バイク屋時代67 心に残るバイク ドゥカティ モンスターS4

 ドゥカティの扱いが決まったとき、嬉しさと期待で心は躍った。それはそうだ、なんてったってドゥカティは憧れだったから。

 モト・ギャルソンへ入社する以前に、静岡県の沼津に住んでいた時期があり、休日は雨さえ降らなければ、愛車ヤマハ・RZ250を駆り、日がな一日伊豆スカを走りまくっていた。
 ある日、快調に飛ばしていると、バックミラーに写った黒い点が見る見るうちに大きくなり、凄まじい排気音を吐き散らしながら、もんどういわずの追い越しをかけられた。スイッチが入った俺は、体をさらに伏せて、離されまいと追いかけた。ところがじわじわと車間は広がるばかり。こりゃ駄目だと諦めたとき、やつは左へウィンカーを出して、吸い込まれるように亀石PAへと入っていった。俺も続き、ちょっと離れた場所へ停めた。黒のヘルメットに黒のツナギと、全身黒づくめの彼が乗っていたのは、同じく黒のドゥカティ900SS。しかもベベルだ。

 当時伊豆スカの常連たちの殆どは、ハングオンスタイルで攻めていたが、彼はシンプルなリーンウィズ。美しいフォームで深々とリーンしていく様は見惚れるほどだった。センスタをかけてヘルメットを取ると、白髪混じりの年配男性である。実にカッコいい。俺もいつかはあんなおやじになって、ドゥカティを操れればと真剣に思ったほどだ。 
 この一件以降、ドゥカティは俺にとって特別なバイクに位置付けられた。
 それから何年かが経ち、国際レース界でスーパーバイク選手権が開催されると、なんとドゥカティ851レーサーは強力なメイドインジャパンの各車を抑え、圧倒的な走りを見せたのだ。これには驚きだけでなく、正直なところ感動で胸がいっぱいになった。
 ちなみに、同じイタリア生まれのフェラーリとドゥカティは、四輪と二輪の差こそあれ、非常に共通点が多く、国民性そのものを具現化した工業製品でもある。息をのむデザインとプレミアム性、独自技術、レース命、そしてイメージカラーがロッソ。両社製品は定量的な評価だけでは語れない、この上なく深い魅力を湛えているのだ。

 ドゥカティジャパン(DJ)の担当営業マンが初めてモト・ギャルソン本店へ訪れたとき、まずは実際にドゥカティに乗ってみて、その魅力を体感してほしいとアドバイスされた。SS900ならデモ車としていつでも貸し出せるとのことなので、早速納入してもらった。
 その戦闘的なスタイルは、ワインディングを連想させ、思わずニンマリしてしまう。さっそく井の頭通りから女子大通り、そして新青梅と走らせてみた。ところが感想を言えば、何とも例えようのない不可解な乗り物だったのだ。正直なところ、ビューエルに親しみ、ツインエンジンの魅力を知っていなかったら、マイナス面しか見えなかっただろう。
 まず街乗りには向いてない。下のトルクが細いので、速度を落とすとすぐにガクガクッと車体が揺れだし、それではとギヤを落とせば今度は神経質なレスポンスになったりと、スロットルコントロールがシビアすぎる。女子大コーナーに持ち込み、S字の切り返しにトライするが、パワーバンドが狭く俺のテクニックではスムーズにクリアできず、思いがけなかったマイナスイメージの連発に落胆したものだ。以前にちょっとだけ乗ってみた、キャブの頃のSS900はもうちょっとましだったような記憶があったから猶更である。
 乗り物としてのドゥカティに難しさを感じつつも、商談はコンスタントに発生し、モンスター900を中心に予定通りの売上を推移した。そして一年が経った頃、センセーショナルなニューモデルが発売された。水冷のモンスター、S4である。

 スーパーバイク916と同型のエンジンを搭載した新生モンスターは、一斉試乗会でも上々の評価を得られ、それまでの人気車モンスター900の商談が殆ど「0」になったほどだ。実際に乗ってみても、空冷900で泣かされた難しさがほとんどなく、ビューエル程ではないにせよ、低中速でのトルクは十分確保されていて、街中でも四苦八苦することはない。ただ、開きすぎたハンドルは改善の余地ありで、案の定、カスタムパーツメーカー各社から、すぐに良好なポジションが得られる製品が発売になった。特にアエラ製のテーパーハンドルはフィット感がよく、うちの試乗車に取り付けると、S4の新規購入者の殆どが、クラッチレリーズシリンダーと一緒にオプションとして取り付けてくれた。
 ドゥカティ製品への印象が打って変わって急上昇し、それではとS4を伊豆スカに持ち込むと、もう笑いが止まらない。初っ端の旧乙女ではまだ操作に慣れてないはずなのに、連続するタイトなコーナーをひらりひらりと自在に操れ、箱スカへ出るとさすがに水冷エンジン、スピードの乗りが俄然いいのだ。ドゥカティ車全般に共通することだが、ブレーキ性能はピカイチなので、どのようなコーナーへでも安心して突っ込め、あっという間に足スカを通り越し、伊豆スカへと入っていった。
 ハンドルをアエラへ交換したことにより、ツーリングでの疲れも殆ど感じず、様々な用途で万能性を発揮できるのではと感じた。三年後にはスーパーバイク996のエンジンを搭載するS4Rが発売され、最高出力も13馬力アップと大幅に向上したが、俺個人としてはS4の方がトータル的に扱いやすいと今でも思う。
 ビッグツーリングの下見で、ヤマハ・FZ750を駆る大杉くんと二人で走った“奥利根ゆけむり街道”を思い出す。中速コーナーが延々と続くこの道は、S4の特性にとてもマッチし、永遠に走り続けたいと思うほど気持ちがよく、メーターの警告灯が点滅するまで、少なくなっていた燃料残に気がつかなかったほどである。


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