元気な方たち・刈寄山

 六月二十三日(木)。休日にやっと晴れ間が訪れた。それも“大晴れ間”だ。午後には気温がグッと上がって35℃に達するという。ただ、午前中は雲が垂れ込め、猛暑など予想もできない過ごしやすい空気感。こうなると森の緑が恋しくなる。時刻を確かめると既に七時を回っていたので、こんな時は馴染みのマイトレーニングジムである刈寄山が一番と、POLOを走らせた。

 睦橋通りへ入るころには、気温も28℃まで上昇、雲の合間から青空も出始め、朝の天気予報が現実味を帯びてきた。それにしても数日前までは梅雨冷さえ感じる毎日だったのに、この大きな変化はやはり体に堪えそうだ。数年前の八月、大楢峠経由で御岳山へ登った際、びっくりするほどの大汗をかいて、下山までに総量4L近くの水を必要としたときのような状況になったら、今の自分が果たして歩き続けられるかどうかは微妙なところだ。
 今日のいで立ちはショートパンツと速乾Tシャツ。素足は虫刺されや恐ろしいマダニの脅威、そして転倒時の怪我等々と、リスクも大きいが、猛暑に対抗するにはこれが一番と判断。遥拝殿からは軽快な足取りでスタートを切れた。

 先回の刈寄山は冬枯れの残る二月上旬だったので、先ずは山中の様変わりにびっくり。緑はより濃くなり、行先を阻むようにこれでもかと草木が伸びだしている。この時点でショートパンツは失敗だったと後悔。脛や腿にその草木が触れて、痛いやら痒いやら。しかも山道のいたるところに蜘蛛の巣が張っていて、顔、腕、脚にくっつき不快この上ない。まるで昨年夏の臼杵山のようだ。やはり山歩きには長ズボンとアームガードは必須。それでも花や小動物が目を楽しませてくれ、生命の季節が到来したことがよくわかる。
 
 今熊神社を過ぎるころからTシャツは土砂降りにでもあったかのようにぐっしょぐしょの汗まみれ。気温も気温だが、それ以上に湿度が高く、予想以上に体力を奪っていく。慣れた山道だし、ゆっくり歩いても往復四時間弱の行程なので不安はないが、やはり実年齢は絶えず念頭に置かねばと痛感。ちびりちびりと頻繁な水分補給を行い、脱水症状にならぬよう気をつける。
 今年からペットボトルの水は買わずに、550ccと1000ccのリバーズのボトルを利用しているが、今回のように35℃に近づく猛暑日には、少なくともあと1000ccほどは必要になってくると思う。

 スタートから人影なしの静かな山行だったが、頂上へ到着すると一組の年配夫婦が休憩中だった。
「こんにちは」
「こんにちは。いきなりすみませんが、ライターお持ちですか?」
「ありますよ。どうぞ」
 どうやらストーブの点火部分が壊れているようだ。
「助かりました。これで暖かいものが食べられます。ありがとうございました」
 このやりとりで会話の口火が切れた。夫婦共々山好きで、特に奥さんは同好会に所属していて、多い時は月に五回も登るという。ご主人はキャリアが長く、今でも夏はアルプスを歩くが、メインの遊び方は“藪漕ぎ”。道なき道を突き進むことが大好きで、ザックの中にはロープも忍ばせていた。そんなことで、山地図に載ってないルートにはめっぽう明るく、今熊神社へ戻るルート上から、金剛の滝へ至る獣道がある等々、鼻息の荒い話が飛び出した。

 ご主人、御年七十六歳、近々喜寿を迎えるという。奥様は恐らく一回りほど下ではなかろうか。元気で仲の良いご夫婦である。
 それにしても大したものだ。八十間近というのに、このパワーはどこから湧き出してくるのだろう。リタイヤしてしょっちゅう山へ入っているとは言っても、凄いことに変わりはない。ふたこと目には「もう棺桶に片足突っ込んでますからね~」を連発するが、その表情からは結構な余裕をうかがえた。


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