gavin のすべての投稿

クルミ

 子供のころ、チョコレートケーキにトッピングされていたクルミを口に含み、カリッとやると、その瞬間大好物になった。今では常備つまみとなり、晩酌に欠かせない。

 ナッツ類はなんでも好きだが、クルミが一番なのは、味が好みという以外に二つほどある。
 一つ目。私は歯が悪く下顎に義歯を入れているので、固いものとか弾力の強いものは苦手。昨今の義歯は保険適用品でも出来がいいが、それでも硬いものを噛み続ければ、直接歯茎に圧力が掛かるので、しまいには痛みが出るものだ。本当はピーナッツやカシューナッツも気にせず食べたいところだが、どれもクルミより硬く、歯茎は間違いなく悲鳴を上げる。その点クルミは噛み心地がとても優しい。

 二つ目。最近知ったことだが、クルミには現代人に欠かせない栄養素が豊富に含まれている。最も注目するのが“オメガ3脂肪酸”。ナッツ類の中では含有量が最も多く、適度に摂取すれば血液をサラサラにし、心臓病予防にも効果があるという。おいしくて体にいいのだから、実にありがたい食べ物だ。
 ただ、クルミを含めてナッツ類は意外や値段が高い。ある日ヨーカドーのカルディへコーヒーを買いに行くと、うってつけな品が並んでいた。“生クルミ 大袋 500g”。味も食感もいいので、ずっとリピート買いしている。

「カルディ行くよ。クルミとオリーブオイル」
「じゃ、バーガーキング寄ろうよ」
 ほんと、うちの女房はバーガーキングが好きだ。
 十一時半ちょっと過ぎなのに、すでにカウンター前には待ちの客が十人ほどいる。
「ワッパーチーズのセット、コーラで」
「パパ、それって普通のサイズだよ」
「いいんだって、ジュニアじゃ足りなかったからさ」
 店内のテーブルは比較的空いていた。持ち帰りが半数以上を占めているからだ。
「これ、けっこう食いであるな」
「だって大きいよ」

武蔵野市胃がん内視鏡検診

 十二月一日(月)。胃の内視鏡検査を受けてきた。これまで長らく緑町の陽和会病院を利用してきたが、今回は初となる西久保の“いとう胃腸クリニック”で“入れる”ことになった。
 ギャルソンに勤めていた頃は、健康診断の際に健康保険組合の補助を利用して、確か7千円で毎年内視鏡検査を受けていた。ところが退職して国民健康保険に変更すると、そのような補助はなく、自腹で一万七千円を支払って受けていた。ところが、
「たしか市の補助で、もっと安く受けられるはずだよ」
 と、女房が教えてくれた。
 詳しく調べると、あるある、“武蔵野市胃がん内視鏡検診”なるものが。対象は五十歳以上の市民で、二年に一回、指定病院で受けられるようだ。気になる費用は二千円とリーズナブル。さっそく申し込むと受診券と指定病院一覧が送られてきた。ところが指定病院の中に陽和会病院が見当たらない。
「“いとうクリニック”へ行けばいいじゃん」
「なんで?」
「あたし、そこで胃カメラ受けたことあるもん」
 そんな話、一度も聞いたことがない。
「じょうず?」
「わかんない、初めてだから」
 まっ、どこを選んでもそれほど大差はないだろう。

「マスクは取ってもらって、そこへかけてください。鼻に麻酔をかけます」
「ちょ、ちょっと待ってください、鼻じゃなくて口でお願いします」
「えっ? 鼻の方が楽ですよ」
「いやいや、慢性鼻炎もちだし、以前に鼻腔の手術をやったことがあるんで、なんとなく鼻は鬼門なんですよ」
「そうですか、わかりました」
 ベッドで仰向けになり麻酔薬を口に含む。三分経ってそれを飲み込むと、こんどは別の麻酔を口蓋へ直接噴霧された。
「はい、横になってくださいね~、これマウスピースです、テープで固定します」
 看護師さんがよだれかけを装着してくれると、ドクターIが内視鏡を持って目の前に座った。
「じゃ入ります」
 いきなりの挿入。けっこう荒っぽい。オエッ!が連発する。陽和会のドクターと較べると、あまりうまくない。
「モニターに映ってますから見てくださいね」
 それどころじゃない。
「墳門が開き気味ですね。逆流症になる可能性ありますね。げっぷとか出ませんか?」
「……」
「ああ、鼻からじゃないからしゃべれませんね」
 この野郎!
 それでもドクターIはご丁寧なことにずっと説明をしながら検査を進めていった。
「これがおっしゃっていたポリープですね。ピロリ菌はないようです」
 胃底腺ポリープであろう。このポリープはピロリ菌のない環境下でできるのだ。

