武蔵野

今年に入ってからというもの、厄介事ばかりが連発して、プライベートな時間は尽くこれに費やされている。
趣味の写真や山歩きも儘ならず、“お遊び計画”は尽くおじゃんとなっているが、まあ、60年も人間をやっていればこんなことも多々あるのではと半ば諦めている。良いことがあれば必ず悪いことが舞い降り、また、悪いことを乗り越えれば再び良いことがやって来るのが人生。なかなかどうして思いどうりには行かないものだ。

休日の午後、ちょっと時間が空いたので、たまにはポタリングでもと、V2を襷にかけてNOMADを走らせた。空気感は正に秋、被写体を探しながら町中を流せば、季節の変化が実感できる。
我が町“武蔵野市”は、公園や緑道、そして野鳥の森などが点在する緑豊かな町並みが自慢。自宅のすぐ傍を流れる多摩の清流“玉川上水”は、その中心的存在であり、両岸に整備される遊歩道は市民にとって“憩いの小径”となっている。

自宅を出発して井の頭通りから新武蔵境通りへ入り、玉川上水の右岸で2~3枚撮影、その後はけやき橋周辺で少々時間を割いてみた。
今でもしっかりと記憶に残っているが、幼少の頃、この辺りは良く祖父に連れてこられ、三鷹駅と武蔵境駅の中間点にある陸橋に上がっては、迫り来る電車を真っ正面から見てはしゃぎまくった。
そんな経緯があってか、今でも線路脇の道はロックの散歩道として好んで歩いている。
黄昏時、陸橋をシルエットにする夕陽は昔から何ら変らず、この地に生まれ育ったことを心の底から嬉しく思うこの頃である。

撃破!鼻過敏症・結論

col09_box01_img01ついにアレルケアの服用も1年が経過した。これだけの期間を投じれば、個人の感想と言えども実際の効き目やその他諸々、参考にしていただける内容を述べられそうだ。

小学生の頃、鼻や喉がデリケートだった私は、調子が悪いときなど、空を見上げただけでくしゃみが連発し、溢れ出る鼻水をすすりながら、ずいぶんと気恥ずかしい思いをしたものだ。
ところが高校へ進学する頃になると症状は穏やかになり、デリケートさに変わりはなかったが、悩むほどの症状は起こらなかった。
それから長い月日が流れ、一時は鼻炎を忘れた時期もあった。
ところが、50歳を超えた辺りから再びあのデリケートな鼻腔が戻ってきたのである。

空気が乾燥してくると、鼻の穴から2cmほど入った辺りに、軽い痛みを伴う違和感が出始める。徐々にそこは鋭敏になっていき、刺激に対してはそれがいかに小さくとも、連発するくしゃみを誘発するのだ。
更に酷い時には、呼吸する空気の流れにさえ反応するから厄介だ。
11月も半ばに入ると、耳鼻科医から処方される薬なしでは仕事に支障をきたしてくるので、12月から3月上旬までの連続服用は、5年ほど前からの定例になっている。
しかし、通院の煩わしさや副作用を考えると、ほかに何か良い策はないものかと、常々考えていたことは言うまでもない。
そんな中、webサイトで目に止まったのが乳酸菌の効能である。
それまで乳酸菌と聞くと、単に“お腹にいい”程度の知識しかなかったが、調べれば、お腹の調子が良くなると体全体の健康に繋がることが分かり、更に乳酸菌はアレルギーを起こす物質に対して、腸からの吸収をブロックする働きがあることも判明した。
乳酸菌関連の商品は星の数ほどあったが、アレルギー改善を全面的にアピールしていたのがカルピスのアレルケアで、その効能は悩む症状に最も適していると判断、購入となったのだ。

服用を始めて2週間程すると、便通が改善された。これこそ乳酸菌のお家芸だろう。
便の形が整い、トイレの時間も短縮した。しかし同様な効果は以前服用していた“新ビオフェルミン”でも得られるので、とにかくアレルケアに求めるものは慢性鼻炎の軽減につきた。

服用を始めて1ヶ月、僅かだが“変化”らしきものが現れる。
毎年11月の声を聞くと、鼻の調子が下降線となり、カレンダーを眺めては病院へ出かける日を考え始めるのだが、例年とは様子が少々異なり、なんとなく薬に頼らなくても我慢できそうな感じなのだ。
間違いなく鼻腔は乾燥してきたし、デリケートさも増しているのだが、気が付くと連発する鼻水・くしゃみは一日に精々1~2回ほどで済んでいる。
但、この時点での結論は避けたかったので、その後も慎重に経過を見ることにした。

本来なら不調のピークを迎える12月半ば。
相変わらず鼻水とくしゃみが止まることはなかったが、やはり病院へ駆け込むほどの辛さがない。
ここまでくると“効果”と断定しても良さそうな雰囲気になってくる。薬の副作用と通院の手間から逃れられたのは嬉しい結果であり、このまま服用を続ければ更に症状が軽くなるのではと、若干だが希望も湧いてきた。

nyuusankin12月30日(火)~31日(水)は毎年恒例の年末撮影会があるのだが、鼻の調子がまあまあなので、気分も上向きになる。計画していた渓流を撮ろうと、車を天城の旧道へと走らせた。
山道の分岐にある橋の脇に車を停めて車外へ出てみると、意外や凄く気温が下がっていて、キリリと冷たい空気が一気に鼻腔を通過した。案の定、盛大なくしゃみが6連発!
一度でもこうなると溢れ出る鼻水は止まらない。こんな時の為に持ってきたハンドタオルが見る見るうちにびしょ濡れになっていく。
私の鼻にとってこれほど厳しい環境はなく、アレルケアの効果が“軽減”だけに留まっているレベルでは、歯が立たない状況だ。

