俺の休日を返せぇー

shinjuku-shonan全く冗談じゃない。
せっかくの休日が台無しだ。

6月13日(金)。
“梅雨・紫陽花・鎌倉”のフレーズに誘発されると、使い慣れたNikonD100+SIGMA17-70のコンビを肩に掛け、意気揚々と湘南新宿ラインに乗り込んだ。

ところがである。
ここまでは良かったのだが、その先に待ち構えていた“まさかの展開”に、楽しみにしていた撮影行はいとも簡単におじゃんとなってしまったのだ。

目的の駅“北鎌倉”へあと3駅と迫った東戸塚で停車の後、待てど暮らせど電車は動かない。
妙だなと感じていたら、

「この先の大船駅で信号故障の為、暫く停車いたします」

こんなアナウンスが流れた。
信号故障ならそのうち動き出すだろうと、これをタイミングに持参した文庫本を取りだした。
東野圭吾の【探偵ガリレオ】だ。短編だからこんな場合にぴったりである。
ちらっと車窓へ目をやると、雲ひとつない青空が眩しくも恨めしかった。

15分が経過。

「どうなってんのかしらね」
「どのくらいで動くのかはっきりして欲しいわよ」

車内を見回すと、周りには年輩ご婦人達の観光グループがざっと3組ほどいた。
耳に入ってくる会話によると、やはり目指すは鎌倉のようだ。お昼時間近であり、そろそろ空腹も感じる頃、イライラしてもおかしくはない。

30分経過。

撮影時間が刻々と蝕まれていく焦りが、色々な憶測を生んだ。

「今駅員の人に聞いてきたのよ」
「あら、それで」
「詳しい情報が入ってこないから、待っている方がいいらしいわ」

わけの分からない会話だ。

「駅員に怒鳴りつけている人がいたのよ」
「嫌ね~」
「怒ったってしょうがないのにね」

45分が経過する頃になると、観光客を除き、改札へ向かうか、上りに乗り換える人達が目立ち始める。仕事中であれば、このまま黙って待機などはしていられない。
私もこの頃になると撮影意欲がだいぶ減退してしまい、これ以上無駄な時間の増えることに苛立ちを覚え始めてきた。

1時間が経過しようとした時、再びアナウンスが流れる。

「大変ご迷惑をおかけしています。未だに復旧の見通しが付かず、暫く時間が掛かる模様です」

「なにそれ」
「どうするのよ」

車内はざわついた。
その時、ちょうどホームへ入ってきた横須賀線の上りに駆け込む人が数名出た。
しかし優柔不断な私は、この期に及んで更に15分待ってみることにした。

ー もし動いたら、まだ時間的に回れそうだ。

そうはならないことを感じつつも、何気に立ち上がることを拒んだ。
しかし状況は更に悪化していき、何と上り電車までも大幅にダイヤが狂い始めたのだ。
向かいの上り線ホームを見れば、知らぬ間にずいぶんと人が並んでいて、電光時刻表は空しくも全く用を足さない状況となっていた。

ー くそっ、さっきの電車に乗っておけば良かった。

いまさら後悔しても時既に遅し。
暗澹とした気持ちを誰かに聞いて欲しくなり、これまでの顛末をうちの女房へLINEで伝えてみると、すぐに返信が来た。

「タクシーで戸塚まで行って、そこから東海道線で戻ってくれば」

なるほど、その手があったか。
横須賀線と東海道線が乗り入れている戸塚は、隣駅だから距離もそれほどないはずだ。
最悪歩いても行けない距離ではない。

ー 早いとこ脱出するか。

最後の15分間を待つことなく、それではと、長らく座り込んだシートから立ち上がり、足早に改札へと向かう。
案の定、改札周辺は多くの利用客でごった返していた。

「どうなってんだ」
「振替え輸送はどこよ」
「払い戻しだ」

熱くなっている客、バス乗り場やタクシー乗り場へ急行する客、憮然とした表情で払い戻しの列に並ぶ客。既にいつもの駅の光景はない。

そして改札を出ようとしたその時だ、

「一本だけですが、東海道線が臨時で乗り入れることになりました」

メガホン片手に駅員が叫んでいる。

「あと10分少々で到着します」

ー おっ、これはラッキー!

