バイク屋時代55 落札!

 毎週水曜日のBDS詣でが始まったのは、新緑の燃えるころ。急激な気温の上昇は、慣れない仕事で疲れがたまる心身へ追い打ちをかけた。
 さて、仕入れ専用車として貸与されたハイエースだが、この車はそもそも商用車である。ルーフに多少の断熱処理をしてあるほかは、もろ鉄板だ。夏の直射が当たればキャビンはすぐにサウナ室へと変貌する。普通にエアコンが効けばそれほど問題にはならないが、日ごろのメンテを怠っていたのだろう、吹き出し口からは温い風しか出てこない。オークション開催日は、短くとも四時間はハンドルを握っているわけで、この劣悪な環境が疲労の原因になったことは言うまでもない。
「社長、ハイエースのエアコン、修理に出しますよ」
「なるべく安くね」
 三鷹にある知り合いの修理工場であんばいを見てもらうと、
「これ、かなり錆びがひどいんで、ちゃんとやると十五万円はいっちゃいますね」
「とりあえず冷風が出てくればいいんですが」
「なるほど、沖縄ナンバーだ。あっちは潮風すごいから錆もね~」
 一週間後。修理完了したエアコンから冷っとした空気が出てきたときは、シンプルに感動した。

 BDSまでの所要時間は、首都高さえ混んでなければ二時間弱。足繁く通うにはかなりな距離ではあるが、現車確認は外せない。いいものを可能な限り安く手に入れる最も確実な方法だから。
 BDS初日は期待感がふくらんだ。出品表を見ると、電動アシスト自転車のエナクルが十一台も出ていた。これまでの落札価格で行けるなら全部欲しいところだが、まずはものを見てからだ。

 駐車場へ車を置き、展示場の入口をくぐる。いきなり目に飛び込んでくるのは、すさまじい数のバイク、バイク、バイク。この中から買付表に記した二台のモンスター、S4RとS2Rをまずは探さなければならない。出品番号順に展示エリアが割り振られていて、しかも輸入車はまとめて置かれているのでおおよその場所はすぐにわかった。それでも入り口からはかなり歩く。
 最初のご対面はS4R。外装、フレーム、油脂漏れ、消耗パーツの度合いを確認したら、エンジンをかけ て、音、排気煙、ミッションなどを確認する。ほぼノーマル車、立ちごけレベルの転倒跡が左右にある。出品評価を見ると五点がついている。品質評価士による評価は十段階で、五点以上が問題も少ない上物で、八点越えは極乗車、十点は新車である。反対に四点以下は、加修にそれなりの金額を覚悟しなければならなく、二点以下は部品取りと考えていい。次のS2Rは、ざっと見てもきれいで、加修はそれほどかからないように思えたが、エンジンをかけると異音が気になった。クラッチは湿式だが、わずかに乾式のようなノイズが出ているのだ。評価は四点。コメントには“※エンジン異音”と記してあるが、BDSの品質評価士がどれだけドゥカティのことを掌握しているかは疑わしい。なぜなら、車両が乾式クラッチの場合、ほとんど“※エンジン異音”と記してあるからだ。乾式クラッチの音ってのは、ドゥカティを知らない人に聞かせれば、ガラガラガラと、あたかもエンジンがぶっ壊れているのではと感じるはずだ。しかも中古車の場合、クラッチの金属カバーをカーボン製などの開放タイプに交換していることが多く、そうすればなおさら音が外へ飛び出し、やかましくなる。
 二台は綿密なチェックの上、合格とした。あとは落札できるかどうかだ。時間が押し迫っているので、この後すぐに自転車展示場へと向かった。

 エナクルの実際の出品数は八台に減っていた。そのうちの二台は錆がひどくパスしたが、残った六台は、見た目も電装関連も特に問題はないようなので合格と判断。仕上げに必要なケミカルやショートパーツ、そしてチューブ、タイヤは、格安品をすでに入手してあるので、落札したらハイエースに載せて持ち帰り、すぐにでも仕上げ作業にかかれる。

 さあ、初の入札だ。少しドキドキしながら応札室へ入り、左通路側の席を陣取った。スタートは午前十時、もう間もなくである。壇上に係員が数人並び、挨拶が始まった。周囲を見回すと、ほぼ六割の入りだ。
 正面の大画面に四台のバイクが映し出され、オークションがスタート。最初に競るのは自転車。右端のDレーンへ集中する。エナクル一番から四番まではだれも押さなかったので、すべて一台7,000円で落札できた。残りの四台には若干の競りは入ったものの、9,000円から10,500円で落札。結局八台すべてを手に入れた。幸先上々である。ドゥカティの二台は午後になるので、ハイエースを自転車展示場へ回して、先に積み込みを終わらせた。時計を見るとそろそろお昼、食堂へ行ってランチだ。

