
「いなげやに売ってなかった~」
階段がが暗いと思ったら、二灯ある照明のうち片方が玉切れだった。使っているのが口金の小さいミニクリプトン球なので、スーパーだと置いてないのかもしれない。
「デンキチならあるだろ」
大昔は自宅の近所に“第一家庭電器”があったから、こんな時は本当に便利だった。同社はバブル期に店数を伸ばした家電量販チェーンの先駆け的存在である。
「お昼ついでに行こうよ」
「なに食いたい?」
「パパの好きなのでいい」

デンキチは航空研の真ん前なので、久しく行ってない【らーめん小国】がひらめいた。大昔に女房から教えてもらった店で、彼女が某大手生保でセールスレディーをやっていたころによく利用していたそうだ。メニューは味噌、醤油、塩、そして餃子と、いたってシンプルなラーメン屋。しかし初めて食したときは思わずにんまりした。麺、スープ、チャーシュー、どれも好みの味と食感だったから。即リピートが始まり、すべてのメニューを制覇したが、どれも裏切られることはなかった。
店には昼前に到着。いつものことで、すでに四名の待ちができていた。ただ回転が速いので、十分ほど待つとカウンター席へ案内された。注文したのは小国定番の味噌ラーメンと餃子である。店内の壁には所狭しと、来店した著名人の色紙が張り巡らせてあり、料理を待つ間なにげに目線を流す。

「すごい。長嶋茂雄だ」
「緒形拳もあるよ」
しばらくすると、カウンターと調理場を仕切るガラス戸が開いた。
「おまたせしました。味噌です」
まったく変わることのない小国の味である。
久しく見ないうちに調理場を仕切るご主人もずいぶんと歳を召されたようだ。元気に営業しているうちは、時折寄ってみるか。