八幡堀~伊根の舟屋・桜巡り

 一穴主義ではないが、これまで桜開花の撮影と言えば、ほぼ伊豆と井の頭公園で済ましていた。ところが自由気ままな暮らしになったのをきっかけに、去年はぐっと足を伸ばして、松山~尾道そして広島記念公園と周ってみた。この二泊三日の旅がすばらしい経験となり、今更ながら写真撮影の面白さに沸き立った。そんなこともあって、今年も見聞を広げる意味も含めて、以前から気になっていた、滋賀県は近江八幡の水郷へレンズを向けてみようと計画した。
 日程は四月六日(月)から八日(水)までの二泊三日。
 初日は到着次第すぐに八幡堀で撮影。二日目は遥々琵琶湖まで出向くのだから、比良山地の最高峰である標高1214.4mの“武奈ヶ岳”へ登山。最終日は疲労運転を避けるため、朝食を取ったらすみやかに東京へ戻るというもの。予約した近江八幡のビジネスホテル“ホテルはちまん”までは自宅から430kmある。

 グーグルナビを頼りに新東名をひたすら西へ向かう。実は新東名、長泉沼津ICから先は未経験である。速度120kmエリアが延々と続く広々とした三車線はとても走りやすい。
 名神に入ると次は東海環状自動道へと進み大安ICで降りた。ここからは愛知川沿いのR421で近江八幡へと向かうのだが、ナビが指示したこの道、まさに棚から牡丹餅である。永源寺湖手前数キロから渓谷美が続き、左岸へ渡る橋の周囲には山桜が咲き誇っていて、幽玄な美しさを見せてくれたのだ。たまらずPOLOを停めて撮影を始めた。機材はもちろん<α7Ⅲ+Vario-Tessar T* FE 24-70mm>。

 広大な田園地帯を抜けて近江八幡の市街へ入る。ホテルに到着したのは十一時半過ぎ。チェックインは十六時だが、フロントに断って車だけ駐車させてもらう。折り畳み自転車をトランクから降ろして、小幡町通りをまっすぐ八幡堀へ向かう。目的地に近づくにつれ、観光客が目立ち始める。堀の遊歩道に自転車を止め、撮影ポイントを探し始めると、なるほど、人気の観光スポットなのだと痛感した。七~八名ほどの客を乗せた八幡堀巡りの和舟は、次から次へとやってくるし、いくつか架かる橋の上は、スマホを構えた大勢の観光客で溢れかえっている。水郷の風情満点の八幡堀界隈は、写真好きならずとも思わず記念に収めたくなるような情緒ある景観の連続なのだ。
 さて、腹が減ったので、ちょうど橋のたもとにあったカフェ『明治橋 あまな』でランチにした。

 ふと、琵琶湖が見たくなる。グーグルマップで調べると、自転車で十分行ける距離である。
 堀沿いの道をまっすぐ行って、浜街道を右に曲がれば、そのうちに湖畔が見えてくるはずだ。アップダウンの少ない田園の道は開放感があって気持ちがいい。ちょっとした小川の川縁が桜並木の遊歩道になっていて、対岸には菜の花と、春のおなじみが連なる長閑な眺めが広がっている。
 無心にシャッターを切っていると、いつの間にか風が出てきて、怪しい雲も広がり始めている。雨は降らないと思うが、肌寒くなってきたのでウィンドブレーカーを羽織った。
 琵琶湖の眺めは天候のせいか重々しいものだった。水平線や波もあって、どこへ視線を走らせても湖には見えない。湖畔の植生が海とは異なるせいか、なんとも形容しがたい不思議な景観をつくり出している。
 折り畳み自転車のサドルはとても陳腐。そのせいで尻が痛くなってきた。ある程度の距離を走る前提であれば、もう少しまともなものと交換する必要がありそうだ。

 駅前の居酒屋で一杯ひっかけてからチェックイン。風呂はユニットバスだが、ここのは湯船が大きくたっぷりとお湯が張れるのがいい。顎まで浸かって体の芯を温める。風呂上がりにはミネラルウォーターで水分補給。スマホを手に取り、駄目だとはわかっていたが、いちおう明日の天気をチェックした。
― 登山はあきらめるしかないか…
 明日の午前中を中心に、本州の広い範囲で気圧の谷の影響を受けるとのこと。武奈ヶ岳のピンポイント予報などは、天候雨、風速15メートル、山頂近くの気温が昼前後で3℃と、下手すれば遭難しかねない悪天候と出ていた。こんなこともあろうかと、代替え案は用意していた。京都は伊根町にある“伊根の舟屋”である。近江八幡から距離にして180km弱。朝食を取ってから出発すれば、ちょうど天候も回復する頃だろうと踏んだのだ。

 まずは名神に乗った。その後は京都縦貫自動車道で与謝天橋立ICまで行き、そこから一般道で丹後半島の海岸線をひた走る。途中、日本三景である天橋立の松並木が見渡せた。若狭湾の海の色はブルーグリーン。馴染みの駿河湾とは趣が異なるが、なんとも深みがあってついつい脇見運転をしてしまう。
 伊根の舟屋は人気スポットだ。平日なのにメインの駐車場には空きがほとんどなく、辛うじて停められたという感じだ。大型バスの転回場もあって、ひっきりなしに観光客を吐き出している。ほとんどの観光客は外人で、ヒジャブ姿の女性もかなり目立った。
 舟屋は、一階に舟を収納、二階は漁具置き場と、独特な形状が目を引くが、以前に津軽半島を旅した時も同じような舟屋を目にしたことがある。日本の木造船の文化だろうか。
 思惑どおり、到着するころには殆ど雨はあがり、陽こそ出なかったものの、まあまあの散策日和になった。だが一時間ほど経つと、徐々に風が強まり、おまけに空気が冷えてきた。いい頃合だと駐車場へ戻って車を出すと、とたんにぽつりぽつりときた。

 帰りはすべて一般道を利用した。若狭湾を眺めながら舞鶴、小浜と抜けてみたかったのだ。グーグルナビを行き先“ホテル はちまん”にセットすると、所要時間四時間半と表示された。174kmもあるのにずいぶんと時間がかからない。ちなみに自宅から沼津港を同様にセットすると、距離は124kmと短いのに所要時間は同じなのだ。すぐにすいすい行ける田舎の道を連想したが、全くその通りの快適なドライブに終始した。特に若狭湾沿いの道は、雨にやられながらも前後に車がつかない状態が長く続き、平均速度50~60kmで流せたのはラッキーだった。

 小浜からは一旦山間に入る。
「おおっ! 虹だ」
 いつの間にか雨は上がっていた。思わず近くにあったコンビニへとハンドルを切り、カメラを向けた。山の向こう側には琵琶湖が待っている。湖面が見えれば、湖西線、北陸本線、琵琶湖線と、鉄道に沿うように近江八幡へと進んでいくのだ。

 昨年そして今年と、桜巡りはたくさんの思い出を残し、視野も広げられたと自負している。
 成功してほくそ笑む。失敗して「次は!」と鞭を入れる。これはすべて行動あっての話であり、なにもしなければ単に時に身を委ねているだけだ。こうなると次のトライが楽しみでしかたがない。


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