
ドゥカティオーナーたちが集まりバイク談議が始まると、ちょくちょく持ち上がる話題がMoToGP。そりゃそうだ。これまでMoToGPと言えば、長い間メイドインジャパンのレーサーが圧巻し続け、ロードレース発祥の地であるヨーロッパ勢は見る影もなかったが、二〇〇三年、ついにドゥカティがMoToGP参戦を開始。当初は期待された活躍は見せなかったものの、二〇〇五年からパワー重視でチューニングされた“GP5”を投入。ヤマハのバレンティーノ・ロッシ一色の年度ながら、コンスタントに六位以内へ食い込む健闘を見せ、第十二戦“もてぎGP”ではついに念願の初優勝を奪取、その後は優勝争いに顔を出す唯一の外国勢として大躍進が始まったのだ。ちなみに翌年二〇〇六年では十七戦中四度の優勝に輝いた。

「店長、面白いものが届きましたよ」
茶封筒を持った原島がにやついている。
「今年のもてぎGPで、DJが応援スタンドをやるみたいです」
資料によると、観戦セットを枚数限定で販売し、ドゥカティ応援スタンドからの観戦、応援グッズ(キャップ、ベスト等々)付、決勝直後のパレード走行という、なかなか魅力的な内容なのだ。
「これ、いいじゃない」
実は俺、バイクレースなるものは一度も観たことがない。たいがいのレースは週末開催なので、仕事とバッティングするのだ。だから、MoToGP、もてぎ、ドゥカティとくりゃ、行きたさはマックス。仕事は休めないが、仕事という名目で行けばいいことだ。
「やるか、MoToGP観戦ツーリングを」
「そう来ると思いましたよ。早めに二十枚ほど確保して、明日からでも告知しましょう」
「わかった、それじゃハラシに任せるよ」
こういうときのハラシ(原島)は抜群の働きを見せる。すぐさまDJへ電話を入れると、チケットを確保。PCで告知のポスターをササっと作って店内に掲示。最後は杉並店のウェブサイトに、<モト・ギャルソンメンバーへお知らせ>と称し、MoToGP観戦ツーリングの内容をアップ。反応はすこぶるよく、週末までに二十枚を完売。参加者名簿を作った後はツーリングのスケジュール作りに取りかかった。

当日に乗っていく車両は“ムルチストラーダ1000”と決めていた。発売されて早二年がたつが、販売状況は思わしくなく、その特異なデザインに賛否両論が集中した。
― ドゥカティらしくない。
― 顔が変だ。
デザインはあくまでも好みの範疇なので、なんとも言えないが、俺は一発で気に入った。しかも運転してみると、楽ちんなポジションで乗り心地もよく、DSエンジンとのマッチングもすこぶる良好。ドゥカティラリー箱根の時、箱スカ、芦スカで思いっきり飛ばしてみたが、サスストロークが長いので、グリップ感をつかみやすく、強力なブレーキも手伝って、気持ちのいいスポーツランを楽しめた。実はこの時、お客さんを四台引き連れてのツーリング中だったのだが、芦スカ区間に入って間もなく、BMWの1200GS にものすごい勢いで抜かれ、途端に“ブチッ!!”っとスイッチが入ってしまった。
GSはかなりの走り好きらしく、スロットルの開けっぷりは惚れ惚れするほどだったが、コーナーの立ち上がりでは僅かにムルチストラーダに軍配が上がり、テール・トゥ・ノーズが延々と続いた。そんな素晴らしいムルチストラーダではあったが、ぜいたくを言えば、もう少々サスに腰があると、S字コーナーなどでクイックに向き変えが可能になるだろう。ただ、ビギナーツーリングにムルチストラーダに乗っていった大杉くんは、
「ダメっすね、あれ。おれのケツには合わないみたい。痛くて痛くて」
まっ、このような意見もある。ちなみに俺はまったく平気。

初めてのツインリンクもてぎは、ゲートをくぐった瞬間から圧倒された。とにかく人の溢れかえり様がすごいのだ。特にグランドスタンドからは、まだレースが始まっていないのに熱気が発散していた。
「あら! 木代さぁ~ん!」
振り返ると、ナイスなCガールがこっちを見て手を振っている。
「おっ! Uちゃんじゃない、久しぶりだな」
ドゥカティラリーで一緒にイベントを盛り上げたCガールの一人だ。
「ドゥカティブースにいるんでよろしくお願いしま~す」
今日はメイクもMoToGPに合わせたのか、やや濃いめで人の目を引いた。抜群のスタイルと笑顔がまぶしい。
「うわー、木代さん、ぼくにも紹介してくださいよぉ」
そう来ると思った。

さすが国際レース、125ccクラスから驚きの連続である。当たり前だが速い。いや、速すぎる。ストレートはさすがに排気量が小さいため、やや迫力に欠けるが、コーナーは切れがよく、世界クラスのライダーの力量がうかがえた。250ccクラスになると、コーナーこそそれほど変わらないが、やはり立ち上がりの加速とストレートの伸びが格段に上がり迫力満点。ところが、四~五台の集団でストレートを駆け抜けるときの排気音は凄まじいものだが、出走を前に、MoToGPクラスのマシーンがパドックでエンジン暖機を行う時の排気音は更に大きく暴力的で、レース中の250ccの音が聞こえないほど。中でもドゥカティGP5は音量はもちろん、音色も他を圧倒した。フォンフォンフォン、フォーーン、フォーーンが国産マシーンならば、GP5はバンバンバンである。
250ccクラスが終わるとMoToGPの前に、往年の名ライダー“ランディー・マモラ”によるエキシビジョン走行が行われた。ランディーが抽選で選ばれた一般のお客さんをドゥカティGP5の後ろに乗せ、スポーツ走行をするというもの。
「うわぁ、面白そー! いいなぁ~、あたしも後ろに乗りたいぃぃぃ」
紅一点のツーリング参加者である長谷川さんは、さっきから隣で興奮気味。女性ながら愛車はSS1000と根っからのスポーツ派。さすがにランディーのこともよく知っていた。
するとすかさずハラシが、
「長谷川さん、ぼくの後ろに乗せてあげるよ」
きつい視線がハラシへ投げられる。
「けっこうです」
それにしてもランディーの走りは凄い。まるでサーカスだ。フル加速でコーナーへ突っ込むとウィリーしながら立ち上がり、次のコーナーではフルバンク、タンデムのお客さんも膝を擦っていたかもしれない。最後はブレーキングの最後でジャックナイフ。お客さん、降りるとしばらく足元がおぼつかなかった。しかし最高の経験だったことは間違いないだろう。

ついにMoToGPが始まった。ドゥカティのエースライダー“ロリス・カピロッシ”は予選から絶好調で、決勝もポールポジションからのロケットスタートでレースを牽引。ホンダのマックス・ビアッジと手に汗握るデッドヒートを展開、最後はみごと競り勝ってポール・トゥ・ウィン。完璧なレースを作り上げたのだ。おかげでツーリングメンバーたちは大喜び。応援グッズの価値もさぞかし上がったことだろう。

そして興奮冷めやらぬうちにパレードランが始まった。さっきまで熱い戦いがあった同じコースを走る嬉しさはこの上ないもの。各コーナーブースにはまだ少数の観戦客が残っていて、前を通過すると手を振ってくれる。なんだかGPライダーになったような気分がしてきてこそばゆい。
あっという間のレースイベントだったが、こんな楽しい一日を仕事と言う名目ですごした後ろめたさは、明日出勤して大杉くん以下、スタッフ達と目が合った時に、はっきりと出てしまうのでは…

「店長。おみやげは?!」
「ご、ごめん」






































