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デニーズOld Boy’s 身近な避暑地

 クソ暑い夏に我慢ができなくなったら、いせやに行って店員さんに「生!」と言ってみよう。寛ぎタイムの始まりだ。
 ジューシーな焼き鳥と熱々の餃子を心行くまで味わったら、すかさず冷たいビールで流し込もう。瞬く間に極楽へ到着だ。気がつくと汗は引いている。

 昨今の猛暑はあまりに凄まじく、外出そのものを躊躇する。でも、友人たちとの飲み会となれば話は別。
「行ってくるね」
「はぁ~い、帰りは」
「そんな遅くない」

 八月二十六日(火)。東京駅での車両点検で、中央線は十分以上の遅れ。いつものこととは言え、午後の暑い頃にホームで立ちんぼはうんざりだ。
 八王子の南口に降り立ったが、負けずに暑い。

「ひさしぶり」
「Yさん、まだなんです」
「ああ、電車遅れてるからね」
 喉のカラカラがピークに達していた三人は、
「とりあえずビールたのんじゃおうよ」
 と、フライング。

「ひえぇぇ~~うめぇぇ~~」
 看板メニューの肉豆腐が甘じょっぱくてビールによくあう。
「つまみは適当にたのんでます」
 メンバー最年少のIさんは、いつも幹事役を買って出てくれる。スマホにメニューをインプットする目線が真剣そのもの。それにしても注文はスマホ、料理を運ぶのはロボットってのは、なんだかね…
「どうも~、ごめんなさい」
 Yさん到着である。
 ずらりと並んだ料理を前に、二度目の乾杯。

「おつかれさぁ~~ん」
 すでに酷暑など、うわのそら。

バイク屋時代42 遊べるバイク屋

 ビッグツーリングの参加者はここ二、三年増加の一途にあり、ハーレー二店で約七十名、杉並店は三十名前後、そして少なくはなったが国産オーナーが五~六名と、常に百名オーバーで推移している。そのためか、宴会場などではハーレーのお客さんが必然的に幅を利かせているような形に映り、杉並店や国産バイクのお客さんにしてみれば、隅へ追いやられるような居心地の悪さを感じてきたのかもしれない。

プチホテル フルールの駐車場にて

 ある平日の午後。店には常連の西ノ宮さん、滝沢さんが遊びに来ていて、なにやらカスタムの話で盛り上がっている。
「お話し中失礼。ちょっと意見を聞きたいんだけど、ビッグはこれまで全店合同でやってきたけど、どうかな、年に一回は店別でやるってのは」
「ああ、それ賛成」
「わたしもそっちの方がいいですね」
 現況のビッグツーリングは、以前とは趣がやや異なる。本店、吉祥寺店、ギャラリーの国産バイク時代は、どの店も取扱車種が同じだったので、お客さんのバイクライフも似てくる。だから話題に共通項が多く、仲間が作りやすかった。ところが同じバイク好き、同じライダーなのに、どうもハーレーオーナーとスポーツバイクオーナーの間には、何やら壁ができてしまうようで、会話が始まることは至極まれ。話題を作ろうにも共通項が少なく、話のきっかけを見出すことは難しい。もっとも国産バイク時代も、ツナギを着てフルバンクで駆け抜ける峠好きと、泥だらけになって山を走る林道好きの間には、やはり壁のようなものが
あったにはあったが…
「さっそくだけど、秋のビッグは杉並店単独でやろうと思ってるんですよ」
「そうなんだ」
「いいじゃないですか」
 細かいことだが、お客さん同士の見えない壁問題の他にもいろいろある。たとえば宴会でゲームを行い、勝者には景品を進呈するのだが、ハーレー関連、ドゥカティ関連でそこそこの数量は用意しても、ゲーム勝者がドゥカティのお客さんなのに、ハーレーのTシャツしか残っていなかったり等々はよくあることなのだ。
 ある時、そんな諸々を大崎社長へ話してみると、
「壁というか、バイクライフの楽しみ方の違いについてはスタッフもお客さんも以前から感じてたんじゃないの。それとは別だけど、これだけ参加者が増えてくると、宿を取るのが難しくてさ、矢倉くんがぼやいていたよ」
 同じことを下山専務も言っていた。スタッフを合わせると、総人数は百二十名以上になり、宿によっては“暴走族の集会”と誤解されるらしい。
「なら試しに次回は別々にやってみませんか」
「そうする? でも、時間があまりないから、宿の件は近ツリの田中さん、紹介しようか?」
「いや結構、自分で探します」


