バイク屋時代53 在庫整理から!

 モト・ギャルソンの倉庫スペースは、共進倉庫の一角を間借りしていてとても広い。バイクだけを並べたら優に二十台はいけるだろう。ざっと見まわすと、正面壁際にハーレーの部品と思しき段ボール箱がずらっと並び、右手の二列の棚には古い洋用品が雑多に置かれている。手に取ってみると、なんと俺が入社したころに店頭を飾っていたレインウェアやブーツカバーだったが、おそらくすべて新品。隣の箱にはおびただしい数のウィンカー、レバー、その他雑多なものが放り込まれている。見たところほとんどが国産バイク用だが、どんな車種に適用かは不明。棚の一番奥にはパーツが裸で置かれている。見覚えのあるバックステップはV-MAX 用、二本まとめてあるサイレンサーはドゥカティモンスター900のノーマル、それとドゥカティのドライクラッチカバー、カーボンが二つ、アルミが一つある。どれもきれいですぐにでも売れそうだ。

飛田給第二倉庫

 壁際に積まれたハーレーの段ボールを一つ引き出して開けてみると、物凄いほこりが舞い上がり、思わずむせた。ここで作業を行うにはマスク必須。怠れば間違いなく呼吸器系疾患に罹るだろう。
 さて、だいたいどのようなものが置かれているかはわかったが、厄介なのは、2/3以上を占めるハーレーパーツの対応だ。まず棚卸資産とその他を区別しなければならないので、まずは膨大な在庫の一覧表を作ることからスタートだ。ただ、新品と思しきものには箱に商品名と品番が明記されているので、問題なくカウントできるが、明らかに箱と中身の異なるものがけっこうある。
「社長、ハーレーのパーツに詳しいスタッフと一緒にカウントしないと、一覧表自体が作れませんね。それにあまりに量が多いんで、俺一人じゃいつ終わるんだか、、、」
「とりあえず下山くんをつけるよ。短期間だけどハーレー店にいたからね。あと、不明パーツは分けておいて、まとめて武井店長に確認してもらおう」
 こうして俺と下山くんの二人は、エアコンのない極寒の薄暗い倉庫の中で、来る日も来る日も一覧表作りに励んだのだ。狐久保のハーレー中古車店を閉店させた後、下山くんはひとまずHD調布の所属となり、就活をしつつ雑多な仕事をしていた。
「木代さん、これが夏だったらまちがいなく行き倒れですね」
「まったくだ」

 なんだかんだで一覧表作りは一か月を要した。倉庫にあるのはHD調布のものだけではなく、HD東村山やHD沖縄のものまであったので、武井くんでも判断しかねるパーツが山ほどあり、HD東村山の店長になっていた社長の息子の茂雄くんを呼んでチェックしてもらった。 
「この三つの箱は全部沖縄から来た分で、ほとんどが古い社外パーツですね。今じゃ使い物にならないものばっかりですよ」
「ヤフオクでも売れない?」
「いやぁ~、無理じゃないかな」
 この他に、自動納入と称したキャンペーン時のパーツ、誤発注品、お客さんが引き取りに来ないもの等々、よくぞここまで貯めこんだものだと呆れてくる。倉庫の家賃に眠った大量の在庫。きちんと管理されていれば、相当な利益が上がっていたはずだ。
 いちおう社長立会いの下、webを使って売るもの、とりあえず在庫するもの、そして処分品とにわけた。さらにヤフオクへ出品すると同時に、HD調布のHPにもアップする商品を選別した。ヤフオク担当は俺、HPへのアップは下山くんが行うことになった。ここまできてやっと具体的な仕事が見えてきた。
「木代くんさ、ついでにGMD(ハーレー業界では一般的にアパレルのことを指す)のデッドも売ってよ」
 おいおいおい、、、
「いいですけど、品出しと一覧表づくりは誰かやってくれるんですよね」
「それじゃ会田さんにお願いしようかな」
 会田さんはHD調布の女子営業マンだ。
 こうしてやっとwebへのアップ作業が始まったのである。売れた商品のモト・ギャルソン分は、販売額の○○%を手数料としてBFが計上、棚卸資産に入らない不明商品(ほとんどはもらったもの)、つまりは国産時代、ドゥカティ関連の雑多なものは、いったんBFが仕入れた形にし、そのうえで売上計上をすることにした。

 さて、このアップ作業、やってみるとけっこう大変である。商品の一覧表作り、売価の決定、写真撮影、商品説明文の作成等々、どれも時間を要する。一日中PCと睨めっこになるので、目は疲れる、腰は痛くなる、肩はこると、バイク営業の仕事とはまた違った疲労がたまっていった。
「部長、これお願いします」
 会田さんが段ボール箱を抱えて裏口から入ってきた。
「えっ? それも撮影分?」
「シャツが十枚ほどですかね」
「わかった。じゃ、幕立てといて」
「はーい」
 アパレルの撮影は、画像加工の際の“背景消し”を容易に行えるよう、商品の背後にシーツで幕を張った。こうして写真のクオリティを上げないと、自社HPへ載せる際に全体のバランスが悪くなるし、またヤフオクでもウォッチの件数に影響してくるのだ。
 通販を始めてみると、右から左へは半数ほどで、それ以外は事前に電話またはメールの問い合わせが入る。これをいかにうまく対応するかによって売上は大きく変化した。そう、閉店した狐久保のハーレー中古車専門店では、的確な返答ができなかったり、メールの着信を何日も放置していた等々で、多くの売上機会を失っていた。

「ハーレーダビッドソン調布です。はい、ああ、はいはい。ホームページのワークシャツですね」
 問い合わせの電話である。
「長期在庫品になりまして、襟と肩のあたりにやや日焼けがあるんです」
 処分品のワークシャツだ。定価1万円のものを税込み二千円で売出している。
「それほど目立つものではありませんし、古着のような味もあります♪」
 かなり苦しいやりとりだが、会田さん、なかなか上手な対応だ。
「はい、ありがとうございます。それでは着金確認ができしだい送らせていただきます」
 パチパチパチパチ。
 この日は問い合わせが多かった。
「部長、ホームページに出ているマフラーの問い合わせです」
 ドゥカティSS900のノーマルサイレンサーだろう。
「はい、お電話代わりました」
― 聞きたいんですが、あれってSS1000にも付きますか?
「900用なのですんなりとはいかないかもしれませんが、取付ステーの部分をちょっと加工すればいけると思います」
― ああ、わかりました。検討します。
 パーツに関しては、互換性や適応可否の質問が最も多い。ところがこれが意外と厄介なのだ。ドゥカティのパーツのことなら、杉並店の大杉くんに聞けばすぐにわかりそうだが、やはり実際に合わせてみないと断言できないというのが彼の答え。形状は見た目そっくりだが、品番を調べると1000用と900用は異なる。
 中古のパーツや洋用品の販売は、売上額の割には手間のかかる作業だが、現金化という命題がある以上、突き進むしかない。スタートして一カ月目の売上は、俺の給料分にもならなかったが、ヤフオクの方が徐々に上向き始め、二か月目を過ぎると、売上合計が三十万円を超える月も出てきた。しかし、売れるべくして売れるものは自然と減っていく一方、倉庫に残るのは、素性不明で誰も目を向けそうにないガラクタばかり。
 在庫は有限。早くもほかの商売を考える必要が出てきた。


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