市道山

昨年の10月に初めて登った刈寄山。登山口までのアクセスが良く、気軽に足慣らしを行える山として印象に残った。
登山前日に<山と高原地図>で下調べをした際、刈寄山、市道山、臼杵山を総称して戸倉三山と称することを知り、その位置関係を確認すると、刈寄山からちょっと頑張れば市道山へ到達できることを知った。こうなればいつかは行ってみようと思うのが人情である。

6月13日(木)。梅雨の合間の好天は逃してならぬと、少々出発時刻は遅くなってしまったが、市道山を目指すことにした。
中央道並びに秋川街道が比較的すいていたので、今熊山駐車場には9:15に到着、早々に準備を行い9:30には出発できた。
気軽に山歩きを楽しめるルートとあって、先回同様ちらほらとハイカーが目立つ。
登り始めて間もなく、前を歩く70代中ほどであろう男性が、追い越しざまに声をかけてきた、

「今日はいい天気だね。どこまで行くの」
「市道山まで行ってみようかと」
「凄いな~、もうできないな~、気を付けて」

ご主人は地元の方で、この山道にはこれまで何度来たか分からないという。恐らく本日目指すのは今熊山だろう。
片道40分ほどの整備された山道なので、加齢による筋力減退対策にはちょうどいい塩梅だと思われる。
更に進み、鳥居のある岩場まで来ると、今度は年配女性が前を歩いていた。今度は追い越しざまに私から声を掛けてみた。

「こんにちは」
「あ、こんにちは」

見た感じは60代後半か。しかし足取りは意外としっかりとしているので、初心者ではないだろう。

「臼杵山と市道山は登ったんで、今日はぜひ刈寄山まで行こうと思って」
「戸倉三山制覇ですね」

やはり経験者である。
この他にも、振り返れば後方100m程に男性と思しき人が登ってきているし、今熊山の手前でも白髪の年配男性を見かけた。
ところが刈寄山へ向かう道から市道山へと分岐した途端、あたかもステージが変わったかのような静かな山中となった。山道は適度に整備されていて歩きやすく、樹林帯を通過してくる風は爽快そのもの。コンディションとしてはこの上ない。そんなせいか、足も軽く前に出る感じで、気を付けないとピッチも普段よりやや早めになってしまう。山歩きは自分のピッチを守るのが基本である。
コースの大半は樹林帯だが、一応尾根筋を行く道なので、所々で景色が開けるところもあり、思ったよりは単調にならない。さすがハセツネCUPのコースになるだけの基準を窺える。

淡々と歩を進める中、適時水分と糖分の補給を行うが、立ったままそれも2~3分で済ませた。やはり調子が良かったのだろう。ところが1時間が経った頃から、<長いな~>と感じるようになってきた。
やはり初めてのコースなので、時間と距離の塩梅がつかめず、おまけにスタート時刻もやや遅かったので、往復の所要時間を考えてみれば、市道山へ登頂する時刻が気になり始めたのだ。陽が長い時期とはいえ、時間が読めなければ焦りは出るもの。
そして<長いな~>と感じてしまうもうひとつの理由は、アップダウンが連続することに尽きた。
決して大きな波ではないが、よいしょよいしょと登りつめると、50mも歩かないうちに急降下となる。復路の際に数えてみたら、市道山~刈寄山間で、なんとそのアップダウンが18回もあることが判明。出発前夜に山と高原地図でルートを確認した際も、刈寄山から市道山まではそれほど距離があるとも思えないのに、標準タイムが2.2時間と記されていて、なぜ?と不思議に思ったが、その訳は頻発するアップダウンがあるからだ。

市道山の狭い頂上に到着したのが13:45。コースミスもなく快調に駒を進められたので、タイム的には標準よりやや早かったというところか。
ぐるっと見回すとベンチがない。その代わりか、ごつごつした大きな岩があったので座ってみたがケツが痛い。これでは到底寛ぐことはできないので、おにぎりと残ったクロワッサンを平らげ早々に引き返すことにした。
そもそもこの頂上は景観もそれほど望めず、余り長居をするところではなさそうである。
こうして20分ほどの休憩の後、再び今熊神社駐車場へと向けて出発した。

連続するアップダウンは確実に疲労を蓄積していった。
1時間経過後。心肺機能にはまだ余力が残っていたが、遂にウィークポイントの膝周りに違和感が出始めたので、小休止を頻繁に取るようにして、その都度ストレッチと水分補給を行い、意識して足の力を抜き歩を進めた。
その後何とか刈寄山の分岐まで到達することができたが、この頃からいつもの腸脛靭帯炎の他に、両膝頭の少し上辺りが痛みはじめ、やや急な下りになると歩幅を10cm程まで落とさないと辛くて足が出なくなった。
これはしんどかったが、どうすることもできないので、只々歯を食いしばり、亀のような速度で駐車場を目指した。
さすがに18時に近づくと、夕暮れの様相がぐっと増し、気温も落ちてきた。
18:15。喘ぎながらも無事駐車場へゴール。汗をぬぐい着替えを済ませて帰路に就いたのが18:30だ。