 今やネットの時代。海外旅行でもあるまいし、マウス片手に検索しまくれば、いくらだって見つかるだろう。旅行代理店に任せれば手間はいらないが、当然マージンを取られるので宿泊代は高くなる。ただでさえここ一~二年、ビッグツーリングの参加費用が高くなったと、一部の常連から嫌みを言われているのだ。
 さっそく仕事そっちのけで検索をスタート。旅行予約サイトは使わずに、エリアを絞って片っ端から当たった。するとそれほど時間を要せず、東伊豆のぐらんぱる公園のすぐ近くに、よさげな宿を発見。【プチホテル フルール】と称するそのホテルへ電話をかけ、要件を伝えると、価格、部屋数、料理、そして駐車場と、要望にほぼぴったりの条件を備えていた。
「それじゃオーナー、週明けの木曜日に伺わせていただきます」
「お待ちしております」
 “花に囲まれた静かな佇まい”。これが第一印象。交通量の多いR135からさほど離れてないのに、周囲は静寂に包まれ、プチホテルとは言えども安っぽさがない。むしろ瀟洒な雰囲気が感じられ、間違いなくカップルにはうけそうだ。
「人数はスタッフ含めて四十名ほどですかね」
「だったら貸し切りにいたします」
 これはいい。他の客がいなければ、ロビーも気を遣わずに使えるし、多少騒いでも問題はないだろう。料理は基本的にフレンチのようだが、漁港が近いので、同業者へ依頼して特別な船盛も出してくれるという。
「では、よろしくおねがいします」
「ありがとうございます」
 こうして初となる杉並店メンバーだけで行くビッグツーリングが実現したのだ。これまでは大きな観光ホテルばかりだったので、いったいどんな感じになるのか楽しみである。

ペンション ネイチャークラブ

「今回は洒落たところですね」
「お風呂がいいよ、開放感あってさ」
「料理はこれまでのビッグで一番ゴージャスかも」
「やっぱ貸し切りってのがいいよ」
 お客さんの反応は上々でひとまず安心。おまけにスタッフ達の反応もよく、大杉くんには「いいとこ見つけたじゃん」と褒められた。ハーレーがどうこうではなく、純粋に同好の士だけが集まったことにより、寛いだ雰囲気が醸し出されたのだろう。ただ残念なことに、この二年後、大崎社長の一存で、ビッグツーリングの開催は年に一度へと減らすことになった。この決定により、これまで長い間、お客さんやスタッフたちにとって唯一の全店合同のお祭りだっただけに、惜しまれる声は少なくなかった。
 モト・ギャルソンのモットーである【遊べるバイク屋】をもっともっとアピールしようと、ビギナーツーリング、サーキット走行会、そしてHOG(ハーレーオーナーズグループ)の毎月開催されるイベント等々を強力に推進してきたために、実質的な営業日数や店を守るスタッフの数が減り、売上に少しづつ影響が出始めたのだ。そんな状況下に、杉並店独自のイベントとして、さらに“現地集合一泊ツーリング”なるものを年一回夏に開催。企業の身上である利益の獲得がなおざりとなり、本末転倒へと傾きつつあったのだ。
 ちなみに前述の現地集合一泊ツーリングは、スタッフに労力をかけないようにと考案した企画で、名称のとおり、皆を引き連れてのツーリングではなく、参加者各自が宴会までに宿へ到着してもらうという極めてシンプルな趣向であり、翌日も朝食が終われば現地解散とした。しかし一泊すれば気の合う仲間ができ、帰りがソロになる人はごく僅かだった。当然、固定客増へは大いに貢献した。
 現地一泊の宿は、清里高原牧場通りにある【ペンション ネイチャークラブ】。気さくなオーナーは画家でもあり、館内のいたるところに清里を含め、山梨や長野の山々や田園風景を描いたすてきな水彩画が飾られていた。

