バイク屋時代65 バイク預かり

 さて先回、ハーレーの世界にも売れ筋と死筋があって、リフレッシュが中々思うようにいかないとの話をしたが、これは売れ筋だけに起こる問題ではなく、死筋にも大いに当てはまった。

 ハーレーのツーリングシリーズは、いわゆるフラッグシップ。ハーレーファンの多くが一度は所有してみたいと思うモデルだ。風格あるスタイリングは、特に高速道路で目立つこと請け合い。ハーレーファンならずともその姿を追ってしまうほど。ただ、フラッグシップだけあって新車価格が非常に高く、そう簡単には購入を決められない。よって手頃な価格で手に入るツーリングの中古車は、程度にもよるが、安定した人気を誇っていた。ところが常時四~五台のラインナップを揃えていたにもかかわらず、半年ほど前から問い合わせが減り続け、BDSの落札相場を調べてみたら、びっくりするほど下がっているではないか。
「社長、ツーリングの在庫、やばいですよ」
「わかってる」
 やや古めのストリートグライド、ロードキング、そして初期型のロードグライドの三台には、かれこれ三か月以上商談が入ってない。売価もギリギリまで下げたが、それでも当たりがない。とは言え、一応ツーリングモデルなので、仕入れ値は決して小さくない。眠り続ける資産となった今、仕入れ資金に影を差し始めた。
「落札相場うんぬんの前に、ほとんどが“流れ”だよ」
「じゃ、仮に売れたとしても赤か…」

2018-Harley-Davidson-CVO-Limited

 それでも、CVO(Custom Vehicle Operations)と称する限定車には問い合わせが入る。ツーリングファミリーのCVOともなると、新車価格が500万円近くになり、おいそれとは手が出ない。これが中古車になれば300万円+α程と、やや手ごろ感が出てくる。しかもマフラー等々の高価なカスタムパーツが付属している場合が殆ど。このマフラー、あとで取り付けようものなら20~30万円は覚悟しなければならない。先回に記載した北海道と九州からの商談は共にCVOだった。しかしいくら新車より安いとは言っても、大金には変わりがない。一度も現車確認なしで購入するわけだから、お客さんも慎重になる。
「ごく小さいものも含めて、傷や凹みはすべて接写して送ってくれますかね。それとオイル滲みとか、タイヤのトレッド面も同様にお願いします」
 当然な要望だろう。北海道のお客さんへは全部で50枚を超える写真を送った。
「車両保証が三か月付いているってことだけど、トラブった場合はどこへ持っていけばいいのかね?」
 最も確認しておきたい項目である。
「ハーレーの正規ディーラー網だったらどこでもOKですが、お客さん、お住まいは函館ですよね? だったら函館Mさんとは懇意にしているので、その旨を伝えておきますよ」
「よかった。函館Mさんだったら、うちから近いんですよ」
 と、こんな具合で商談は進んで行く。近所だろうが遠方だろうが、お客さんに変わりはない。しかし高額車両を実車確認もせずに、ただうちを信用して購入を決めてくれる件などは、とりわけ慎重になる。

2018-Harley-Davidson-CVO-Limited-115th-Anniversary

 大崎社長は顔が広い。ディーラー会議へ出かけると、大勢の社長から「大崎さ~ん」、「久しぶり~」、「こないだはど~も」と声がかかる人気者なのだ。とっつきやすい性格で友人が多く、とにかく笑顔を絶やさない。だから遠方通販の納車先でトラブルがあったときなども、地元ディーラーは快く対処してくれるのだ。
 ハーレーを含め多くの輸入車は、国産車と比べれば故障は多い。きちんと整備しても、納車後一年の間に何らかのトラブルが発生する割合は30から40%程に上る。これに対し、国産車だったらせいぜい5%程度だ。しかも輸入車のリペアパーツは価格が非常に高い上、入手にかなりの時間を要する。輸入車の現地法人は、経費節減を図るために部品倉庫の規模を縮小する傾向にあり、ドゥカティジャパンなどは一切倉庫を持たず、各ディーラーはイタリア本社へ直接注文を入れる形をとっている。よって納期は十日から二週間ほどかかってしまうから、クイック関連等々のパーツなどは店でストックを持たねばならず、在庫負担は小さくない。

2018-Harley-Davidson-CVO-Road-Glide

 BFの業績は相変わらず損益分岐ぎりぎりで推移し、苦しい戦いを強いられていた。とは言え、いつまでもモト・ギャルソンがカバーできるわけもなく、早々に収益アップの具体的な施策が必要となっていた。
 そこで考えたのが二階倉庫の使い方。現行は部品庫と修理預り車のスペース、そしてハーレー以外の中古車展示として使っているが、まだまだ空きはずいぶんとある。
「二階でバイク預りをやろうと思う」
 バイクは欲しいが、「うちのマンションでは規定でバイクを置けないんですよ」という声は以前から多かった。バイクコンテナとか、バイクガレージと称するビジネスは、特に都市部で結構な需要があるらしい。
「出し入れは誰がやるんです?」
「もちろん我々だよ」
 お客さんが出し入れ中にバイクを倒して、他のバイクに傷でもつけられたら洒落にならない。
「早朝にツーリングへ行きたい場合はどうするんですか?」
「いい案があるんだ」
 オーナーさんの本業は倉庫業なので、トレーラーに積むコンテナをいくつか持っている。二つほど借りて駐車場の隅に置き、お客さんより翌早朝からバイクを使いたいと要望が入れば、前夜からそのコンテナにバイクを入れておくのだ。オーナーは早朝に駐車場まで来て、自分で解錠しバイクを出す。渋滞などで営業時間中に戻ってこられないときは、その旨を電話連絡してもらい、再び自分でコンテナに入れて施錠するという流れだ。契約内容も一日借りから月極と幅を持たせて、肝心な料金は一般的なコンテナガレージの半額に抑えた。
 自社ホームページに告知すると、ぽつりぽつり反応が出始め、第一号は自社のお客さんだった。
 ハーレーを奥さんに内緒で購入し、調布市内にあるコンテナガレージに保管していたのだが、長い期間乗れなかったときなど、バッテリーが上がってしまい、ツーリングのチャンスを失うという苦い経験があったので、渡りに船とばかりに年間契約をいただけたのだ。


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