
全国一斉試乗会当日。快晴とまではいかないが、薄曇りで風もなく、試乗会としては上々のコンディションを迎えた。のぼり、ポスター、そして試乗申込書、見積書、カタログ、来店記念品等々の準備を確認、朝礼にてスタッフ全員に本日のポイントを再度伝える。俺もあまり知らなかったBUELLだけに、はたして興味津々で来店してくれる方々はどれほどいるかと、かたずをのんで待ち受けた。BUELLの展示コーナーではS1ライトニングとS2Tサンダーボルトが相変わらず異彩を放っている。初めて見るお客さんへのインパクトは大きいに違いない。
「いらっしゃいませ!」
10時オープンと同時の来客、試乗の可能性大だ。
「お手数ですがこちらで試乗申込書の記入をお願いします」
幸先のいい試乗一発目は男性三人組。全員バイクを所有し、BUELLには大いに興味があるという。この後もBUELL関連の来客が続き、午前中だけで10件を超える試乗があった。
「すごいね~、びっくりだね~」
予想以上の反応に大崎社長も笑顔が絶えない。
「このペースだと午後も期待できそうですね」
「まだまだ、これからですよ」
試乗を終えた方々に感想を聞いて回ると、良いか悪いかというより、初めて体験する乗車フィーリングにびっくりとの声が大半で、質問も多く寄せられた。内容は以下に列記するが、やはり外車ということで、耐久性とランニングコストに集中する。
A:車検費用は?
B:オイル交換の頻度、費用?
C:壊れやすいところは?
D:部品は高いのか?
E:ガソリンはハイオク?
以上が多かった質問である。
乗車の感想としては、ライディングポジションが合わない、強い振動に馴染めるかどうか等々がマイナスイメージの筆頭。一方、トルクフルで加速感が楽しい、日本車にない個性がかっこいい等々の嬉しくなる言葉もたくさんいただき、何件かの商談は確実につながると思われた。土日二日間の試乗件数は55件にのぼり、即決こそはなかったが、試乗会から一か月の間に成約5台と、知名度の低いモデルながら上々の結果を得ることができた。
その後も問い合わせや試乗が途絶えることはなく、売り手の我々がびっくりするほどの高反応が続いた。しかし実際に納車が進むに従い、“外車の洗礼”も予想どおりに待っていた。国産バイクではまずない些細なトラブルが連続したのだ。
ナンバー基台と一体型のリアマッドガードが、強い振動によって取付ねじ付近にクラックが入るという件が多く、酷い例ではマッドガード自体が脱落した。キャブの吹き返しで、エアクリーナーの取付け部からオイルが漏れる。ウィンカーのステー部分が脆く、わずかな当たりでも折れてしまう。リアブレーキがまったく効かない。フューエルタンクのデカール部分が浮き出し剥がれてしまう。フロントフォークの液漏れ等々と、数えればきりがなく、そのたびに深々と頭を下げることになり、スタッフのモチベーション低下につながらないかと、日々緊張が続いた。


「あのマッドガード、くそですよ!」
BUELLの担当メカになっていた海藤くん、憤慨のひと言である。
多発するクレームの第一防波堤は彼だから、ストレスは溜まる一方。そもそも天邪鬼気味な性格の持ち主なので尚更だろう。もちろん俺だって溜まりに溜まっていた。
「構造的に駄目だと思うよ、素材が薄すぎるもん。解決方法を考えなきゃ」
すると、急に真顔になった海藤くんが、
「フェンダレスキットと普通のマッドガードを、オリジナルで作りましょうよ」
「それができれば一番だけど、なんか考えてる?」
これはいいアイデアだと思った。すぐに社長へ報告すると、あっけなくGOが出た。
「海藤くんに簡単な図面作らせてさ、製作会社に見積もり出してもらってよ」
さすがに大崎社長もあまりの苦情の多さに辟易としていたのだろう。こうして一か月後、試作品が完成した。車体に装着するとリアビューの迫力が格段にアップする優れものである。
「いいじゃないこれ。何個から作れるって?」
「20個からだそうですが、50個やればだいぶ安くしてくれるそうです」
「いっちゃおう、50個。木代くんさ、アース企画にパブリシティ頼んどいて」
「了解」
海藤くんが中心となって作ったこのオリジナルパーツ、これが予想以上に売れた。BUELLの社外パーツを他社に先駆け、いち早く製品化したことが功を奏したのだ。初回ロットは瞬く間に完売、すぐに追加発注した。鼻高々の大崎社長は、同業のBUELLディーラーに自慢のフェンダレスキットを強力にアピール、すると業販分だけで20個以上の注文が入った。
ある日、某有名カスタムパーツメーカーの営業マンが来店したとき、
「すごいですねギャルソンさんは。普通のバイク屋で作ったカスタムパーツが、100個以上も売れるなんて聞いたことないですよ。うちも早めにやっとけばよかったな~」
と、まじめに悔しがっていた。
弾みのついた海藤くんは、早くも第二弾を計画していた。BUELLの泣き所、フロントブレーキの強化パーツ、“ダブルディスクキット”である。
国産ディスクロータ×2、ブレンボ・4ポッドキャリパー×2、キャリパーサポート×2、ブレンボ・ラジアルポンプ、グッドリッジ・メッシュホース、T型ジョイントを、工賃込みのセット価格で338,000円というもの。ただ、ディスクロータ―の在庫の関係で、販売数は限定15セットのみ。そしてこのパーツの人気もすさまじく、情報を聞きつけた常連客が次々に注文を入れてくれ、発売前に完売となった。


BUELLというバイクは、まさに“未完成の極み”。
普通に考えれば、これほど欠点があって、価格だけは一丁前に150万円もする商品など、国産車の感覚だったらまず誰も買わない。ところがトラブルとリコールの嵐にもまれながらも、弊社ユーザーたちのBUELL愛は消えることがなかった。
それどころか、
「こいつの欠点って、なんか憎めないんだよな」
「マイナス面があっても面白いから、カスタムや手直しして乗りたいね」
「あばたもえくぼ!」
これが外車の世界なのかもしれない。この傾向はうちだけでなく、BUELLディーラーのほとんどに当てはまった。これを受け、関東のBUELLディーラーが手を組んで、“ブルドッグ”と称するオーナーズグループを結成。多くのオーナーたちが賛同してくれた。
さっそく第一回目のイベントを長野で開催。参加者は100名を軽く超えた。イベント名は“ワインディングハント”。カスタム好きなBUELLオーナーが多い故に、会場のいたるところで、オーナー自慢のカスタムBUELLを囲みながらの情報交換が盛り上がり、ディーラーを超えたオーナー同士の輪ができたのだ。その後、モト・ギャルソンでも“G GLIDE”(ジーグライド)と称したオーナーズグループを結成、ツーリングや飲み会を中心に大いに盛り上がったのだ。