自転車事故

6月16日(火)午前8時40分頃。毎日の通勤ルート上である堀合通りと新武蔵境通りの交差点の歩道上で、自転車同士による事故があった。
浄水場から下っていくと、救急車の赤色灯が目に止まり、近づいて良く観察すれば、白いヘルメットを被った隊員が、歩道に座り込んだままの30代と思しき女性に症状を聞いている最中だった。その脇には2名の男子高校生が立っていたので、恐らく彼らと女性が接触したものと思われる。苦痛にゆがんだ表情から察して、怪我も軽くはないだろう。

10年前から通勤の足を自転車に換えたことで、それまで見えなかった公道上の危険因子が次々と判明、自転車事故が増加の一途にあることが必然性を帯びて頷けるようになった。
先ずは現況を述べたい。

【車・バイクにルールあり、歩行者・自転車にルールなし】

である。
これを積極的に改善していかなければ、自転車事故が更に増え続けることは避けられない。

さて、自転車を運転する上で最も危険であり、無法地帯とまで言われてるところが、何と“自転車専用道”ということをご存じだろうか。
ヘッドフォンをつけ、更にスマホを見ながら疾走して来る自転車をどの様にして回避するのか?!
お喋りをしながら並んで走ってくる高校生の自転車をどの様にして回避するのか?!
正面から激走してくる自転車を回避するには右へよけるのか左へよけるのか?!
上述は日常茶飯事。ところが自転車専用道は恐ろしいほど幅員が狭く、現実は逃げ場なしである。
そして次に危険なのが“裏路地”。
殆どの自転車が一時停止をしないため、優先道路を走行中でも出会い頭への警戒は絶対に怠れない。まあ、信号があっても無視するのだから、裏路地の停止線で止まるはずもないか。
ここは一歩引いて防衛運転に徹しないと、必ず衝突事故に巻き込まれることになる。
それにしても一時停止なしで交差点へ進入するって、怖くはないのだろうか?!
出会い頭でぶつかったら、殆どの場合転倒して痛い目に遭うし、“すみません”で済むレベルでは終わらないはずだ。

参考だが、自転車同士の正面衝突を誘発する、首を傾げたくなる道交法がある。
それは歩道での自転車通行位置だ。

【歩道の中では、歩道の中央から車道寄りの部分を通行しなければならない】

これを頑なに守ったら、正面衝突は言うまでもない。
自転車は軽車両。だったら互いに左側通行が最も理にかなっているのではなかろうか。

そろそろ自転車保険にでも加入しようかな、、、

若い頃・デニーズ時代 4

デニーズはアメリカ生まれのレストランチェーンだけに、組織の役職などにも独特の呼称がある。
支店はユニット、よって店長はユニットマネージャー(UM)、副店長はアシスタントマネージャー(AM)だ。この他、デニーズでは管理職見習いという立場もあり、これはユニットマネージャー・イン・トレーニング(UMIT)と称する。
調理人、すなわちコックだが、これはクックと発音、アルバイトのクックはキッチンヘルプ、接客の中心であるウエイトレスはミスデニーズ(MD)、ご案内係をデニーズレディー(DL)、ウエイターはミスターデニーズ(ミスター)、そしてメイン業務は店内外の清掃だが、忙しい時間帯ではお客さんが帰った後の食器下げも行なうバスヘルプ(バスヘル)、全自動食器洗浄機を駆使、食器、調理器具洗いの専任者をディッシュウォッシャー(ディッシュ)と称する。
この他、客室はフロント、食材倉庫はドライストレッジ、従業員関係全般にはエンプロイという言葉が付く。
ユニットを構成するメンバーは、UM1名、AM若しくはUMITが1名、クック2名が正社員として勤務、そしてアルバイトスタッフは、キッチンヘルプ3~4名、MD8~10名、DL1名、バスヘル3~4名、ディッシュ2名というのが一般的な布陣となる。

「今日からみっちり2週間、バスヘルの仕事を行なってもらう」
「ました!」

加瀬UMの隣には既にバスヘルプの若い男性が座っていた。

「彼は堀口君。大学2年生だけどバスヘルの仕事は全てマスターしているんで、今日は彼から窓ふきとグリーストラップを教えてもらってくれ」
「よろしくお願いします」
「お願いします!」

店舗の裏にある物置へ案内されると、先ずは窓ふきに使うスクイジーというT型の清掃器具の説明を受けた。汚れを取り除く原理は自動車のワイパーと同じで、ゴム部の劣化が進むときれいに拭き取れない。そしてスクイジーは窓に圧着して左端から右端へと走らせるまでは簡単だが、それを右端からターンさせるのには相応のコツが必要になる。何度も繰り返し、ムラのない仕上がりができるようになると、それだけで何だか嬉しくなってくる。
見るからに真面目そうな堀口君は、高校生の頃からここでアルバイトをやっていて、仕事仲間からの信望も厚いとのことだ。

「どうだい木代、進み具合は」

反対側で同じく窓ふきをやっているはずの山口が、いつの間にか傍にきていた。

「まだ半分だよ、おまえは?」

単に窓ふきと言っても、店舗間口は全面、西側と東側はそれぞれ三分の一がガラス窓なのだ。それを慣れない私と山口の二人で行なうのだから、結構時間が掛かる。春日は裏手に回って、堀口君からマンツーマンでグリーストラップを教えてもらっている筈だ。

「この仕事、結構ダルイよね」
「しょうがないさ、これも基本だよ」
「へっー、おまえって偉いな」

“バスヘルの仕事なんか内容が分かればそれでいいじゃん”
山口の奴、朝から何度も同じことを言っている。早く運営の核心に触れたいのだろうが、今の我々にはそれまでに身につけなければならないことがヤマほどあるのだ。
やはりぼんぼんにはその辺のニュアンスが理解できないのかもしれない。恐らく奴は続かない。。。
と、その時、