今回は脚力低下を痛みをもって確認できた山行であった。
近年では山に入るのも年に多くて3回がいいところ。これでは足腰を鍛えるレベルには程遠い。毎日の通勤に自転車を使い往復16kmを12年間続けてはいるが、この程度では筋力や心肺機能の強化には繋がることはなく、やはり山歩きをもっと計画的に取り入れていかなければ、加齢による足腰のへたりを止めることはできないだろう。

P.S
実は今回の山行では、先日入手した“UONNERカメラクイックリリース”を初めて使ってみた。
左のショルダーには以前からドリンクホルダーを装着しているので、必然的に右側へ取り付けたが結果は失敗。何故なら、V2のネジ穴位置の関係上、装着するとカメラ本体が腕側へ飛び出るため、トレポを使うと頻繁に二の腕に接触し、終いには取付ネジが緩んでしまうという現象が起きたからだ。緩まなければ装着感は実にしっかりしたもので、その点は好印象を持った。次回はドリンクホルダーとクイックリリースを入れ替えて再トライしてみたい。

ミヤマツツジ・大塚山

桜が終わりになる頃から、無性に山の空気を吸いたくなってきた。
それまでの凛とした空気が緩み始めれば、沢のせせらぎ、新緑、様々な花の開花等々が連想され、妙にそわそわしてくる。
よし、ならばあそこ。大塚山のツツジを見に行こう!

4月18日(木)。JR鳩ノ巣<上り7時49分発>に間に合うよう、6時ちょっと前に自宅を出発。
青梅街道を西へ進んでいくと、それまでどんよりした雲が次第に青空へと変わっていき、こいつはまたとない山歩き日和になるのではと心は弾む。

青梅駅を過ぎると、R411の沿道にきれいな桜が目に付いた。
宮ノ平駅の一本桜だ。その他の駅周辺にもいたるところにきれいな桜を目にすることができる。
この時期まで開花が延びるのなら、西伊豆の後に回ってもタイミング的に十分間に合うので、来年からは青梅線沿線の桜をテーマに撮るのも面白そうだ。
この地域に見られる桜はヤマザクラが主になり、一般的なソメイヨシノは比較的少ないという。

鳩ノ巣へは余裕をもって到着できた。着替えてすぐに駅の構内へ入ると、上りホームのベンチに腰かけていた年配のご婦人が、笑みをもって声をかけてきた。

「これから山ですか」
「ええ、隣の古里から登ろうかと」
「今日は天気がいいですからね~」

そうなのだ。駅のホームから仰ぐ青空は、夏を思わせる強い光で満ち溢れ、さあ山へ来い!と言わんばかりのエネルギーを発している。

古里駅で下車し、吉野街道を歩いていくと、相変わらずダンプの往来が多い。どこに現場があるかは分らんが、この凄まじい数は“ダンプ専用道”と称してもおかしくなく、せっかく春の花を愛でながら歩いていても、神経に触る騒音とこの排気ガスに見舞われれば、正直言って気分はよろしくない。

大塚山への登山口は、そば処・丹三郎を過ぎて右に入ると真正面に見えてくる。
入り口脇にあるトイレで用を済まし、靴ひもを締めなおして、いざ出発だ。
まずはイノシシ侵入防止柵の扉を開けて山側へ入るが、この扉が自然界への入口に思えてならず、毎度のことだが身が引きしまる。

山道は歩き始めから延々と上り坂が続いて息が乱れるが、今回は意識して歩行速度を普段の一割ダウンに保ったせいか、いつもより楽に足が前に出た。
歩幅を短く、膝や大腿四頭筋に負担が掛からないように力を抜き、ゆっくりとしたリズムで歩くのがトレッキングの基本だ。
尾根筋まで上がってくると、お目当てのミヤマツツジが姿を現し始めた。
明るい紫色は、緑と土色だけの山道に良く映える。最初の樹はつぼみがまだたくさんあるので開花状況は8分と言ったところだが、大塚山頂上から御岳山へ通じる道では満開のツツジ群が両サイドから迎えてくれ、その眩さに疲れも吹っ飛ぶようだ。
展望、花、渓流、湖、、、山には心洗われるものがたくさんあるが、うまいタイミングで出くわした時は、心底はしゃぎたくなる。

今回は体調が良かったのか、とにかく腹が減った。
シーズン初っ端は体ができていないので、疲れが積み重なってくると喉ばかり乾いて逆に食欲は落ちていくものだが、大塚山で菓子パン2個、日の出山でおにぎり2個を平らげたのに、梅野木峠での休憩時ではどうにも腹が減って、残った僅かなスナック菓子の粉までを残らず胃に流し込んだ。
普段はこの位の食糧でちょうどいいのに、なぜ?!