「こないだのビッグは遊びすぎたんじゃない」
「たまにはいいでしょう。大きくて有名な温泉地なんだから」
 坂上がニヤニヤしている。
「みんなで伊東の街に繰り出しちゃったんですよね~」
 そういえば、二次会の席に常連客の姿が少なくて、変だなと思っていたのだ。
 宿泊先は“伊東温泉・ホテル聚楽”。宿から“脱走”した面々は、スナックから始めると、最後はピンサロで大はしゃぎ。ホテルに戻ったのは午前様だったようだ。
「ずいぶんと夜を楽しんだみたいだね。二次会じゃ待ってたんだよ」
「いやいや、一度は行ったんですよ。そしたらハーレーの人たちが大挙してて、ちょっと居心地悪いかな~って」

 この回の参加者数は過去最高の百四十名越えとなり、大いに賑わったが、同時に全店合同で行う最後のビッグツーリングでもあった。

松崎・夏

 八月十四日、十五日の一泊で、西伊豆の松崎へ行ってきた。
 よくよく考えれば、松崎どころか、真夏に伊豆へ出かけたのは恐らく大学生の頃以来である。記憶が正しければ、当時つきあっていた彼女と南伊豆の弓ヶ浜へ海水浴へ行ったのが最後のはず。あの頃は夏になると猫も杓子も海を目指して大移動。特に若い男性諸君は、日焼け、海の家のビールと焼きそば、そしてなにより“小麦色に焼けたビキニのお嬢さん”を夢に出るほど渇望したものだ。
 これまで西伊豆へ出かけるとすると、春秋のバイクツーリングか、紅葉の頃の撮影行と年末撮影会のみだったので、印象は一様に静けさが支配していた。ところが今回、R136から見えるすべての海水浴場には、色とりどりの水着を着た人たちで溢れ、遠目にも海辺の活況が伝わり、久々に若いころの夏を思い出した。「一番好きな季節は夏だ!」と、胸を張って断言していたころが懐かしい。
 では今回、なぜわかりきった渋滞を押してまでも夏に出かけたのか?
 好きな松崎だからこそ、本来の姿をもっと知りたくなったのかもしれない。きっかけは“盆踊り”。ある時Facebookを開いたら、松崎ポートクラブさんの投稿に目が止まった。
 
『さぁ日本で一番地味だけど…
 日本で一番楽しい!? 松崎盆踊り!!
 今年も開催します』

 この一節にふと心が惹かれ、素朴だけど皆で楽しんでいる人たちの姿が想像でき、盆踊りを含め、“夏の松崎”へレンズを向けたら発見があるのではと、すぐに計画を練ったのだ。

 日帰りは到底無理があるので、宿探しから始めたが、さすがに旧盆ウィークだけあって、手頃な価格で泊まれる宿はどこも満室。じゃらん、楽天は全滅だったから、これまで使ったことのないBooking.comで検索を始めると、松崎のベストな場所にもかかわらず、一部屋だけ空いていた宿が“六弥苑”。古民家を改装したゲストハウスのようだ。ただ、ゲストハウスと称するところは利用したことがないので、やや不安もあったが、背に腹は代えられず、すぐに予約ボタンを押した。

 東名に入ってまもなくすると、旧盆の洗礼が待ち構えていた。横浜厚木間で21Kmの渋滞である。一時間ほど時間を無駄にしたが、これは想定内。沼津ICを降りてからは、三津シーパラダイスまで小渋滞が連発したが、その後は快調そのもの。ちなみに腹がへっていたので、沼津市内にある人気和風食堂の“弥次喜多”へ寄ってみたが、まだ十一時半にもなっていないのに駐車場は満車、おまけに入口にはウェイティング客が十人以上溢れ出ている。鰤の照り焼き定食を食したかったが、まっ、しょうがない。なにしろ夏休みなのだから。それでもあまりに腹がグーグーと鳴り続けるので、戸田に着いたらどこかの店へ飛び込もうとハンドルを握りなおした。

 坂を下り、右側に港が現れると、左側のロードサイドに食堂が軒を連ねる。十数年ぶりになるが、過去に数回利用したことのある“ゆうなぎ”の駐車場へPOLOを入れた。
 テーブルにつくと、正面の壁に貼られた“限定十食 深海魚天丼セット 1,500円”なるものに興味をそそられ注文。しばらくすると、店主がバットにのせられた数種の魚の切り身を差し出し、これからこれを揚げるのだと説明を始めた。プロの誠意を感じるサービスである。案の定、味は文句なし。

