近所にある古い平屋が、ついに解体となるようだ。足場が作られ、作業員の出入りが始まっている。
小学一年生か二年生だったころ、よその敷地に忍び込む遊びが流行ったことがある。まさに不法侵入そのものだ。住人に気づかれないよう、敷地内をぐるりと一周するという他愛もない行為だが、音を立てないよう、忍び足で歩を進めるスリルは相当なもので、病みつきになった友達もいた。そういう私も、一時は侵入しやすい家を求めて町内を徘徊したものだ。当時は、周囲を壁でなく、生垣で囲む家が多くあり、手入れが行き届いてないところだと、子供が通れるほどの隙間ができていることがよくあった。そこが絶好の侵入ポイントになる。そう、この近所の平屋には、南側にぽっかりとおあつらえ向きな穴が開いていたのだ。

「ここから忍び込んだんだ」
「それ聞くの三回目」
このお宅は駅へ向かう道筋にあるので、生垣の穴はしょっちゅう目に入った。手入れをしている様子はなく、この頃では生垣の役目は果たされず、丸見えのスカスカだった。
「それよりさ、なに食べる?」
「やっぱ中華かな」
「じゃ、あそこ行ってみるか。平沼園の交差点」
「中華なんかあったっけ?」
“鳳龍”は、ほんとうにひっそりと佇んでいた。
お昼ちょっと過ぎに入店したにもかかわらず、客は0。やや嫌な予感。
「いらっしゃいませ。どうぞそちらの席へ」
出てきたのは七十代後半と思しき高齢男性。ほかにスタッフの気配はなく、ひとりで切り盛りしているようだ。
「ラーメンとチャーハンのセットと、味噌ラーメン、それと餃子ひとつお願いします」
「はいどうも」
ご主人が厨房へ入り調理をスタートさせると、なぜか熊鈴のような音が鳴り始めた。
なんのため? どうでもいいが、高周波のリンリン音がずっと鳴りっぱなしだから、うるさくてしょうがない。女房は平然とスマホを操作しているが、これには参った。
料理はそれほど待たずに運ばれてきたが、鈴の音は止んだものの、頭の中では依然とリンリンリンが続いている。

まずはチャーハンを食した。恐ろしくしょっぱい。塩の量をミスったとしか思えない。ラーメンは何の変哲もない味。餃子は不思議に甘く、なんだろうと中身を確認すると、コーンが入っていた。女房に目をやれば、黙々と食している。
ん~~~、ご主人、熊鈴と塩の味しかしないチャーハンは、きつかったよぉ~~