バイク屋時代54 買うぞ、BDS!

 急務は新たな商材の入手だ。不良在庫を売るだけではすぐに先が見えてくる。そもそも俺はバイク販売一本で歩んできた。当然、販売スキルは社内の誰にも負けない。国産時代から手掛けてきたので、現行のハーレーやドゥカティはもちろん、発売が一九八〇年代以降の国産バイクなら十分な商品知識を持っている。BFはハーレージャパンとは全く関係がないので、なにを売っても自由。だったら今後の商材は中古バイク以外にはないと、素直に方針がまとまった。ただ、商材の仕入れは難しい。一般ユーザーが売却を考えれば、大々的な宣伝広告を行っている、バイク買取り業者大手の“バイク王”や“レッドバロン”へ依頼するのが流れだ。一般ユーザーからの仕入れはベストな方法だが、悲しいかな町のバイク屋が入り込む余地はない。

BDS柏の杜会場

「社長。BDS使いたいんですけど」
「うん、いいじゃない。木代くんは会員登録済だけど、会場には行ったことないよね」
「ええ」
「おれも久しく行ってないから、見学かねがねいっしょに行くか」
 BDS柏の杜は、東京ドーム2.5個分という国内最大規模のバイクオークション会場だ。所在地は千葉県の柏で、国内外問わずあらゆるバイクが平均三千台以上並び、資金と運さえあれば希望の車両を手に入れられる。BDSの利点は現車チェックが可能なこと。出品表に欲しいバイクがあれば、現車を前にして心行くまで状態の確認ができる。BDSの次に規模の大きいオークネットは、通信オンリーなので、バイクのレベルは査定士の評価点を信じるしかない。ただ、もちろんBDSでもリモート応札は可能だが、せっかく現車確認ができるのだから、自分の目だけを信じて買い付けたいもの。 
 大崎社長のパサートに乗り込むと、首都高~中央環状~常磐道・柏IC~R16と進んだ。所要時間はおおよそ二時間弱。社長も久しぶりだったので、会場の直前まできて道に迷い、住宅街を右往左往。やっとのことで到着すると、BDSの規模に目を見張った。
 係員に案内された応札室へ。空いた席に二人並んで着くと、実際にシステムを使ってのレクチャーを受けた。見回せば約半分ほど席は埋まっていて、皆モニターへ真剣なまなざしを向けている。

応札室

「ハーレー、あんがい安いんだな。買いたくなるね~」  
 三十分ほどモニターを眺めていると、なんとはなしに相場がわかってくる。やはり国産の落札額は高く、人気のほどがうかがえた。反面、ドゥカティは車種問わず安く、ハーレーも含めて輸入車は十分に買いの価値はありそうだ。それにしても驚くのは国産の旧車。ホンダCBX400FやカワサキのZⅡ等々だ。落札額は新車価格をはるかに超えており、二~三年前から始まった旧車ブームがブームには留まらず、新たなビジネスジャンルとして定着しているのが実感できる。
 だいたいの流れはわかったので、応札室を出て他の施設を見て回った。
 部品オークションの倉庫を覗くと、様々なものがこれまた大量にスチール棚に並んでいる。一応確認したが、ハーレー、ドゥカティ関連はごくわずかしかなかった。

サンヨー・エナクル


 そして意外や興味を引いたのは自転車オークション。ロード、クロス、ママチャリ、そして電動アシストまで並んでいる。ロードやクロスは新車が多いが、フレームサイズを見ると、極端に大きいものと小さいものがほとんど。いわゆる売れ残りだ。落札額を確認すると、ものによってはけっこう安い。なかでも電動アシストの出品は、そのほとんどがサンヨーの“エナクル”。ニッケル水素バッテリーを使った旧型だ。落札額は一万円以下と激安。三台ほど作動確認をしてみると、バッテリーが弱いがどれも通電OK、アシストも効く。充電器が付属しているのでこのまま売ることができそうだ。
 昨今、電動アシスト自転車の人気はうなぎのぼり。人気モデルになると納期が半年後になることもあるそうだ。メインのユーザーは小さい子供のいる主婦で、後ろには子供、前かごには買い物を満載しても楽に発進でき、ちょっとぐらいの坂ならスイスイと上っていくから人気が出るのもうなずける。ところが新車価格が高いのがたまにきず。パナソニックやヤマハの中堅モデルになれば十五万円以上はする。
「社長、うちは古物商をもってるから、自転車組合には入れますよね」
「だいじょうぶだと思うよ」
「バイクはさておき、その前に電動アシストを売ってみようかと」
「儲からないんじゃないの」
「仕入れ資金がわずかだから、手始めにはうってつけですよ」

 販売組合に加入しないと防犯登録を発行できないので、申請方法を調べると、まずは所定の種類を作成し、秋葉原にある販売組合の事務所へ持参するとある。訪ねてみると、一時間ほど、防犯登録の発行、管理、そして報告書の記入方法のレクチャーを受けた。それから一週間後、グッズ一式が到着、発行が可能となった。実に簡単だった。

 HD調布には、以前HD沖縄が使っていたトヨタのハイエースがある。ディーゼルエンジン、ロングボディーのハイルーフだ。ハーレーイベント時にしか使ってないこの車を、買付け用として借りることになった。載せ方にもよるが、自転車なら十台近く、バイクだと、250ccクラスで二台、ハーレーなら一台といったところか。この車、俺のBF時代の良き相棒となって、BDSまでの往復140kmを何度駆け巡ったことか。

 倉庫の雑多なパーツの処分は大方完了できたので、切りのいいところで仕事のメインを買付へとスイッチした。最初に行ったのは買付計画表の作成である。買いたいバイクの売り相場から売価を想定し、最低限の利益を決めれば、仕入れ額の上限が算出できるような計算式をインプットした。熱くなる競りの際に、ボタンの押しすぎを防止する役目もある。せっかく競り落としても、儲からなければ意味がない。
 試しに直近の落札データからシミュレーションしてみると、現実が見えてきた。全般的に人気のある国産バイクは、とても買えそうにないこと。例を挙げれば、売り相場三十万円ほどのヤマハ・SR400の落札額が二十万円台後半と、わけのわからないことになっているのだ。競り落とした店は、いったいいくらの売価をつけるのか。おそらく諸経費+αほどの利益しか考えてないだろう。二輪業界の儲からない実態を垣間見るようだ。
 これに対してドゥカティだと十分な勝算が見込め、ホッとすると同時にニンマリである。一般的な二輪中古販売店は輸入車を嫌う。相対的な人気がないし、整備の際にも独特なノウハウが必要になるからだ。ハーレーは輸入車の中では人気が高いが、モデルによっては十分ビジネスになりそうだ。人気のスポーツスターなどはうまみがないが、ツインカム88あたりのソフテイル、ダイナだったら、かなりな上物でも安く落とせそうだ。
 とりあえずドゥカティの目利きには自信があるので、買付計画に二台のモンスターを選んでみた。あとは例の電動アシストがいくらで落札できるかである。BDSの開催日は毎週水曜日。総務に仕入れ予算を確認し、さっそく来週にでも行ってみよう!


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