
ビッグツーリングの参加者はここ二、三年増加の一途にあり、ハーレー二店で約七十名、杉並店は三十名前後、そして少なくはなったが国産オーナーが五~六名と、常に百名オーバーで推移している。そのためか、宴会場などではハーレーのお客さんが必然的に幅を利かせているような形に映り、杉並店や国産バイクのお客さんにしてみれば、隅へ追いやられるような居心地の悪さを感じてきたのかもしれない。

ある平日の午後。店には常連の西ノ宮さん、滝沢さんが遊びに来ていて、なにやらカスタムの話で盛り上がっている。
「お話し中失礼。ちょっと意見を聞きたいんだけど、ビッグはこれまで全店合同でやってきたけど、どうかな、年に一回は店別でやるってのは」
「ああ、それ賛成」
「わたしもそっちの方がいいですね」
現況のビッグツーリングは、以前とは趣がやや異なる。本店、吉祥寺店、ギャラリーの国産バイク時代は、どの店も取扱車種が同じだったので、お客さんのバイクライフも似てくる。だから話題に共通項が多く、仲間が作りやすかった。ところが同じバイク好き、同じライダーなのに、どうもハーレーオーナーとスポーツバイクオーナーの間には、何やら壁ができてしまうようで、会話が始まることは至極まれ。話題を作ろうにも共通項が少なく、話のきっかけを見出すことは難しい。もっとも国産バイク時代も、ツナギを着てフルバンクで駆け抜ける峠好きと、泥だらけになって山を走る林道好きの間には、やはり壁のようなものが
あったにはあったが…
「さっそくだけど、秋のビッグは杉並店単独でやろうと思ってるんですよ」
「そうなんだ」
「いいじゃないですか」
細かいことだが、お客さん同士の見えない壁問題の他にもいろいろある。たとえば宴会でゲームを行い、勝者には景品を進呈するのだが、ハーレー関連、ドゥカティ関連でそこそこの数量は用意しても、ゲーム勝者がドゥカティのお客さんなのに、ハーレーのTシャツしか残っていなかったり等々はよくあることなのだ。
ある時、そんな諸々を大崎社長へ話してみると、
「壁というか、バイクライフの楽しみ方の違いについてはスタッフもお客さんも以前から感じてたんじゃないの。それとは別だけど、これだけ参加者が増えてくると、宿を取るのが難しくてさ、矢倉くんがぼやいていたよ」
同じことを下山専務も言っていた。スタッフを合わせると、総人数は百二十名以上になり、宿によっては“暴走族の集会”と誤解されるらしい。
「なら試しに次回は別々にやってみませんか」
「そうする? でも、時間があまりないから、宿の件は近ツリの田中さん、紹介しようか?」
「いや結構、自分で探します」






今やネットの時代。海外旅行でもあるまいし、マウス片手に検索しまくれば、いくらだって見つかるだろう。旅行代理店に任せれば手間はいらないが、当然マージンを取られるので宿泊代は高くなる。ただでさえここ一~二年、ビッグツーリングの参加費用が高くなったと、一部の常連から嫌みを言われているのだ。
さっそく仕事そっちのけで検索をスタート。旅行予約サイトは使わずに、エリアを絞って片っ端から当たった。するとそれほど時間を要せず、東伊豆のぐらんぱる公園のすぐ近くに、よさげな宿を発見。【プチホテル フルール】と称するそのホテルへ電話をかけ、要件を伝えると、価格、部屋数、料理、そして駐車場と、要望にほぼぴったりの条件を備えていた。
「それじゃオーナー、週明けの木曜日に伺わせていただきます」
「お待ちしております」
“花に囲まれた静かな佇まい”。これが第一印象。交通量の多いR135からさほど離れてないのに、周囲は静寂に包まれ、プチホテルとは言えども安っぽさがない。むしろ瀟洒な雰囲気が感じられ、間違いなくカップルにはうけそうだ。
「人数はスタッフ含めて四十名ほどですかね」
「だったら貸し切りにいたします」
これはいい。他の客がいなければ、ロビーも気を遣わずに使えるし、多少騒いでも問題はないだろう。料理は基本的にフレンチのようだが、漁港が近いので、同業者へ依頼して特別な船盛も出してくれるという。
「では、よろしくおねがいします」
「ありがとうございます」
こうして初となる杉並店メンバーだけで行くビッグツーリングが実現したのだ。これまでは大きな観光ホテルばかりだったので、いったいどんな感じになるのか楽しみである。

「今回は洒落たところですね」
「お風呂がいいよ、開放感あってさ」
「料理はこれまでのビッグで一番ゴージャスかも」
「やっぱ貸し切りってのがいいよ」
お客さんの反応は上々でひとまず安心。おまけにスタッフ達の反応もよく、大杉くんには「いいとこ見つけたじゃん」と褒められた。ハーレーがどうこうではなく、純粋に同好の士だけが集まったことにより、寛いだ雰囲気が醸し出されたのだろう。ただ残念なことに、この二年後、大崎社長の一存で、ビッグツーリングの開催は年に一度へと減らすことになった。この決定により、これまで長い間、お客さんやスタッフたちにとって唯一の全店合同のお祭りだっただけに、惜しまれる声は少なくなかった。
モト・ギャルソンのモットーである【遊べるバイク屋】をもっともっとアピールしようと、ビギナーツーリング、サーキット走行会、そしてHOG(ハーレーオーナーズグループ)の毎月開催されるイベント等々を強力に推進してきたために、実質的な営業日数や店を守るスタッフの数が減り、売上に少しづつ影響が出始めたのだ。そんな状況下に、杉並店独自のイベントとして、さらに“現地集合一泊ツーリング”なるものを年一回夏に開催。企業の身上である利益の獲得がなおざりとなり、本末転倒へと傾きつつあったのだ。
ちなみに前述の現地集合一泊ツーリングは、スタッフに労力をかけないようにと考案した企画で、名称のとおり、皆を引き連れてのツーリングではなく、参加者各自が宴会までに宿へ到着してもらうという極めてシンプルな趣向であり、翌日も朝食が終われば現地解散とした。しかし一泊すれば気の合う仲間ができ、帰りがソロになる人はごく僅かだった。当然、固定客増へは大いに貢献した。
現地一泊の宿は、清里高原牧場通りにある【ペンション ネイチャークラブ】。気さくなオーナーは画家でもあり、館内のいたるところに清里を含め、山梨や長野の山々や田園風景を描いたすてきな水彩画が飾られていた。




「こないだのビッグは遊びすぎたんじゃない」
「たまにはいいでしょう。大きくて有名な温泉地なんだから」
坂上がニヤニヤしている。
「みんなで伊東の街に繰り出しちゃったんですよね~」
そういえば、二次会の席に常連客の姿が少なくて、変だなと思っていたのだ。
宿泊先は“伊東温泉・ホテル聚楽”。宿から“脱走”した面々は、スナックから始めると、最後はピンサロで大はしゃぎ。ホテルに戻ったのは午前様だったようだ。
「ずいぶんと夜を楽しんだみたいだね。二次会じゃ待ってたんだよ」
「いやいや、一度は行ったんですよ。そしたらハーレーの人たちが大挙してて、ちょっと居心地悪いかな~って」

この回の参加者数は過去最高の百四十名越えとなり、大いに賑わったが、同時に全店合同で行う最後のビッグツーリングでもあった。