来た道にふと目をやると、2本トレポを使った年配男性がゆっくりとした歩調でこちらへ向かってくる。

「こんにちは」
「あ~、疲れた、もう歳だね」

キャップを取ると見事な白髪が陽光を受け輝いた。
話を聞けば、御岳山まではケーブルカーで上がり、そこから私と同じく日の出山経由でここまで来たとのこと。
この後は吉野梅郷へ下るらしい。
御年77歳。中野でラーメン店を営んでいる現役紳士だ。

「半年ぶりかな。車を所有している頃はよく来たんだがね」

車は既に手放していて、更には近いうちに運転免許証の返納もするらしい。
十数年経ったら私も同じことを考えるのだろうか。動けるうちにもっともっと様々なトライをしなければと身に染みて思うところだ。
ここ数年ボーっと生きてきたせいか、一年が恐ろしく早く感じ、このままでは崖っぷちまで一瞬のうちに到達しそうだ。

「でも70歳後半になってもでこれだけ歩けるんだから凄いですよ」
「いやいやだめだめ、足がついてこない」

終盤に足場の悪い急坂が続く愛宕尾根の下山も無事終了。愛宕神社をお参りした後は、迷わず向かいのセブンへ行って傷んだ筋肉の補修にと、プロテイン食品を買い込み駐車場で暫しの休憩を取った。
6時間の山行は大きな疲れを溜め込むものの、歩きぬいた爽快感はそれ以上に大きく、また自信にもつながるのだ。

老化防止・体に鞭を打とう!

花粉は辛いが、日々春めいた陽気を感じるようになると、気持ちは西の方角、そう、奥多摩の山々へと向かい始める。
森の生気を感じながら汗をかくのは実に心地の良いもので、山行はシンドイと分かっていても、それを上回る快感が全てをプラス思考へと導いてくれる。
先日TVのスイッチを入れたら、アコンカグア登頂を断念した三浦雄一郎氏が出演していて、<登山は一番の老化防止>と語っていた。これは大いに頷ける。
嵌ってしまえば、足腰の力、バランス感覚、判断力等々、全ての人々が加齢で失っていくものを補えるからだ。
目的が老化防止だけだったら続けるのは難しいかもしれない。しかし山の魅力を少しでも感じることができ、また歩いてみたいと思うようになったらGoo。楽しみながら体はどんどんと強化されていく筈だ。

脚力や心肺機能が高まってきた時の感激ったらない。
もう14~15年前の話になるが、白州町にある尾白川渓谷での滝巡りで、初めて山歩きらしきものを体験した。
D100を手に入れて様々な被写体にトライしていた頃に、滝と渓谷美、そして白州という言葉に魅力を感じ、下調べもそこそこに先ずは現地へ行ってみようと車を走らせた。ところが渓谷道と称された道は意外と険しく、おまけに結構危ない箇所もあったりで、撮影に集中する時間は殆ど取れなかった。確かに尾白川渓谷の滝や流れは一見の価値があると思うが、下山路では膝痛まで出てくる始末で、正直なところ撮影を楽しむどころではなかった。
案の定、その翌日は筋肉痛に苛まれ、仕事にも差支えが出てしまった。
まだ50歳手前だというのにこれはまずいと猛省、そして一念発起。山と自転車を使って、だらけきった体に鞭を打つことに決めたのだ。
ところが尾白川レベルで筋肉痛になる軟弱な体は、都民の森から回る三頭山でも流れ落ちる汗と悲鳴を上げる膝で、終始グロッキー状態。もっと楽なコースじゃないと駄目かなと、次は月夜見駐車場からスタートする御前山にトライ。すると、きついことには変わらなかったが、先回にはなかったゆとりを感じ、ちょっぴり気分が上向いた。
そして次に歩いたのは大丹波川上流から辿る川苔山だ。距離は短かいが、渓谷から頂上直下まで一気に上がる階段では何度も立ち休みを繰り返し、必死の思いで登り切ったのだが、頂上にあるベンチに座り込むと、体の奥底から嬉しさが込み上げてきたのだ。嬉しさを覚えるということは、心身共にゆとりが出てきたことの証。
そしてゆとりが出てきたということは、確実に体力と山の経験値が上がったということに他ならない。
景色を眺め、ゆっくりとランチを楽しみ、横になって空を仰げば、山を独り占めしているかのような爽快な気分に浸れたのだ。この感覚が癖になって、その後は大岳山、高水三山、そして鷹ノ巣山と徐々にレベルを上げっていくのだった。
月一のペースをキープすれば、体力が落ちることもなく、快適な山歩きが楽しめることが分かったのは収穫だ。
さっ、今年の一発目はどこを歩こうか。