「おつかれさまでした。逆流症が気になりますが、そのほかは異常なしです」
「そりゃ安心しました」
「二年後には鼻からやりましょう」
 ドクターIは、よっぽど好きなんだろう、鼻から入れるのが。

バイク屋時代51 好調ハーレー

 二〇一〇年頃をピークにし、輸入バイクの中でハーレーは吐出して業績好調を維持していた。販売店の尽力はもちろんだが、これにはHDJの奥村社長の手腕によるものが大きかった。彼は次々に販売戦略のアイデアを作り上げ、半強制的だがとにかく販売店を動かし、金字塔と言って憚らない業績を作り続けた。それはまさに圧倒的な組織力の行使であり、当初は「暴挙だ!一方的だ!」などと不満をぶちまけていたディーラーの経営者たちも、確実に上がる売上を前に、これまでの販売促進と言ったら“値引き”しか知らなかった己を見つめるようになり、しまいには「奥村さんについていけば間違いなし!」と、長い物には巻かれろとばかりに尻尾を振るようになった。強権と言えばそれまでだが、実際のところウィンウィンの時代は延々と続いていったのだ。

 HDJが掲げる販売促進のメインは“ハーレーライディングフェスタ”と称する、主に府中の味の素スタジアムで開催した大試乗会、そしてHDJが構築した顧客管理システムCRM(Customer Relationship Management)の積極活用の二本立てだ。
 まず試乗会最大の特長は、試乗コースをスタジアムの敷地内に設定することにより、大型二輪車の運転免許を持ってなくてもハーレーに乗れるところ。もちろん安全な運転操作ができるかどうかの事前審査を行うのだが、この審査には地元の自動車教習所が数校参加し、各校の指導員が当たった。なんと言っても試乗は何台乗っても無料だったので、想定以上の来場客があり、当初から混乱するほどの大盛況である。
 試乗受付の背後には二十数社の参加ディーラーのブーステントが並び、中古ハーレーやアパレルを並べ、賑やかなお祭りムードを演出、すぐ脇には自動車教習所のテントが並び、事前審査コースが隣接する。

 実際に試乗をすると、それまで憧れだったハーレーに具体的な興味が起きる。試乗者全員に記入してもらうアンケート結果を羅列すれば、
・想像より乗りやすかった。
・ローライダーが気に入った。
・所有の250ccがおもちゃに思えてきた。
・可能なら購入したい。
・まずは大型二輪免許を取りたい。
 等々、すぐにでも商談になりそうな内容が多くを占めた。そして試乗後、営業マンは特にインパクトが得られたようなお客さんを捕まえてブースへ連れて行く。そう、購入見積もりを提示するために。

「へー、883なら月々二万円で買えちゃうんだ」
「しかもお客さん、ハーレーは中古車市場での人気が抜群に高いんです。百万円で買って、三年後の車検の時に最低七十万円で買い取れるんですよ。だから883に慣れて、そのうちもっと大きなモデルが欲しくなったら、883を頭金として買い替えができちゃうんです」
「それいいな、でも免許がないから…」
「あそこに教習所のテントが並んでるじゃないですか、今行って申し込むと、特別入所金で、しかもすぐに教習がスタートできるんです。同時に883の購入を決めてもらえば、大試乗会特別ローン金利1.9%が適用になります」
「なるほどね、じゃ、決めちゃおう」
「ありがとうございます!」
 嘘のようだが、実際のところ全出店ディーラー合計で、一日に三十台、四十台と売れるのだ。ただ、HDJよりライディングフェスタ実施の告知がされた当時、一部のディーラーから文句が出て、開催へ向けての足並みが揃わなかったことがあった。
 二十数社の参加と言えば、東京のみならず、遠く神奈川、埼玉、千葉のディーラーまでもが対象となる。
 なんと言っても開催場所が味の素スタジアムなのだから、来場者のほとんどが東京在住と予想するのは無理もない。
「ギャルソンさんはいいですよ、地元なんだから商談独占じゃないですか。味スタくんだりまできてゼロ戦じゃあ、やってらんないですよ」
 わざわざ神奈川や埼玉のディーラーを選ぶわけがないという文句である。ところがイベント告知にかなりな広告宣伝費を投入しただけあって、第一回目から大盛況。そして案ずるより産むがやすし。遠方からも多くの来場者があったのだ。回を重ねるごとに試乗者数は伸びていき、近県ディーラーも十分に商売となる規模まで拡大していったのだ。それに中古車については責任販売エリアは除外されるし、オンリーワンという商品性格上、魅力のある品であれば、近隣、遠方関係なく即売れた。一部の遠方ディーラーなどは、毎回ブース前に十台近くの極上中古車を並べ、「完売!」と気炎を上げていた。