さて、いきなり結論めいた話になるが、それから10ヶ月以上経った今でも、効果は軽減の域を脱していない。
もちろん何らかの作用があっての軽減なので、効果が「0」ということはないが、処方薬のように症状に対して劇的に効いてくるわけではないし、そして今後もこれ以上の改善は望めないように思われる。
この辺のニュアンスをご理解いただける諸氏には、アレルケアを試す価値は充分あるし、個人差によってはもっと大きな効果を得られるかもしれないのだ。
いずれにしても腸の健康は基本中の基本なので、サプリメントに限ることなく、日常生活に於て乳酸菌を積極的に摂ることは大いに推奨すべきことではなかろうか。

その後へ続く

若い頃・デニーズ時代 9

デニーズで働くアルバイト達は皆それぞれ生き生きとやっていた。
アルバイトでありながら積極的に仕事をこなし、正社員との隔たりを感じさせないその働きぶりは見事の一言。これほどのMotivationを喚起する根源は一体どこから生まれるのだろうかと、無い頭をひねって考えたこともあったが、要するに職場が楽しいと思えなければ、これだけ小気味の良い動きを発揮することはできないはずだ。

店長でさえ20歳代後半という若さ溢れる職場環境は、各シフト問わず活気に溢れていて、学校とはまた違う青春群像といった趣がある。私自身もエンプロイテーブルでMDやバスヘル達と歓談をしているときなど、一瞬職場であることを忘れてしまう錯覚にとらわれることも屡々であった。
男だけのマンダムな学生生活を5年間も過ごしてきた身には、MDとのオーダーのやり取りだけでもわくわくするし、たまに湧き出す黄色い声の嵐には意味もなく顔が崩れてしまうのだ。

「MDの久光さん、可愛い子だな」

いきなりの一言に振り返ってみると、そこには一週間ほど前に人事異動でやってきたリードクックの石澤さんが、にやついた顔でフロントへ視線を向けていた。

「彼女、好みなんですか?!」
「先輩をからかうなよ」

石澤さんは上司だが、ひとつ年下である。高校を卒業すると調理師学校へ進み、その後、街の洋食屋を経てデニーズへ入ってきたそうだ。そんなことから、包丁の研ぎ方等は当たり前の如く巧で、彼にアドバイスを受けながら研いだ包丁は抜群に使い易く、感動するほどだった。
そう、あのプリンだって、彼が作ると殆ど失敗がない。
中背痩せ形で、時々厳しい眼差しでキッチン全体を舐めるようにチェックする、シビアで取っつきにくい面も持っていたが、きちんとした料理人のスキルを持っている彼からは、デニーズだけで育った上司からは得られない多くのことを学んだ。

「久光さんって、ぴちぴちの高二ですよ」
「だよな。俺だってまだ二十歳そこそこなのに、彼女見てると年齢のギャップを感じるよ」

久光さんは美人というタイプではないが、丸顔でくるくると動く大きな目がとてもチャーミング。女子高生を絵に描いたようなその雰囲気は、当然、店の人気者である。

「ところでさ」
「はい?」
「MDには気をつけろよ」

いきなり飛び出した言葉に戸惑った。

「なんですか、それ?」
「次から次に若くて可愛い子が入ってくるからさ、歯止めが利かない男は必ず問題を起こすんだ」

これには感ずるものがあった。
常時10名そこそこの在籍がある年頃の女の子。その内の半分ほどが1年以内に入れ替わっていくのだから、女性への耐性が不足している男性にはかなり手厳しい環境と言える。
例えば、久光さんに一目惚れしても、後から更に好みの女の子が入ってくる確率は非常に高く、あれもこれもとちょっかいを出して、気が付けばトラブルに発展してしまう男性スタッフは、アルバイトのみならず正社員にも大勢いるとのことだった。
ファミリーレストランは当時の女子大生、女子高生にとっては人気のアルバイト先だったので、致し方ないと言ってしまえばそれまでだが、健康な男性だったら楽しくも苦悩する職場であることに間違いはない。

「特に所帯持ちだったら悲惨だよ、、、」
「で、ですね」

女は魔物、綺麗な花には棘がある、か。

「木代さん

突然の呼びかけに振り向くと、いつのまにか久光さんがディッシュアップカウンターの前にきていた。

「なに?どうしたの?」
「なんか真剣な話、してましたよね~」
「そ、そんなことないよ、仕事の話さ」
「顔に嘘って書いてある」

これ以上はないと思われる満面の笑顔が久光さんらしい。これにやられちゃう男は少なくない筈だ。

「それより久光さん、そろそろ“締め”をやる時間だよ」
「いやだ、はぐらかしてる~」
「そんなんじゃないって」

さっきの石澤さんの話ではないが、ついこの前まで大学生をやっていたのに、既に女子高生の乗りにはついて行けない自分に気が付く。
しかし、このついて行けない感覚も裏返せばくすぐったくも楽しいもので、これも一種のやる気の元だと真剣に思えてくるから可笑しくなる。アルバイト達の生き生きとした働きぶりも、この辺の絡みが大きく影響しているのだろう。

「木代さんって、案外照れ屋なんですね」
「おいおい、勘弁しろよ」

リーチインの影からにやけた表情で、石澤さんがさっきからこっちの様子をうかがっている。
そして両手をメガホンのように頬へ当てると、久光さんに聞こえないような小さな声で、

「おいっ! もてるな木代!」

写真好きな中年男の独り言