再度ホームへ戻ると、少しでも空いていればと、先頭車両が入る停車位置に並んだ。
これで一安心と回りに目をやれば、何と乗ってきた湘南新宿ラインの車両にまだ座っている人達がいるではないか。
再運転の可能性はかなり低いとは言え、その気持ちは分からないでもないが…
よく見るとその中には遠く関西から訪れている4~5名のご婦人グループがいた。長らく車内で待っている時、話し声の大きい彼女達の会話は、嫌でも耳に飛び込んできたのだ。
彼女達にとってこのアクシデントは憤慨以外の何ものでもなく、予定している観光スケジュールも見直さなければならないだろう。
交通トラブルは様々な人達に様々な影響を及ぼすものだ。

臨時便は無事に発車。その後二度ほど時間調整という理由で5~10分ほどの停車があったが、ほぼ予定通りに新宿へと到着した。
中央線に乗り換えた後、アンドロイドで横須賀線の運行状況を検索すると、未だに運転再開はしておらず、それどころか翌日のダイヤにも影響を及ぼす最悪な状況になっていたのだ。

三鷹駅に到着。駅事務所へ行って今回の顛末を述べた後、一度も下車していないパスモの処理をお願いすると、一言の「すみません」もなく、

「そちらからどうぞ」

と、出口へ誘導された。
あまり言いたくはないが、これがJRのレベルであり、そのレベルが“しょっちゅう止まるJR”という、誠に情けないキャッチフレーズを生み出しているのだ。

どうでもいいけど、
俺の休日を返せぇー

夢の世界

1akb486月7日(土)。甲州街道を挟んで、職場の眼前にそびえる“味の素スタジアム”は、朝から異様な活況に包まれていた。
そう、日本アイドル界の歴史を事ある毎に塗り替え続けている、AKB48グループの「第6回AKB48選抜総選挙」の開票イベントが行われるのだ。
これまでに同スタジアムでは、Jリーグはもちろんのこと、SMAP、L’Arc〜en〜Ciel、A-Nation等々、BIGアーティストのコンサートが数多く開催され、静かな町“飛田給”へは、その度に山のような人波が押し寄せてくるのだが、今回の総選挙ではこれまでのどれとも違う“人波の雰囲気”を感じ取れ、なんだか無性に興味が沸いてきた。

傘をさしていてもびしょびしょになってしまう程の土砂降りが朝から続いていた。
その中、カッパを羽織った大勢の人達が、飛田給の駅前から味の素スタジアムを目指して延々と歩き続ける光景は、あたかも力の渦のようで、気が付けばそれに見入っている自分を発見してしまう。

翌日6月8日(日)。人波は更に大きいものとなった。
「大島優子 卒業コンサート」
現在のAKB48をここまで牽引してきた事実上のリーダー“大島優子・最後の花舞台”とあっては、ファンのボルテージは上がらないわけがない。
昼時にローソンストア100へ買い物に出掛けると、案の定、レジ前は長蛇の列。オリジナルのコスチュームを羽織った熱狂的ファンの姿もちらほらと目に付く。

ー 実在神 女神 渡辺麻友 ☆

バッチリとシャツの背中に刺繍してある。
これは凄い!

買い物の後はファン達の流れに入り交じって、味の素スタジアム前の歩道橋まで歩いてみた。
ごく短い距離ではあったが、コンサートへの期待感が広がる大勢の後ろ姿を見ていると、その勢いに呑まれて自分も一緒に会場へ入り込んでしまうような妄想が膨らむのだ。

「チケットありますよ~」
「持ってますか~」

ダフ屋だ。
彼らの出現でイベントの規模が分かろうというもの。

階段の手前で流れから離れ、静かな路地に入ると同時に妄想が消え去っていった。

AKB48に限らずライブイベントは、日常から非現実へと誘う魔法のエネルギーを持ち合わせ、その力の恩恵を受けて、我々は夢の世界で遊ぶことが叶うのだ。

7万人が集う夢の世界。これはただごとではない。

大岳山~鋸尾根

5月29日(木)。
電車を待つ鳩ノ巣のベンチで地図を広げる。
私はいつも山地図の使うエリアだけをスキャンして持ち歩くようにしているが、こうすると拡大印刷ができるので老眼もちには使い勝手がいい。更には元の地図もきれいに保てるので一石二鳥なのだ。
今回は久々に御岳山ケーブルカーを使って、大岳山~鋸山~JR奥多摩駅というルートを選んでみた。ゆっくり歩けばトータルで6時間を越えるコースであり、テン泊前の調整にはお誂え向きといえる。

昨今の登山ブームにはめざましいものがあるが、JR御嶽の駅前から出るケーブルカー行きのバスでも、朝の通勤ラッシュと見間違うばかりの活況ぶりを見た。ざっと数えても60名以上は乗り込んでいるようだし、殆ど全員が大きなリュックを背負っているのだから、その過密さは通勤ラッシュ以上かもしれない。それと注目すべきは女性ハイカーが多かったこと。今回は若い子達も4~5人見かけ、過密な車中に花を添えていた。
“ケーブルカー下”に到着すると、そこから更に麓の滝本駅まで200メートルほどの軽い登りを歩く。
改札ではマイカーで訪れた人達と合流し、長蛇の列となった。

