
二〇〇三年。ドゥカティスーパーバイクがモデルチェンジ。その名も【999】。ラインナップは、ベーシックモデルの“999”、オーリンズサスペンションなどで足回りを強化した“999s”、そしてスーパーバイク世界選手権参戦用のホモロゲーションモデル“999R”の三機種である。
916系のフォルムを跡形も残さないフルモデルチェンジの999は、巷で賛否両論になることは間違いなしと思われた。現に杉並店スタッフの間でも喧々諤々と意見が飛び交った。
メカニックの大杉、坂上は、口をそろえて、
「悪くないけど、どうかな~、好きになれないかも~」
ところが営業の原島は目を光らせた。
「店長、おれ、社販で買いたいんですけど」
と、きたではないか。
「よく考えた?」
「もちろん。一目惚れですよ」
Hライトが縦二灯になり、面構えが引き締まってグッときましたと言うから、人はわからない。ただ、このバイク、DJ開催の発表会の時に実車に跨ってみたのだが、スーパーバイク系とは思えないほど足つきがいいのだ。国内外問わず、昨今のスーパーバイクはやたらにシート高が高く、それに対してハンドル位置が低いので、実際なところ、頭に血が上りそうなライディングポジションを強いられる。サーキットや伊豆スカあたりを走るならまだしも、ツーリングに使ったら拷問器具以外の何物でもない。ところが999は違う。メーカーの意図かどうかは定かでないが、ハンドルとシートの位置関係がすばらしく自然で、肩に力を入れることなく走り出せそうなのだ。例えばレプリカと言っても俺のZXR750は一九八九年式と古いので、似たようなポジション。これも長く所有している理由の一つである。

少なくない酷評に見舞われた999だが、実力は本物。ワールドスーパーバイク選手権では、メイドインジャパンのレーサーを相手に大暴れ。二〇〇三年、二〇〇四年、そして二〇〇六年とチャンピオンシップを獲得、これを受けて販売も好調に推移した。本格的な走行性能を持ちながら、様々な用途で使えるってのは、生半可な技術力では果たせるわけもなく、実にハイレベルな総合性能の証なのだ。ただこの頃、国産スーパーバイクは、一昔前のワークスレーサーと見間違えるほどの超高性能化が進み、ドゥカティ999sの最高出力143PSに対し、スズキのGSX-R1000は160PSオーバーという、とてつもないスペックを誇っていた。

ドゥカティの進化は何もフラッグシップのスーパーバイクだけではない。伝統の空冷エンジンにも素晴らしい技術の導入があった。
排ガス規制対策のためにやむなくFI(フューエルインジェクション)仕様としたモンスター900、SS900だが、搭載される空冷エンジンは、前にも述べたようにキャブで動いていた頃のもので、それを単純にFI化すると、特性に変化が生じ、使い辛くなったり、味わいもイマイチになったりと、中途半端な製品になってしまう危惧はあった。こんな状況に対し、伝統の900cc空冷エンジンは排気量を1000ccへとスープアップ、さらに点火系をデュアルスパーク(DSエンジン)として生まれ変わったのだ。999の設計方針と同様、マニアックイメージが先行したドゥカティから、多くのライダーに支持されるドゥカティへと、大きく転換を図る必要が出てきたことは言うまでもない。
DSエンジンを搭載したモンスター1000とSS1000は、見た目こそ前モデルと変わりないが、乗ってみれば驚くほど使いやすく、且つパワフルに進化した。店の試乗車であるS4は大のお気に入りだが、この新しいDSエンジン搭載のモンスター1000もなかなかどうして魅力的。
このエンジンのフィーリングに関して、ちょっとした比較例がある。

栃木県那須市にある【那須モータースポーツランド】は、バイク専用サーキット。一周12kmのテクニカルコースで、現在はレッドバロンが所有運営しているが、杉並店がオープンしたころは、うちの取引先である“ピレリジャパン”が管理していたので、ビッグツーリングの際には、半日貸し切りのサーキット走行会を開催し大いに盛り上がった。
「部長、なんか乗りにくそうですね」
ホンダCBR900RRを駆る、うちの女性スタッフ山田美紀さん。スタッフ走行枠では終始テールトゥーノーズであおりまくられ、二周目の最終コーナーでは、横に出たなと思った瞬間アウトから抜かれ、そのままストレートで一気に離された。まったく情けないったらありゃしない。
「みきさん、速いねぇ~~、ついてけないよ」
「あら、部長らしくない」
俺のテクではモンスター900を自在に操るのは不可能のようだ。パワーバンドが狭く、シフトミスでもすれば全然加速しない。観戦席から次から次へとヘアピンコーナーへ侵入してくる各車を眺めていると、さすが常連のTさんだ、SS900のオーナーだけあって見事な操り加減だ。悔しいが俺の場合、このサーキットでは間違いなくビューエルX1の方がスムーズ且つ速く走れると思った。




そして二年後。注目のDSエンジンを搭載する、スポーツクラシックシリーズのGT1000で那須モータースポーツランドを走る機会が訪れた。もちろんビッグツーリングでの企画だから、ここまでツーリングしてきて、すでにその乗車フィーリングの一端は確認していた。
まずはグループの先頭で皆をひっぱり慣熟走行。一周回ってきたら一旦ピットへ入り、すぐに最後尾へ付けてフリー走行を開始する。
裏ストレートではスピードの乗りが格段にいい。ツバメ返しからの立ち上がりも力強く自然。ヘヤピン中もスロットルパーシャルにギクシャク感がないのでスムーズにクリア。最終コーナーを深いバンクから加速し、ゼブラを踏みながら速度を上げる。
やはりDSエンジンは全くの別物だった。中級レベルの集団だったら鼻歌まじりで付いていけるし、なにより流していて楽しい。もはやGT1000は一番のお気に入りになったが、ちなみに同じエンジンを載せている、マルチパーパスのムルチストラーダ1000もご機嫌なバイクである。オンとオフの中間的なモデルだから、サスペンションストロークが長く、トラクションの掴み具合が掴みやすい。乗り心地もソフトで、どんな用途でも安心して使うことができる。

DSエンジンの可能性は一年前から気づいてはいた。一度だけだが埼玉の“本庄サーキット”で走行会を開催したことがあり、残念なことに雨降りにやられて欲求不満に終始したが、この時に持ち込んだ車両がDSエンジンを搭載した、発売直後のモンスターS2R1000。馴らしが終わったばかりで、操作もイマイチ慣れていなかったが、レインコンディションの中でも、抜群に使いやすいトルク特性のおかげで、そこそこペースを上げてもそれほど不安は感じなかった。
「木代くん、コケないでよぉ===!」
同行した大崎社長が心配するのはわかる。ただでさえおろしたての試乗車なのに、それをスリッピーなサーキットで飛ばしているのだから。ところがどっこい。スロットル開度に対して従順なトルクが出るDSエンジンは、こんな悪いコンディションだからこそ真価を発揮するのだ。