地元とは異なる空気感

 夏の山歩き。吹き出る汗で体は水分を欲しがり、当然喉はカラカラになる。下山後はコンビニでビールを買ってホテルへ戻り、冷房をオンにしてからシャワー室へ飛び込む。さっぱりしたら「プシュッ!」。これでとりあえず収まるが、ちょっと寂しい。品書きから旨そうなつまみを選び、冷えたジョッキに口を添えたら、一気に喉へと流し込む。これこそはるばる東京から500Km近くも走ってきた甲斐というもの。

 尾鷲の駅近くで養老乃瀧の看板を見つけたとき、ちょっと不思議な気がした。かなり前から地元の武蔵野、三鷹近辺ではこの看板を見かけることはなかったので、意外な土地で意外な店に出くわしたというのが本音である。とは言え、養老乃瀧は居酒屋ブームの火付け役だったことは周知のとおり。喉の渇きも手伝い、気がつけば、
「ひとりです」
「いらっしゃいませ! そちらのカウンターでお願いします」
「じゃ、生で」
 と、なっていた。
 それほど大きなフロアーではないが、客席はほぼ八割が埋まり、厨房で立ち上る湯気や、焼き台から上がる煙や炎から、なかなかの繁盛店であることがうかがえる。
 田舎町ってところは、たとえ通勤時間帯の駅周辺であろうと、歩いている人は驚くほど少ない。ところが、養老乃瀧に一歩足を踏み入れると店内は大活況。この客達はいったいどこから来たのかと不思議になる。例外もあるだろうが、地元三鷹だったら、夕方の駅周辺の人口密度と居酒屋のそれは限りなく等しい。
 養老乃瀧を出た後、ラーメンが食べたくなり、webで評判だったDISHDREAM天天という店へ行ってみた。
 周辺は恐ろしく暗く、人っ子一人見かけない出刃亀天国のようなところだった。しかも店の入り口には赤っぽいカーテンが張られ、店内の様子は覗けない。思い切ってドアを押し、入ってみたら、家族連れ四人、若者三人組、カップル、そしてカウンターにサラリーマン風男性と、結構な客入りである。しかもスタッフは厨房に一人、フロアに若い女性一人なので、駆けずり回る忙しさだ。
 ここも先ほど同様の不思議さがある。
 日常から離れ、地元とは異なる空気感へと身を投じ、その違いを味わってみるのも旅の醍醐味のひとつ。ただ、地方都市はどうしても車がメインの移動手段になるので、歩行者があまり見られないのは至極当然のこと。あまりに薄暗くて気がつかなかったが、恐らくDISHDREAM天天は近くに駐車場を用意してあるのだ。さすがに養老乃瀧は居酒屋なので、駐車場はどうだろうか。ただ、地方での商売は“車ありき”であることは確か。

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