ホーム“ホスピタルメント武蔵野”の広い敷地には、十数年前まで“みずほ銀行独身寮”が建っていた。この施設は富士銀行時代のもので、当時を知る者に聞くと、
「やっぱり都銀はすごいよ。こんな大きくてさ、遊戯ルームも備えている豪華な独身寮を建てちゃうんだから。家賃なんか外部の人間が聞いたら怒り出すぜ」
 もう少し駅方面へ足を延ばすと、文豪・丹羽文雄邸があった。さながら彼の社会的地位を表すかのような瀟洒で気品のある屋敷は、今でも鮮明に思い出される。現在は敷地が三分割され、それぞれに一般住宅が建ち、当時を匂わせるものは微塵もない。

お湯割り

 朝夕ではいかにも師走といった、きりっと冷たい空気を感じられるようになってきた。
 早朝のリチャードの散歩でも、すでにウィンドブレーカーでは役足らず。羽織ってみればやはりダウンジャケットの温もりはありがたい。同じ時間帯でよく見かける柴犬連れのご主人も、ついにニット帽をかぶりだした。

 十二月九日(火)。デニーズOBの忘年会を立川の“とり鉄”で行った。
 微熱騒動以降、晩酌でのアルコール量上限を定め、さらに週二日の休肝日を励行するという、きわめて健康的な日々を送っているせいか、酔いだすのがやたらと早くなってきた。
「次は何にします?」
「焼酎、ボトルでたのんじゃおうよ。お湯割りでしょ」
 てなことで、中生は一杯で終わり。すかさず店員が芋のボトルと、ポット、炭酸を運んできた。
 店内はよく暖房が効いているが、なんとはなしに冬はお湯割りが欲しくなるもの。
 熱くなったグラスを口元へ寄せれば、湯気の中で微かに漂う芋の香りが師走を示唆してくる。

井の頭公園 落葉も終盤

 池を中心にぐるり一周すれば、四季折々の表情に満ち溢れる井の頭公園。
 大学卒業間近に、初となる自分のカメラ“キヤノンAE-1”を手に入れると、お気に入りの撮影地として年に数回足を運ぶようになった。
 ふり返ればここは思い出の多いところ。高校生の頃、学校帰りに荻窪の駅で彼女と待ち合わせると、まずは吉祥寺で下車、北口の“桜井”で味噌ラーメンをすする。そのあとはきまって井の頭公園へ行き、とりとめのない会話を楽しんだ。それから半世紀以上経ったと思うと、時の流れが妙に切なく胸に広がる。

 十二月五日(金)。ニコンD600にタムロンSP70-300mmを装着。バッテリーは満充電だ。
「井の頭公園いってくるね」
「寒いよ」
 自転車を飛ばす。空気は冷たかったが、眩しいほどに陽光は強い。
 いつもの公園駐輪場から池へ向かって下っていく。
 紅葉ピークはとうに過ぎ去り、落葉も終盤である。あいかわらず人は多いが、その中に一眼カメラを持った諸氏を多々見かける。なにげに機種へ目をやると、ペンタックスの文字を確認できた方が二人もいた。
 池の西端までまわって来るとマンション群が目の前にそびえたつ。いつも思うが、あの高層階からの眺めはさぞかしナイスだろうかと。

クルミ

 子供のころ、チョコレートケーキにトッピングされていたクルミを口に含み、カリッとやると、その瞬間大好物になった。今では常備つまみとなり、晩酌に欠かせない。

 ナッツ類はなんでも好きだが、クルミが一番なのは、味が好みという以外に二つほどある。
 一つ目。私は歯が悪く下顎に義歯を入れているので、固いものとか弾力の強いものは苦手。昨今の義歯は保険適用品でも出来がいいが、それでも硬いものを噛み続ければ、直接歯茎に圧力が掛かるので、しまいには痛みが出るものだ。本当はピーナッツやカシューナッツも気にせず食べたいところだが、どれもクルミより硬く、歯茎は間違いなく悲鳴を上げる。その点クルミは噛み心地がとても優しい。