 BDSの会員には、来場するたびにIDカードへ2,500円分の食事ポイントがオンされ、好きなものをメニューから選ぶことができる。レストランコーナーではステーキから寿司まで、隣の喫茶コーナーでは各種飲み物、サンドイッチなどの軽食、ケーキ類と、ほとんどのものがそろっている。朝来場したらモーニングコーヒー、昼は生姜焼き定食、そして帰りしなには紅茶とチョコレートケーキと、これだけいただいてもポイント内で収まるのだ。

 応札室へ戻り、十三時半にS4Rが始まった。0円スタートだからすごい勢いで上がっていく。35万円で売り切りとなると、やや上昇速度は落ちたが、それでも合間なくランプが点灯するのは、落とそうと頑張っているショップがあるのだ。ちなみに競りのボタンを押すと、該当車両にランプが点灯する。買付計画は上限40万円なので緊張が走る。しかし勢いはそのままに40万円を超え、まだひっきりなしに点灯している。こうなると気持ちはイケイケだ。45万円になってしまったが、やけくそになって押してみると、ランプは追ってこない、落札である。オーバーしたがここはドンマイ。整備する際に大きな問題さえ出てこなければ、60万円以上の売値はつけられそうなので十分商売になる。
 一時間後、次はS2Rだ。
 20万円売り切りからぐんぐん上がっていく。買付計画は35万円。
 S4Rと比較すると、市場での人気はいま一歩。四点ものなのでいけそうな気がする。参考までに、S4Rはスーパーバイク996の水冷エンジンを搭載した最高出力119馬力のモンスター。S2Rは排気量800ccの空冷エンジンを搭載し、出力も77馬力とおとなしいが、湿式クラッチ仕様で抜群に乗りやすいモンスター。
 30万円は超えたが、そろそろ落札しそうな雰囲気である。そのまま押し続けると32万円で落とせた。
 自転車に次いで、バイクも計画通りに買え、興奮冷めやらない初オークションである。

 自転車は共進倉庫へ運び込み、俺自ら仕上げ作業を行うが、ドゥカティは杉並店の大杉くんと相談の上、外注という形で仕上げてもらう。
「二台買えたって?」
「まあね。そんなに急がないから、よろしくたのむよ」
「OK。じゃ、明日にでも持ってきたら」
「だいじょうぶなんだ。じゃ、お言葉に甘えるね」
 こんな流れである。
 ところが二台のモンスターを持ち込んだ翌日、整備していた坂上メカから電話があった。
「部長。S2R、高くつきますよ」
「えっ?! まじかよ」
「まじです。クラッチスプリングが一か所折れてました」
「だからちょっと変な音がしてたんだ。お手柔らかにな」
「いや、バッチリいただきます」
 後日、杉並店から請求書のFAXが届くと、通常の仕上げ整備とは別途に、部品代並びに交換工賃として60,000円がオンされていた。これで最終原価は40万円を超えたが、それでも7~8万円は抜けると見込んでいる。中古商売はある意味博打。えらく儲かることもあれば、赤字になることもある。やるべきことは、さらに目利きの力を上げ、売り買い相場に精通できるよう努めることだ。
 モト・ギャルソン各店で下取車のある商談が入ったときは、基本的に俺へ一報が入り、車両詳細を聞いたうえで、下取り額を回答する流れになっている。常に現状の相場や売れ筋をつかんでいれば、下取った車両をBFで直販するにも、はたまたオークションで売るにしても、利益幅を大きくできるチャンスが生まれるわけだ。

 さて、それはさておき、手に入れた八台の電動アシスト自転車エナクル。これをいち早く仕上げ、売りさばかなければならない。ドゥカティ二台は、グーバイクへアップデートすればいいが、自転車にはそのような販売サイトがないので、ヤフオクを頼ることにした。どのような反応がでるか楽しみでもある。
 グーバイクには先日BFとして新たなIDを取得した。予算がないので、掲載台数4台のもっとも小さな契約枠だ。この四台枠をいかに効率よく回していくかで先々は決まる。
 いきなり仕事量が一気に増えたが、久々にやる気が出てきた。


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