 ついついわき見をしてしまい危険極まりないが、POLOの車窓に広がる真っ青な空と海は素晴らしいの一言。夏ならではの青さを拝められただけで、来てよかったと思ってしまうほど。
 途中、海岸の脇にある土肥のセブンに寄ったとき、店内は真っ黒に日焼けした若い人たちでごった返し。立ち込めるローションの香りはいかにも夏の海だ。

 午後三時半。今宵の宿『六弥苑』に到着。ここはオーナーであるNさん一人で切り盛りしている。数年前に古民家と裏山をそっくり手に入れて、好みの宿泊施設へとリノベーションしたそうだ。素泊まり専用の宿ではあるが、厨房や冷蔵庫等々は自由に使えるので、宿泊者のアイデア次第で面白さが膨らみそうだ。何はともあれ、シャワーを浴びてスッキリさせ、一時間ほど横になった。酷暑と渋滞の中を延々と松崎までPOLOを転がしてくれば、疲れないわけがない。慣れないベッドにもかかわらず、瞬く間に寝落ちしてしまう。

 目が覚めると気分はスッキリ。POLOに積んできた折りたたみ自転車に跨り、町中へ向かった。すでに時刻は午後五時を過ぎていたが、盆踊りは七時からなので、先に腹ごしらえをすることにした。どこへ行こうか考えたが、やはり脚は“ぱぴよん”へ向く。料理はどれもうまいし、なにより旅先で落ち着ける数少ないところだから。到着するとさすがに旧盆休みだけあって満席だったが、幸運にもカウンターが一席空いたので、ささっと腰を据え、いつもの“生姜焼き定食”とビールを注文した。

 松崎港へ向かうころにはだいぶ陽も落ちて、ヘッドライトの当たるところ以外は完全な暗闇と化す。東京ではありえない街路灯の少なさだ。民芸茶房の脇を港へ抜けて、盆踊り会場へ近づくにつれ、辺りは明るさを取り戻し、かすかに東京音頭のメロディーも聞こえてきた。
 まだ始まったばかりなのか、はたまた曜日のせいなのか、踊る人も少なく、キャッチどおり“日本で一番地味な盆踊り”である。しかし盛大でないかわりに、ほのぼのとしたムードがむしろ心地よく、撮影は一時忘れ、近くにあったベンチに腰をかけてひたすら眺め続けた。日本の田舎を感じるワンシーンに飽きはこない。

 六弥苑へ戻ると、ちょうどオーナーがリビングにいたので、ファミマで買ってきたビールを差し出した。
「飲むでしょ」
「ありがとうございます。いただきます」
 オーナーのNさんは御年五十一歳の独身。話を聞くと、彼は古武道家であり、プロの料理人であり、はたまた車やバイクが大好きで、ちょっと昔には筑波サーキットで行われるゴルフ2のワンメイクスレースで年間チャンピオンを獲ったとか、それはそれは多彩な人なのだ。ビールが進むにつれ、八十年代、九十年代の車とバイクの話で盛り上がり、途中からほかの宿泊客も輪に入り、十一時過ぎまでお喋りの花が咲いた。これは実に楽しかったし、これまでの一人旅にはなかった発見でもある。
 このようなゲストハウスの場合、オーナーの人柄がよく、かつ巧みなハンドリングがあれば、旅の面白さを倍増させることもあるのだと痛感した。

 翌朝は、旧盆の上りラッシュを考慮して、慌しく朝七時には宿を後にしたが、見送りに出てきたオーナーがにこっと笑って、
「木代さん、泊らなくても、こっちへ来た際は寄ってくださいよ。飯でも食いに行きましょう」
「うん、声かけます」
 夏の松崎、いいもんだ。