「あれ~~、木代じゃないの?!」

突然の知った声に驚いて振り向くと、派手なオープンカーに乗った地元同級生の石田が、にやついた表情でこっちを見ている。
昔からガラの悪さは天下一品だが、中学の頃からの友人でもある。

「大卒で窓ふきとはご苦労だな」

ー あの野郎、言いたいこといいやがって。

「新入社員だからこんなもんさ」
「ふふっ、似合うよその恰好、精々頑張りな!」

高校を中退した石田は、以前から何かと大学生に対して“いちゃもん”をつける傾向があり、大学出たのにそんなことも分からないのかが口癖になっている。
彼からしてみれば、理科系大学まで出て、そのざまか!ってなところだろう。
悔しかったが、今はこれが現実だし、否定はできない。しかし見てろよ、1年後、2年後は全く違った立ち位置を見せてやる。
石田とのやり取りが終わると、空かさず山口が寄ってきて、

「ほんと、格好悪いよね~」

ー なんだこいつは?! 勝手に言ってろ…

若い頃・デニーズ時代 3

当時私はトヨタのセリカ1600GTVという車を所有していた。高校生の頃から憧れていた車で、いつか必ず手に入れようと、いつまでたっても貯まらない貯金箱を眺めながら溜息ばかりをついていた。
そんな中、厳格な祖父が警察官だったことが影響してか、私の実家では、“車は危ない、人を怪我させる”という考え方が深く浸透していて、家族の中に運転免許証を持っている者は誰一人いなかった。この環境下、“免許を取らせてくれ”、“車を買ってくれ”は、なかなか言出せない台詞になる。
しょうがないので、日給制のバイトを続けながら、教習券を1枚買っては1回乗りを根気よく続け、やっとの思いで運転免許証を手に入れたのだ。
この後は更にバイトを頑張り、ポンコツでも何でもいいからとにかく車を手に入れようと考えた。
しかし稼いだバイト料は全て麻雀と飲み代に化けていき、車取得の夢は日に日に遠ざかっていった。
そんなある日、親父に呼ばれた。

「なに?」
「車、買ってやるよ」
「ほんと?!」
「お爺さんがああなっちゃな、、、」

若い頃の怪我が影響したか、祖父は脚の調子が年々悪化していき、ついには寝たきりとなっていた。ところが吉祥寺にある泌尿器科へ定期的に通院させなければならない事情があり、その際は致し方なく毎度タクシーを使っていたのだ。しかし先々の費用や手間を考えれば、我が家にお爺さん用のトランスポータを備えるべであることは言うまでもなかった。

「週に一度ね、お爺さんを病院へ連れて行くなら買ってやる」
「もちろんOKだよ」

二つ返事である。
小さい頃から可愛がってくれたお爺さんの手助けをすることに問題があるはずもない。
しかもそれでマイカーが手に入るのだから、断る方が不自然だ。

「車はさ、俺が選んでもいいだろ」
「いいけど中古だぞ」
「OKOK♪」

セリカこうして手に入れたオリーブドラブの1600GTVは、正に私の青春と共に突っ走る良き相棒として我が家に招かれたのである。

通勤は基本的にマイカーを使うデニーズ。初出勤の日はもちろん相棒と共にだ。
自宅を出て10分ほどで到着。母屋の裏手にある駐車場へ車を置くと、先ずは深呼吸して高鳴る胸を押さえ、正面入口からレストラン内へと入っていった。

「いらっしゃいませ、デニーズへようこそ!」

ご案内役のデニーズレディーが満面の笑顔で迎えてくれる。

ー おっ、これが生のグリーティングか。

デニーズでは、“いらっしゃいませ”、“ただいまうかがいます”等々の接客用語を総称してグリーティングと呼ぶ。

「あの~、初出勤の者ですが」
「はい、お待ちしておりました。脇から奥へどうぞ」

小金井北店は客席からキッチンが見える店舗タイプで、私に気が付いたのか、白い帽子を被ったコックがこちらの様子を窺っている。ドキッとしたが目線があったので会釈をした。

「マネージャー、新入社員の方です」

スイングドアの向こう側に入ると洗い場があった。

「おうっ、木代君か?!」
「おはようございます!よろしくおねがいします」

イトーヨーカ堂グループ、社員間の挨拶は朝でも昼でも夜でも、“おはようございます”である。

「店長の加瀬です。こちらこそよろしく」

眼光が鋭く、一見神経質っぽい。
手厳しくやられそうな予感がする。

「ねえ、鈴木さん、彼を3番テーブルへ案内して」

洗い場でナイフやフォークを磨いていた、一見主婦と分かる年頃のミスデニーズに案内され、再び客席の方へと戻された。

「いらっしゃいませ、デニーズへようこそ」

グリーティングにつられて入口に目をやると、そこには懐かしい顔が二つ。同じ小金井北店へ配属された山口と春日だ。

「おはよう!俺も今きたばかりだよ」
「ついこの前なのに懐かしいね」

山口は実家がレストランを営んでいて、ゆくゆくは家業を継ぐらしいが、その前に大手の組織管理を学びたいという理由で入社した、見るからに育ちの良さそうなボンボンである。一方、春日は栃木訛りが印象的で静かな男。合宿では一番気が合い色々なことを話し合った。
しかし、<同期生=ライバル>。
仲間意識の裏側にはしっかりとしたライバル意識も芽生え始めていた。
この様に捉える自分にびっくりしたと同時に、学生時代の二の舞には絶対にならないという並々ならぬ決意がこみ上げてきたのだった。

写真好きな中年男の独り言