 二つ目。最近知ったことだが、クルミには現代人に欠かせない栄養素が豊富に含まれている。最も注目するのが“オメガ3脂肪酸”。ナッツ類の中では含有量が最も多く、適度に摂取すれば血液をサラサラにし、心臓病予防にも効果があるという。おいしくて体にいいのだから、実にありがたい食べ物だ。
 ただ、クルミを含めてナッツ類は意外や値段が高い。ある日ヨーカドーのカルディへコーヒーを買いに行くと、うってつけな品が並んでいた。“生クルミ 大袋 500g”。味も食感もいいので、ずっとリピート買いしている。

「カルディ行くよ。クルミとオリーブオイル」
「じゃ、バーガーキング寄ろうよ」
 ほんと、うちの女房はバーガーキングが好きだ。
 十一時半ちょっと過ぎなのに、すでにカウンター前には待ちの客が十人ほどいる。
「ワッパーチーズのセット、コーラで」
「パパ、それって普通のサイズだよ」
「いいんだって、ジュニアじゃ足りなかったからさ」
 店内のテーブルは比較的空いていた。持ち帰りが半数以上を占めているからだ。
「これ、けっこう食いであるな」
「だって大きいよ」

武蔵野市胃がん内視鏡検診

 十二月一日(月)。胃の内視鏡検査を受けてきた。これまで長らく緑町の陽和会病院を利用してきたが、今回は初となる西久保の“いとう胃腸クリニック”で“入れる”ことになった。
 ギャルソンに勤めていた頃は、健康診断の際に健康保険組合の補助を利用して、確か7千円で毎年内視鏡検査を受けていた。ところが退職して国民健康保険に変更すると、そのような補助はなく、自腹で一万七千円を支払って受けていた。ところが、
「たしか市の補助で、もっと安く受けられるはずだよ」
 と、女房が教えてくれた。
 詳しく調べると、あるある、“武蔵野市胃がん内視鏡検診”なるものが。対象は五十歳以上の市民で、二年に一回、指定病院で受けられるようだ。気になる費用は二千円とリーズナブル。さっそく申し込むと受診券と指定病院一覧が送られてきた。ところが指定病院の中に陽和会病院が見当たらない。
「“いとうクリニック”へ行けばいいじゃん」
「なんで?」
「あたし、そこで胃カメラ受けたことあるもん」
 そんな話、一度も聞いたことがない。
「じょうず?」
「わかんない、初めてだから」
 まっ、どこを選んでもそれほど大差はないだろう。

「マスクは取ってもらって、そこへかけてください。鼻に麻酔をかけます」
「ちょ、ちょっと待ってください、鼻じゃなくて口でお願いします」
「えっ? 鼻の方が楽ですよ」
「いやいや、慢性鼻炎もちだし、以前に鼻腔の手術をやったことがあるんで、なんとなく鼻は鬼門なんですよ」
「そうですか、わかりました」
 ベッドで仰向けになり麻酔薬を口に含む。三分経ってそれを飲み込むと、こんどは別の麻酔を口蓋へ直接噴霧された。
「はい、横になってくださいね~、これマウスピースです、テープで固定します」
 看護師さんがよだれかけを装着してくれると、ドクターIが内視鏡を持って目の前に座った。
「じゃ入ります」
 いきなりの挿入。けっこう荒っぽい。オエッ!が連発する。陽和会のドクターと較べると、あまりうまくない。
「モニターに映ってますから見てくださいね」
 それどころじゃない。
「墳門が開き気味ですね。逆流症になる可能性ありますね。げっぷとか出ませんか?」
「……」
「ああ、鼻からじゃないからしゃべれませんね」
 この野郎!
 それでもドクターIはご丁寧なことにずっと説明をしながら検査を進めていった。
「これがおっしゃっていたポリープですね。ピロリ菌はないようです」
 胃底腺ポリープであろう。このポリープはピロリ菌のない環境下でできるのだ。

「おつかれさまでした。逆流症が気になりますが、そのほかは異常なしです」
「そりゃ安心しました」
「二年後には鼻からやりましょう」
 ドクターIは、よっぽど好きなんだろう、鼻から入れるのが。