バイク屋時代41 乗りやすいドゥカティ

 二〇〇三年。ドゥカティスーパーバイクがモデルチェンジ。その名も【999】。ラインナップは、ベーシックモデルの“999”、オーリンズサスペンションなどで足回りを強化した“999s”、そしてスーパーバイク世界選手権参戦用のホモロゲーションモデル“999R”の三機種である。
 916系のフォルムを跡形も残さないフルモデルチェンジの999は、巷で賛否両論になることは間違いなしと思われた。現に杉並店スタッフの間でも喧々諤々と意見が飛び交った。
 メカニックの大杉、坂上は、口をそろえて、
「悪くないけど、どうかな~、好きになれないかも~」
 ところが営業の原島は目を光らせた。
「店長、おれ、社販で買いたいんですけど」
 と、きたではないか。
「よく考えた?」
「もちろん。一目惚れですよ」
 Hライトが縦二灯になり、面構えが引き締まってグッときましたと言うから、人はわからない。ただ、このバイク、DJ開催の発表会の時に実車に跨ってみたのだが、スーパーバイク系とは思えないほど足つきがいいのだ。国内外問わず、昨今のスーパーバイクはやたらにシート高が高く、それに対してハンドル位置が低いので、実際なところ、頭に血が上りそうなライディングポジションを強いられる。サーキットや伊豆スカあたりを走るならまだしも、ツーリングに使ったら拷問器具以外の何物でもない。ところが999は違う。メーカーの意図かどうかは定かでないが、ハンドルとシートの位置関係がすばらしく自然で、肩に力を入れることなく走り出せそうなのだ。例えばレプリカと言っても俺のZXR750は一九八九年式と古いので、似たようなポジション。これも長く所有している理由の一つである。

 少なくない酷評に見舞われた999だが、実力は本物。ワールドスーパーバイク選手権では、メイドインジャパンのレーサーを相手に大暴れ。二〇〇三年、二〇〇四年、そして二〇〇六年とチャンピオンシップを獲得、これを受けて販売も好調に推移した。本格的な走行性能を持ちながら、様々な用途で使えるってのは、生半可な技術力では果たせるわけもなく、実にハイレベルな総合性能の証なのだ。ただこの頃、国産スーパーバイクは、一昔前のワークスレーサーと見間違えるほどの超高性能化が進み、ドゥカティ999sの最高出力143PSに対し、スズキのGSX-R1000は160PSオーバーという、とてつもないスペックを誇っていた。

DSエンジンとモンスターS2R1000

 ドゥカティの進化は何もフラッグシップのスーパーバイクだけではない。伝統の空冷エンジンにも素晴らしい技術の導入があった。
 排ガス規制対策のためにやむなくFI(フューエルインジェクション)仕様としたモンスター900、SS900だが、搭載される空冷エンジンは、前にも述べたようにキャブで動いていた頃のもので、それを単純にFI化すると、特性に変化が生じ、使い辛くなったり、味わいもイマイチになったりと、中途半端な製品になってしまう危惧はあった。こんな状況に対し、伝統の900cc空冷エンジンは排気量を1000ccへとスープアップ、さらに点火系をデュアルスパーク(DSエンジン)として生まれ変わったのだ。999の設計方針と同様、マニアックイメージが先行したドゥカティから、多くのライダーに支持されるドゥカティへと、大きく転換を図る必要が出てきたことは言うまでもない。
 DSエンジンを搭載したモンスター1000とSS1000は、見た目こそ前モデルと変わりないが、乗ってみれば驚くほど使いやすく、且つパワフルに進化した。店の試乗車であるS4は大のお気に入りだが、この新しいDSエンジン搭載のモンスター1000もなかなかどうして魅力的。
 このエンジンのフィーリングに関して、ちょっとした比較例がある。

 栃木県那須市にある【那須モータースポーツランド】は、バイク専用サーキット。一周12kmのテクニカルコースで、現在はレッドバロンが所有運営しているが、杉並店がオープンしたころは、うちの取引先である“ピレリジャパン”が管理していたので、ビッグツーリングの際には、半日貸し切りのサーキット走行会を開催し大いに盛り上がった。
「部長、なんか乗りにくそうですね」
 ホンダCBR900RRを駆る、うちの女性スタッフ山田美紀さん。スタッフ走行枠では終始テールトゥーノーズであおりまくられ、二周目の最終コーナーでは、横に出たなと思った瞬間アウトから抜かれ、そのままストレートで一気に離された。まったく情けないったらありゃしない。
「みきさん、速いねぇ~~、ついてけないよ」
「あら、部長らしくない」
 俺のテクではモンスター900を自在に操るのは不可能のようだ。パワーバンドが狭く、シフトミスでもすれば全然加速しない。観戦席から次から次へとヘアピンコーナーへ侵入してくる各車を眺めていると、さすが常連のTさんだ、SS900のオーナーだけあって見事な操り加減だ。悔しいが俺の場合、このサーキットでは間違いなくビューエルX1の方がスムーズ且つ速く走れると思った。

