上高地・新しいレンズ

 五月二十六日(月)。日本一の山岳リゾート、上高地を散策してきた。調べてみたらなんと十六年ぶりである。無数の柳絮が飛び交う様を初めて目の当たりにした時は、「こりゃ、撮らねば!」と、ニコンD100のシャッターを押しまくったものだ。それ以来、上高地は強く脳裏に焼き付き、美しい景観は昨日のことのように思い出す。

 早朝五時に出発すれば、途中朝食や用足しを済ませても、さわんどバスターミナルへは九時までに到着できると踏んでいた。ところが長野道の集中工事の影響で、岡谷ジャンクション手前から渋滞が始まり、さわんど到着はそろそろ十時というころになる。ただ、十時ジャストの上高地行へ滑り込みで乗れたのは幸いだった。それにしても、収容台数三百五十台の大駐車場が九割以上埋まっている様にはびっくりである。おかげで車からバス乗り場まで、ずいぶんと歩く羽目になった。今日は平日、どうなっているのやら。
 乗客の面々を観察すると、半数以上がインバウンド。しかもその大半が、最近減ってきていると言われている中国人。飛び交う言葉ですぐにわかる。

 さて、今回の撮影機器は、<SONY α7Ⅲ+SIGMA Contemporary 20–200mm F3.5–6.3 DG>。つい最近、新しいレンズを久々に新品で購入したのだ。SIGMAのフルサイズ対応高倍率ズームは、α7Ⅲを手に入れた時から欲しくて仕方がなかった。世間はF値がやや暗めでどうのこうのと揶揄するが、α7Ⅲの高感度性能はそれをカバーしてあまりうる。実際に撮影してみると20~200mmは笑いが出るほどパーフェクト。正真正銘これ一本でなんでも狙える。しかもSIGMAの最新テクノロジーは、ズームレンズの画質への不安を100%払拭したと断言する。これで身軽且つ気軽に本格的な撮影を楽しむことができそうだ。

 今更だが、上高地の自然美ってのは、群を抜く素晴らしさがある。穂高を中心とする山々、緑燃ゆる森、そして清冽な梓川の流れが作り出す景観は、まさに神がかりであり、美しいという言葉だけでは到底表現できないレベルにある。大正池でバスを降り、散策をスタートさせたが、最高の被写体が目の前にあるのに、すぐにカメラへ手が行かず、暫し肉眼で見入ってしまうのだ。ちなみに乗車客のほとんどは、終点のバスターミナルまで行かずにここで降車した。

 上高地の気温は松本より10℃ほど低いというので、一応ウィンドブレーカーを持参したが、この日は終始ぽかぽか陽気で、一日無用に終わった。
 湖畔を離れ森の中へ入ると、強い日射を避けられとても気持ちがいい。南米系の若い三人が、田代池手前にある熊ベルの脇で、自撮りしながらしきりにベルを鳴らしていた。これほど観光客が多ければ、ベルなど鳴らさなくても、熊は近づいてこないだろう。歩を進めていくと、途中から川沿いコースと林間コースに分かれるが、川沿いコースはなぜか通行止めになっていた。川沿いの方が解放感があって好きなのだが…
 田代橋へ到着すると、穂高をバックに記念撮影やベンチで休憩やらと、わんさか観光客がたむろっていた。ここから梓川の右岸へ渡る。河童橋まで数件のホテルが続き、道に賑やかさが増してきた。

河童橋

 観光メッカである河童橋周辺は、とんでもない混雑ぶりである。それでも橋からの穂高は素晴らしい眺めなので、人をかき分け数枚撮ってみた。早々に退散し、明神池へ向かう。
 上高地は一級観光地であるがゆえに、木道の整備などは手を抜くことなくきちっと行っている。だが、楽しみにしていた岳沢湿原脇を通る木道は通行止めで、一応それに沿うよう新しい木道が伸びていたが、以前のように湿原近くまで寄れなく、以前あった撮影ポイントも無くなっていた。致し方ないと言えばそれまでだが、やはり残念。

 ちょっとした広場に東屋が建っていたので、ここで昼食休憩にした。隣のテーブルでは中国人の家族と思しき五人連れが、同じく弁当を広げている。お爺さんお婆さん夫婦を中心に楽しそうだ。日陰で涼しく、腹がいっぱいになると眠気が襲ってきた。フラットな道でのハイキングだが、このコースを撮影しながら周れば、ゆうに五時間はかかるので、それなりの疲労は出る。腰が重くならないうちに出発することにした。 

明神池

 明神池に到着すると、再び多くの観光客で溢れかえったいた。五百円の参拝料を払って一乃池へ向かうと、なんと正面の桟橋に行列ができている。桟橋の先端に立てば、周囲は神がかった池、そして背後に明神岳が入る絶景ポイントである。並んでいる人たちには、やはりカップルが目立つ。ここはパスして二之池に回る。
 木道を奥へ行けば行くほど静寂に包まれ、幻想的な池が際立ってくる。陽が傾いてくる頃だから、なおさら雰囲気が出るのだ。ひと通り撮り終えると、休憩所へ戻ってひと休み。ドーナッツと冷たいお茶が疲れを癒してくれた。
 バスターミナルまでは、同じ道で戻ることにした。途中、人だかりがあり、なんだろうと近づいたら、数匹の猿が歩道で戯れていた。そのうちのひと組が蚤取りに熱中していて、取られる側の猿の恍惚とした表情がなんとも人間味があり、笑ってしまう。

 新しいレンズは実に使い勝手がよく、ワイド端では湿原を、そしてテレ端では山々の頂上をと、上高地の美しい姿を自由自在に収められ、最高にエキサイティングなひと時を味わえた。秋の紅葉シーズンには松本に宿をとり、ぜひ早朝の上高地を狙ってみたい。


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