エレキバンド


Mosriteずいぶんと昔の話である。
小学校5、6年の頃だったか、ある日テレビを見ていたら、アマチュアバンドが勝ち抜き戦を繰り広げるという熱き番組が流れだした。
これには自分でも驚くほどに釘付けとなった。

ちょうどその頃は親友Kの影響で深刻なビートルズ中毒に陥っており、何が何でもジョンやポールのように歌えるようになりたくて、一日に最低1時間はイヤホーンを使って自分だけの世界に浸りきっていた。
中学校へ進学しても、頭の中は、ポップス!、バンド!、エレキ!が渦巻いていた。
このままでは本物のノータリンになってしまうのではないかと心配になったほどだ。
今俺は何を考えているかと自分に問えば、75%が音楽、20%が隣のクラスのS子、そして残りの5%が直前の中間テストというありさま。
親はさぞかし心配していただろう。

「ちゃんと勉強しなさいよ」
「やってるって」

苦し紛れの返事が続く。
“ザ・ヒットパレード”、“シャボン玉ホリデー”等々、音楽心を刺激するテレビ番組は毎週欠かさず見ていたし、Kの家に行ってはシングル盤をテープレコーダーへ録音、急速に増え続けるビートルズコレクションをこれでもかと貪っていた。
もう勉強どころではない。

そしてとどめは下校路の千本浜に現れた。

ー なんだ、あの音?

突如、彼方から風に乗って腹に響く音が聞こえてきた。
耳を澄ますとドラムのような打音も聞こえる。

ー まさか、バンド?!

心臓の高鳴りが刺激の大きさを物語り、反射的に音のする方角へと歩き出した。
西高を過ぎた辺りからギターの音色もはっきりと確認できるようになり、どうやら音の出所は松林の中だと見当をつけた。
近付くにつれ、音は徐々にちゃんとした音楽となって迫ってきた。
まさに初体験の“ライブ”である。
数メートルまで近付くと、想像を超える大音量が瞬く間に体全体を痺れさせ、特にバスドラとベースがシンクロした重低音は強烈で、真夏なのに鳥肌まで立ってしまったのだ。ライブの刺激はものの一分間も経たないうちに固い決心を生んだ。

ー 絶対エレキバンドやる!!

見事脳内でスパークした。

3~4曲の演奏が終わった時、ギターを弾いていた背の高い彼が、私に向けて声を掛けてくれた。

「バンド、好きか」

呆然としていて、すぐに反応することができなかったが、何とか落ち着きを取り戻すと、思い切って聞いてみた。

「これ、何の曲ですか?」
「ベンチャーズだよ」

ー これがベンチャーズなんだ。

カルチャーショックが炸裂した。
聞くもの見るもの全てが凄すぎで、混乱状態はなかなか収まらなかったが、それと並行してエレキバンドをもっと知りたいという欲求も大きく頭の中にもたげてきた。

我が青春のエレキバンド。
ここがスタートとなったのだ。