 売れるのはバイクばかりではない。イベント特価にしたデッドストックのアパレルやアクセサリーパーツなども、会場のイケイケムードのあおりを受けよく売れた。モト・ギャルソンのブースでも、お荷物になっていたドッググッズ、つまりハーレーダビッドソンオリジナルの首輪やリード等々だが、展示すると意外な集客効果があり、二日間のイベントでほぼ完売である。

 試乗車アンケートは一旦HDJが回収していき、本部で責任販売エリアごとに分け、その後ディーラーへと送付される。
 そしてディーラーは送られてきた試乗アンケートのデータを速やかにCRMへ入力、電話コールを中心に順次営業をかけていくのだ。HDJは直接ターゲットと会話を行う電話コールを重要視していた。はがきやDMはあくまでも“お知らせ”であり、営業ツールとしては認めていない。
 一件の電話コールを済ますと、その都度CRMに記録。これはルールなので、HDJは各ディーラーの進捗状況が日々手に取るように分かる。着手が遅れているとすぐに指摘され、ディーラー評価にマイナス点が付き、ホールバックマージンに影響する。それでも大半のディーラーは、これまであまり手を付けたことのない作業だったから、なかなか進まないディーラーも多々あった。これに対し、あまりにも内容がひどい場合、なんと社長がHDJへ呼び出しを食らうのである。
「〇〇社長、電話コール、どうなってるんですか」
「いや~、なかなか進まず申し訳ない」
「社長のところ、進捗状況は全店最下位ですよ。我々の趣旨に賛同できないと解釈してもいいのでしょうか」
「店に返って発破かけます」
「発破かけるんじゃなくて、まずは社長自ら行わなければスタッフは腰をあげませんよ」
「は、はい」
 これほど強力に推進するだけあって、電話コールの効果は絶大だった。やり始めは皆同じ事を考えるもので、「電話までしてバイクの営業掛けたら、嫌がるんじゃないの」
 と、勝手に考えてしまうのだ。
 ところがだ、わざわざ会場まで足を運んで試乗をするのだから、ハーレーに興味がないわけはない。できれば手に入れたいのが本音。そんな心情が渦巻くところに営業マンから直接電話が掛かってくれば、なにがしかの心の動きはあるもの。実際は嫌がるどころか、逆に質問や相談を受けることの方が圧倒的に多い。

 販促と言えば値引きやパーツサービスしか思い浮かばなかったディーラーが、このCRMを使ったシステマチックな攻略方法をきっかけに、よりHDJ寄りとなり、先端の経営手法を学び推進していくのだった。

群馬いろいろ

「早く寝なきゃね」
「そう言っていつも夜更かしじゃん」

 十一月二十六日(水)。おなじみ、年一回開催の西一町会・日帰りバス旅行。夫婦そろって参加の恒例イベントである。 
 昨年は鎌倉だった。小町通りの散策に始まり、長谷寺、鎌倉大仏、そして新江ノ島水族館と、けっこう盛りだくさんだった。とりわけ水族館が楽しく、いつもながら参加費一人四千円は安いとつくづく思った。
 さて、今回の行き先はちょっと遠目で群馬県。床モミジで知られる“宝徳寺”と、二〇一四年に世界遺産へと登録された“富岡製糸場”である。

 宝徳寺の紅葉はぎりぎりセーフのようだ。境内にあるモミジの発色はとても見事で、好天に助けられ目にも眩しいほど。おまけにシーズンとあって来場者が多く、目玉の“リフレクション”では場所取り合戦が勃発、レッドカーペットの上で床に伏せ、スマホを覗き込みながらシャターを切る姿が延々と続く。持参したα6000の液晶は、上下に角度を変えられるので、床に伏せなくても楽にローアングルが決められる。
「いいかげんおなかすいたね」
「一時間近く予定がずれ込んでるからな」
 本堂入口右手にはキッチンカーが並んでいて、一番奥の車には“焼きまんじゅう”と記したのぼりがたっている。
「あれ、いこう」
「大きそうだから半分っこでちょうどいいじゃん」
 腹が減っていればなんでもうまいが、甘じょっぱいタレはやはり魔法。何個でもいけそうだ。