 そして二年後。注目のDSエンジンを搭載する、スポーツクラシックシリーズのGT1000で那須モータースポーツランドを走る機会が訪れた。もちろんビッグツーリングでの企画だから、ここまでツーリングしてきて、すでにその乗車フィーリングの一端は確認していた。
 まずはグループの先頭で皆をひっぱり慣熟走行。一周回ってきたら一旦ピットへ入り、すぐに最後尾へ付けてフリー走行を開始する。
 裏ストレートではスピードの乗りが格段にいい。ツバメ返しからの立ち上がりも力強く自然。ヘヤピン中もスロットルパーシャルにギクシャク感がないのでスムーズにクリア。最終コーナーを深いバンクから加速し、ゼブラを踏みながら速度を上げる。
 やはりDSエンジンは全くの別物だった。中級レベルの集団だったら鼻歌まじりで付いていけるし、なにより流していて楽しい。もはやGT1000は一番のお気に入りになったが、ちなみに同じエンジンを載せている、マルチパーパスのムルチストラーダ1000もご機嫌なバイクである。オンとオフの中間的なモデルだから、サスペンションストロークが長く、トラクションの掴み具合が掴みやすい。乗り心地もソフトで、どんな用途でも安心して使うことができる。

Multistrada1000とGT1000

 DSエンジンの可能性は一年前から気づいてはいた。一度だけだが埼玉の“本庄サーキット”で走行会を開催したことがあり、残念なことに雨降りにやられて欲求不満に終始したが、この時に持ち込んだ車両がDSエンジンを搭載した、発売直後のモンスターS2R1000。馴らしが終わったばかりで、操作もイマイチ慣れていなかったが、レインコンディションの中でも、抜群に使いやすいトルク特性のおかげで、そこそこペースを上げてもそれほど不安は感じなかった。
「木代くん、コケないでよぉ===!」
 同行した大崎社長が心配するのはわかる。ただでさえおろしたての試乗車なのに、それをスリッピーなサーキットで飛ばしているのだから。ところがどっこい。スロットル開度に対して従順なトルクが出るDSエンジンは、こんな悪いコンディションだからこそ真価を発揮するのだ。

BURGER KING

 例年だと、就寝時に寝室のエアコンをつけるのはひと夏に十回ほどなのに、今年はほぼ毎日である。夜になっても気温が下がらないこともあるが、それより風がない日が多くて、部屋に湿った空気が淀みきるのだ。ある程度の湿度はしょうがないとしても、そこそこ風が通れば、ぐっすりと眠ることはできる。枕もとのすぐ上にある窓にレースのカーテンをかけているが、これが四五度前後でたなびき、室温が二十八℃ほどなら理想的。
「そのジャージさ、、、ずいぶんと疲れてないか」
「じゃ新しいの買ってよぉ」
 使い馴染んだ部屋着ってのは、そう簡単に手放せない、と私も思う。肌との馴染みがいいからだ。
「風呂場のタワシが限界超えたんで、ダイソーに行こうと思ってたんだ」
「もちろん車でしょ」
「こんな日に自転車で出かけたら行き倒れだよ」
 ヨーカドー内にあるダイソーはちょくちょく利用している。安いのにあれだけまともな商品を提供するところなど、なかなか他では見られない。
 ショッピングバックにジャージとタワシが入った。
「どうする、帰る?」
「ちょっと早いけど、せっかくで出てきたんだから、なんか食ってこうか」
 腕時計に目をやると十一時を過ぎたばかり。
「パパ、バーガーキング食べたことある?」
「ない」
「じゃ行ってみようよ」
 バーガーキングはエミオ武蔵境という西武多摩川線の商業施設に入っている。
「へ~、いろんな店があるんだな」
 ドアを押して店内へ入ると、真正面のカウンターで働く五名の女性スタッフは全員外国人。しかもそろって南米系。まるで海外にきたようだ。腹ペコではなかったので、注文はジュニアのセットにした。女房がアボガドで、私はスモーキーBBQ。飲み物は二人ともコーク。出来上がりにやや時間がかかったが、初となる味わいはとっても好印象。マックと比べるとパティ―は明らかに“肉”を感じたし、バンズも単に柔らかいだけでなく、しっかりとした“パン”の味が出ている。
 美味しいからペロリと完食。
「うまいね。レギュラーにしとけばよかった」
「また来ればいいじゃん」