バイク屋時代66 心に残るバイク ビューエル X1

 ビューエル。予想と実態がこれほどまでにかけ離れたバイクはなかなかお目にかかれない。

 以上は、<バイク屋時代28 BUELL その1>からの抜粋である。

 “いくらスポーツモデルと言ったって、エンジンはハーレーなんだろ?!”
 当時、ハーレーは純粋なツーリングバイクであり、スポーツライドとは縁のないカテゴリーだと頑なに思っていた。さらにハーレーだけでなく、4サイクルエンジンのシングルやツインは、味はあっても、いざ動力性能となれば、マルチエンジンの高性能には遠く及ばないとも思っていた。
 この認識はある意味まちがいではないが、頭の片隅にあった<高性能=いいバイク>という公式が、歪んだ価値観を生み出していたことは確かだった。

 ビューエルを初めて峠に持ち出したとき、驚きと落胆が入り交じる複雑な印象を持った。試乗車として準備したS1 Lightningはシートがオフ車のように幅が狭く、御殿場ICを降りるころから尻が痛み始めた。
 旧乙女に入ると同時にペースアップ。すぐに頭打ちになるエンジン、つるつる滑って二―グリップがままならないシート等々、まったくリズムに乗れない。箱スカからは速度を上げてみたが、やはり頭打ちが早くてどうにもコツをつかめない。俺のレベルでは乗りこなせるバイクじゃないと諦めかけてきたころ、マルチのようにエンジン回転をぶわーっと上げて速度やリズムに乗るのではなく、ギアを一段上げてイエローゾーン手前の最もトルクが乗ってフレキシブルな回転域をキープすると、Vツインの鼓動感がもりもりと出てきてやけに気持ちがいいのだ。コーナーでトラクションがかかりやすくなり、フルバンク時の安定感もグンと増した。芦スカに入るころには、なんとなくツインの乗り方が掴めてきて面白さが倍増。そのまま伊豆スカへと突入、気がつけば亀石を通過していた。東名高速では時速130kmを超えると、スピードがまったく伸びずがっかりしたが、峠道での速度域では笑っちゃうくらいに楽しい。
 三年後の一九九九年。大幅な改良を施したX1 Lightningが登場。見た目はやや個性に乏しくなったものの、問題のあったライディングシートやフロンフォークが改善され、乗りやすさは格段に向上した。サスの動きがスムーズになった分、荒れた峠道でも恐怖を感じることはなく、アグレッシブなライディングが可能になった。S1やS1Wはサスが固く、特に荒れた道でのコーナーではサスがついていかず、車体が暴れることが屡々あったのだ。これが改善されたのは大きい。翌年に那須スポーツランドでモト・ギャルソン主催のサーキット走行会を開催、もちろん我々スタッフも大いに走り楽しんだが、一周1kmのテクニカルコースで、X1の扱いやすさがより深く体感できた。
 日本向け車両にのみ、フューエルラインが加熱してエンジンストールするというトラブルが出て、十月発売予定が年越しの三月になったのは参ったが、ハーレーのエンジンを使ってこれほどまでに心躍るスポーツバイクに仕上げたことは称賛に価する。ちなみにX1はこれまでのキャブレターからFIへ変更になったが、トラブルや変な癖もなく、ビューエル社の技術力を再確認した。
 二〇〇三年になると、フルモデルチェンジしたXB9Rが発表されたが、コンパクトさを狙いすぎた超ショートホイールベースな車体は、高速域で安定感に欠け、俺個人としては、どうしても馴染むことができなかった。なんと言っても、ホンダの125ccスクーター“PCX”のホイールベースとほとんど変わらないのだから。
 ただ、感心するポイントもそれなりにあった。筆頭はやはり軽さ。S字コーナーなどは、大げさな体重移動は無用、ステップ加重だけでスイッスイッと小気味よくバンクしていく様はとてもリッタースポーツとは思えない。この後、ハーレーエンジン搭載のビューエルはXB12Ssで終焉を迎えるが、この最終型は、フレームとスイングアームの見直しで、異常なまでに短かったホイールベースを一般的なサイズに戻したのだ。個性は薄くなったが、反面、バイクとしてのまとまりはよくなった。ワインディングでは、あのドゥカティモンスターと較べても、何の遜色もない走りを披露する。
 X1は、粗削りだが個性溢れるS1と、完成度が光るXBシリーズのちょうどいいとこ取りであり、ハーレーエンジンの魅力を堪能しながら、本格的なスポーツ走行を可能にしてくれた歴史に残るモデルだと思う。

 二〇〇九年十月。世界的な金融危機などの影響を受けたハーレーダビッドソン社が「経営資源の選択と集中」を理由に、傘下であったビューエルブランドの生産終了を突如発表。ビューエルオーナー並びに我々正規ディーラーにとってはまさに青天の霹靂ではあったが、長期在庫になっていたXB12R三台が、このニュース発表の後、たったの二週間で完売になった。購入を検討していた方々からすればまさにラストチャンスだったろう。
 ビューエルの終焉により、関東圏のビューエル正規販売店が設立した組織、BuellDOK(ブルドック)も存在意義を失い解散が決まった。よってBuellDOKが定期的に開催してきた人気のオーナーイベント゛“ワインディングハント”もこの夏を最後に幕を閉じた。
 ワインディングハントは、ビューエルオーナー各々が開催場所に集まるのだが、モト・ギャルソンでは毎回十五~六台のグループを作り、マスツーリングを行ってきた。いつも先導は俺の役目だ。しかしこの最終回には、試乗車も含めビューエルはすべて売りつくしていたから、その代わりに昨年発売されたばかりのハーレーニュースポーツモデル“XR1200”に乗っていくことにした。鳴り物入りで登場したモデルだったので、ビューエルとの差はどんなものか、実際に峠道を走って確かめるチャンスでもあった。
 ツーリングコースは、中央道の韮崎ICを降りて、茅ヶ岳広域農道からR23へ至るもの。前半は殆どが中高速のワインディングになる。
 高速道路でのパワー感は、ほとんどスポーツスターと変わらず、ややがっかり。しかも安定感重視にしているようでレーンチェンジの軽快性もまんまハーレーである。ワインディングへ入ると、この傾向は顕著になる。中速のS字コーナーではしっかり体重をかけないとアンダーが強く出てヒヤッとする場面も。やはり一般的なハーレーの味付けとなんら変わらない。ただ、ブレーキング時の安定感はビューエル以上と思えるほどで、制動力も悪くなかった。しかしだ、“XR”を冠する割には、ほとんどスポーツスターと変わりがないし、お茶濁し感は否めない。ビューエルはエンジンこそスポーツスター1200のものを使ったが、エンジンヘッドを独自技術で作り直し、60馬力にも満たないスペックを100馬力を絞り出す別物に仕立てた。車体に至っては、真のスポーツバイクを目指すため、“0”から考えた別次元の設計によるものだ。改めてErik Buellの拘りと凄さがわかるところである。


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