 富岡製糸場の見学はガイド付きである。歴史がよくわかって興味深かった。中でも、繰糸所の機械は非常にメカニカルであり、当時の技術の高さがうかがえた。ただ、空腹はなんともしがたく、後半になると腹が鳴って集中できないほど。
「はい、みなさま大変お待たせいたしました。これから昼食へと移らせていただきます。食事処の“ときわ荘”さんは、店舗が登録有形文化財に指定されていて、お庭もとてもきれいです。お料理は群馬県特産のこんにゃくを主役にしていますのでお楽しみに♪」
 ガイドさんの説明を聞き、少々心配になってきた。こんにゃくが主役では腹が満たされないのでは…

 ときわ荘へ到着すると、なるほど昭和な建物だ。通された部屋は和室。年寄りばかりの団体にこれは厳しい。案の定、あちらこちらから不満の声が…
「それでは椅子をお持ちしましょうか」
「いやけっこうです。一人だけ頭が出て浮いちゃうんで。それより座布団をもう一枚おねがいします」
 なるほど。折った座布団を二枚重ねにするのだ。これならさほど頭が飛び出ないし、膝にも股にも優しそうだ。
 そうするうちに味噌汁と弁当箱が運ばれてきた。蓋を取ると四つ切り箱。松花堂弁当である。案の定、量が少ない。が、いただくと、これがうまい。こんにゃくの刺身は無論のこと、煮物、鳥の照り焼きも言うことなし。ご飯にいたっては冷たくても驚くほどおいしいのだ。これぞ老舗の味か。
「パパ、鳥あげる」
 うちの女房、鳥が苦手なのだ。

 高速道路へ乗る前に、めんたいパーク群馬へ寄った。明太子をあてに冷酒は最高。たらこの佃煮と合わせてお土産にした。
 帰りの車内では『男はつらいよ・寅次郎と殿様』が流れ、若いころの真野響子がマドンナ役で出ていた。寅さんシリーズのストーリーはいずれも察しが付きやすいが、ついつい見入ってしまう魅力は枯れることがない。

晩秋の刈寄山

 思った以上に微熱騒動が長引き、十月は一度も山へ行けなかった。年間でもベストなシーズンだけあって、森を歩きたい欲求はピークに達していた。

 十一月二十四日(月)。刈寄山の山中は晩秋色濃く、落ち葉を踏む音には季節を感じられた。
 両手を広げて大きく深呼吸をすると、冷っとした空気が鼻腔に流れ込み気も引き締まる。ただ、一か月ほど前から右膝の痛みがぶり返していたので、庇いながらの山歩きではあった。特に下る際には気を付けないと、顔をしかめるほどズキッとくる。どうせ病院で診てもらっても、
「レントゲンでは異常は見られませんね」
 で、終わりそうだから、引き続き毎日のウォーキングやジョギングで、膝回りの筋肉が落ちないよう精進したい。

 山と言えば、昨今熊問題が大きくクローズアップされている。特に今年は人身被害や死者数が過去最多となり、もはや登山者の留意事項を通り越して、社会問題へと拡大した。
 さて、ここからは私の持論になるので、参考程度に流し読みして欲しい。

 熊が人を襲うには理由があると思う。昔からよくある事例は、
 ・登山道での出会いがしら。びっくりした熊が襲い掛かってくる。
 ・子熊にちょっかいを出す。子供が危険にさらされていると勘違いした親熊が襲い掛かってくる。
 以上が主なもので、対策としては、熊鈴、ラジオなどの音で人の存在を察知させる。野生動物には手を出さない等々で、殆ど事故を回避できた。
 山中にいる熊は恐らく正常な生活を営んでいると思われる。よってわざわざ人を襲う理由はない筈。例外としては、普段の生活エリアに餌が乏しいため、他のエリアまで移動してきたとすると、気がたっていることもあり得る。
 一方、ニュースで報じられている熊被害の殆どは、山中ではなく人里で発生している。餌がなく空腹になれば、人だってイラつくものだ。我慢ができなくなり、普段は踏み込まない人の臭いがぷんぷんするエリアへ入り込めば、空腹と緊張でイライラは頂点に達っする筈だ。そんな中で人に出くわせば、熊にとってはまったくもって目障り、邪魔であり、攻撃してくる可能性は非常に高いと思われる。

 登山中にクマに襲われる例は“0”ではないので、決して油断はできないが、熊の生態と心情を考えれば、必要以上に登山を避けるのはナンセンスのような気がする。むしろ道路を歩いていて、交通事故に巻き込まれる確率の方が高いかもしれない。
 熊事件が勃発する以前、いや、遥か昔から山中には多くの熊が生活しているのだ。