滝本駅から終点の御嶽山駅まで、標高差423m、平均斜度22度26分を6分間で走行するケーブルカーはプチスリリングも味わえる。車窓から見える麓の景色を見つめていると、

ー もしもワイヤーが切れたら、完全に終りだな、、、

垂直に近い傾斜に身を置けば、恐らく誰でも余計な想像が沸き上がってくるものだ。

ケーブルカーからはき出されたハイカー達は、それぞれの行き先へと散っていった。

意外だったのは、私と同じ方向へ足を向ける人が極めて少ないことだ。大岳山、日の出山、ロックガーデン等々、御岳山界隈の人気スポットへは先ず御嶽神社へ進まなければならない。多くの人達は、近場の富士峰公園か大塚山方面へ向かったのだろうか。

御嶽神社のきつい石段を登り、途中左へ折れて大岳山を目指した。
大岳山は標高1,266.5mとそれほど高い山とは言えないが、多様な登山ルートを備えた奥多摩の名峰とも呼ばれ、初心者からベテランまでが楽しめる山として著名なのだ。

この日は何故か気味が悪いほど体調が良く、連続する登り坂に差し掛かっても歩行速度が殆ど落ちず、休憩も5分ほど取れば力が戻ってくるという素晴らしいものだった。
確かな要因は分からないが、昨年の夏から使い出したトレポが予想以上の効果を出しているのかもしれない。ステップにはあまり役立たないが、だらだらとした長い坂には滅法威力を発揮し、明らかに脚力をフォローしていることが体感できる。
大岳神社前で一服した後も、余力を感じつつ頂上直下の急坂を登り切った。

「急に雲が出てきたな」
「午後には雨が降るってさ」

隣で寛いでいる男性3人組の会話である。
そうなのだ。尾根を歩いていた時は木々の間から青空も見ることができたが、今、頂上から南西の方角を望むと、大きな黒い雲がせり出してきていて、日差しを遮り、吹く風も幾分強くなってきた。
雨が降ってくるのも時間の問題だろう。
ウェザーニュースの奥多摩エリアは、15:00からが雨と出ていたから、雲の進行が早まっているのだ。
その時、遠雷が耳に入った。

― のんびりはできないな。

この先、鋸山を経て奥多摩駅までは相当な距離を残す。膝にダメージの掛かる下りがメインになるので、大凡4時間は見なければならない。
ここでゆっくりと昼食を取ろうと思ったが、土砂降りになればこの先タフなコースになることは間違いないので、おにぎりをひとつ口に入れると、早々に出発することにした。
ところがこんな状況の中、後から上がってきた30代後半と思しき単独女性は、ストーブやコッヘル、そして食材を広げ、これから腰の据わったランチに取り掛かろうとしている。隣の3人組も撤収の準備をしているのに、何とも微妙な選択である。その風貌、装備からはベテランとも見受けられるが、、、

大岳山は頂上部が尖っているので、下り始めは急坂の連続になる。決して難しくはないが、これが雨でぬかるんでいたら滑りやすく注意が必要だ。
一気に高度を下げて尾根道に入った。

本来はとても快適な道だが、ここにきてついに雨が降り始め、気温も更に落ちてきた。
樹林帯なので直接雨に打たれることはないが、時間を追うごとにレインを出そうかと思案するほど降りは強くなってきた。
辺りはますます暗くなり、足元を注意しながらの山歩きがひたすら続いた。

とその時、
突如背後で物音が。

― うぉ、く、熊か?!

「すんませ~ん、お先です」

何とトレランである。しかも間を入れて二人続いた。
そう言えば、ここから御前山へ続く尾根筋はトレラン大会のお馴染みコースなのだ。雨風の音に遮られて、背後に迫るまで全く気が付かなかったが、それにしても凄い走りだ。幾ら背負う荷物が小さいからといって、あのスピードでアップダウンを駆け抜けるのは容易なことではない。
鋸山山頂へ到着、ここで長めの休憩を取った。

鋸尾根を半分ほど下ってきた辺りで天候は急に回復へと転じ始めた。
どんより空に青空も見え始め、周囲もぱっと明るくなり気温も急上昇。ザックからタオルを出して首へ巻き、今度は汗を拭き拭きの下山となる。

今回は不思議に膝の調子が良く、終始気持ちのいい山歩きができてほっとしている。
一生続くであろう腸脛靱帯炎との付き合い方に、新たな対策ノウハウを手に入れられ、またひとつ自信が湧いてきた思いだ。

次回はテン泊で、星空を肴に澤ノ井をぐびぐびとやろうかな。

写真好きな中年男の独り言